大犬空港物語(22)「ゆきまつりの頃に」
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俺の名前は大谷浩平。
空港ロビーに響くソウルビートが、事務所まで聞こえていた。
高塚スイセイの歌声は力強く、映画館のスクリーンで見たNYの街角を思わせる。その歌に惹かれて立ち止まる人々の姿を、俺は事務所のモニター越しに見ている。
そう、ちょうどこんな曲だった。
NYの街を、主人公の少年が歩いているシーンで流れていたのは。
地元出身にこんな歌手がいたなんて、知らなかった。
「いいな。すごくいい。よく見つけてくれたな。」
2月のイベント「大犬空港ゆきまつり」を担当した神崎さんをねぎらった。
新入社員とは思えない落ち着き。度胸がいい。
「いいですよね。予想以上です」
神崎さんは笑顔で答え、それからほんの少しだけ涙ぐんだように見えた。
入社してまだ1年足らず。よくやってくれている。
少ない社員の中に1名だけの新入社員で、戸惑うことのほうが多かったのではないかと思う。
成長が楽しみだ。
「ちょっと外も見て来るよ。かまくらと、そりコースの様子を見て来る。」
コートを羽織った俺に、施設担当の唐沢部長が声をかけた。
「大谷取締役、長靴を履いてください」
「いや、私はこのままでいいですよ」
俺は自分の足元を見る。白いスニーカー。
「いえいえ、そんな足元で そりコースに行かれては。
長靴をご用意しておりますので、こちらを履いてください。新品ですので、ご安心を」
「ありがとうございます。すみませんねぇ、お手数をおかけして。」
真新しい長靴に足を入れる。
あれっ?
ぶかぶか?
なんでこんなにブカブカなの?
「すみません、唐沢部長、この長靴、ぜんっぜんサイズが合わないんですけど」
「あれ?大きいですか?小さいですか?」
「大きいです。ぶっかぶかです。」
「う~ん、すみません。では、新品ではないですが、視察対応用の長靴でサイズが合うのを探しますね。」
どこにしまわれていたのだろう。
唐沢部長は長靴をぞろぞろ持って来て、俺はちょうどいいサイズの長靴を借りることができた。
この、一声かければなんでも出てくる感覚。ドラえもんみたいだ。
「ありがとうございます。でも、どうして最初のはブカブカだったのでしょう」
「それは…」
様子を見ていた竹野内さんがこちらに顔を向けた。
都合が悪そうに眉を寄せながら、でも半分笑いをこらえている様子。
「大谷取締役に足のサイズをお伺いしたら、『30cm』とおっしゃっていたので…
私、『ほんとうに30cmですか?』って何度も確認したんですけど…」
うん、たしかに。そんな会話、したね。
そういえば「会社で長靴を用意する」って言われたような気がする。
大は小を兼ねるっていうし、長靴のサイズなんててきとうでいいと思ったし、それに昔、高校野球をやっていたころは確かに俺の靴のサイズ、30cmだったんだよ。ほんとうに。
しかし30cmの長靴は大きすぎて、歩くこともままならない。
「長靴、取替しておきますんで。30cmのほうは返品で。」
唐沢部長が淡々と言う。
こうして俺は、ちょうどいい長靴で外に出た。
滑走路の排雪を積み上げた雪山の、そりコースで遊ぶ子どもたちの声が聞こえる。
空が青い。
毎日があっというまに過ぎていく。
この頃、俺は、「自分がいなくなったら、大犬空港はどうなるだろう」ということばかり考えてしまう。ここに来てから2年が経とうとしているいま、早ければ2月後半から3月上旬にかけて、異動の内示があるかもしれない。
まだ、やりきれていない。心残りばかりだ。
紙、紙、紙、も解決していないし、事務所は古いままだし、旅行業も宣言しただけでまだ何も動いていない。
それに俺、今は、どこへ行っても大犬空港以上に楽しく働けるような気がしない。
秋田犬のるかちゃんが俺を見つけて「わん!」と一声鳴き、雪の中で飛びはねた。
作者のひとりごと
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。
「連載小説|大犬空港物語」シーズン2は、今回で最終回となります。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなった空港のファンクラブ会員を増やすこと。この小説を通して、少しでもこの地域や空港に親しみを感じていただけたら、うれしいです。
続編となるシーズン3ですが……。
大谷浩平、出向3年目があるのか、それとも……。
それでは、また次の物語でお会いしましょう。
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