#02│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
猿を探しに行く道中、転生した前後のことを思い出していた。
【桃太郎の回想】
名前は水島アキラ、25歳。
名前と年齢はハッキリと覚えている。でも、家族や住所のことなど、どうしても思い出せない。
他にも、もっと大切な何かを忘れているような気がするんだが・・・・・・。
職業は覚えている。古武道の師範だ。
道場で稽古をつけたり、警察学校で指導をしたりして収入を得ていた。
ある日の稽古の帰りのこと――。
暴走するトラックに突っ込まれ、意識が途切れた。
「起きろ、桃太郎!」
知らない老婆に呼びかけられ、目を覚ます。
粗末な布団の中にいた。つぎはぎだらけで厚みがなく、ひんやりとしていた。
「わけわかんねー!」
そう思いながら暮らすうちに、状況を理解していった。
・昔話に出てくる桃太郎に転生した。
・転生後の年齢は17歳。気力・体力が充実している。
・桃太郎としての幼い頃の記憶はない。
・転生前から持ち越せた物は、財布、車の鍵、スマホ。どれもこちらの世界では使えそうにない。
この世界はすっげぇ不便だった。日中のほとんどが、生活していくための仕事。草刈り、畑の手入れで時間がつぶれる。
娯楽なんてない。
食事は脂っ気がなかった。野菜や木の実が中心であるうえ、味付けがほとんどされていない。調味料も稀少なのだ。あぁ、肉厚のステーキを食べたい。
だが、元の世界では絶対にできないことができた。
実戦だ。
身につけた古武道は、先祖代々伝わる超実戦派だ。
打撃・関節・投げ・極めはもちろん、目つぶし、金的もあった。
素手以外でも剣術、弓術、馬術など武芸十八般と呼ばれるものはひととおりこなせる。
中学・高校は喧嘩三昧だった。
目が合った奴・気に入らない奴は殴り倒し、『岐阜の狂犬』なんて呼ばれた。
「お前は法律に守られているからな」
警察のオッサンの言うとおりだった。
成人してからは喧嘩ができなくなった。
「真剣勝負がしたいぜ・・・・・・」
試合はあるが、防具をつけたり禁じ手が多かったりした。
刀も使えない戦いは、緊張感がない。
正直、物足りなかった・・・・・・。
だから、オバアサンから「悪人は斬ってヨシ」という話を聞いたとき、武者震いした。そして、その機会はすぐに訪れた。
「助けて!誰かっ!助けて!!」
楽丸と城下町を散策していたときのことだ。
若い娘さんが三人の男に囲まれていた。三人とも、刀を腰に差している。
「楽丸!あんなやつら、斬っていいよな?」
「もちろんやで。でも、三人もい・・・・・・」
楽丸の言葉を聞き終える前に駆け出した。
「なんだてめぇは!」
「近づくな!近づくとこの女を斬るぞ!」
一人が抜刀し、娘の首に刀をあてた。残りの二人も刀を抜き、こちらと向き合う。
小太刀を抜き、構えた。一対三、しかも人質がいる。
だが、問題ない。
娘を拘束している男に刀を投げた。刀が右肩に刺さる。男は刀を落とし、痛みで大声を上げた
「なっ!」
全員が驚く。刀を投げる、なんて戦い方、お前らの頭にはないだろう?
あるんだよ。実戦流派には。
異種格闘技戦では、相手が知らない技を使うのは常套手段なのだ。
驚いている隙に、二人目の男のアゴに掌底を入れる。男は前のめりに倒れた。
最後の一人には、低空タックルから寝技に持ち込む。腕十字に移行。ゴキっと骨が折れる音が聞こえた。
三人倒すのに、十秒もかからなかった。
「たまんねーぜ!!」
脳から汁が出たかのように興奮していた。助けた娘がベタベタくっついてきたが、それどころではなかった。
「この世界なら、古武道が思う存分使える!」
学生の頃、「学校にテロリストが侵入してきて自分がやっつける妄想」をしていた。
それに似たことができるのだ。
それから時間の許す限り城下町を歩き回り、悪人を見つけては、成敗した。
この時代には山賊なんてオイシイ敵もおり、狩りつくした。
そしてある日、オバアサンに言われた。
「鬼ヶ島へ行って、鬼を退治してこい」
ついに来たか、と思ったね。人間が相手では物足らなくなってきたところだ。
「天下無双」などと呼ばれるようになり、悪い気はしなかった。
だが、欲していたのだ。
強敵を。
鬼だろうが悪魔だろうが、倒したるわい。勇んで出陣した。道中、猿や雉を仲間にできると思ったが、出会わなかった。
・・・・・・・・鬼は、反則的な強さだった。よく考えれば、当然だ。犬・猿・雉に負ける昔話の鬼がおかしいんだ。
だが、相手にとって不足なし。
よく考えてみれば、おもしれー話だ。
絶対にぶっ倒してやる。
【回想おわり】
「まだ着かないのか・・・・・・?」
山に入ってから、ずいぶんと時間がたった。
腰の高さまで伸びた草をかき分けながら、ただ上を目指して進む。
オバアサンから猿が暮らす山の存在を聞き、仲間になるよう頼みに来た。山に入って登りつづければ、必ず猿の集落にぶち当たるという。それほど、広大な集落らしい。
「楽丸も連れてこればよかったな」
楽丸は置いてきた。“犬猿の仲”という言葉どおり、ケンカされては困るからだ。
歩きながら、オバアサンの言葉を思い出す。
「人間と猿は、仲が悪いんじゃ。少ない食料を求めて、争っている。猿が人間の作物を奪うこともあれば、人間が罠を仕掛けて必要以上に傷つけてしまうこともある」
たしかに、この世界の食料事情は悪い。文明や技術が発達していないので、当然ともいえよう。
だからこそ希火団子が有効だと考えた。希火団子は、この世界では群を抜いてうまいのだ。
旅館の売店によくあるお菓子に似ている。やさしいたまご色をしており、中には甘いカスタードクリームが入っている、あのお菓子だ。スイーツなんてない世界で、あの甘さは希少価値が高い。
おいしい希火団子をダシに使えば、猿たちも協力してくれるかもしれない。ただ、他にもオバアサンは言っていた。
「ここ数年、なぜか猿が食物を奪うことはめっきり減ったのぅ」
猿たちに何かあったのか?
食料に困っていなければ、協力してくれないかもしれないな。ちょっと不安だ。それにしても・・・・・・
「もう、うるせぇなぁ!」
アブラゼミの大合唱は、やまない。
水筒に直接口をつけて麦茶を飲む。
「コンビニでアイス買って食べたいぜ・・・・・・」
「止マレ」
顔面すれすれの位置には、槍の先端が突きつけられている。
鎧を着た猿だ。でかい・・・・・・猿というよりゴリラに近い。しかも二匹いる。
大猿たちは、今にも刺そうとしている。
一体、何なんだ・・・・・・?
(つづく)
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