映画シナリオ「最終章を先に描け!」(1/4)
映画シナリオ、コメディ、118分
タイトル
最終章を先に描け!
(海外配給用: Official vs. Fan-Made: Deadheat to the finale)
キャッチコピー
俺たちが終わらせる。勝手に。
(海外配給用: Without permission, we create that pending story's ending.)
スペック
マンションの一室、コミケ、喫茶店など限られた場所で撮れる低予算向き。マニアックコメディでありながら熱くなれる物語。
『オーシャンズ11』×『キサラギ』
ログライン
ヲタク達が作品愛のあまり、まるで怪盗団のように続きを描きはじめる。その熱に当てられた本家が本当の再開。勝負の行方は。
国民的人気漫画だが、実に9年も休載中の「天空のファルコーン」。所属する出版社が潰れた編集者が、「二次創作で勝手につづきを描けば??」と思いつき、オタク達を集めてコミケで爆発的にヒット。
それを原作者が知り、連載再開? 二つの「天空のファルコーン」がはじまった。
【登場人物表】
韮澤 猛(にらさわ たけし 50)
流星出版のウルサイ編集者。
上山 亮(かみやま りょう 30)
「神考察サイト」の主。ストーリー
担当。
えりりん(深町(ふかまち)えり 31)
神絵師。腐女子で100キロの巨漢。
えり 50キロに痩せたえりりん(別役者)。
寺嶋(てらしま 48)
メカ、背景専門のベテランアシ。
山根(28) 精鋭社の編集。韮澤を追う。
渡辺(40) 精鋭社の編集。韮澤を追う。
QT(28) 有名コスプレイヤー。
戸田(29) 韮澤の後輩編集者。
サラリーマン1(40) 漫画ファン。
サラリーマン2(40) 漫画ファン。
犬塚編集長(60) 精鋭社「少年チャンプ」
の編集長。
敦子(48) 韮澤の元妻。
ミツルギ剣(みつるぎ けん 50)
国民的漫画『天空のファルコーン』
の作者。しかし9年休載中。
〇流星出版編集部、師走
韮澤(50)「うぃース」
と、扉を開けて編集部に入って来る。
韮澤 「は?」
小さな編集部はもぬけの空。
机も椅子も何もない。
韮澤の机だけがぽつんと残る。
壁に残された、漫画雑誌『月刊バズー
カ』の古いポスター。
隅のほうで、段ボールに本を詰めてい
た戸田(29)。
戸田 「あ、ニラさんおはよッス」
韮澤 「戸田。え、何これ」
戸田 「ああ、ウチ潰れたじゃないですか?」
韮澤 「え。……ええええ?」
戸田 「あ、知らなかったんすか?」
韮澤 「倒産ってこと?」
戸田 「夜逃げです」
戸田、編集長の机をさす。
机上に「す」「ま」「ぬ」の3枚の紙。
韮澤 「たった3文字で済ませんなよ! し
かも打ち文字かよ! 出版の人間なら辞世
の句を筆で書くくらいやれよ!」
戸田 「『月刊バズーカ』は廃刊、そして来月
の給料は振り込まれません」
韮澤 「え、じゃあ作家さん達どうすんの」
戸田 「? ああ、幸い引く手はあったので、
作家さんも編集も散り散りになって、よそ
の雑誌で続けられることになりましたよ」
韮澤 「そうか、良かった(ほっと胸を撫で
おろす)……ていうか、お前は」
戸田 「僕は精鋭社に移ります」
韮澤 「は? なんでそんな一流どころ行け
んの?」
戸田 「若いの同士、結構横のつながりある
んで。ひょっとしたら少年『チャンプ』編
集部に入れるかもです」
韮澤 「なにそれ」
戸田 「……ニラさん、もしかして誰からも
誘われなかったんですか?」
韮澤 「?」
戸田 「あー、ニラさん嫌われてたからなあ」
韮澤 「え、そうなの?」
戸田 「だってニラさんすぐ『つまらない』
って言うじゃないですか」
韮澤 「当たり前だろ。編集は第一の読者と
して正直に作家に向き合うべきだろ。面白
い、つまらない、はっきりと真剣勝負で、
人生とは切った張ったで……」
戸田 「それが昭和みたいで古いんですよ。
Z世代はちょっと否定されただけで即『終
わったー!』なんです。この時代、ほめる
所を探して、なあなあに無難に……」
韮澤 「だから潰れたんだろうが!」
戸田 「だから誰からも、声がかからなかっ
たんじゃないですか?」
韮澤 「……」
誰もいない古臭い編集部。
月間『バズーカ』のポスター、ぺらり
と床に落ちる。
〇夜、スナック「敦子」
カウンターからつまみを出すママの敦
子(48)。
韮澤 「という訳で、ここにもしばらく来れ
なくなると思う」
敦子 「別れた妻の店に義理堅く通う方が、
どうかしてるわよ」
韮澤 「でも定期的に通わないとここ潰れる
じゃん」
敦子 「……そんなこと考えてたんだ。間に
合ってますわよ、多少は」
酒の棚に並ぶ、古びた漫画『天空のフ
ァルコーン』(最新30巻まで)。
韮澤 「なんで『天ファル』があんの?」
敦子 「あー、ウチの若い子が漫画好きでね、
完結したときに改めて全巻買うわ、って」
一巻は黄ばんでボロボロ。
韮澤 「スナックで漫画ねえ」
敦子 「オジサンが大体食いつく(笑)」
韮澤 「ふん」
背表紙には「精鋭社」とある。
韮澤 「戸田のやつめ、うまいこと潜り込み
やがって」
敦子、空いたグラスを下げてもう一杯
出す。
韮澤 「俺そんなに嫌われてるって……知ら
なくてさ」
敦子、テーブル席の女の子たちを見て。
敦子 「若い子見てると分るけど、ちょっと
褒めるとひょいひょい動いてくれるわよ?
割り切った操縦術みたいなものよ」
韮澤 「そんなもんかね」
敦子 「若い子をもっと良く見て。殴り合っ
て名作をつくる時代は終わった。それくら
いイケメンのアンタなら分るでしょ」
韮澤 「……あ、まあな」
敦子 「(してやったりと指さす)」
韮澤 「……これか」
敦子 「……これ」
〇まっぴるま、韮澤の部屋
狭い四畳半。漫画だらけの部屋。
寝転がる韮澤。
腹が鳴る。
韮澤 「……」
〇コンビニ
韮澤 「ありがとうございましたー」
と店員姿で客を見送る。
漫画棚をうろうろして、雑誌の乱れを
整える韮澤。
サラリーマン(40)の二人が店に入
って来て、少年『チャンプ』を手に取
る。
サラリーマン1「えっ。『天ファル』の再開、
中止?」
サラリーマン2「知らなかったのかよ」
サラリーマン1「楽しみにしてたこの一週間
を返せよ!」
サラリーマン2「もう9年待ったんだ。もう
ちょっと待っても一緒だろ」
サラリーマン1「9年じゃねえよ、30年だ
よ! 子供のころからずっと待ってんだよ、
太一が無事アルファ村に帰れる瞬間を
よ!」
サラリーマン2「『ベルセルク』は作者が先に
死んだ。『ガラスの仮面』は読者が先に死ん
でる」
サラリーマン1「俺は生きるぞ、完結まで」
韮澤 「……」
二人、店を出ながら。
サラリーマン2「アニメの3期、原作が足り
ねえからまた1話からやるってよ」
サラリーマン1「ループ世界かよ!」
〇公園
ベンチで制服姿のままコンビニ弁当を
食べる韮澤。
遊ぶ子供たち。
『チャンプ』を読むおじさん。
『天ファル』アニメコラボコーヒー。
韮澤 「あれ?」
にわかに空が暗くなる。
立ち上がる韮澤。雷が走る。
韮澤 「俺たちが続きを始めちまえばよいの
では?」
〇オープニング
精鋭社の巨大ビル。
週刊少年『チャンプ』。
表紙は『天空のファルコーン』第一話。
NA 「日本一売れてる雑誌、少年『チャン
プ』! その看板漫画で日本一売れた漫画
『天空のファルコーン』!」
精鋭社の地面にコミックス1巻が並ん
で出現していく(コマ撮りのように)。
それはどんどん列をなしてつながって
ゆき、渋谷、中国、紛争中のロシア、
パリ、アフリカの地面に、次々とコミ
ックが2巻、3巻と並んでいく。
地球。コミックスが一周。さらにもう
一周。
NA 「累計5億部、地球2周分売れた化け
物漫画だ! だがこの漫画には一つだけ
欠点があった。休載である!」
グラフ。最初は10回に1回「休」が
入るが、徐々に「休」が増え、何年も
休み、後半は何年も「休」のまま。
NA 「最終章『暗黒島編』を前に、実に9
年も休載したままなのだ!」
SNS『ミツルギ仕事しろ』
SNS『続きはよ』
SNS『まだ終わってないんだっけ?』
SNS『1ページでいいから見せてください』
SNS『来週手術なんで1話だけでも読みた
い』
コミックス最新刊(30巻)が韮澤の
足元に並び、ちょうど韮澤の手前で終
わっている。
風に吹かれるコミックスたち。
韮澤、最新刊を手に取る。
〇タイトル『最終章を先に描け!』
〇東京ビッグサイト、コミケ(冬コミ)会場
コミケの大規模さに戸惑う韮澤。
右も左も新鮮な光景だ。
「新刊」「パロ」「A×B」「リバ特集」
「NTR有」などの文字が踊り、コス
プレ売り子たちに戸惑う。
スマホで写真を撮ろうとすると、スタ
ッフに声をかけられる。
スタッフ「撮影可能エリアは向こうとなって
おります」
韮澤 「ああ、すまん、こういう所初めてで
な」
そのエリアには、コスプレをしたQT
(28)が、多数のカメコに囲まれる。
韮澤 「コスプレイヤーのQTじゃん!」
思わずスマホで撮ろうとしてスタッフ
ににらまれる。
「天ファルはこちら」の看板を見つけ、
その方向を見て驚く。
端から端まで全部天ファルサークルだ。
その中にひときわ行列が。
その机のポスターを見て驚く韮澤。
韮澤 「原作完コピじゃん! スゲエ!」
スタッフ「神絵師えりりんの最後尾は、こち
らですー!」
その主、えりりん(31)は、100
キロの巨漢の女性。
女性ファンと握手していて、ファンた
ちはきゃあきゃあ言っている。
韮澤、思わず最後尾に並ぶ。
〇同、休憩エリア
買った本のビニールを破り、中を読む。
韮澤 「なんじゃこりゃ!」
内容はハードなBL。金髪の美少年ヴ
ァン・ジークフリートと黒髪の褐色男
子ゼロソードがキスしたりセックスを。
アワアワしながら最後まで読む。
……が、突然プロの目に戻る。
韮澤 「オチが甘いな」
もう一度、最初から読む。
韮澤 「……」
立ち上がる。
〇同、付属カフェ
えりりんはパフェ7杯を並べ、もりも
り食べている。
えりりん「ここのパフェ大好物なんですよお
ー!」
韮澤 「さすがに多すぎなのでは」
えりりん「これでも遠慮してる方ですよう」
気分が悪くなってくる韮澤。
えりりん「……で、つまり私が『暗黒島編』
を描くってことでいいです?」
韮澤 「その通りだ。誰もが続きを待ってい
る。だがミツルギ先生は仕事してくれない
んで、だから俺たちがやるんだ。同人誌即
売会はビッグサイトか平和島か川崎か、毎
月どこかしらでやってるだろ」
えりりん「なるほど、月刊ペースでと」
韮澤 「えりりん先生が一番原作の絵そのま
まだった。線は艶めかしく思いきりがいい。
構図もテンポもまるで原作!」
えりりん「あ、ありがとうございます」
韮澤 「ただ……あの……えっとどういえば
いいか……ストーリーが……盛り上がりに
欠けるというか、オチがというか……」
えりりん「……」
韮澤 「あ、……あの、えっと……」
えりりん「(泣き出す)ハッキリ言ってくださ
い! 私ストーリーが苦手でえー」
韮澤 「ご、ごめんなさい、言い過ぎた」
えりりん「いえ、本当のことなんです。それ
が悩みでえーああああああー」
ハンカチで涙を拭き、豪快に鼻をかむ。
韮澤 「げ、原作者を見つけて、二人一組で
やる手もある。俺も考えるし、原作者はツ
テもある。死ぬほど面白い漫画をつくっ
て、一緒に儲けましょう!」
えりりん「私はBLだけやれればいいんです。
ジーク様とゼロきゅんのイチャコラを眺め
るだけで満足なんですよう。ぶっちゃけそ
れで生活できてますし」
韮澤 「あー、年収……400万くらい?」
えりりん「(首を振る)」
韮澤 「(指を5、6、7……10と出す)」
えりりん「(うなづく)」
韮澤 「やっぱすげえな、二次創作界隈」
えりりん「あの……『神サイト』はご存じで
す?」
〇夜、韮澤の部屋
スマホでそのサイトを眺める韮澤。
韮澤 「これか」
画面 『神山リョウの天ファル考察サイト』
× × ×
回想、カフェ。
えりりん「『神山リョウの天ファル考察サイ
ト』、通称『神サイト』。天ファルの展開予
想や考察サイトは星の数ほどありますけど、
ここがダントツです。オメガマシン編の展
開を当てて、一躍有名になりました」
韮澤 「?」
えりりん「ライラックの魔女の、死と復活」
韮澤 「あー、あれ! びっくりしたよなあ。
え、あの神展開を当てたの?」
えりりん「(うなづく)サンダーボルト編の雷
銀座。七本目の剣。ゴッドシープ編の竜一
族。全部当ててます」
韮澤 「マジか。神がかってる」
えりりん「だから神サイト」
× × ×
「『最終章暗黒島編』予想」を見て、
起き上がる韮澤。
プロの目になる。夢中になっていく。
× × ×
えりりん「この人が書く天ファルのストーリ
ーなら、私描いてみたい」
韮澤 「えっ」
えりりん「ファンなんで! Xもフォローし
てるんですようー!」
× × ×
WIKI 『なお神山氏の本名、年齢、職業など
は非公表』
韮澤 「編集部のリサーチ力、舐めんなよ」
〇ある医院1~5
机に出される医療機器のパンフレット。
セールスマン上山(30)が、医師に
営業中。
上山 「このTR5000と3000を組み
合わせれば、今までにない強力な診断が可
能になりまして……」
医師1「あのさ。説明が抽象的すぎて、よく
わかんないんですけど」
上山 「……はあ」
切り返したら、相手の医師と医院が
次々に変わっていく。以下同じ。
医師2「君はこれをつくったエンジニア並み
の知識がないし」
医師3「これを使う医師の現場も知らない」
医師4「それで両者の仲立ちになっていると
いえるのかな?」
上山 「は、……はあ」
医師5 「じゃあ君、なんのためにいるの?
パンフ配り係? 中抜き係?」
上山 「(作り笑顔で)……勉強になります」
〇公園
ブランコを漕ぐ上山。
〇医療メーカーシロヤマのオフィス、営業部
こそこそと帰社する上山。
OL1、2が話している。
OL1「結局天ファル休載だってー」
OL2「知ってる知ってる。ジーク様にまた
会えないのかー」
OL1「見た? 『神サイト』」
急にシュバッと動きが速くなり、物陰
に隠れる上山。
OL2「展開予想?」
OL1「そうそう、暗黒七王の設定が神!」
そこへ颯爽と名乗り出る上山。
上山 「実はその神サイトの神とは俺なの
さ!」
OL1「嘘!」
OL2「素敵! 抱いて!」
だがそれは妄想で、観葉植物に隠れる
しかできないのが現実だ。
そこにオラオラ系の営業部隊が帰って
くる。自信満々で指3本、5本を出す。
OL2「お帰りなさい! え、3億5千万?
きゃー!」
OL1「焼肉おごってー!」
営業 「ガハハハハハ! 役立たずの上山の
代わりに、やってやったよ!」
上山、居場所がなく隠れたまま。
〇夜、上山のアパートの前
韮澤が仁王立ちで待っている。
上山 「?」
韮澤 「韮澤猛と申します。漫画編集者です。
上山亮さんと見た」
上山 「……違います」
脇をすり抜けアパートに入ろうと。
韮澤 「『天ファル神サイト』の神、で合って
ますか?」
シュバッと高速で振り向き、鼻の穴が
大きくなる上山。
上山 「いえ……いや、本人かも知れないし、
違うかも知れないですが……な、何の御用
ですか?」
韮澤 「あなたに最終章・暗黒島編の原作を
書いて頂きたい。絵師はえりりん先生を抑
えた」
上山 「え。俺、えりりんのXフォローして
るけど」
韮澤 「じゃあ両思いだな!」
韮澤、ジャンピング土下座。
韮澤 「この通りだ! この韮澤と、チーム
を組んでくれないか!」
上山 「え、それ8巻のギルモア兄妹のジャ
ンピング土下座?」
韮澤 「そうだ! この通り!」
上山 「……ジャンピング土下座じゃ足りね
えな。バク転しながら土下座したら、話聞
いてやってもいいけど」
韮澤 「……男に二言はねえな!」
〇夜、公園の砂場
韮澤 「とうっ!」
とバク転しながら土下座しようとする
韮澤。しかし失敗。何度も何度もやっ
ては失敗。
上山 「いや……もういいですよ……勢いで
言ったけど、俺が書くなんて無理っすよ。
ホラ、仕事あるし」
韮澤、もう一度やるがまた転ぶ。
思わず手を貸す上山。
韮澤 「仕事しながらでいい! だから月一
ペースだ! 仕事部屋は用意する。一流ア
シにも声をかけた!」
上山 「なんでそんなに必死なんですか。公
式を気長に待てばいいじゃないですか」
韮澤 「……卒業させたいんだ」
上山 「……?」
韮澤 「昔の漫画って、大体3年で終わって
たんだよ。あれだけ人気だった『キャッツ
アイ』ですら4年だ。中学や高校は3年だ
ろ。学校卒業したら漫画は大体終わってた
んだよ。みんな漫画から卒業して、部活や
ったり恋愛したりバイトしてたんだ。とこ
ろが今の漫画と来たら、いつまでもいつま
でも引き延ばしやって! 太一がアルフ
ァ村を旅立って何年たった? 七本の剣
の結末は! ライラックの魔女や黒騎士
の正体! いつまで引っ張るんだよ!
ヲタクたちは、卒業すべきなんだよ! 子
供時代をさっさと卒業して、人生をするべ
きなんだ!」
上山 「……引き伸ばし商法が酷いのは同意
します」
韮澤 「アンタが一番『天空のファルコーン』
を分ってる、神」
シュバッと高速で反応する上山。
上山 「神」
韮澤 「そう。上山先生は、今最も神に近い
男」
上山の鼻の穴が大きくなる。
韮澤 「暗黒島編展開予想を読ませて頂いた。
傑作だ。俺はそれを世に出したいんだ。絵
はえりりん先生、俺は編集。そしてストー
リーには、最も才能のある人が必要だ」
上山 「才能……!」
再びバク転しようとする韮澤。それを
止める上山。鼻の穴が大きい。
上山 「大丈夫です。あなたの思いはたしか
に伝わりました」
上山、手を出す。握手する韮澤。
〇秘密基地のようなマンションの前
引っ越しの荷物が運びこまれる。
テーブル、椅子、布にくるまれた謎の
オブジェ。
〇同、部屋(以下仕事場と表記)~夜~朝
その布を取ると、岩に刺さった剣のオ
ブジェだ。
上山 「ヤベエ!」
えりりん「実物大の魔剣ファルコーン!」
韮澤 「コミケで買った。20万」
上山 「たっか!」
えりりん「このクオリティなら安いですよ!」
上山 「(剣をもって)抜けねえ」
韮澤 「抜けたら伝承者・太一だろうが!
さてこれだ!」
どん、と積まれる天ファル原作本30
巻3セット。
韮澤 「まずは一気読みをするぞ!」
上山 「? 全部暗記してますよ」
えりりん「全カット目つぶっても描けます」
韮澤 「どんな些細なことも見逃さないため
だ。俺たちはこの続きを描くんだぞ?」
上山、えりりん「……」
まだ机と床と剣しかない部屋で、それ
ぞれの読み方で読む。韮澤は寝転がっ
て。えりりんは号泣したり胸キュンし
たり。上山は背筋を立てて。
夕方になり、夜になる。
× × ×
韮澤 「よし、今から自分の好きな場面を順
番に言おうぜ」
えりりん「そんなの100はあるでしょ」
上山 「俺は200」
韮澤 「ふん。500はあるだろ」
びっしりと付箋が貼ってある。
韮澤 「じゃあ俺から行くぞ? 『笑わせる
な、下がれ』だな」
上山 「黒騎士か。18巻32ページ」
韮澤 「流石!」
上山 「俺のベストはやっぱゼロソード・グ
ラビティだな。5巻の、空間を曲げてナル
ティッソスの剣を避けた所が至高」
韮澤 「ヴン、ヴン、ヴン(右、左、右)」
えりりん「しかも逆手持ちだと左右逆になる
のよ。ヴン、ヴン、ヴン(左、右、左)」
上山 「6巻122ページ!」
韮澤 「えりりん先生は」
えりりん「そんなのジーク様がゼロきゅんを
抱き止めた、3巻に決まってんじゃん!
何度夢に出たことか!」
× × ×
韮澤 「『この橋を渡るか、永遠に眠るか』!」
上山 「眠りの国編22巻。ブルーフィスト
おおお!」
韮澤 「スパイラル!(ねじる)」
えりりん「『お前のぬくもりは……伝わるよ』」
上山、韮澤「ブル姐! ブル姐!」
韮澤 「ブモー・バモー・ジャハール」
上山、えりりん「ブモー・バモー・ジャハー
ル!」
えりりん「ヤンス!」
韮澤 「ノリス!」
上山 「『アンチ・マジック・アロウが貫けな
いものがただ一つだけある。アタイの心
さ!』」
韮澤、えりりん「ブル姐! ブル姐!」
× × ×
すっかり朝になっている。
巨大剣の前に転がるカップ麺たち。
韮澤 「この夜を忘れないでおこう。俺たち
は酒も飲まず一晩じゅう語り明かした、天
ファルのガチヲタだ」
えりりん「……ふふふ」
上山 「……ははは。はははは」
韮澤 「終わらせるんだ。太一の旅は、無事
終わらなければならない」
〇後日、仕事場
資料棚には本がびっちり。
机の上はデジタル機器満載。
えりりんは新キャラの暗黒七王のデザ
インをしている。
韮澤は壁にメモを沢山貼って、ストー
リーの可能性を探っている。
上山はそれを貼り替えて見せる。
別のを貼り替える韮澤。また貼り替え
る上山。激しい議論。
× × ×
スケッチを見せるえりりん。
上山 「いいね。暗黒の七王にふさわしい」
韮澤 「黒いコブラ、アルマジロ、ワニ、カ
ラス、シーラカンス、黒ヒョウ、ライオン」
えりりん「です」
韮澤 「ムカデとか入らない?」
えりりん「キモ!」
韮澤 「だから悪役になるんじゃん」
えりりん「……たしかに。ぞぞぞだけど、や
ってみます」
上山 「ニラさん」
韮澤 「?」
上山 「実は神サイトにも載せてない、とっ
ておきのアイデアがあるんだけど」
韮澤 「それは」
上山 「第一話で、いきなりジークフリート
を殺す」
韮澤 「は?」
えりりん「ジーク様が? ……嘘でしょ」
上山 「マジだ。ジークは死ぬ」
えりりん「嫌よ。嫌よ嫌よ。なんでよう!
太陽の子ジーク様がいなくなったら、世界
から太陽が消えるわよう! ジーク様が死
んだら、私も手首を切って死ぬ!」
上山 「今の二人のリアクションがすべてで
す。それが読者の衝撃ってこと」
韮澤 「……」
上山は壁に貼られた無数のストーリー
のメモの迷路を見る。
上山 「ジークがいたら、どうやってもこの
先の謎は解けなくなる。だけどジークがい
なかったら」
上山は線を引き、別のメモを貼り付け、
移動させる。
韮澤 「……これなら、最終回まで整合性が
保たれる。凄い。凄いぞこれ」
えりりん「そんな。ゼロきゅんはどうするの?
一人で世界に残されるの?」
上山 「仲間がいるだろ。太一や、スペクタ
ーやピコリス姫やブル姐が。世界を救うに
は、このルートしかないんだ」
韮澤 「これはジークの物語じゃない。太一
の物語だ。1巻でジークは何て言った?」
えりりん「『得る為には、失わなければならな
い』……ああジーク様ジーク様!」
韮澤 「しかし、できるのか?」
えりりん「半端だったら、私描かないわよ」
〇後日、仕事場
韮澤、えりりん「うわああああああ」
鉛筆書きのネームを読んで号泣。
韮澤 「えりりん……絵、描けるかこれ……
すごいぞ……マジですごいぞこれ……」
えりりん「……死ぬ気でやります……あああ、
ジーク様ああああ」
韮澤 「お疲れ上山先生。後は作画で勝負」
上山 「俺は残りますよ」
韮澤 「?」
上山 「よくあるじゃないですか。原作者や
編集者がベタ塗りさせられるやつ。アレ、
俺もやってみたいんす」
えりりん「え……あの……(アップルペンを
見せて)デジタルなので」
上山 「えっ」
韮澤 「今からクリスタ覚えればいいじゃ
ん! よし、とりあえず飯買って来る!」
えりりん「私パフェ15杯!」
韮澤、上山「???」
〇夜、仕事場
猛烈に描くえりりん、ベタを塗る上山。
キッチンで焼きそばをつくる韮澤。
大皿から三人で取り合う。えりりんが
パフェをかけて、二人ドン引き。
〇後日、仕事場
200冊の同人誌。
『天空のファルコーン 最終章第1話
「ゴールデンドーンは輝かない」
原作神山リョウ 絵師えりりん』
煽り帯『暗黒島編、開始!!!!』
三人 「……(感無量)」
〇同人誌即売会場へ続く道、十字路
左の道から、えりりんがポスターや金
庫を抱えてやって来る。
右の道から、上山が同人誌100冊抱
えてやって来る。
真ん中の道から韮澤が100冊。
十字路で三人は合流。会場へ!
(2/4につづきます。
完成した最終章第1話。次回、ヲタク達に販売されて大騒動……!)
https://note.com/oooka_/n/n115cfb936556
