#16│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
【菜々花の告白】
あたしも、転生した者だ。
うん、驚いて当然だと思う。隠していたわけじゃない。言うタイミングが、難しかった。
ふっ。
いや、タイミングって言葉、久しぶりに使った気がしてな。
この世界じゃ通じないから。
うん?
桃太郎、この前の食事のときに「ビール」って言っただろ?
それで、「この人も転生してきたのか」ってわかったんだ。
転生のきっかけは、病気だった。どんな病気だったのか、はっきりは覚えていない。
が、病気で命を落としたのは間違いない。
転生したばかりの頃は本当に苦労した。
あたしは十歳の子どもとして生まれ変わった。しかも、家族がいなかった。村人の話から、一人で生活していることがわかった。
たかが十歳の子どもが生活していけるほど、生きることは簡単じゃない。でも、村の人たちは食べ物をはじめ、生活の手助けをしてくれた。
その中でも特にお世話になったのが、オバアサンなんだ。定期的に野菜を届けてくれたし、住むところも確保してくれた。
それでも、私は『どうして自分だけ、こんな世界にいるのだろう?』というぶつけようのない怒りを消すことはできなかった。
だって、この世界は不便なことばかりだろう?
コンビニもないし、テレビもない。きれいな服もないし、化粧だってできない。
だから、村の人たちと楽しく暮らしていこう、という気持ちにはなれなかった。
桃太郎に初めて会ったときも、ひどい態度を取ってしまって悪かったって思ってる。ごめんなさい。
進んで大変な仕事をするのは、せめてもの恩返しだ。それくらいするのが礼儀だと思うから。
すごくなんかないさ。さっきも言ったけど、私はあきらめてしまったから。最初は『絶対に元の世界に帰る!』って言って、島のあちこちを探索したり、いろんな人に話を聞いたりした。
その中で、打出の小槌の話も聞いたよ。でも、あたしは鬼と戦うなんて怖くてできなかった。
そう?でも、女だからってのは言い訳だ。あたしは、戦う前からあきらめていたんだ。
だから、オバアサンからあなたが鬼と戦い続けているって聞いて、おどろいた。やられるときって、きっとすごく痛いんだろ?その痛みを知っていて、あきらめないで挑戦するってのは、本当に心が強いんだなって思う。
え?そうなんだ。村人たちを守るため、かぁ。
自分のことだけじゃないんだ。たしかに、この村の人たち、いい人たちだからな。
あたしばかり、話し過ぎたな。今度は、桃太郎の番。転生する前は、どんな生活だったんだ?
本当の名前は、なんて言うんだ?
【菜々花の告白・終わり】◇◇◇◇◇◇◇◇
玄関の前に辿りつくと、家の中はしんとしている。みんな寝ているようだ。
転生前の生活について話すのは久しぶりだったので、つい盛り上がってしまった。
だが、転生前のことを話しても「思い出せない、大事な何か」の記憶はよみがえってこなかった。
物音を立てないよう、そっと玄関の戸を開く。
「わっ!」
思わず声が出た。楽丸が玄関の中でお座りをして待っていたのだ。
「待ったでぇ。待ちに待ったでぇ」
「ご、ごめんな。いろいろあって、遅くなっちゃってさ」
しゃがみ、楽丸と同じ目線になって謝った。両手を合わせ、誠意も示す。
「でも、どうして玄関先で待っていたんだ?寝ていてもらってよかったのに」
しゃがんだまま聞くと、楽丸は、耳元までやってきて、言った。
「どえらいことに気づいた。仲間の中に、鬼の間者がおるで」
【間者】かんじゃ
スパイのこと。
(つづく)
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