#19│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
目の前に、一面の畳が広がっていた。
(サッカーのグランドみたいだ)
広さに度肝を抜かれたのも一瞬、こちらに気づいた朱天童子が、全力で疾走してくる。
「うわ、いきなり来たで!」
「猿飛以外は、端っこに行ってろ!」
両手で斬馬刀を持って走ってくる朱天童子の姿は、恐怖の塊だった。まるで新幹線が突っ込んでくるかのようだ。
(落ち着け。まずは準備だ)
猿飛が水筒を傾け、菜々花の血を左の前脚に汲む。愛刀・一期一腰を鞘から抜くと、猿飛が刀身に血を塗りたくる。繰り返し練習したため、阿吽の呼吸で完了した。
朱天童子が目の前に迫る。走りながら両手持ちした斬馬刀を担ぐ。走ったままの勢いで振り下ろしてくるか!?
ドガッ!
振り下ろされた斬馬刀により、畳はもちろん、その下にある木の床までもが破壊され、あたりに飛び散った。
だが、かわせた。
体捌きで。
前回の戦いでわかった。朱天童子は人語を理解するほどの知能がある。よって、太刀筋も人間に似ているのだ。
だから、体捌きが通用する。
相手の位置関係を見極め、足を動かして巧みにかわす技術だ。
「ほう、うまく避けたな」
畳から斬馬刀を抜き、朱天童子は中段に構える。視線を俺から外さないで、どなった。
「おい、雉ィ!!報告はどうした!!桃太郎が攻めてくるんなら言えよ!!」
「も、もうあなたの言いなりにはなりません。あなたは、桃太郎さんに倒されるのです!」
朱天童子は、中段の構えのまま、右脚でドンと床を叩いた。
「おもしれーこと言うじゃねーか!こいつの次は、お前だからなぁ!」
下衆め。切り捨ててやる。
「お前、なぜ桃太郎を狙う?なぜ桃太郎の存在を知っていた?」
猿飛が問い詰める。
「知りたいか?オレに勝ったら教えてやるよ」
「・・・・・・桃太郎、頼む」
「承知ッ」
無茶苦茶なやつだ。村の人たちは、こいつのせいで苦しんでいたのか・・・・・・。
(絶対に倒す)
刀を握る拳に、ますます力が入った。
【猿飛の視点】
やはり人間の技術は、すばらしい。朱天童子が振り回す斬馬刀を、桃太郎はすべてかわしている。それも、紙一重で。
あれが、体捌きというやつか。
しかし――
「おいおい、少しは攻撃してこいよ!」
朱天童子が大声で言った。
そう、桃太郎は一度も攻撃していない。
いや、できないのだ。距離が遠すぎて・・・・・・。
互いの剣先が触れる間合い、つまり16尺ほどの間合いで戦っている。
【※16尺】
約5メートル
朱天童子の斬馬刀が届く距離。
桃太郎の一期一腰が届かない距離。
絶対的に朱天童子が有利な間合いで、奴は斬馬刀を縦横に振り回している。美しかった畳の広間は、もはや修復不可能なほど傷だらけだ。
「悲しいな!どんな攻撃も、当たらなければ意味はないぞ!」
珍しい。
桃太郎が挑発している。
「くっ!!わたくしにも鷹のような戦闘力があれば・・・・・・!」
「あんなでかい武器、卑怯やねんっ。何もできへんやんっ!」
「いや、桃太郎には何か狙いがあるはずだ」
と、言いながらも私が握った拳の中は汗だくになっていた。
右にかわし、左にかわし、後ろに距離をとってかわす。あの斬馬刀を刀で受ければ、一撃で折れてしまうだろう。受けることすら許されない。
「やはり打つ手なしなのか?」
桃太郎は、じりじりと部屋の角に追い込まれる。
朱天童子が斬馬刀を担ぐ。角に追いやられた桃太郎には体捌きでかわす十分な場所はない。
桃太郎は、中段に構えていた刀の先をおろし、剣先が地面を指す下段の構えに移行した。
「なんだ?あきらめたかぁ?」
(違う。相手の攻撃を見やすくしたんだ)
「終わりだッ」
朱天童子が、一気に斬馬刀を振り下ろす。
「逃げて!!」
「やめろ!!」
雉彦と楽丸の悲鳴を横で聞きながら、私は一瞬でも見逃すまいと目を開く。
朱天童子の斬馬刀が桃太郎の頭を割る――前に壁に突き刺さった。
“城内で喧嘩ができるように補強された壁”だ。
腰を下ろして、少しでも姿勢を低くした桃太郎に斬馬刀は届かなかった。
「くっ!刀が抜けねぇ!!」
朱天童子の斬馬刀は、壁にめり込んだままだ。
奴は桃太郎の攻撃を受ける術はない。
「よしッ、行けッ!!」
思わず叫ぶ。
ボォォォォォ!
一瞬、何が起きたかわからなかった。
あるはずのないものが、急に発生したからだ。
炎だった。
朱天童子の口から吐かれた炎が、桃太郎を襲う。残されたのは、黒い焦げ跡だけだった。
「なかなか面白かったぜ、桃太郎さんよぉ。だが、切り札ってのは、とっておくもんだからな」
炎は壁に燃え移り、じわじわと広がっていく。だが、朱天童子はまるで気にしていない。
「な・・・・・・」
「嘘やろ・・・・・・」
こいつ、炎を吐けるのか・・・・・・。
雉彦と楽丸は動けないでいる。私が率先して指示を出したいところだが、身体が動かぬ。恐怖で身体が動かぬ・・・・・・。
「雉ィ、約束通り次はお前だからな」
朱天童子が近づいていくる。私にできるのは、ただ強く思うことだけだった。
次こそ絶対倒してやる――と。
(つづく)

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