大犬空港物語(4)「新天地にて」
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俺の名前は、大谷浩平。
今日からは、新しい俺。明るい茶色にしていた髪を黒く染め、黒縁メガネをかけた。かっちりとしたスーツで、あえて少しだけ猫背にしてみる。
事務所を通り抜け、役員室の、腰が沈むソファーに浅く腰かけた。
正面には大きな窓。滑走路周辺の芝地の緑が瑞々しい。ゴルフしたら気持ちよさそうだな。
視界を遮るものがなにもない。青い山並み。梅雨明けしたばかりの空。
前任者はすでに新たな転勤先へ旅立ち、俺の手元には白いUSBメモリだけが残されていた。
「あとのことは全部これに入れておいたから」
すでに東京へ戻った俺の前任者の声が、電話越しに甘く軽やかに届く。
職場のパソコンに、引継がれたUSBを差し込み、クリックしてみた。
「このデバイスは認識できません」
うそだろ。まじかよ。なんで?
事務員に聞いてみる。
「このUSB、開けないみたいなんだけど。壊れてるのかな。」
「それ、大谷取締役のために新しく買った新品のUSBなんで。壊れてるっていうか、データ、詰め込みすぎたんじゃないですかね。そういうこと、ありましたよ私も。」
……言えない。前任者には言えない。
あなたが全力で詰め込んだせいでUSBがパンパンで開けないですなんて、絶対に言えない。
軽く笑顔を作って、聞いてみる。さわやかに、さわやかに、七三分けだけどさわやかに。
「この中には、何が入っていたのかな?」
「わからないんですよね。すみません。」
俺の口から、白い煙のように魂が抜け出ていく。
相手は気の毒そうに目を伏せて、そっと俺にUSBを押し戻した。
——きみ、いまちょっと笑ったよね?
作者のひとりごと
第4話を読んでくださって、ありがとうございます。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすこと。小説の主人公と一緒に、北東北の空気を少しでも感じていただけたらうれしいです。
次回はいよいよ秋田犬との出会いがあります。
第5話も、どうぞよろしくお願いいたします。
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