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大犬空港物語(18)「いとしの上腕二頭筋」

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俺の名前は、大谷浩平。
 
カキーン、カキーン――
休日の朝、懐かしい音が聞こえてきた。

いても立っていられず、アパートを出て、音の鳴り響く方へ歩き出す。

「近いな。これならいつでも来れるじゃん」
 
高校がある。グラウンドがある。高校球児がいる。
気づいたら、腕組みしながら練習風景を凝視する俺がいた。

俺もいつかグラウンドに立って監督になる。
球児と一緒になってがむしゃらに青春するんだ。想像しただけで目頭が熱くなるぜ。
 
いい朝だな。天気もいい。
アパートに戻って、洗濯物を干した。秋を含んだ風が、俺の白いTシャツをふくらませて、ふわりと揺らした。
 
午後、いつものジムへ行く。
学校名が入ったジャージ姿の丸坊主が、慣れない手つきでバーベルを持ち上げていた。重さに耐えながらの、ぎこちないフォーム。
俺は少し離れた場所からしばらく様子を見ていた。
――あぁ、俺、不審者と思われるかな。通報されたらどうしよう。
そんな不安がよぎったが、どうしても目が離せない。
 
やがて学生がバーベルをラックに戻し、息を整えた。
そこでようやく声をかけた。
 
「その筋トレで、どこを鍛えたいんだ?」
 
「上腕二頭筋です!」
 
「なるほど。でもベンチは大胸筋(胸)と三頭筋(腕の裏)がメインだから。二頭筋(力こぶ)を太くしたいなら、ダンベルカールがいい。肘を曲げる動きで鍛えるんだ。」
 
「えっ、そうなんですか?」
 
「いいか、こうして腕が直角になるように持ち上げるんだ」
 
「こうですか?」
 
「そうそう、いい感じ。3ヶ月続けたら太くなるよ!頑張れ」
 
学生が満足そうにうなずいた。瞬間、俺の胸にも熱いものがこみ上げた。
たまらない自己肯定感――。
 
俺は本気で高校野球の監督をやりたいと思っている。
「俺が監督になったら、3年で甲子園に連れていける」が口癖だ。
あちこちで言い続けているのに……なぜオファーが来ないのだろう。
 
翌日、職場に会社の後輩がやってきた。
名は沢井という。最近支店長として札幌から転勤してきた野球小僧だ。
日焼けした顔に、人懐っこい笑顔を浮かべて、沢井は息を大きく吸った。
 
「浩平さん、やりませんか?また野球を!」
 
うれしさが全身を駆け巡る。ついに来たか。監督就任のオファー。
落ち着け、俺。ゆっくり、渋い感じで引き受けるんだ――。
 
「毎日忙しいからな。でも頼まれたら断れない。4番でキャッチャーで主将だった俺だが、千葉の弱小チーム出身。使いものになるかわからんけど……いつでも教えに行くから」
 
「いやいやいや」
 
沢井は顔の前で右手を、ものすごいスピードで左右に振った。
プロペラかってくらいのスピードで。本人はまったく気づいていないが、これがいつもの癖だ。
 
「こっち来て俺、早朝野球やってるんですよ。おっさん連中で。100歳野球ってのがあるらしくて。ここの草野球レベル、マジで高いんですよ。浩平さん、一緒にやりましょうよ!」
 
――おい沢井。俺に話って、監督就任のオファーじゃなかったのかよ!

作者のひとりごと
大谷さん、そろそろ仕事してください。

大犬空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。
そして実は、私の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすこと。この小説をきっかけに、空港や地域のことを少しでも知っていただけたら嬉しいです。

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