大犬空港物語(14)「幻のかりんとう」
▶最初から読む
俺の名前は、大谷浩平。
出向者会議で先輩や後輩から刺激を受け、頭の中には様々なミッションが渦巻いている。
早く大犬空港に戻りたい。戻って、ミッションを進めたい。あれも、これも、やりたいことがいっぱいだ。そう、俺は今、燃えている。めちゃくちゃ燃えている。
前任者にも会ってきた。
そこで俺は初めて「喜七(きしち)のかりんとう」に出会ったんだ。
兄犬空港(※同じ県にある、年間120万人が行き交う主要空港。俺たちの空港とは、便数も人の流れも桁が違う)に出向している先輩が、俺の前任者・白鳥さんに持ってきた土産。「喜七(きしち)のかりんとう」を受け取った白鳥さんはうれしそうだった。
「好物をありがとう。これ、ほんとに手に入らないからねぇ。」
ただの袋に入った、色気もなにもない茶色い菓子だった。
素朴すぎるルックス。うまいのか?これ。
う、うまい。
なにこれ。
程よく味付けされた蜜がしつこくないから、
やめられない、とまらない。まるでかっぱえびせん状態。
俺、 ちょっと興奮してきた。
「これ、兄犬空港で売ってるんですよね?大犬空港でも売れないんですかね?」
「なんでも、仕入がむずかしいらしいんだよ。人気はすごくあるんだけど。すぐに売り切れてしまうから、うちでも1人1袋限定にしてるんだ。」
「そうなんですか、むずかしいんですね……」と口では言いながら、心の中ではまったく違う声で叫んでいた。
「それ絶対売れるやつじゃん!俺が、俺が、俺が、交渉に行ったるぁ!俺が!俺がぁぁ!」
心の中で、意気揚々と立ち上がった。(実際立ち上がったかも)
現金払いのみ、直接来店のみ──。それが条件だと聞いた。
それなら短期間でもいいし、イベントの時だけでもいい。俺が直接買い付けに行く。
シフトが休みの日に、店舗に向かった。まずは関係を作るんだ。営業の基本だ。県は縦に長く、店舗兼菓子工場までは車で2時間以上かかる。往復5時間のドライブ。
平日だったせいか、店はやっておらず、工場をのぞいても誰にも会えなかった。ポストに名刺だけ入れて帰る。土日なら店をやっているだろうと再度出かけたが、ものすごい行列でとても交渉できる雰囲気ではなかった。
それでも俺はあきらめきれず、県内外の知り合いへ、昔の取引先へ、思いつく限りの相手へ、手当たり次第に電話をかけてコネを探した。
何度も電話をかけ、ようやく店主の喜七さんご本人に電話で話すことができた。とても感じのいい、やさしい感じのご老人だった。すぐに会ってくれるという。
喜び勇んで再び出向いたものの、俺は喜七さんには会えなかった。
急な体調不良だという。駐車場へ戻る道で俺は立ち止まり、ため息をついた。休み、無駄になっちゃったな。
“幻のかりんとう”は、幻のままだった。
兄犬空港にはできて、俺たち大犬空港にはできないことが、こんなところにもある。無力感。
出向者会議から4~5ヶ月が過ぎ、俺は「東北地区空港ビル合同会議」に出席することになった。開催事務局は各空港持ち回りで、今回は兄犬空港だ。
「竹野内さん、兄犬空港に持っていく手土産をお願いできるかな」
「はい、大谷取締役。わたくしが責任をもって、絶対に兄犬空港には売られていないお土産を手配します。お任せください。」
真剣に答えるから、笑ってしまった。そうだよね、兄犬空港の売店はすごいんだ。県内のお土産がなんでもあるって言っていいくらい、何でもそろってる。同じ県にいる者としては、いつも手土産のチョイスがむずかしいんだよね。
やがて竹野内さんが買ってきたのは『菓子舗 萬和井』の「摩当の栗林」という和菓子だった。1個300円もする。10個で3,000円。
「これは絶対に、兄犬空港の人でも知らないやつです。」
「いいね!」
「常温保存可能なので、手土産にピッタリです。」
「ますますいいね!」
「さらに、賞味期限が2か月先と、長めなのもポイントです。」
通販みたいになってきたぞ?
「で、味は?」
「わかりません。お店に10個しか売ってなくて、10個全部箱に詰めてもらいましたので」
「幻で上を行ったな!最高だ!」
作者のひとりごと
兄犬空港のみなさん、「摩当の栗林」お口に合いましたでしょうか?
ご感想、お待ちしております💦
大犬空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして実は、私の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすこと。この小説をきっかけに、空港や地域のことを少しでも知っていただけたら嬉しいです。
公式LINE友だち追加するだけで登録完了
👉 こちらからどうぞ
▶つづきを読む
