大犬空港物語(12)「奥様たちのティータイム」
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俺の名前は、大谷浩平。
役員室にいると、社員が会話している声が聞こえてくることがある。
今は事務所に、女性社員しかいないようだ。
くつろいだ会話が聞こえてくる。
「うちのだんな、プレステ5を買ったんですよ」
「え~いいな!私もほしい。FF16、めっちゃやりたいんだよねー。もう抽選じゃなくても買えるんだっけ?」
「買えたんですけどね、それがね、アカウント登録にクレジットカード番号が必要だからって、ずーっと横に座らされて。つき合わされたんですよ。もぅ、自分のカードでやってよって!」
「うっ……わかる……わかりすぎる!うちも楽天もアマゾンも、ぜんぶ私の名前で買うんだよね。なんで自分のカード使わないんだろね」
「個人情報が漏れるとか言うんですよね」
「あー、それも一緒! 嫁の情報はダダ漏れでいいのかって話だよね。
しかも私のPCに変なおすすめ出てきて、ちょー迷惑!」
「わかるぅぅ!」
「わかりますぅぅ!」
わはははは!
ドア一枚向こうで盛大に盛り上がる彼女たち。
いいな、女性が元気な職場は。
これまで俺は、メンバーが女性ばかりのチームを指揮することが多かった。だから、女性スタッフの長所がよく分かる。この会社が少ない人員で運営できているのも、彼女たちが長く仕事を続けてくれているからなんだよな。
一晩中介護で眠れないまま仕事に来ることもあれば、子どもの病気で休むこともある。それでも仕事を続けてくれるから、経験が積みあがって、息の合うチームになる。
……楽しそうだな。俺も混ざりたい。
よし、女性に話しかけるんだから、身だしなみチェックは必須だ。木製ロッカーの扉の裏についている鏡で、自分の髪型と顔をチェックする。
(えふえふってなんですか?)ダメだな、「えふえふ」っていうときの「ふ」の顔が馬っぽくなってしまう。(えふえふ、えふえふ)
そのとき――
「ちわ~っす、佐川急便です! 大谷浩平さんにお届け物でーす」
一瞬で笑いが止まり、愛想の良い声が「は~い」と返す。
そして数秒後、さっきまで大笑いしていた彼女が箱を抱えて入ってきた。
「大谷取締役、お荷物です。奥様からのようです」
「……ありがとう」
気まずい。めちゃくちゃ気まずい。
ロッカーの裏の鏡で自分の顔を見ていたところを、見られてしまった。
中腰で小さな鏡をのぞき込んでる50代男性——恥ずかしい。
それに、この箱がワインだってことも、バレてるよね。
何本も入った重い箱で、めちゃくちゃ酒量が多い人だって、
単身赴任のアパートで一人で飲むのかしらって思われたよね。
そして――
通販の注文を、俺が妻にやってもらってることも……
ぜったい、バレてるよね。
彼女は表情ひとつ変えずに部屋を出ていった。
ドアが閉まる。
作者のひとりごと
FFは、ファイナルファンタジーですよ、大谷さん。
season2 第2話、お読みいただきありがとうございます。「スイッチ2」ではなく「プレステ5」×「FF16」というところに、細かい時代考証とこだわりがあるのですが、どうでもいいですよね、すみません。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなった空港のファンクラブ会員を増やすことです。
次回の舞台は、東京にある本社です。
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