#06│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
「なぁ楽丸、口くさいかな?」
帰りの道中は、さっきの少女のことで頭がいっぱいだった。
「そんなことないわ。あんな性格の悪いクソ少女のいう事は気にしたらあかん!」
楽丸に続き、雉彦も励ます。
「桃太郎さんの口はクサくないですよ。桃太郎さんの口は、ね」
と言って、雉彦は楽丸のほうをチラッチラッと見た。楽丸が噛みつこうと飛びつく。
喧嘩をはじめた両者を無視し、歩を進めた。
気分転換というより、逆に落ち込んだぜ。この世界、歯ブラシねぇんだから多少の口臭は仕方ないだろッ。
◇◇◇◇◇◇
家に戻り、昼食を食べる。その後、オバアサンの野良仕事を手伝った。すべてが手作業のこの世界。オバアサン一人に仕事をやらせるわけにはいかない。
日が暮れると、その日の仕事は終了だ。電気がないため、外では何も見えなくなる。
全身、汗でべっとりとしている。シャワーを浴びてビールをキュキュっと飲みたいところだが、当然そんなものはない。
「今日の夕飯は、期待していいぞぃ。菜々花に作ってもらうからの」
土鍋で米を炊きながら、オバアサンが声をかけた。寝ころんでいた仲間たちは、“”夕飯”、“期待していい”という言葉を聞き、むくっと起き上がった。現金なやつらめ。
「だれ?菜々花って」
「菜々花は、この島でいちばん料理上手の娘のことじゃよ」
すると突然、玄関が開いた。
「こんばんはー」
これはッ。この透き通る声はッ。玄関に行くと、あの金髪の女性が食材を脇に抱えて立っていた。昼間と違い、髪は高い位置に結んである。
「おぉ、菜々花。早かったの」
「はい。仕事が早く終わりましたので」
菜々花は、オバアサンに対し、ニコっと微笑んだ。
「オバアサン、こいつは!性格悪いぞ!」
「せやせや!村でも大変な仕事をやらされとったわ!きっと嫌われてるからや!」
楽丸も加勢した。ナーイス。
「あほぅ!菜々花は、自分から牛の世話を勝手出たんじゃ!人がやりたがらないことを、率先してやってくれるんじゃぞ」
オバアサンが大きな声で怒鳴った。
「わかったか、桃野郎」
なんだよ、桃野郎って・・・・・・。
「ちょっと、その言い方はないんじゃないですか」
「どうして桃太郎のことをそんなに悪く言うんだ」
雉彦も猿飛も、味方をしてくれた。
「黙れよ、下等生物。お前らもすき焼きの具にしてやろうか?」
すき焼き、だと?この世界ですき焼きが作れるのか?
情けないが、仲間が下等生物呼ばわりされたことより、すき焼きのことが気になってしまう。
「さて、作るか」
菜々花は、台所に向かい、かごに盛っていた食材を広げた。
ねぎ、白菜、えのき、春菊、豆腐。最後に、平たい桐箱を取り出す。パカっと開けると、白い脂肪が目立つ牛肉が美しく並べられていた。霜降りだ。牛脂も、ひと塊乗っている。
牛肉!
こちらの世界に来てはじめて見るではないか。
トントントン。まな板に包丁が当たる音は、リズミカルだ。菜々花の動きは、こなれている。料理がうまい、という話は本当のようだ。
「鍋の準備ができたぞい」
オバアサンの声に振り返ると、いろりには平たい鍋が準備されていた。いつもの底が丸い鍋とは違う。すき焼き用の鍋だ。
楽丸は、はしゃいで鍋の周りをクルクル走っている。
菜々花が切った食材と肉を持って鍋の前に座ると、テンションは最高潮に高まった。
菜々花は良質な食材だけでなく、調味料も豊富に持ってきていた。砂糖、醤油、みりん。こちらの世界では稀少なものを、惜しげもなく使ってすき焼きを作っている。
「米もいい感じに炊けたぞい」
すばらしいタイミングだ。
白いご飯の盛り付けや箸の準備をしていると、あっという間にすき焼きが完成した。
「できた。味わって食えよ」
「いただきます!」
肉に突進した。箸ですくいあげると、ずっしりと重みがある。肉を口の中に入れると、噛むたびにうまさが爆発した。
「これこれ!これが食べたかったんだよ!」
ひっさしぶりに食べる牛肉。しかも、すき焼き。うまいに決まっている。
「菜々花は食べんのかえ?」
お椀を持ったまま、オバアサンが聞いた。普段は小食のオバアサンも、今日は箸の進みがはやい。
「私は済ませてきましたから」
菜々花はもう帰り支度をしている。嫌な女だが、お礼くらいは言っておきたい。
「ありがとうな」
「オバアサンには、ご恩があるから。でないと、誰がお前なんかに」
就寝前。オバアサンは猿飛にも楽丸にも布団を用意してくれており、気持ちよさそうに寝ている。
雉彦は、樹の上でないと安心して眠れない、といって外に行ってしまった。
夕飯のことを思い出す。うまかったなぁ。また、菜々花が作った料理を食べたい。
あいつに会いたいか、と言われると微妙だけれど。
◇◇◇◇◇◇◇
(時はさかのぼり、桃太郎が生まれたばかりの頃・・・・・・)
「本当に、その名前でいいんですね?」
「桃太郎。いい名前じゃないか。男の子らしく、強くたくましい子に育ってほしい」
一人の赤ん坊を、老夫婦が大切そうに抱いている。
「わかりました。あなたがそう言うなら、私も賛成です」
「すまんな。お前にも迷惑かける」
「そんなことはいいんですよ。ただ――」
(つづく)
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