桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
【猿飛の回想】
馬南の背に乗って鬼たちの城に向かいながら、私はオジイサンと会ったときのことを思い出していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
さびしい――。
オバアサンによると、桃太郎のオジイサンは、もう亡くなったらしい。
もう一度、会いたかったんだが・・・・・・。
オジイサンに会ったのは20年ほど前だったか。
あの頃の私は、まだ猿の大将でなかった。
私は食料を求めて、とある山を駆けずり回っていた。そこは、人間が狩りに使っていた山だ。猿たちの間では“入るべからず”の場所だった。人間に見つかったら、何をされるかわからんからな。
まぁそれも当然のこと。人間は、食料を奪う猿を憎んでいた。猿は、仲間を殺す人間を憎んでいた。つまり、お互いに嫌っていたんだ。
今、私は桃太郎と一緒にいるから安心して人間の村で生活できる。だが、私一匹だったら捕まえられるか、袋叩きにされるかわかったもんじゃない。
当時の私は調子に乗っていた。みんなから「頭が切れる」なんて言われていたから、人間を出し抜いて食料を手に入れたかったんだ。
しかし、私は人間が仕掛けた罠に引っかかった。野ウサギか何かを捕えるためのもだおる。ガチャリ、と口みたいなものに挟まれるやつだ。
「最悪だな・・・・・・」
あの時ほど絶望したことはない。挟む力は強いうえに、鋭利なトゲみたいなものもついてやがるからな。動けば動くほど、脚に食い込んでいった。
助けを期待したが、ここは猿にとって“入るべからず”の場所。
このまま体力が尽きるのが先か、人間に見つかるのが先か・・・・・・。どちらに転んでも明るい未来は期待できなかった。
◇◇◇◇◇
罠にかかって2、3日が過ぎたころだったと思う。
「おやおやおや。大丈夫か?」
そう言って近づていきたのが、オジイサンだった。
(くっそたれ、人間か)
覚悟したとき、オジイサンは罠をやさしくほどいてくれた。そのうえ、手当てまでしてくれた。
「ずいぶん弱りきっとるのぅ。これでも食うか?」
懐から取り出したのは、きれいな三角形のオニギリだった。オジイサンは、ほれ、と言ってオニギリを寄越した。食料が貴重なこの世界で、だぞ?
オニギリは、オバアサンが作ったものだったんだろう。
だから、この前オバアサンのオニギリを食べたとき、当時のことを思い出し涙が出そうになった。
オニギリは、3秒で食べた。腹が減っていたからな。オジイサンは「えぇ喰いっぷりじゃ」と笑ってさらにオニギリを2つもくれた。
「どうして私なんかを助けたんだ?」
「ワシ、こう見えて人間の中では強い方じゃからの。弱い動物には手を出さないんじゃ。強い者にしか興味ないんじゃよ」
どう考えても嘘だった。
顔がシワまみれの老人が、強いはずがない――。
その証拠に、満面の笑みを浮かべているじゃないか。
(人間にもこんなやつがいるんだな)
驚きつつ、私が食料を求めてこの山に入ってきたことを話すと、とんでもないことを言い出した。
「食糧がないから、争いが起きる。米作りのやり方、教えたるわい」
こうして、オジイサンの米作り教室が始まった。
私とオジイサンが出会った山に、稲作に適した場所があったから、そこでやったな。
私もオジイサンも、猿と人間が交流していることを仲間に見られたら、具合が悪い。こっそりやる、という意味でもその場所は都合がよかった。
1年かけて、米作りを教わった。私もオジイサンも、自分が住む集落からそこに通い詰めたわけだ。それも、仲間にバレないようにな。オジイサン、暇ではなかっただろうに・・・・・・。
私は、“米作り”という秘術を持ち帰り、みんなに話した。最初は全否定されたな。
「人間カラ教ワッタ方法デ食イ物ヲ得ルナンテ、ナメトンノカ」
とも言われた。
でも、二匹だけ賛同してくれるやつがいたな。
今で門番として活躍してくれているあいつらだ。
それから、三匹で米作りを始めた。
◇◇◇◇◇
米作りはうまくいった。炊き立ての米でオニギリを作り、みんなの前で食べてやったよ。
「ウマソウダゾ!」
「私モ食ベタイ!」
“湯気が立つ食べ物”が珍しかったんだろう。私たちは、木の実や果物といった、温かみのないものばかり食べていたからな。
反応はよかった。手の平を返すように「米作リ、ヤロウゼ!」とか言ってな。
そして、米作りに適した場所を探し、そこで集落を作った。
数年後――
米作りが軌道に乗ったことをオジイサンに報告をしに行くと、いつになく嬉しそうだった。
「何かいいことあったのか?」
「オバアサンが、川で大きな桃を拾ってきてのう。その中に赤ん坊が入っていたのじゃ」
オジイサンの目は輝いている。
「ワシらには、子どもがおらんかった。だから、毎日毎日楽しくて仕方がない」
「えっ。じゃあこんなところで米作りなんてしてていいのかい?」
申し訳ないと思い聞いた。
「それとこれとは別じゃ。お前さんには、きちんと米作りを教える、と約束したじゃろ」
「そうか・・・・・・。お礼に何かできることがあれば言ってくれ」
「どこかに若返ることができる植物――光る紅千鳥があるらしいんじゃ。それを見つけたら分けてもらおうかの」
そのあと、ガハハと笑った。
これも冗談なのだろう。
ふと気になって尋ねた。
「その赤ん坊に、名前はつけたのか?」
「あぁ。桃から生まれたから、桃太郎じゃ」
その桃太郎が、私を頼りにやってきた。
運命、というやつを感じたのは初めてだ。
オジイサンの恩に報いるためにも、桃太郎を助け鬼を倒さなくてはならない。
(つづく)
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