大犬空港物語(13)「出向者会議で本社へ出向いた件」
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俺の名前は、大谷浩平。
出向者会議で本社に来ている。
新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に移行し、この会議も、数年ぶりにオンラインから現地開催となった。いよいよコロナが明ける。みんなの表情も明るい。
「お、大谷。元気か?たしかおまえ、いまオオイヌにいるんだよな?遊べなくてつまんないだろ。ざまあみろだな、ははは」
話しかけてきたのは、俺の元上司。あいかわらず口が悪いな。
この人には俺の娘が生まれたときベビーベッドを譲ってもらった恩があって、いまだに頭が上がらない。
「いやいや、楽しくやってますよ。人はいいし、食いものはうまいし。」
「なんだ、カミさんも一緒?」
「いえ、単身です」
「だろうな!ははは」
どういう意味だよ。
「あっ、大谷さん!!あいかわらずイケメンっすね。筋肉もぜんぜん衰えないっすねぇ」
今度は大阪にいた頃の後輩。ふつう本人にイケメンとか言うか?
おまえ、俺のことただのチャラ男だと思ってるだろ。
「どうすか、大犬空港は。1日3回しか飛行機来ないんじゃ、ひまでしょう?」
「いや、それがさ。けっこう忙しいんだよ。少ない人数で回してるから、なんでもやらないといけないんだ。俺、シフトに入って、土日も勤務あるし、早番やったり、遅番で閉館とかもやってるんだぜ。見回りして、電気消して、カギ閉めてって。」
「似合わねぇ!」
「だろ?」
「…それで日中はなにをやってるんですか?」
ひとしきり笑って話が終わったかと思ったら、まだ聞いてくる。
なんで?なにが聞きたいんだ?社交辞令じゃないの?
「ほんといろいろあるんだって。利用促進とかさ。イベントとかさ。社員の採用もあるし。それに中期経営計画や事業計画まで俺がやってんのよ。いちおう取締役だから。」
「大谷さんが経営計画って!ますます似合わねぇ~!」
俺たちが笑うと同時に、他のグループからも、どっと笑いが起きた。
たまたま和む瞬間が重なったのか、こちらの会話が聞こえていたのか。
わからないけれど、笑われても、妙に悪い気はしない。
「だろ?俺、営業しかやったことないってのにさ。この年になって頭フル回転だよ」
「そういえば、大犬空港って、秋田犬のお出迎えやってますよね。あれも大谷さんが?」
「いや、あれは俺が赴任する前からで…」
――こいつ意外に大犬空港のことをよく知っているな、と思った。
俺は出向を命じられるまで、小さな地方空港のことを気に留めたことがなかった。1日3回しか飛行機が来ない空港なんて、みんなボーっと生きてるんだろうと思っていた。
いまは、俺にだってわかる。
俺自身、後輩に説明した何倍もの業務があり、社員は俺よりもっと多くのことを担っている。
これは大犬空港に限らないことかもしれないけれど、空港ビルは建物を管理するのが本業だから、施設担当の責任は重い。電気や水道、空調や防災設備――。いつもきっちり施設を確認しているベテラン社員がいて、その几帳面で確かな仕事ぶりがあるから、俺たちは安心して企画に集中できるし、空港は一日を無事に回せる。
こういう人たちの努力がすべてを支えているんだ。
その存在こそ、空港の信頼そのものだ。
「あ、大谷、ちょっと」
再び元上司。
「おまえ、俺が弘前出身なの知ってるよな?オオイヌから弘前に直行する二次アクセスを作ってくれよ。帰省するたびにJRに乗り換えるのめんどうなんだ。」
「え?それ、わたしが作るんですか?」
「『わたしが作るんですか?』じぇねぇよ。そこは『わたしがやります』だろ。おまえがやるんだよ。」
そう言って彼はぐっと胸を張って見せた。
あ、あ、あ、あいかわらず強引だな、この人。
作者のひとりごと
心の中にある「こんなことできたらいいな」というアイディアの種。
実現できるかどうか以前に、「言葉にして誰かに伝えることができるか」というところにこそ、高いハードルがあると思うのです。
たった一言。
その一言が、主人公を動かしていきます。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなった空港のファンクラブ会員を増やすことです。
次回は、地元銘菓のお話です。
食べたくなってもらえるように、書けるでしょうか。
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