大犬空港物語(7)「あの頃の俺を見つけて」
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俺の名前は、大谷浩平。
「あっ、いたいた!大谷さん!」
青いつなぎ。背中には大きく会社のロゴが入っている。
整備士の制服を着た男に声をかけられた。
小島よし朗。俺と同じ頃に、この空港にやってきた出向者だ。
おまえ、ほんと声でかいよな。
「おもしろいものを見つけましたよ。これ見てください」
「え?なんで?」
それは、ずいぶん昔の社内誌だった。200Ⅹ年。
営業推進本部の切り札として、俺が紹介されていた。
そうか。あれからもう、20年も経つのか。
30代半ばで100名以上の部下がいた頃の、俺。
不機嫌を抑え込んで無理に作った、あいまいな笑顔。
ワイシャツの襟元が首に食い込んで苦しそうだ。
「事務所整理してたら、これが出てきたんですよ。もうビックリで。
これがね、うちの会社が社会貢献の一環として白神山地に植樹したとき、大犬空港とも連携したってことで事務所に残ってたんですけどね。このページの裏が、なんと大谷さんを紹介する記事だったんですよ。もうね、ビックリで。この頃から縁があったんですね。いやもうビックリで。」
胸が痛む。
あのころの上司の顔が、よみがえる。
「ファクト」が口癖だった。…そこは「事実」でいいだろ。
「マリアージュ」という言葉もやたら使っていた。…「連携」だよな。
部下のおれが上司の上司から叱責されても、平気な顔で他人事だった。
黙って上司の言うことを聞いていれば評価されたんだろうか。
黒を白と言えば出世したんだろうか。
「これ、あげましょうか?うちの事務所に置いてたら捨てられちゃうかもしれないんで」
おまえ、ほんと声でかいよな。
「ありがとう、もう見たから。持って帰って」
なんでもないことのように、あくまでも軽く、
どうってことないって周りに思わせるように、俺は笑った。
作者のひとりごと
第7話を読んでくださって、ありがとうございます。
今回は、もうひとりの出向者、整備士の小島さんが持ち込んだ古い社内誌を題材にしました。社内誌って、大企業にしかない特別なものだと思っていて、私にとってはちょっとした“あこがれアイテム”です。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすことです。
次回、主人公行きつけのお店が登場します。
第8話もぜひ読んでいただけるとうれしいです。
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