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大犬空港物語(8)「道の駅でスタンプカード、作っちゃった」

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俺の名前は、大谷浩平。

最近、行きつけの店ができた。
アパートから車で5分の「道の駅」。地元でとれた野菜や手作りのお菓子、漬物、総菜が並ぶ。驚くほどクオリティが高く、よく工夫されているのに、パッケージは素朴で、値段も安い。
 
産直コーナーを切り盛りしている地元の女性たちが、毎回「カードはありますか?」と聞いてくるから、ついにスタンプカードまで作ってしまった。
カードの表紙には、満面の笑顔の女性のイラスト。両手に野菜。
500円毎に1スタンプ、30スタンプ集まったら500円割引。なんだろうな、この感覚。
 
俺、会員カードみたいなものは基本作らないし、現金も持ち歩かない。いつも身軽でいたい。カバンも持たない。手ぶらで生きていたいんだ。
なのにスタンプカードって。たった500円のためにスタンプを集めてカードを持ち歩くなんて。キャラ崩壊もいいところだ。自分でも笑ってしまう。
 
だけど、「また来てね」「また来るよ」「また来たよ」なんだよな、これ。
この場所にいる人たちを、がっかりさせたくない。そう思うから、断れなかったのかな。
 
鹿角ホルモンを手に取った瞬間、レジの方から声が飛んできた。
「あら〜大谷さん!今日も来てけだのぉ?私さ会いさ来たんでねが? ガハハ」
「ちょっと!あんたでなく、私に会いに来たんだべよ。」
「いやいや、私だってば。スタンプ1こ、おまけしてまお」
「あんただば!大谷さん困ってしまうべ。おまけするんだば、こっち。」
 
レジに預けた黒い小さめのマイバッグに、バター餅が入れられた。
 
ここの人たちは、俺が大企業の人間だから親切なわけじゃない。
俺が、誰であっても、関係ない。素の俺を見てくれる。
 
出向で北東北に来て、単身赴任。
肩書のなくなった俺から、権力のなくなった俺から、会社や取引先の誰もが離れていった。
 
単身赴任とはいえ、東京日本橋の自宅に、帰れないわけではない。実際、平日は田舎で働きながら、週末は首都圏に帰る単身赴任者は、けっこういる。金曜の夜と月曜の朝の空港は、俺と同じような年代の男性客が多く、混んでいる。
 
帰ろうと思えば、月に2~3回は東京で過ごすことはできるんだ。なのに、帰りたくない気持ちになってしまうのは、電車の窓に映る自分があまりにも寂しそうだから。
 
「大谷さん、今度みんなで飲みに行が!みんな大谷さんと話したいって言ってるっけさぁ」
「スマホちょーっと貸して。これ、QR読んで~」
 
ピコン、と俺のスマホに新しいアイコンが追加された。
産直のリーダー格の女性と、LINEを交換してしまった瞬間だった。
え?まじ?

作者のひとりごと
第8話を読んでくださって、ありがとうございます。
今回の舞台は「道の駅」。主人公が手にした「鹿角ホルモン」は、実在します。やわらかくて、とてもおいしいので、機会がありましたらぜひお試しくださいね。

大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすことです。

次回、季節は冬を迎え、銀世界が広がります。
第9話もぜひ読んでいただけるとうれしいです。

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