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大犬空港物語(20)「 出向元社長vs出向先社長 これってラスボス対決だよね?」

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俺の名前は、大谷浩平。
 
毎月8のつく日に空港に出勤すると、秋田犬たちに会える。
秋田犬たちは俺をおぼえて、うれしそうに笑顔を向けてくれる。
 
とくに俺、「るかちゃん」という犬の顔が好きなんだ。すごくかわいい顔をしている。
そしてるかちゃんも、俺のことを好きなんじゃないかって思うんだ。
もう尻尾を振るだけじゃないんだ。立ち上がって、飛びついてくるんだ。
 
るかちゃんはメスで、オス犬の「れんすい」は俺を無視するから、違う動物同士でも性別ってあるんじゃないかと思う。種を超えた愛・・・ってやつ?めばえている気がする。
 
ひとしきり秋田犬たちと遊んでから出勤し、ごきげんうるわしい気持ちでパソコンを立ち上げる。
 
メールをチェックすると、
信じられないようなメールが届いていた。
 
「竹野内さん、ちょっと聞いていいかな」
 
「はい、なんなりと」
 
「いままで、おれの出向元の社長がこの空港に来たこと、ある?」
 
竹野内さんは“なにを聞かれているんだろう”、という顔で数秒、俺の顔を見ていたが、やがて少し寂しげな表情に変わった。
 
「ないですね、少なくとも、私の記憶する限りは」
 
「来るんだって、社長」
 
「なにをしに来るんでしょう」
 
「わからないんだ。なにをしに来るんだろう。」
 
「大谷取締役がわからないのに、私がわかるわけないじゃないですか。
どうして私に聞いているんですか?」
 
うん、だって、俺、すごく動揺してるから。
すごくすごく動揺してるから。
 
「過去に、本社の人間が出向者に話を聞きに来たりしたことない?社長じゃなくても、だれか役員でも。」
 
「ないですね。出向されている方がそういう話をするのは、本社に行って人事部とかと面談してるんじゃないんですか?」
 
「・・・おれに、会いに来るのかな?」
 
「そうなんですか?」
 
「うあああああ、おれにあいにくるのかなぁぁぁぁ」
 
竹野内さんが困ったような顔で俺を見ている。
どうしよう、どうしたらいい?
 
俺の様子は、あきらかにいつもと違っていたはずだ。
だって、ほんとに動揺していたんだよ。なにしに来るんだ。落ちぶれた俺を見て笑いに来るのか?「本社に戻してください」って泣きつくのを期待しているのか?
 
竹野内さんがなにも言わないので、「ん?」と思って彼女を見ると、目を細めて舟をこいでいた。
 
「ちょ、ちょっとぉ!寝ないでくださいよ!」
 
「寝てません。ちょっと未来に行っていただけです。」
 
な、なんていうごまかし方。ありえない。
 
「竹野内さんって、占い師なんですか?」
 
「私は、占いは大嫌いです。スピリチュアルも、嫌いです。でも、占い師には向いていると思います。」
 
「で、未来は見えたんですか?」
 
「いえ、わかりませんでした。でも、大谷取締役が本社にとって大切な人材なんだということだと思います。少なくとも、過去、本社の社長がいらしたことはありませんでしたから。」
 
それから2週間、俺は、社長に会ったらなんて言おうか、ずっと考えていた。
 
俺の本心は「まだ、ここにいたい」だ。
いや、いなくちゃいけない。
旅行業の資格を取るって、取締役会で宣言したばかりだ。
るかちゃん(※秋田犬)との愛もはぐくみ続けたい。

ジムで、学生たちが「最近、このジムにやたら教えたがるおっさんが来るらしいぜ」って噂しているのを聞いた。「先輩が教わったことを試したらヒットを量産できるようになった」って。えへへ、そうだろ。俺の指導は!

・・・まだここにいたい。あの学生たちが甲子園でユニフォームを着ている姿を、地元の人と一緒に見たい。

道の駅で地元の農家さんと笑いあいたい。

まだここにいたい。50代でも「若い」って言ってもらえるこの町に。
 
だけど、ここに残るためには「残りたい」って言うべきなのか、「帰りたい」って言うべきなのか、わからない。「残りたい」って言ったら、意地悪されて海外に飛ばされるかも。いやだ。そんなの絶対にいやだ。
 
かくして、その日は訪れた。
 
俺はガチガチに緊張していた。出向先の社長も、出迎えに駆けつけてくれた。
 
「どうも初めまして。大谷取締役には大変お世話になっております。」
 
「こちらこそ、ウチの社員がご迷惑をおかけしていませんか?」
 
「とんでもない。大変な活躍で、非常にありがたいと思っています。定年まで置いていただきたいくらいです。」
 
「ほう、そうですか?それはそれは——」
 
笑顔で握手する二人の圧が、周りの空気をなぎ倒していく。
横で見ていた俺は、思わず背筋を伸ばした。
到着ロビーを通り過ぎる人々の流れがスローモーションに見える。
 
「いや、今日はね、秋田犬に会いに来たんですよ。わたし、『フランダースの犬』が大好きでしてね。この空港を『フランダースの犬』のように世界に発信できるんじゃないかと思って」
 
やあやあという感じで秋田犬とふれあい、地元の首長たちに笑顔で握手をして、あっというまに社長は帰って行った。
 
力が抜けた声で竹野内さんに報告する。
「社長は犬に会いに来ただけだったよ。」
 
竹野内さんは鼻穴を膨らませて言った。

「『フランダースの犬』って、本国では人気ないらしいですよ。」
  
俺の2週間を返して——。
 

作者のひとりごと
「ここにいたい」と思ってくださって、光栄です。どれだけの人が、「ここにいたい」と思える場所で暮らせているのかなぁと考えながら書きました。

大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなった空港のファンクラブ会員を増やすことです。この小説を通して、少しでもこの地域や空港に親しみを感じていただけたら、うれしいです。

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