大犬空港物語(17)「高校野球、ひぐらし、彼女——あの夏の夢を見た。」
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俺の名前は、大谷浩平。
夢を見た。
俺は大学4年生で、どこかの高校で教育実習をしている。
教壇に立ち、生徒たちと向き合う日々。放課後は野球部の練習にも顔を出す。
グラウンドに響く掛け声。白球を追いかける姿。汗と土の匂い。
その中心にいたのがキャプテンの戸田くんだった。
――のちに大犬空港周辺の某市長となる人物である。
しかも現役最年少市長として、全国に名を知られることになるのだが、
もちろん今の彼はそんなことは知らずにいる。
教育実習が終わった夏休み、教え子たちのいる球場へ応援に行った。
甲子園予選が始まっていた。ものすごく天気がよくて、暑い日だった。
スタンドで、一緒に教育実習をした女子大生に会った。
「よう」という感じで、隣に座った。
七回の裏、相手チームの打ったファウルボールが飛んできた。
俺が右によけたら、彼女も右によけて、結果、彼女の頭にファウルボールが当たった。
「なんでよけたんだよ。よけなかったら、当たらなかったのに」
俺が言うと、彼女は
「いたい。あしたはわたし、この世にいないかも」
と言った。
とてもひとりで帰すわけにいかない。俺の車で、彼女を家まで送っていった。彼女の家はとても遠くて、山の中の道を通る。
「カナカナカナカナ」「カナカナカナカナ」と鳴く声が聞こえた。
「これって、なんの音かな。知ってる?」と聞くと、
「わからない。子どもの頃から聞いていたけれど。なんだろうね、虫かな?」と彼女。
その夏が終わるころ、俺はその声が「ひぐらし」というセミの声だと知った。それを知ったら、どうしても彼女に教えたくなって、再び車で彼女の家まで行った。
庭で素振りをしていた少年が、俺に気づいてバットの先を地面についた。
彼女の弟か、小さいな。小学生くらいか。きみも野球をするんだね。
親しい気持ちになって思わず声をかけた。
「おねえさんは……いるかな?」
「いない」
少年はふたたび素振りを始める。
どんなに待っても、彼女には会えなかった。
「ひぐらしなんだって。あのとき聞いたあの声」
自分で直接、伝えたかったのに。
あきらめて車に戻ると、助手席に、子犬がすわっていた。
秋田犬の子犬だった。
子犬は俺の顔を見て「にゃあ」と鳴いた。
・・・にゃあ?猫・・・?
作者のひとりごと
三島由紀夫と村上春樹が好きです。小説の中で主人公が夢を見て、その夢がストーリーを動かしていくという構図がたまらなく好きなんです。夢占いでは「学生に戻る夢」は「今こそ自分自身と向き合うとき」だそうです。大谷浩平に「今こそ動き出せ!」というエールを込めて。
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