見出し画像

大犬空港物語(13)「出向者会議で本社へ出向いた件」

▶最初から読む

俺の名前は、大谷浩平。
 
出向者会議で本社に来ている。
新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に移行し、この会議も、数年ぶりにオンラインから現地開催となった。いよいよコロナが明ける。みんなの表情も明るい。
 
「お、大谷。元気か?たしかおまえ、いまオオイヌにいるんだよな?遊べなくてつまんないだろ。ざまあみろだな、ははは」
 
話しかけてきたのは、俺の元上司。あいかわらず口が悪いな。
この人には俺の娘が生まれたときベビーベッドを譲ってもらった恩があって、いまだに頭が上がらない。
 
「いやいや、楽しくやってますよ。人はいいし、食いものはうまいし。」
 
「なんだ、カミさんも一緒?」
 
「いえ、単身です」
 
「だろうな!ははは」
 
どういう意味だよ。
 
「あっ、大谷さん!!あいかわらずイケメンっすね。筋肉もぜんぜん衰えないっすねぇ」
 
今度は大阪にいた頃の後輩。ふつう本人にイケメンとか言うか?
おまえ、俺のことただのチャラ男だと思ってるだろ。
 
「どうすか、大犬空港は。1日3回しか飛行機来ないんじゃ、ひまでしょう?」
 
「いや、それがさ。けっこう忙しいんだよ。少ない人数で回してるから、なんでもやらないといけないんだ。俺、シフトに入って、土日も勤務あるし、早番やったり、遅番で閉館とかもやってるんだぜ。見回りして、電気消して、カギ閉めてって。」
 
「似合わねぇ!」
 
「だろ?」
 
「…それで日中はなにをやってるんですか?」
 
ひとしきり笑って話が終わったかと思ったら、まだ聞いてくる。
なんで?なにが聞きたいんだ?社交辞令じゃないの?
 
「ほんといろいろあるんだって。利用促進とかさ。イベントとかさ。社員の採用もあるし。それに中期経営計画や事業計画まで俺がやってんのよ。いちおう取締役だから。」
 
「大谷さんが経営計画って!ますます似合わねぇ~!」
 
俺たちが笑うと同時に、他のグループからも、どっと笑いが起きた。
たまたま和む瞬間が重なったのか、こちらの会話が聞こえていたのか。
わからないけれど、笑われても、妙に悪い気はしない。
 
「だろ?俺、営業しかやったことないってのにさ。この年になって頭フル回転だよ」
 
「そういえば、大犬空港って、秋田犬のお出迎えやってますよね。あれも大谷さんが?」
 
「いや、あれは俺が赴任する前からで…」
 
――こいつ意外に大犬空港のことをよく知っているな、と思った。
 
俺は出向を命じられるまで、小さな地方空港のことを気に留めたことがなかった。1日3回しか飛行機が来ない空港なんて、みんなボーっと生きてるんだろうと思っていた。
 
いまは、俺にだってわかる。
俺自身、後輩に説明した何倍もの業務があり、社員は俺よりもっと多くのことを担っている。
 
これは大犬空港に限らないことかもしれないけれど、空港ビルは建物を管理するのが本業だから、施設担当の責任は重い。電気や水道、空調や防災設備――。いつもきっちり施設を確認しているベテラン社員がいて、その几帳面で確かな仕事ぶりがあるから、俺たちは安心して企画に集中できるし、空港は一日を無事に回せる。
 
こういう人たちの努力がすべてを支えているんだ。
その存在こそ、空港の信頼そのものだ。

「あ、大谷、ちょっと」

再び元上司。

「おまえ、俺が弘前ひろさき出身なの知ってるよな?オオイヌから弘前ひろさきに直行する二次アクセスを作ってくれよ。帰省するたびにJRに乗り換えるのめんどうなんだ。」

「え?それ、わたしが作るんですか?」

「『わたしが作るんですか?』じぇねぇよ。そこは『わたしがやります』だろ。おまえがやるんだよ。」

そう言って彼はぐっと胸を張って見せた。
あ、あ、あ、あいかわらず強引だな、この人。

作者のひとりごと
心の中にある「こんなことできたらいいな」というアイディアの種。
実現できるかどうか以前に、「言葉にして誰かに伝えることができるか」というところにこそ、高いハードルがあると思うのです。

たった一言。
その一言が、主人公を動かしていきます。

大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなった空港のファンクラブ会員を増やすことです。

次回は、地元銘菓のお話です。
食べたくなってもらえるように、書けるでしょうか。

大館能代空港ファンクラブ会員募集中✈️   
公式LINE友だち追加するだけで登録完了
👉 こちらからどうぞ(無料です)

▶つづきを読む