大犬空港物語(29)「あきたいぬ空港長任命式」
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俺の名前は、大谷浩平。
あれから2週間、
関係者への根回しやマスコミへのプレスリリース、
挨拶原稿の作成、任命書の準備、空港長専用バンダナの制作
舞台設営、電源の確保、音響設備・・・
千本ノックのように降りかかる細かな準備作業を、
わが社の社員たちはひとつひとつ、粛々と積み上げていった。
予算ゼロで始まった、思いつきのような小さなイベント。
「るかちゃんと、れんすいくんをアンバサダーに任命すべきです」
CAが言いだした、わがままみたいな言葉を現実にするために、
誰が汗をかき、誰が傷つき、誰が面倒を引き受け、誰が整えたのか。
「いいね」と軽く口にした俺も、
その裏でどれだけの手間が積み重なっていくのか、
想像できていなかったのかもしれない。
そして迎えた「あきたいぬ空港長任命式」の日。
朝から雨が降っている。
あいにくの空模様。
風も強い。
「あきたいぬ空港長任命式」開会まで、あと3時間。
空港スタッフはそれぞれの持ち場で任命式の準備をしている。
俺と竹野内さん、CAの3人は、
事務所で最終の打ち合わせをしていた。
「このまま雨がやまなかったら、どうなるんですかね」と俺が言うと、
「どうしたらいいんですかねっ?」と、あかるい声でCAが答えた。
「犬たちは館内に入れないので、テントでやるしかないですね。
すでに控室としてテントは張ってありますので。雨のときはその中で」
と竹野内さん。
「空港長ですよ?今日くらい、中に入れちゃだめですか?」
冗談まじりに甘えてみる、俺。
「マスコミも来ますので、写真で証拠を残すわけにはいきませんよ、大谷、取締役。」
あんた責任者でしょ、と言われてしまったかんじ。
「そぅですかねぇ」
口をとがらせた俺の顔を見て、竹野内さんは「ぷっ」と吹き出して続けた。
「でも、たぶん、だいじょうぶですよ。わたし、晴れ女なので」
CAがネイルの整った右手を上げる。
「私も晴れ女です!きっと晴れますよ。」
バン!と、ドアがあいた。
「おはようございまーす!」
また、でかい声。
整備士の小島が、段ボール箱をかかえて入ってきた。
「子ども用の制服、ここに置いてっていいですかね?」
小島には、任命式に合わせたイベントとして、
「ちびっこ制服試着会」の準備をしてもらっていた。
集まった子どもたちに、
パイロット、キャビンアテンダント、グランドスタッフ、
整備士の制服を着て写真を撮ってもらうミニイベントだ。
「いやぁ、雨ふっちゃいましたね。
なんか、すいません。俺のせいかも、雨。
おれ、すっごい雨男なんですよ。まじで。」
小島にCAが言い返す。
「だいじょうぶですよ、わたし、晴れ女なんで。
私が参加するイベントで雨降ったことないですもん!」
「いやぁ、CAさんが晴れ女でも雨降っちゃうかもしんない。
俺が参加するイベントで晴れたことないんですよね、まじで。」
「その時間だけ、晴れますって。きっと」
「いやぁ、すでに雨ふってますからねぇ。
このまま雨なんじゃないかな」
……その会話、いま必要か?
そのとき、事務所のドアがゆっくりと開いた。
くすんだ緑色のジャンパーが、
のっそりと中に入ってくる。
ほとんど灰色に見える白髪の多い頭。
かすかにタバコの匂い。
見覚えのない男だった。
「事務所っていうのは、ここ?」
笑顔のまったくない声。
秋田の人ではないことは、言葉でわかった。
だれだろう。
なんとなく嫌な予感がした。
※この物語はフィクションです。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港です。東北の小さな空港をヒントにしていますが、登場人物は、その言動や心情を含め、すべてフィクションです。
この物語の著者の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすこと。この小説を通して、少しでもこの地域や空港に親しみを感じていただけたら、うれしいです。
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