#18│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
脛斬り。
鬼の体勢を崩すのに使っていたこの脛斬りが、必殺の技となった。
「グガアァ!!」
鬼が悲鳴をあげるなんて、今までにないことだ。脛の傷口からは白い煙が上がっている。
「すげぇ!効果抜群だ!」
そのままとどめをさした。
刀の表面にべっとりとついた血を見る。鬼の血ではない。
菜々花の血だ。
鬼の弱点、それは若い女の血液だった。
血を塗った刀で斬りつけると、鋼のような鬼の身体も面白いように斬れた。
血の確保は、菜々花に頼んだ。事情を話すと、
「できることなら何でもする」
と言って協力してくれた。菜々花の体調が崩れない程度に血を流してもらい、それを竹筒で作った水筒に入れてもってきたのだ。
苦痛に耐えながら、一言も不平を言わなかった菜々花のためにも、鬼を倒していい報告をしたい。
「雉彦の言うとおりだったな」
「はい。朱天童子から直接聞いた話ですからね」
雉彦が羽根を広げて言った。
雉彦は、なんとか鬼の弱点を探ろうと危険を冒して情報収集をしていたらしい。そこで、朱天童子が、
「若い女の身体は栄養になるが、血は猛毒だ。皮肉なもんだな」
とつぶやいたのを聞いたらしい。
「見事だ」
猿飛に腰をポンと叩かれた。
「あぁ、雉彦のおかげだ」
「もちろんそれもある。だが、桃太郎の剣技と、オバアサンの刀がなければ、こうも楽に倒せるわけがない。私は、それらを含めて見事と言ったんだよ」
急に褒めれた。もちろん、悪い気はしない。
長かった。ここまで来るのに、膨大な時間と壮絶な痛みを伴った。
「雉彦が情報を流さないから、上陸してすぐに囲まれることもあらへんしなぁ」
そうだ、あんな絶望的状況は脱した。あきめなければ、道は必ず・・・・・・切り拓ける。
徒歩で城を目指す。途中、何度も鬼と遭遇したが、そのたびに返り討ちにしてやった。
古武道、名刀、鬼の弱点。
この三つが揃えば、負けはない。
だが油断はできなかった。
菜々花の血は多くないし、鬼の攻撃を一度でも喰らえば終わりだからだ。
◇◇◇◇◇
「まずいな・・・・・・」
鬼との連戦が続き、水筒の血がなくなりかけている。
血は、乾いてしまうと効果がなかった。鬼に出会うたびに塗りなおさねばらない。
「血を温存して戦うことは難しいか?」
血の温存のことは考えた。
一匹、二匹と戦うなら血を使わないでも勝てるだろう。が、三匹以上になるとあやしい。
強くなったとはいえ、鬼の攻撃を一度でも喰らえばそこで終わりなのだ。ここにきて、あの事実が恐怖となって動きのキレを鈍らせる。
“復活できるのは、あと3回”
それでも、なんとか城門にたどり着く。
盲目の門番たちは、変わらない様子で仁王立ちしている。
「桃太郎さん、大丈夫ですか・・・・・・?」
全身から汗を噴き出していた。恐怖によるものではない。
極限の緊張からくる発汗だった。
「あぁ。傷を負ったわけじゃねぇ。いけるさ」
強がりではない。力はみなぎっている。
「最後に馬南を倒したのは、あいつらだ。仇、とってやろう。作戦どおり、いくぞ!」
前の戦いの作戦は、馬南がいたからこそできた。
だから、前と同じ戦い方はできない。
無論、対策はある・・・・・・!
それを取り出し、操作する。完了したら、地面に置き、距離を取る。
「鬼ども、かかってこい!」
自分の声が高らかに響く。
盲目の門番たちは声がしたほうに向かって走り出す。
「馬南の仇だ、覚悟しろ!」
矛を持つ鬼の鋭い突き。
斧を持つ鬼の重い一振り。
だが、それらは直撃する。
録音した声を再生するスマホに直撃する。
「初めて役に立ったぜ!」
狙うは、隙が丸出しになった鬼どもの首。血をたっぷりと塗った一期一腰で、一太刀ずつ浴びせる。
二匹は、その場で音を立てて崩れた。
楽丸が、粉々になったスマホをしげしげと見ている。
「不思議な道具やったなぁ」
「本当の使いかたは、こうじゃないんだけどな・・・・・・」
電波がないゆえ使いものにならなかったスマホ。まさか、こんなところで力になってくれるとは。
門番の腰についていた鍵を奪い、城門を開ける。
「城の中から、鬼がうわっと出てこーへんかな?」
楽丸が目を伏せながら言った。
「それはありません。朱天童子は、この城に一匹で住んでいます。特に用事がなければ、牛頭たちがここに来ることはないです」
よかった。水筒の中の血はあとわずかしかない。ひと塗りするだけで、尽きてしまうだろう。
城内は、元の世界で見た日本の城と同じ造りだった。ただし、スケールは約2倍もある。きっと朱天童子の大きさに合わせて作られたのかもしれない。
天井は高く解放感があるが、段差のきつい階段を上るのに苦労する。それでも、最上階にいるらしい朱天童子を目指し進んだ。
「なんか、この壁おかしないか?」
楽丸がクンクンと鼻を壁に寄せる。上の階に進む途中、急に壁の材質が変わったのだ。
「戦闘狂の朱天童子が、手下に命じて補強したらしいです。城内でも喧嘩ができるようにって」
朱天童子・・・・・・頭がイカれた奴め。
「この先に朱天童子がいます」
雉彦が言うなら間違いない。
悪趣味な鬼の絵が描かれたふすまが4枚並んでいる。城の大きさに合わせて、横幅が通常のふすまの4枚分はある。
ついに、ここまで来た。鬼の頭領、朱天童子・・・・・・こいつを倒して打ち出の小槌はいただくぜ。
「相手は何をしてくるかわからん。わたしと楽丸でふすまを開く。桃太郎は刀を構えて戦う姿勢になっていてくれ」
刀を抜き、中段に構える。
「いくぞ」
猿飛の合図とともにふすまが開かれた――。
(つづく)

いいなと思ったら応援しよう!
出版を目指しています!
夢の実現のために、いただいたお金は、良記事を書くための書籍の購入に充てます😆😆