#15│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
「ワシが説明いたしましょう」
「だれ!?」
「なに!?」
怪しい老爺だった。
腰は90度折れ曲がっており、杖を両手でついて震えながら立っている。髪型や着ている服は貧相なのに、首飾りだけが美しく光輝いている。
「ワシは、このロウソクを管理するヤスダという者です」
丁寧な話し方とは裏腹に、口元には不敵な笑みを浮かべている。
「あっ、このにおい・・・・・・。前、ここに来たとき、嗅いだにおいや!」
楽丸が身体を震わせながら言う。
「左様です。みなさまが前いらっしゃったときも、話しかけようとしました。しかし、みなさまは何かに怯えて行ってしまった。残念でしたよぉ」
あんたにびびったんだよ、あんたに。ツッコミたい気持ちをぐっと抑えて聞いた。
「管理ってことは、ロウソクの長さを増やしたり、火を消したりできるのか?」
ヤスダは、ひぃひぃひぃっと笑う。
「そんなことはできません。ロウソクに手を加えることは禁忌なのです。ごくまれに、動物が入ってくるので、悪さをしないよう排除するだけです」
くそ。
ロウソクを伸ばしてもらうことはできないか。
「一度消えてしまったロウソクの火を元に戻すことは、できますか?」
ヤスダは、問いかけた雉彦を睨むようにして答えた。
「できません。先ほども申し上げたように、ロウソクに手を加えることは禁忌です」
じゃあ、やはり馬南は・・・・・・。
「みなさん、知りたいのは、『あと何回復活できるか?』でしたよね」
そうだった。あまりにも変な奴が出てきたから、失念していた。
「希火団子、あれを食べて復活する場合はだいたい三分の長さが燃えてしまいます。おおよそ、手の平の厚み分ですね。そちらの人間さま、全員のロウソクを測ってみるのがいいでしょう」
【3分】さんぶ
約1センチ。
手の平を水平にして、ロウソクの長さを“計測”しはじめた。
桃太郎・12分(約4センチ)
楽丸・12分(約4センチ)
猿飛・12分(約4センチ)
雉彦・39分(約13センチ)
ごくりと唾を飲む。
計算すると、あと4回しか復活できないことがわかった。
「雉彦だけ長いな」
猿飛と同じことを思った。
「なんかズルしとるんやない?」
楽丸がつっかかる。
「してません!私にも、長い理由はわかりませんよ」
雉彦は羽をバサっと広げて反論した。
「おい!気をつけろよ!!ロウソクの火が消えたら、なんかやばそうだぞ!それより・・・・・・」
疑問に思っていることを聞いた。
「どうして馬南のロウソクは短かったんだろう?」
「ロウソクの長さには、個人差があります。その馬南という方は、もとから短かったんでしょうなぁ」
くっ。
馬南とはもう会えないのか・・・・・・。
「もう一つ、耳寄りな情報をお伝えしましょう。希火団子で復活すると、復活前に倒した鬼たちも生き返ります」
◇◇◇◇◇
疲れていた。丸一日、馬南を探し回ったうえに、あと4回しか復活できないということがわかってしまった。
4回復活したあとやられたら、どうなる?馬南のように、消滅していまうのか?
迫りくる恐怖が、凍るような冷たさとなって背筋を駆け巡る。
重い足取りで帰宅すると、もう朝日が昇ろうとしていた。オバアサンが用意していた食事に手もつけず、泥のように眠った。
◇◇◇◇◇
目を覚ますと、すでに夕暮れだった。
オバアサンに、ロウソク島であったことを伝えた。
オバアサンも、知らないことだったようで、本当なんじゃな?と、何回も聞いてきた。
そのあと、楽丸たちを起こし、雉彦を待ち、作戦会議を開く。
囲炉裏の周りに全員が集合した。
「馬南がいなくなってしまったのは、痛いな・・・・・・」
前向きにいこう。そう思っていても、つい弱気な発言をしてしまう。
「そうだな。馬南がいたからこそ、上陸する際の包囲網を突破できた」
猿飛の言う通りなのだ。
たしかに強くなれた。
だが、それでも一人で複数の鬼を相手にするのは厳しい。
九匹の鬼に囲まれたら、戦いにならない。
「整理しようか」
課題は二つ。
馬南の力なしで、包囲網を突破すること。
あの強すぎる鬼の頭領を倒すこと。
状況は厳しい。
「ワイたちが復活すると、鬼たちも生き返るらしいな・・・・・・」
そうなると、あの門番たちともまた戦わなければならない。
「9999匹いる鬼どもを全滅させるのは不可能だ。鬼の頭領を討ち指揮系統を破壊するしかない」
だが、その頭領を倒す方法がわからない。
今までは、“とりあえず鬼ヶ島に突っ込む”ということができた。
が、あと4回しか復活できないとわかった以上、慎重にいかざるを得ない。
かと言って、じっとしていて2週間たつと、鬼たちがこの島に襲ってくる。
家事や野良仕事はオバアサンに任せっきりにし、夜まで話しあっても、事態は進展しなかった。
◇◇◇◇◇
(夜の散歩に行くか・・・・・・)
気分転換だ。ガララっと玄関を開けると、上空には無数の星が輝いている。
夜も暑い。じっとしていても汗が出る。エアコンはもちろん、扇風機すらない。だからこそ、身体を撫でるように吹く夜風が心地よかった。
思い切って下山し、村まで行ってみよう。村人たちが、夜をどのように過ごしているか、少し気になる。
村の入り口までくると、人影が見えた。切り株か何かに座り、星を眺めているようだ。気になって近づくと、見知った人だった。
菜々花である。菜々花も、こちらに気づいた。
「次は、何を作りに来てくれるんだ?」
いけすかない女だが、今日はなんとなく誰かと話したい。
四、五歩離れたところに並んで座った。向かい合う勇気はない。
「あきらめないことが、すごい」
何言ってんの?メシのことで話しかけたのに、いきなり褒められて、わけがわからない。
「オバアサンから聞いた。いま、たいへんな状況なんだろう?」
黙ってうなずいた。おそらく、オバアサンが用事で村に行ったときに話したのだろう。
「鬼にやられても、希火団子の力で復活して、何度も挑戦してるって聞いた。私だったら、そんなことはできない」
菜々花は、星空を見上げたまま言う。なんだか、いつもと様子が違うな。
「あたしは多くのことをあきらめてしまったから。桃太郎、あんたすごいよ」
褒められて悪い気はしない。でも、ここでなんと言えばいいのかわからん。ありがとう、っていうのが正解か?
「なんかごめん、大変な時期によくわからないこと言って」
菜々花はさっと立ち上がり、村の入り口の方に向かって歩こうとする。
「ちょっと待てよ!何かあったのか?」
菜々花は振り返らずに、尋ねてきた。
「聞いてくれるか?」
付き合うの悪くないだろう。
二人並んで座った。
始まったのは、思いがけない話だった・・・・・・。
(つづく)

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