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映画シナリオ「最終章を先に描け!」(2/4)

(1/4からのつづきです。
昭和世代編集者韮澤、妄想しかできない上山、BL絵師えりりんは、9年休載中の『天空のファルコーン』の続きを勝手に創作して同人誌として売ろうとする。酒も飲まずに朝まで語り合い、禁断の「ジークを殺す」ことにした第1話は、ガチヲタ達の心をつかむのか?)

 


〇小さな会場(たとえば大田区産業プラザ)
 
   設営しながら気づく。
韮澤 「あれ? QTじゃん。なんでこんな
 小規模イベントに?」
   コスプレイヤーQT、ピコリス姫のコ
   スプレで数名のカメコを連れている。
   ×   ×   ×
QT「えりりん先生ー!」
   と、(衣装とメイクを落とした)QTが
   やって来る。
三人 「?」
   QT、さっきのポーズを取る。
えりりん「ピコリス姫! ひょっとしてQT
 さん?」
QT 「メイク落としたら分らないですよ
 ね?(笑) ごめんなさい撮影会長引いち
 ゃって。えりりん先生新刊出すって聞いた
 から、来ちゃいました!」
   千円出す。
えりりん「あ、……ありがとうございます」
QT 「(表紙を見て)ヤッバ! 原作神サイ
 トの神山さんじゃん! え、待って、えり
 りん先生とタッグ組んだの?」
韮澤 「その神山先生がこちらです」
QT 「えっ、ヤッバ!」
   上山、鼻の穴を膨らませる。
QT 「あの、この場で感想言いたいので、
 ビニール破いてもいいですか?」
えりりん「もちろん」
   QT、読み始める。
三人 「……(表情が気になる)」
QT 「ははは。バク転して土下座。受ける」
韮澤 「……(肘で上山をつつく)」
上山 「(笑う)」
QT 「えっ! ジーク様!!!」
   大声を出しすぎて、会場全員が振り向
   く。ごめんなさいと周囲に謝る。
QT 「(夢中で読む)う……ぐすっ……ぐす
 っ……待って……なにこれ……」
   パタンと読み終える。
QT 「……」
   涙目でページを戻り、色々確認する。
QT 「これ、公式本じゃないですよね?」
韮澤 「公式がいつまで経っても始めないの
 で、我々が始めました」
QT 「握手、してもらってもいいですか」
   韮澤が手を出すと、QTは上山とえり
   りんとだけ握手して韮澤はずっこける。
QT 「(胸に本を抱きしめて、周りの皆に)
 ねえ! みんな来てよ! 神サイトの神山
 先生とえりりん先生だよ! 『暗黒島編』、
 ここで始まっちゃってるよ!」
   皆、動きを止める。
   ×   ×   ×
   皆が思い思いの格好で、地べたに座っ
   たり立って読んだりしている。
韮澤 「二人とも、覚えておいてくれ。これ
 が漫画家が求めてやまない、最高の瞬間だ」
上山、えりりん「?」
韮澤 「無音。人が本当に夢中になっている
 時は、音が出ない」
上山、えりりん「……」
   皆、読み終える。
韮澤 「そして本当に面白い漫画に出会った
 時、人はどうする?」
   皆、ページをぺらぺらと戻って、また
   読む。
皆  「はあ……」
   と一斉にため息をつく。
韮澤 「そして必ず聞かれる言葉を、一生覚
 えておくんだ」
QT 「続きは、いつ読めるんですか?」
上山、えりりん「……」
   鼻の穴が大きくなる。
   三人、ハイタッチしようとするが、タ
   イミングが合わない。
韮澤 「へたくそか!」
 
〇会場の外
 
   ひゃっほうと走り出す3人。
   机の上の「完売!」のメモ書き。
 
〇仕事場
 
   三人ともスマホでエゴサ。
   (後ろの白壁にSNSの文字が投影さ
   れ、声で読まれる方式)
SNS『「最終章・暗黒島編」始めてる人がい
 るんですけど!(表紙画像添付)』
SNS『ヤバイぐらいオモロイ』
SNS『ずっずっとずっと……待ってたんだ
 よオオオオ!』
SNS『ニセモノだろ?』
SNS『そんなん言うたら二次創作は全部ニ
 セモノやんけ』
QT 『私は泣きました』
SNS『そうだよあの現場の奇跡の空気知ら
 ねえのかよ』
SNS『マジQT本人降臨?』
SNS『じゃあ……面白いのか?』
SNS『面白いのか……?』
SNS『バク転土下座大草原wwwwwwwww』
SNS『俺は……あの……ネタバレについて
 語りたく……』
SNS『どこで読めんの?』
   韮澤、入力。
韮澤 『次回の東京文具共和会館で、第二話
 出します』
   ガンガン「いいね」がついてゆく。
   ×   ×   ×
えりりん「あー! 男女の抱き合い方が分ん
 ないー!」
   男女のように抱き合う上山と韮澤。
韮澤 「BLでこんなのさんざん描いたろ」
えりりん「(スケッチしながら)私男同士専門
 なんで! 女の恋愛とかよく分んないん
 で! 韮澤×上山フー! てぇてぇー!」
二人 「……(お互い目をそらす)」
 
〇様々な、同人誌即売会場
 
   東京文具共和会館(浅草橋)。
   第二話の500冊に、人々が集まる。
   ジークのコスプレばかりで、皆腕に喪
   章をつけている。
   ×   ×   ×
   たとえばサンシャインシティ文化会館。
   第三話が1000冊。第一話、二話も
   増刷、飛ぶように売れる。
SNS『#バク転土下座チャレンジ』
   多数の動画が投稿されている。
   ×   ×   ×
   たとえば平和島東京流通センター。
   第四話は5000冊。もう大ブーム。
   「バク転土下座チャレンジ会場」と題
   したエアマットがあり、コスプレイヤ
   ーたちがバク転土下座をやっては失敗。
 
〇仕事場
 
上山 「……じゃあブル姐と太一が、七王の
 三のアルマジロと戦えばいいって事です
 か」
韮澤 「そうはいってねえだろ」
上山 「そうとしか思えないですよ! 何の
 為に! 七王の六、ムカデのリーフェンと
 矛盾するでしょ!」
   壁の膨大な付箋をさす。
韮澤 「じゃあゼロを殺すしかなくなるだろ」
上山、えりりん「ゼロはだめです!」
韮澤 「……そうだよな。だめだ、煮詰まっ
 て来たな。甘いもんでも買ってくるわ」
   外へ出る。
上山 「……」
   腕を組んで貼り紙の前で考える。
えりりん「作画担当がストーリーに口は出さ
 ないと決めてたけど、ゼロはだめですよう。
 ゼロまで死んだら」
上山 「うん。ジークの思いが無になる」
えりりん「……(悲しい顔をする)」
上山 「……あ」
えりりん「?」
上山 「俺たちヲタクはさ、人生でつらい目
 にあうことが多いから、口角が下がり気味
 がデフォなことが多いんだよ。気を付けた
 ほうがいい」
えりりん「?」
上山 「俺、仕事が営業なので。先輩に指摘
 されるまで、世の中に不満を持ってるよう
 な顔してることに気づいてなかったんだ」
   自分で口角をあげて見本を見せる。
えりりん「(表情だけで口角を上げてみる)」
上山 「これくらい」
   ほっぺたに指をあてて、引き上げる。
えりりん「!!!(固まる)」
   ガチャリと扉が開き、寺嶋(48)が
   入って来る。
寺嶋 「アシスタントの寺嶋です。ニラさん
 に言われてきました。背景とメカ専門です」
上山 「背景! 助かる! ベタ塗りするの
 つらくて!」
   上山、えりりんから慌てて離れる。
   寺嶋のスケッチブック。
   おぞましい悪役メカ。
上山 「うっま!」
寺嶋 「オメガマシン2。ギガント戦の前哨
 戦にどうでしょう」
上山 「やべえよ! 何これ! ね!」
   振り返ると。
えりりん「……(まだ固まっている)」
寺嶋 「あの、えりりん先生ですか」
えりりん「? あ、はい、えりりんです」
寺嶋 「よろしくお願いします。自分アナロ
 グなんで、あとでスキャナ持ってきます」
えりりん「……あ、はい。……はい」
 
〇仕事場、夜
 
   寺嶋、アナログのペンと雲形定規、ス
   ポンジなどを駆使して背景を描いてゆ
   く。めちゃくちゃ上手い。トーン削り
   もカッターで。
韮澤 「テラさんはプロアシの中でも、最高
 の腕と俺が見込んだ男だ。つまり神アシ」
寺嶋 「でも人物は下手でね。だから作家じ
 ゃ無理ってニラさんが」
   スケッチブックの下手な人物画。
上山 「あー……まあ……はい……」
韮澤 「その代わりバイクとか戦闘機とかヤ
 べえのよ」
   次ページのメカが激ウマい。
上山 「すっげ!」
韮澤 「人ってのは凸凹がある。それをパズ
 ルのようにチームに組むのも編集の腕よ」
えりりん「……」
   上山を恋する乙女の目で見ている。
 
〇二週間後、仕事場
 
   男三人が作業していると、ガチャリと
   ドアが開き、すらりとした50キロ級
   のヤセ型美女が入って来る。
美女 「おはようございますう!」
三人 「???」
   美女はえりりんの席につき、慣れた手
   つきで椅子の高さを変え、iPadや機器
   類の立ち上げをする。
三人 「???」
美女 「やだー! 深町えりですよー! え
 りりんです! 二週間の作画休みの間に、
 ちょっとダイエット頑張ったんで!」
韮澤 「いや、別人じゃないか」
上山 「中の人変わったろ」
   以下えり表記。えり、絵を描く。
えり 「これで信用できます?」
   『上山×韮澤てぇてぇフー!』とセリ
   フの書かれた二人のBL絵。
三人 「えりりんだ……」
   にこりと笑うえり。
   ×   ×   ×
   ベランダで煙草を吸う上山。ちらりと
   えりを見る。
   絵を描くえりはそれに気づいて、口角
   を上げた笑顔。
   緊張しながら、会釈する上山。
韮澤 「なんか……美人がいるとソワソワす
 るな」
寺嶋 「着ぐるみの中に、囚われの姫がいた
 とは」
韮澤 「マトリョーシカかよ」
 
〇夜、スナック「敦子」
 
敦子 「そんなの恋に決まってんじゃん!」
韮澤 「やっぱそうだよな。二週間休んだと
 思ったら急に浜辺美波みたいになって、パ
 フェも一滴も食べないんだぜ?」
敦子 「へえ。その子的にはよかったんじゃ
 ない? で、またここ来れるの?」
韮澤 「あー、同人誌って儲かるんだよ」
敦子 「そりゃまた良かったことで」
   棚の本家『天空のファルコーン』の横
   に、韮澤版同人誌4冊が。
韮澤 「あれ」
敦子 「ああ、うちの若い子が、面白いって」
韮澤 「ありがてえ」
敦子 「サイン書いてよ」
韮澤 「バカ、編集者は裏方だ。俺のサイン
 じゃ価値ねえよ」
敦子 「あなたが始めた物語なんだから、あ
 なたがフロントマンでしょ」
韮澤 「……ふん(照れる)」
 
〇夜、仕事場
 
   帰り支度をした上山。
   それを見てえりも上着を着る。
えり 「あ、一緒に帰りましょ、上山さん」
上山 「えっ?」
えり 「あっ。あの、打合せしたいことがあ
 るんで。スペクターのローゼンクロイツ」
   二人出てゆく。
寺嶋 「……俺さ、上山がえりりんの頬触っ
 てるところ、見ちゃったんだよ」
韮澤 「は?」
寺嶋 「初めてここ来た時」
韮澤 「そん時から付き合ってたの?」
寺嶋 「いや、全然まだな感じだろ。ニラさ
 ん、案外そういうの鈍いタイプ?」
韮澤 「なんだと?」
寺嶋 「だから女房に逃げられたか」
韮澤 「……アンタは」
寺嶋 「誰か紹介してよ。14歳くらいがい
 いんだけど」
韮澤 「相変わらず歪んでんな」
 
〇夜、踏切
 
   踏切が開くまで待つ上山、えり。
   えり、上山のメガネを外す。
えり 「ヤバイ! 予想通り、メガネ取った
 らイケメン!」
上山 「ちょっとやめてよ。見えないよ」
えり 「じゃあチャンス」
   えり、キスをする。
   びっくりして固まる上山。
   踏切上がって周囲の人は渡るが、二人
   は動かない。
えり 「私デブでモテなくて、だからヲタク
 になって、現実の恋愛とか興味なくて。…
 …でも今なら分る。少女漫画の気持ちが」
上山 「……」
   メガネを返すえり。ぺこりと一礼して
   走って去ってゆく。
 
〇仕事場
 
   表紙のカラー絵。
   全部ピンクで塗ってある。
韮澤 「なんで全部ピンク色なんだよ」
えり 「全部ピンクじゃないですよう。ピン
 クって200色あるの。ね? 上山さん」
上山 「えっ」
韮澤 「……まあ、変化球としてはヨシとす
 るか。見たことないパターンだしな」
 
〇同人誌即売会(たとえば東京流通センター)
 
   そのバラ色の表紙が次々に売れてゆく。
   最後尾行列を仕切っていた韮澤、何事
   かに気づいて、荷物を片付けはじめる。
   寺嶋もすばやく手伝う。
上山 「?」
韮澤 「(耳打ち)お前ら、いつもの表情のま
 ま聞け。目線も俺に合わせるな」
上山、えり「?」
韮澤 「上山から。北階段の方をゆっくり見
 て視線を戻せ。背広の男、二人」
   そこにいる山根(28)と渡辺(50)。
韮澤 「次はえりりん」
えり 「誰なんです? あの人たち」
韮澤 「精鋭社の、山根と渡辺」
二人 「?」
韮澤 「本物の『天空のファルコーン』の編
 集者だ」
上山 「えっ」
えり 「ヤバいじゃん!」
韮澤 「一、二、三で南側にダッシュな」
   金庫を持つえり。鞄を持つ寺嶋。
韮澤 「一二の三!」
   四人、ダッシュ。
韮澤 「(客に)すいません! 急用につき、
 今日の販売はここまで! 次の〇〇で売り
 ます!」
   山根と渡辺、気づく。追いかけてくる。
韮澤 「そこどいて!」
   会場内チェイス。
   四人がぶつかってコスプレの人が転ん
   だり、机をひっくり返して本がぶちま
   けられたりの大騒動。
   廊下でもチェイス。
   エレベーターに乗る四人。山根と渡辺
   の目の前で閉まる。
   階段で追う二人。次の階でエレベータ
   ーを降りた四人は非常階段へ。
寺嶋 「こっから駐車場いけるぞ!」
 
〇会場の外、駐車場
 
韮澤 「タクシー!」
   たまたまいたタクシーに乗り込む四人。
   タクシー発車。
山根 「タクシーもう一台来ます!」
渡辺 「よし!」
   もう一台に乗り込む二人。
山根 「前の車を追ってください! ……あ、
 ヤバくないですか?」
渡辺 「何が?」
山根 「人生で初めて漫画みたいなセリフ言
 っちゃいました!」
渡辺 「お前、ちょっと黙ってろ!」
 
〇チェイス
 
〇交差点で止まったままのタクシー
 
山根 「(左右を見て)見失った……」
 
〇会場の外、駐車場
 
   回想。
韮澤 「車に乗るふりしてやぶに隠れろ! 
 運転手さん、5万円上げるから、好きな所
 に飛ばして!」
   空のタクシー、発車。それを見た山根、
   渡辺は追いかけていく。
   回想終わり。
   やぶから出てくる四人。
上山 「ニラさん、悪知恵だけは働きますね」
韮澤 「だろ?」
 
〇仕事場に戻ってきた四人
 
SNS『#天ファル5話、突如販売中止』
SNS『なんで?』
SNS『私買えなかったんだけど』
SNS『なんか二人組の男から逃げてた』
SNS『ヤクザ?』
SNS『少年「チャンプ」の編集者らしい』
SNS『公式に見つかっちゃった!?』
SNS『どうすんの? 発表中止?』
SNS『つづきは!』
SNS『第5話再販祈願、バク転土下座会場
 はこちらです』
   みんなバク転土下座にチャレンジ。
えり 「どうしよう……。私たち、中止させ
 られるかな」
上山 「なんでだよ。だったらあの膨大な二
 次創作、全部禁止だろ」
韮澤 「厳密には著作権違反だからな。出版
 社も原作者も盛り上がるなら、と黙認して
 るのが現実だからさ」
上山 「そもそも引き伸ばしのチャンプ商法
 が悪いんだ」
韮澤 「……俺が始めた物語だ。悪知恵働か
 せるから、待ってろ」
 
〇同人誌即売会(たとえばビッグサイト)
 
渡辺 「なんだこりゃ!」
   売り子が全員ジークのコスプレ。
山根 「ナベさん、全員ジークですよ!」
渡辺 「見りゃ分るわ! 葉っぱを隠すなら
 森の中……!」
山根 「あの絵!」
   第5話のピンク表紙がサークルポスタ
   ーとして貼ってある。
渡辺 「アイツか!」
   走る二人。
渡辺 「ん?」
   あちこちにそのポスターが貼ってある。
渡辺 「クッソ!」
   きょろきょろして走り回る二人。
   を、二階から見ている韮澤、上山、え
   りりん、寺嶋、QT(全員ジークコス
   プレ)。
韮澤 「ふっふっふ。コスプレの達人、QT
 さまのおかげよ」
QT 「ジーク様の衣装なら、何着つくって
 も楽しいです」
韮澤 「よし、散るぞ。森の中に潜め」
上山 「ウス」
えり 「ダーリンのジークコスプレかっこい
 い!……」
   ×   ×   ×
山根 「あ! あれじゃないですか?」
   売る本に紛れて韮澤版のピンク表紙。
   売り子の所へ。
渡辺 「お前らが海賊版を描いてる奴らだ
 な!」
売り子「えっ。……うちらは委託されただけ
 なんで」
渡辺 「くっそ……雲隠れか。一部下さい」
売り子「合言葉は」
渡辺 「えっ?」
売り子「予約サイトの、合い言葉を」
渡辺 「えっ、あっ……風はすぐ吹く」
山根 「なんでガンダムなんですか!」
売り子「お次の方ー」
   目の前で買われていくのを悔しがる山
   根、渡辺。
 
〇後日、仕事場
 
SNS『なんか天ファルのやつら調子に乗っ
 てね? 暗号販売とか』
SNS『ある程度デカくなってきてからの自
 衛はしょうがないだろ』
SNS『二次創作なんて所詮ニセモノだろ。
ニセモノらしいやり方だ』
SNS『そもそもジークを殺す意味あった?』
SNS『才能ない奴ほど登場人物殺したがる
 よな』
   スマホから離れない上山。
韮澤 「エゴサもいい加減にしろ。毒だぞ」
上山 「だって……気になるじゃないですか」
韮澤 「プロは暗闇にマシンガンを撃って、
 当てなきゃならんのだぞ」
上山 「俺……プロじゃねえし」
韮澤 「まあ、そうだけどさ」
 
〇ベランダ、夜
 
   煙草を吸う上山。ついスマホを開く。
 
〇別の日、仕事場
 
   ネームを読み終えた韮澤。
韮澤 「どうした? こんだけ待たせてこ
 れ?」
上山 「……もう分んないス。プロの凄さ分
 りました。毎回毎回、どんどん面白くなる
 なんて、もう無理っスよ」
韮澤 「……没」
上山 「……」
 
〇次の朝、仕事場
 
   真っ白なままの原稿を前に頭をぐしゃ
   ぐしゃにする上山。
上山 「無理! もうニラさん来ちゃう! 
 発狂する! 無理!」
寺嶋 「それを、スランプという」
上山 「テラさん、どうやって抜けるんスか」
寺嶋 「それが分らなかったから、俺はアシ
 スタントに留まった」
上山 「……」
寺嶋 「そういう時はな、逃げるんだ」
上山 「えっ」
寺嶋 「『探さないで下さい』って置き手紙し
 て、『3日後に戻ります』ってな」
上山 「そんなベタな!」
寺嶋 「熱海の温泉にでも浸かって休むこと
 だ」
えり 「(テンション上がる)温泉!」
   ×   ×   ×
   韮澤が差し入れをもって入ってくる。
韮澤 「あれ? 二人は?」
寺嶋 「(置き手紙をさす)」
韮澤 「ハア? 行先は?」
寺嶋 「今日来たらこうなってて」
韮澤 「ちょこざいな! そこだけプロ漫画
 家みたいなことを……!」
寺嶋 「まあ3日くらい待ちましょうよ。週
 刊じゃないしさ」
韮澤 「……」
 
〇電車の中
 
   でもスマホを見ている上山。
   それを奪うえり。
えり 「休むって決めたでしょ。熱海、近い
 のに行ったことないから超楽しみ!」
上山 「……」
えり 「二人っきりの初旅行」
   肩を寄せる。鼻を膨らませる上山。
 
〇夜、露天風呂、女湯
 
えり 「……」
 
〇夜、露天風呂、男湯
 
上山 「……」
 
〇夜、並べられた布団
 
   えり、三つ指をつく。
えり 「私デブのモテナイ女だったので、こ
 の年まで処女でした。頑張りますのでよろ
 しくお願いします」
上山 「……あの、じつは、申し訳ないけど、
 俺も童貞なんです」
えり 「えっ」
上山 「陰キャだったんで」
えり 「いや、私の方が陰キャで」
上山 「いやいや俺の方が陰キャで」
えり 「いやいやいや私の方が」
   二人、笑う。
二人 「(同時に)対戦よろしくお願いします」
   同時過ぎて、笑う。
 
〇朝、同じ布団で目覚める二人
 
えり 「……世界が平和になるといいのに」
上山 「……俺もそう思う」
   上山、えりの髪を撫でる。
えり 「ねえ、昔の話して?」
上山 「話したじゃん」
えり 「もっと」
上山 「『初日の出』の習字のやつを一夜にし
 て全部『初目の出』に書き換えた」
えり 「極悪人!」
上山 「あと、手術用の手袋に砂詰めて、砂
 場からめっちゃ手が出てきたみたいにし
 た。16個」
   コロコロと笑うえり。
えり 「もっと」
上山 「もうないよ。いたずらしてたのは中
 学までだよ」
えり 「高校の時は?」
上山 「ずっと窓の外見てた」
えり 「何が見えたの?」
上山 「ゼロソード・グラビティとか、ブル
 ーフィスト・スパイラルとか」
えり 「その時間が、神サイトを産んだの
 ね。そして今の私たちも」
   上山の髪を撫でて。
えり 「もっとして?」
上山 「もうないよ」
えり 「お話じゃなくて。(キスして)もっ
 として?」
上山 「(鼻を膨らませる)」
 
〇朝風呂の混浴に二人で入る
 
上山 「思いついた!」
 
〇仕事場
 
   ネームを読み終えた韮澤、寺嶋。
韮澤 「なんで熱海に行くんだよ」
上山 「いや、休息がたまには必要でしょ」
寺嶋 「いや、暗黒島に熱海はねえだろ」
上山 「あるんですよ! A―TAMI!」
韮澤 「じゃあいっそ漢字の熱海でいいよ」
えり 「きゅ、休息が必要なんですよ!」
韮澤 「?」
えり 「ジークの死という悲しみにずっとい
 ることも出来ない。一行は前に行かなけれ
 ば。漫画を描くのにも休息はいるでしょ?
 人生だってそう。暗黒の七王とストームを
 倒す前の、休息は必要でしょ」
寺嶋 「あー、たまに挟まるコメディ回か」
韮澤 「なるほど。シリアスにやって来たか
 らこそのコメディ回……あるな」
上山 「世の中には理想郷がある。シャング
 リラ、エルサレム、ユートピア、そしてA
 ―TAMI」
えり 「あ、お土産あります!」
   バナナワニ園のクッキー。
韮澤 「お前らが熱海行って来たんじゃねえ
 か!」
 
〇同人誌即売会(たとえば東京流通センター)
 
   表紙は一行が温泉に浸かっている所。
   バカ売れ。SNSが重なる。
SNS『大草原WWWWWWWWWWWWWW』
SNS『A・T・A・M・I!』
SNS『A・T・A・M・I!』
   踊り動画が投稿されてゆく。
 
〇夜、川崎倉庫街の会場、荷物場
 
   に忍び込んだ、全身黒タイツの山根と
   渡辺。
山根 「ナベさん、なんかこれ、コナンの犯
 人っぽくないですか?」
渡辺 「犯人なんだからこれでいいだろ」
山根 「犯人じゃないですよ。ちょっと脅す
 だけでしょ?」
   目の前にうずたかく積まれる同人誌た
   ち。その中のひときわ大きな山に、『暗
   黒島編7話』。
   天井のスプリンクラーを見て。
渡辺 「スプリンクラーでびちょぬれ。火責
 めというより水責めよ」
   マッチを擦って置き、ずらかる二人。
 
〇テレビニュース
 
キャスター「川崎市倉庫会館が全焼しました」
 
〇精鋭社編集部
 
   のテレビで見てコーヒーを噴き出す山
   根と渡辺。
キャスター「なお建物は元倉庫のため老朽化
 が激しく、経費節減のためスプリンクラー
 には電源が入っていませんでした」
渡辺 「ハアアアア?」
オーナーのインタビュー「いやー、ちょうど
 建て直し検討しててー。解体費用も浮きま
 したよー! ハハハハ!」
キャスター「怪我人はない模様です。なお防
 犯カメラには怪しい影が映っていました」
   カメラの映像に黒ずくめの二人。
 
〇仕事場
 
SNS『犯人WWWW』
SNS『犯人のコスプレWWWW』
SNS『物 理 炎 上』
SNS『人気に火が付く!(物理)』
   次回予約の通知がバンバン入る。
韮澤 「やべえ……次は5000冊でも足り
 ねえぞ!」
SNS『トレンド1位 #天ファル』
   大炎上にSNSが重なる。
 
〇東京ビッグサイト、コミケ(夏コミ)会場
 
看板 『物理炎上&A―TAMIで話題! 
 天空のファルコーン暗黒島編第7話!』
   猛烈な行列。
   柱の陰で歯ぎしりしながら見ている山
   根と渡辺。
   と、黒ずくめにサングラスの男が。
男  「あれ?」
   と指さす。
山根 「はい。あいつらです」
男  「そう」
   人だかりの中に進む男。
韮澤 「最後尾はこちら……あっ」
   思わず後ずさる韮澤。
   人々、男の正体を分り、モーゼの十戒
   のように道を開ける。
   男はそのまま売り場へ。
男  「一部下さい。合言葉は、ブモー・バ
 モー・ジャハール、ヤンス、ノリス」
えり 「……せ、1000円です」
男  「チャンプなら300円なのになァ」
   同人誌とお釣りを受け取り、サングラ
   スを外して会釈。
男(ミツルギ・50)「『天空のファルコーン』
 作者の、ミツルギ剣です」
上山 「……存じてます」
ミツルギ「君が描いたの?」
上山 「僕が原作、彼女が作画」
   震えるえり。手を握る上山。
ミツルギ「へえ。付き合ってるんだ。きみら」
上山 「……はい」
ミツルギ「全部読んでるよ。おもしろい」
えり 「えっ。あ、ありがとうございます」
ミツルギ「君たちに感謝する、って直接言い
 たかったんだ。ありがとうって」
上山 「?」
ミツルギ「おかげさまで、始める覚悟が出来
 たので」
上山 「えっ」
えり 「……再開するんですか!」
   その大声にみんな驚く。
   去ってゆくミツルギ。振り向いて。
ミツルギ「来週のチャンプ、楽しみにしてて。
 ……俺の方がおもしろいから」
全員 「……」
 


(3/4につづきます。
ついに動き出した真の原作者=神=ミツルギ。海賊版・韮澤たちの運命は?!)
https://note.com/oooka_/n/nd02112b8ff49


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