#08│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
「なんだよ、これは・・・・・・」
長く続いた曲道の先には、開けた空間があった。そこでは、おびただしい数のロウソク静かに燃えている。
「自然発生したものでは、ないでしょうね」
「あぁ。だとしたら、誰がどんな目的でこんなところにロウソクを・・・・・・」
雉彦と猿飛は、このような状況でも冷静で、「あきまへん!こりゃあきまへん!」と騒ぎ立てる楽丸とは大違いである。
「なぁ、ここヤバイって!変なモンが出てくる前に、逃げよう!」
何を隠そう、小さい頃からこわいものが苦手だ。
強い奴と喧嘩するのは好きだったが、お化け屋敷はゴメンだったのだ。
「・・・・・・この数、百以上はありますね」
「儀式的なものか?鬼どもに関係するのか?」
雉彦と猿飛は、ロウソクに近づいて観察している。
「ん?よく見るとロウソク台に何か書いてあるぞ。暗くてよく見えんな・・・・・・」
「何かいる!!」
楽丸が急に叫んだ。
「待て待て、こんなところに何かいるわけないだろ、待て待て」
恐くなって言葉遣いがおかしくなってしまった。
「いる!近づいてくる!」
もう限界だ!
右手で猿飛の尻尾を、左手で雉彦の首根っこをすばやく掴み、出口に向かって猛然と走る。
「わっ、ちょい待て!」
ジタバタと暴れる猿飛を強引に連行し、洞窟の入り口に戻った。
◇◇◇◇◇◇
洞窟を出たあとも、探索を続けた。途中、偶然見つけた小川で水筒の水を補給したこと以外は、特に変わったことはなかった。
「あそこで桃太郎さんが逃げなければ、何かわかったかもしれないのに」
雉彦が何か言ったが、無視した。
◇◇◇
帰りの舟は、全員が無言だった。期待して出かけていったのに、見つかったのはわけのわからないロウソクの存在。そりゃあ、がっかりするぜ。
◇◇◇
家で迎えてくれたのはオバアサンだけではなかった。
菜々花もいたのだ。今日はポニーテールにしていない。肩より少し長い、セミロングの髪型だった。
「おかえり。疲れたじゃろ。今夜も菜々花に飯をお願いしたんじゃよ」
オバアサンは探索について何も聞かなかった。みんなの表情を見て、成果がなかったことを察したのだろう。
「どうしてこの人を呼んだの?」
囲炉裏の横でけだるそうにこちらを見ている菜々花の方をチラリと見て、聞いた。
「いいことがあれば、お祝い会。何もなかったら激励会。若者は、うまいものを大いに食べて、精をつけるのじゃ」
オバアサンが笑顔で応じる。
「さて、じゃあ始めるか」
ゆっくりと立ち上がった菜々花は髪を結い、慣れた動きで着物にたすき掛けを施した。ずいぶん動きやすそうである。何が始まるんだ?
「天ぷら」
その一言は、悪魔的だった。
「今日の献立は、天ぷら」
繰り返し、菜々花は言った。
この世界で天ぷらだと!?揚げ物にありつけるだと!?油はどうする?新鮮な食材は手に入るのか?
疑問が次々に生まれたが、菜々花は着々と準備を進める。外に設置されていたゴウゴウと燃える焚火のようなもの(実は、さっきから気になっていたのだ)に、鍋が準備されている。菜々花は、息を吹きかけたり、薪をくべたりして、火力を上げている。
オバアサンが、食材をカゴに入れて持ってきた。山菜、まいたけ、しいたけ、なす、かぼちゃ、大ぶりのエビ。エビ?そんなもの、捕れるのか? 頃合いを見て、菜々花は木の器に入った衣に食材を浸す。
皿を持ち、鍋を囲んで待機した。
さすがに「天つゆ」は、ない。塩でいただく。
「待たせたね」
楽丸の皿に、山菜のてんぷらが置かれた。揚げ物であるが、衣はふわりと軽そうだ。
「姐さん、おいしいわ!」
「何が」
そう言って、菜々花は猿飛の皿にしいたけを載せる。肉厚で、食べごたえがありそうだ。
「こいつは、うまい!お前さん。料理上手だなぁ」
「どこが」
そう答えて、菜々花は雉彦の皿にかぼちゃ天を置く。衣の上から、かぼちゃのオレンジ色がわかる。
「ほほぉ~。これはおいしゅうございます」
「あぁそう」
オバアサンの皿には、えび天が置かれる。あぁ、天ぷらの王様だ・・・・・・。
しかし、目の前の皿に天ぷらが置かれることはない。
なぜ天ぷらをくれないのか・・・・・・。
不満がたまり、つい気になったことを言ってしまう。
「お前さぁ。その話し方なんとかならいわけ?」
「ならない」
菜々花は、ザルですくった大量の天かすを皿に盛ってきやがった。
「わ、わるかった!」
気にせいか、菜々花の口元が緩んだように見えた。楽しんでいるのか?
最初はいじわるされたが、菜々花はそのあと平等に振り分けてくれた。ひさしぶりに食べた揚げ物に興奮し、ご飯は四杯おかわりした。
「く~、これでビールがあったらなぁ!」
「「びーる??」」
疑問の声が複数あがる。しまった、ビールなんて通じるわけがない。
「いや、気にしないでくれ。ところで、菜々花は天ぷらを食べないのか?」
話を変えるために聞くと、菜々花は手元から何かを取り出した。
「私には、これがあるから」
そう言って、両手に抱えた天丼を見せつけてきた。
この女、みんなに天ぷらを提供しつつ、ちゃっかりとこしらえていやがった。天つゆらしきものもかかっており、実にうまそうだ。
「食べたいか?」
もちろんだ。だが、さすがに腹いっぱいだ。それをわかっていて聞いてくるところが、実に憎たらしい・・・・・・。
菜々花は手早く片づけをし、帰っていった。
腹と心は満たされたが、打開策があるわけではない。深いため息をつく。
すると、オバアサンが語り始めた。いままで黙っておったが、と前置きした後、衝撃の事実を告げた。
「実は、お前を川で拾ったとき、桃は二つ流れてきたのじゃ。もしかしたら、お前の弟がどこかにおるのかもしれん」
(つづく)
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