大犬空港物語(19)「取締役で夢を語れ」
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俺の名前は、大谷浩平。
たっぷり寝たので、頭がすっきりしている。
今日は、取締役会。
各席には資料とともに、お茶菓子として「摩当の栗林」を置いた。(season2 第4話参照)
この隠れた銘菓を俺が世に知らしめたい。
空港ビルの取締役は、県および周辺市町村の首長たち。
その中に――戸田市長の姿もある。
俺の夢に出てきて、白球を追いかけていたあの戸田くんだ。
真面目な顔で座っているスーツ姿の彼に、丸刈りのユニフォーム姿が重なって見えて、変な笑いがこみあげてくる。
だめだめ、こんな状況で笑っちゃいかんだろ。取締役会なんだぞ、俺。
笑ってしまわないように、資料の隅に小さく、怒った顔を書いた。
議題は、施設修繕や売店契約など、いつも通りの報告から始まった。
淡々と進む空気の中で、俺の鼓動だけが妙にうるさい。
「新規事業の提案」という文字が、自分の資料の一枚目に光って見える。
社長の声が響いた。
「それでは――次に、大谷取締役から。」
ついに来た。
深呼吸をひとつ。
俺はマイクの前に立ち、胸ポケットのペンを軽く握りしめた。
「わが社の新事業として、旅行業を始めます。」
出席者たちが一斉に顔を上げて俺を見た。
空調の音がやけに大きく聞こえる。
腹に力を込める。
声を、前へ。前へ。前へ。俺は続けた。
「なぜ旅行業なのか。
それは、空港の課題が“空を飛ぶこと”だけではなく、“空から降りたあと”にあるからです。」
出張、観光、帰省――。
どの旅にも共通して言えるのは、空港に着いてから目的地に着くまでの“二次アクセス”が、旅の印象を決めるということだ。
「でも、現状はどうでしょう。
バス会社やタクシー会社に新しい路線をつくれと言っても、
今の旅客数では確実に赤字。誰もやりたがりません。」
俺は会議室を見回しながら、ゆっくり言葉を重ねた。
「だから、わが社がやるんです。
旅行業として、タクシーやバス会社から仕入れ、
お客さまには“旅行商品”として販売する。
補助金制度を調べました。使えそうなものがいくつかあります。
ただし、申請できるのは“旅行業者”だけ。
ならば――わが社として旅行業に乗り出すしかない。」
戸田取締役が、資料を見ながらうなずいている。心強い。
首をかしげている数人は見なかったことにして、続ける。
「赤字は、補助金で埋めます。なりふりかまわず、がむしゃらに。
埋めきれない赤字については、
旅行業全体でトントンにできれば、それでいいと考えます。
“空港の利用者を増やす”ことこそ、わが社の使命なんです。」
社長がうなずいた。
出席者から声が上がる。
「――資格者はいるんですか」
「いまは、いません」
「だれか、資格者を採用するということですか」
「いえ―—私が試験を受けて資格者になります」
会場から笑いが起きる。
本気なんだが。
作者のひとりごと
いよいよ動き出した主人公。しかし、そんな主人公のもとに出向元の社長が・・・?次回、「第10話 出向元社長vs出向先社長 これってラスボス対決だよね?」は、11月6日(木)ひる12:00公開予定です!
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなった空港のファンクラブ会員を増やすことです。この小説を通して、少しでもこの地域や空港に親しみを感じていただけたら、うれしいです。
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