見出し画像

ショートドラマ集シナリオ「劇団黒バック」(2/5)

 すぐれた役者は、そこに何もなくても、ありありと光景を浮かばせることが出来るという。
 この実験ドラマは、「黒バックと二人の男」限定のショートドラマ集である。ミニマルな【演劇】を、カット割りや照明や音だけは【映画】形式で撮る。そうすると、そこに「それ」が浮かぶ……。

 劇団黒バックは、あなたの想像力と共犯する。
 BLACK-BOX THEATER: jacks your imgination.


劇団黒バック 第二回「待った」

脚本 大岡俊彦

#1幻
 「待った?」と待ち合わせに来た男。しかしその相手は見えていない。架空の存在を恋人に思っている……?

#2百万光年の旅
 百万光年のかなたへ向かう宇宙船。冷凍睡眠で眠っている間につくはずだった。しかし、途中で起きてしまう……

#3盲目の恋
 事故で視力を失ったカメラマン。生きる気力がないと思いきや、夢に現れる美女に恋をしたという。彼の親友にその女を探してくれないかと頼む。見えない男の夢の中の美女を、どうやって探すのか。

登場人物


●タイトル『待った #1幻』

○待ち合わせ場所

   B、時計を見ながら人を待っている。
   なかなか来ない。
   A、走って現れる。
A  「待った?」
   Bの横に、架空の女がいる想定で、話
   し始める。
A  「ゴメンゴメン。超急いで来たんだけ
 どさ、電車でなんと痴漢が捕まってさ!
 俺、目の前で『この人です!』って言うの
 初めて見たよ!それで電車が遅れて…。
 怒ってる? あ、今日の服、似合ってるね!
 水色やっぱ合うよ。髪もちょっと色抜いた
 っしょ。その方がいいよ。うん。春だしね。
 そうだよ、春だよ」
B  「…(不思議そうに、ちらちら見る)」
A  「(続けて)映画までまだ時間あるから、
 お茶でもする? あ、メガネあるよね?
 じゃあ後ろの席でもいっか。でも俺前の方
 の席が迫力があって好きなんだけどなあ
 …」
B  「…(さらにじっと見る)」
A  「(気づいて)…何?」
B  「…」
A  「何だよ。ケンカ売ってんの?」
B  「いや。そうじゃなくて。…あの、誰
 と話してるんですか?」
A  「…は?」
B  「誰と、話してるんですか?」
A  「彼女に決まってるじゃん。(彼女に)
 いや、この人なんかオカシイよ。行こう」
B  「僕には、その人が見えないんですけ
 ど」
A  「は?」
B  「あなたが何もない空間に向かって話
 してるように見えるんですが」
A  「…ちょっと、何言ってんの? いる
 でしょ! ここに、俺の彼女が! ちょっ
 と引っ込み思案で、でも結構カワイイ、マ
 イハニーが!」
B  「(首を振る)」
A  「彼女に失礼だろ! 結構気にしてる
 んだぞ、地味だってこと。だから髪の色も
 抜いたし、明るい水色の服着たり、彼女な
 りに努力してんのに」
B  「…いや。見えないです」
A  「明るい水色のスカートが似合ってて、
 ショートカットが本田翼みたいで。(彼女
 に)あ、そのポーチ買ったの? 似合って
 る。(Bに)この白いポーチとかも?」
B  「はい」
A  「…おかしいな」
B  「おかしいのはそっちでしょう。あな
 たは、見えない幽霊と付き合ってるんです
 か?」
A  「変なこと言うなよ」
B  「…彼女とは、どこで出会ったんです
 か?」
A  「は?」
B  「彼女と」
A  「…ああ。合コンだよ。会社の面子で
 開いた。そこで知り合ったときに、彼女、
 映画とか本とか好きで、それで盛り上がっ
 て、音楽の趣味もマンガの趣味も合ってさ。
 彼女、こっそりマンガ描いてるんだって。
 でも見せてくれねえんだよ。下手だからっ
 ていまだに」
B  「それで」
A  「俺が黒髪ロングが好きだって言って
 んのに、『似合うと思って』って急に茶髪の
 ショートにしてきやがんの。でもそれで似
 合ってんだよ。このかわいい髪も見えない
 って?」
B  「はい。出会って、どうなったんです
 か?」
A  「温泉も行った。海も行った。俺ら、
 ドライブ好きでさ。函館行ったときも車借
 りて、雪景色の中走ったりしたんだ。山の
 展望台までドライブして、百万ドルの夜景
 見て、『キレイ』『でもお前のほうがキレイ
 だぜ』なんてベタなことやったり…」
B  「で」
A  「…でも彼女、病気だったんだ。でも
 重たいやつじゃない。子宮筋腫。今どき、
 四人に一人はかかる可能性があるんだって。
 それ知らなくて、俺一人が右往左往して、
 えー子宮取っちゃうのってビビッてうろた
 えて、でも全部取るわけじゃないって聞い
 て、安心して、良かったー赤ちゃん産める
 んだーって、え、俺の赤ちゃん? なんて
 言ったりして。…(彼女に)ゴメン、こん
 なこと他人に言って」
B  「…ちょっと、彼女さんが見えてきま
 した」
A  「ホントか?」
B  「なんだろう。事情みたいなのが見え
 てきたからかな」
A  「…な、いるだろ?」
B  「いる! いるかも!」
A  「な?」
B  「…(目をこする)…やっぱりいない
 気がする」
A  「いない…」
B  「ホラ!」
   と、手刀で「彼女」の空間を切る。
B  「ホラホラホラ!」
   さらに三回切る。
B  「今の、あなたにどう見えたんです
 か?」
A  「巧みに、こう、よけたように見えた」
   腰を引いたり、しゃがんだり、尻を出
   したり、不自然なポーズ。
B  「そんなバカな。じゃこれは!」
   どうやってもよけられないように、何
   度も切る。
A  「こう、見え、た」
   伏せたり、開脚跳びでよけたり、バク
   転したりの、派手なアクションで全部
   よける。
A  「…(息切れ)…」
B  「…」
A  「…やっぱり…俺の妄想なんだな?」
B  「…合コンっていつの合コンですか?」
A  「…それが覚えていないんだ」
B  「温泉ってどこの温泉? 海ってどこ
 の海?」
A  「温泉につかったよ。海は真っ青でキ
 レイだった」
B  「どこの温泉と海?」
A  「…(思い出せない)」
B  「函館はドライブで登ったって言いま
 したよね? 冬季の道路は閉鎖してる筈で
 すよ」
A  「…やっぱり…俺の妄想なのか…」
B  「…」
A  「薄々感づいてはいたんだよ。俺に彼
 女なんて出来る訳ないって。こんなダメで
 モテない俺が自分とピッタリな、ちょっと
 地味だけどモデル並のステキな彼女が出来
 るなんてさ。上手い話だと思ったよ。そう
 さ。俺は会社でも落ちこぼれて、上司から
 も取引先からも嫌われてるダメなやつさ。
 モテないし、友達もいない。社会的落伍者
 で、おまけにエア彼女もちって、もう病気
 じゃねえか」
B  「…病気でもなんでもいいんですよ。
 あなたの心がそれで安定していて、社会生
 活を全うできてれば」
A  「俺の日常生活があまりにも辛くて、
 これは俺自身が作り出した『幻』だと。俺
 は『幻』に癒されてるって」
B  「…そうやって、自分自身を守ってる
 のかも知れません」
A  「…」
B  「…」
A  「(彼女に向かって)何? 何で別れた
 いなんて言うんだよ?」
   必死に彼女に懇願する。
A  「なんで?俺の何が悪かったんだ
 よ! お前はここにいるよ! 映画の時間
 が来ちゃうよ! …なんで? なんでそう
 いうこと言うの?」
B  「…彼女は、なんて」
A  「俺の人生がもうすぐうまく行くから
 って。私の役割は終わったからって言うん
 だ。そんな! 俺を一人にしないでくれ
 よ! ねえ、どこいくの! なんか幽霊み
 たいに消えてかないでよ! ねえ! お前
 が必要なんだよ俺!」
   A、その場にへたりこんでしまう。
A  「…」
   Aのケータイに着信。
A  「ハイ。…え? 入選? …俺の作品
 が? ハイ、ありがとうございます。ハイ、
 また連絡します!」
B  「?」
A  「俺が彼女と描いたマンガが入選した
 んだって! これで俺の人生が開けてく
 る! 会社も辞めてやるぜ! ありがと
 う! この瞬間にたまたま居合わせてくれ
 た、偶然のあなた! 幸せを分けてあげよ
 う! ありがとう! じゃ、早速みんなに
 連絡しなきゃ!」
   はげしくBに握手を求め、友人に電話
   しながらAは去ってゆく。
B「…」
   一人残されたB、最初と同じように人
   を待つ。
   「架空の女」がやって来た。
B「ううん。待ってない待ってない。…
 今日のその服、似合ってるね」

   暗転。

●タイトル『待った #2百万光年の旅』

○宇宙船、内

   船内服の二人。
A  「さあ、いよいよこの宇宙船は亜光速
 に入り、アルファベータ星への百万光年の
 旅が始まる」
B  「ワクワクするな」
A  「ああ」
B  「でも不安だ」
A  「そりゃそうだ。我々人類はそんな遠
 くまで行ったことがない。光速で行っても
 百万年かかる距離への冒険だからな」
B  「帰ったら、二百万年たっているわけ
 か」
A  「そうだな」
B  「向こうの滞在期間は一か月だろうけ
 どさ、百万年行って、百万年戻って、二百
 万年か」
A  「しょうがない。他の星系探索隊の奴
 らも似たようなもんさ。人類はこうやって
 発展していくんだ。これでもハイパードラ
 イブ発明前は、光速より何倍もかかったん
 だぜ?ハイパードライブ様々じゃない
 か」
B  「それでも片道百万年かあ」
A  「百万光年だからな。(後ろのカプセル
 へ移動)それで、このカプセルでコールド
 スリープする訳だ。ちょっと寝て、百万年
 後に起きれば、まあちょっと遠足に行くよ
 うなもんさ」
B  「そりゃ分るけどさ」
A  「…何?」
B  「…遠足前は、ワクワクするよな?」
A  「?…おう」
   二人、カプセルに入る。
A  「じゃあ、おやすみ」
B  「おやすみ」
   暗転。
   明転。

   B、起きてしまう。
B  「…あー、やっぱり。…起きちゃった
 よ…」
   A、スヤスヤ寝ている。
B  「オレ遠足の前の日とか、全然寝られ
 ないタイプなんだよなあ…。コールドスリ
 ープでもやっぱそうだとは…」
   B、しょうがなく起き上がる。
B  「…トイレに起きたことにしよ」
   トイレ(下手)に行って戻って来る。
   Aを覗きこんで。
B  「よく寝てんな。起こすのも悪いしな。
 無理やり寝るか。おやすみ!」
   暗転。
   明転。

   今度はBが寝ているのに、Aだけ起き
   る。
A  「あー…。こいつが遠足の前とか言う
 から、起きちゃったじゃんよお。百万年寝
 てなきゃいけないってのにさあ。…とりあ
 えずトイレ行っとくか」
   トイレ行って、戻って来る。
A  「…」
   暇なので、走ったり、ストレッチした
   りする。
A  「…百万年起きてるわけにいかねえし
 な…。寝るか!」
   暗転。
   明転。

   同様に、Bだけ起きる。
B  「また起きちゃったよ…。眠りが浅い
 のかね…」
   トイレ行って戻って来る。Aの寝顔を
   覗きこんだり、ストレッチしたり。
B  「…」
   思いついて、運転席(上手)に行き、
   チェスのボードを持ってくる。
   一手打ち、寝る。
   暗転。
   明転。

   Aだけ起きる。
A  「ん?…あ」
   チェスの一手目に気づく。
A  「お前やっぱどっかで起きてんな?
 寝ろよ。ていうか、俺が起きると思って、
 こいつ持ってきたのか? …面白え。やろ
 うぜ。どうせ百万年の旅なんだ」
   二手目を打ち、寝る。
   暗転。
   明転。

B  「…」
   次の手を打つ。
   暗転。
   明転。

A  「…」
   次の手を打つ。既に複雑な局面に。
   暗転。
   明転。

   B、長考中。
B  「待った!」
   と手を出す。
B  「…といっても、お前は寝てるよな。
 起こす訳にもいかねえし…」
   こっそり相手の駒を動かすが、やめる。
B  「いや、流石にばれるな。うーん、ど
 うしよう…」
   立って、色々考える。
B  「あ!ハイパードライブ!」
   運転席(上手)へ行く。
B  「どうせ百万光年も行くんだ。一光年
 戻ったってバレねえだろ。一手分巻き戻し
 だ」
   暗転。
   明転。

A  「待った! …と言っても、お前は寝
 てるのか。…どうしよう…待てよ! ハイ
 パードライブで一光年分戻れば…!」
   暗転。
   明転。

   B、悩み中。簡素な局面。
   長い暗転。
   明転。

   寝ている二人。Bだけ起きる。
   (チェス盤はない)
B  「また起きちゃったよ…。眠りが浅い
 のかね…」
   トイレ行って戻って来る。Aの寝顔を
   覗きこんだり、ストレッチしたり。
B  「…」
   思いついて、運転席(上手)に行き、
   チェスのボードを持ってくる。
   一手目を打つ。

   暗転。

●タイトル『待った #3盲目の恋』

○病室

   ベッドの上に起き上がっているA。
   目に包帯が巻いてある。
   B、やって来てノックをしようとする。
A  「よう。今日は早いな」
B  「何で俺って分った?」
A  「足音でなんとなく分るようになって
 きた」
B  「そうか。(入ってくる)体はまだ痛む
 か?」
A  「いてえ。トレーラーに巻き込まれた
 んだぜ俺? よく生きてるよ」
B  「半年で治るのか?」
A  「医者がそう言うんだから、治るだろ。
 …治っても、仕事復帰は無理だろうな」
B  「まだ、眼球の移植できる可能性だっ
 て…」
A  「角膜移植だって難しいって」
B  「…」
A  「カメラマンが、目を失っちゃ、おし
 まいだよ」
B  「…」
A  「体ゆっくり治してから、次の仕事考
 えるわ。せっかく生き残ったんだ。神様は
 なんかやれって言ってるんだろ」
B  「…思ったより、落ち込んでねえんだ
 な」
A  「ああ(にやりと笑う)」
B  「…なんだ?」
A  「聞いてくれるか」
B  「なに?」
A  「恋を、したんだ」
B  「はあ? 流石スケベカメラマン。看
 護婦さんとかか」
A  「ちげーよ」
B  「じゃ何?」
A  「夢の中に、毎回現れる美女にさ」
B  「…?」
A  「すっごい美人なんだ。俺、カメラマ
 ンなりにさ、色んなモデルや女優撮ってき
 たけど、そんなの吹っ飛ばすぐらいの、と
 んでもない美女だよ」
B  「はあ」
A  「そのコが夢に出てきて、微笑むのさ。
 俺はそのコに恋をしたんだ」
B  「…毎回、同じ顔なのか?」
A  「俺のスケベっぷりを知ってるだろ。
 美人測定器の正確さを見くびるな。一万人
 並んでても、正確に指差してやるぜ」
B  「どうやって?」
A  「…あ、俺、目見えねえのか…」
B  「…」
A  「な、そのコ、探してきてくれねえか」
B  「現実にいるのかよ」
A  「いたら、この恋を打ち明けたい」
B  「いなかったら?」
A  「死ぬ。夢も希望もねえ」
B  「ちょっと待てよ。極端だな」
A  「恋は盲目。…いや、盲目の恋だなこ
 れ」
B  「…で?」
A  「?」
B  「誰に似てるとかあるだろ。お前の見
 てる顔をさ、イメージ教えてくれよ」
A  「北川景子の目と、壇れいの鼻、上戸
 彩の口で、全体的には大島優子っぽい」
B  「…イメージ出来ねえ」
A  「…どうやったら伝えられるんだ。似
 顔絵を描こう」
   スケッチブックに描きだすA。
B  「ぐちゃぐちゃで分らん」
A  「そりゃそうだ。目が見えなくて絵な
 んか描ける訳ねえじゃんか!」
B  「…(スマホで検索)検索してもその
 芸能人しか出てこねえ…」
A  「粘土、買ってきてくれよ」
B  「え?」
A  「やったことないけど、立体なら伝え
 られるだろ!」

○同、後日

   熱心に胸像をつくっているA。
   Bがやってくる。
A  「今日は遅いな」
B  「足音で分るのか」
A  「…大体こんな感じだと思うが、伝わ
 ってるか?」
B  「どこらへんが北川景子?」
A  「このへん」
B  「んー…」
A  「このへんが上戸彩で、ここが壇れい」
B  「そう言われればそんな感じだけど…」
A  「三日に一回は夢に見る。彼女に会い
 たい。今どこで何をしてるんだろう」
B  「目が見えない人も、夢を見るのかな」
A  「聴覚や、触覚の夢を見るんだそうだ。
 俺は目を失う前に見た映像的記憶があるか
 ら、映像つきの夢を見るんだな」
B  「じゃあ、会ったことあるんじゃ」
A  「あったら超覚えてるわ。これは正夢
 なんだよ。もはや俺の生きる希望なんだ」
B  「…」

○廊下

   電話するB。
B  「そうなんだ。相談というのはな。…
 整形をしないかってことなんだよ。どうし
 てって?…お前、あいつのことずっと前
 から好きだったろ?今ならチャンスなん
 だよ。その美女になりすませばいいんだよ。
 あいつが触ってその顔だって分るように整
 形すれば、あいつと結ばれるんだぞ?こ
 れがチャンスでなくて、何なんだよ!」

○病室、後日

A  「よう」
B  「見つかったよ」
A  「え?」
B  「こないだの粘土写真を、探偵を雇っ
 て探させた。見つかったんだ」
A  「ホントか! あのコは実在したの
 か!」
B  「ああ」
A  「良かった…お前、そこまでしてくれ
 てありがとうな。なんでそこまで優しいん
 だよ」
B  「…親友、だろうが」
A  「ありがてえなあ。ありがてえ」
   と、別の胸像に気づく。
B  「ちょっと待て。それ、何?」
A  「もう一回作り直した。精度が上がっ
 たろ」
B  「ええええ」
A  「なに?全然違う?」
B  「…もう一回やり直し、かも知れん。
 待っててくれ」

○廊下

B  「手術計画、一端白紙。多分三週間延
 期。メスを入れる場所を変えて、ヒアルロ
 ン酸入れて…。うん。全部で三ヶ月はかか
 るな」

○病室、後日

B  「三ヶ月かかる」
A  「は?」
B  「彼女はいたが、今遠いところで、の
 っぴきならない事をしてるんだ。それが明
 けるまで、三ヶ月待ってくれ」
A  「分った。…待つよ。待つ。必ず連れ
 てきてくれよ」

○病室、後日

A  「彼女、夢の中で初めて口をきいてく
 れたんだ」
B  「そうか」
A  「それが鈴の鳴るような高い美しい声
 で…」

○廊下

B  「そう。声帯の手術も必要になった。
 プラス一ヶ月。手術代? 乗りかかった船
 だ。俺が持つよ」

○病室、後日

A  「今度は全身が夢に出た」
B  「痩せ型で、巨乳だろ? B90W5
 9H85、体脂肪率17%。任せとけ」
A  「それがさ」
B  「何?」
A  「腕が四本あった」
B  「はあ?」

○廊下

B  「そうなんだよ! 腕二本移植しなき
 ゃいけなくて…」

○病室、後日

A  「今日の夢は腕二本だった」
B  「なんだよ!心配して損したよ!」
A  「そりゃそうだ。どうやら人間らしい」
B  「腕二本でいいんだな?」
A  「ふつうの、人間の、彼女で」
   暗転。
   明転。

○ドアの前、廊下

   B、電話中。
B  「あ、着いた? そう。四階に上がっ
 てきて。ああ。もう首を長くして待ってる
 よ。あいつの目が正確であればあるほど、
 きみは信用される。あいつはきみにベタ惚
 れすること間違いなしだ。安心しろよ。あ
 いつがずっと好きだったんだろ? お前は
 優しくて、情熱家で、ちゃんとしてる子じ
 ゃないか。あいつに紹介して誇るべき存在
 なんだよ。ただ顔があいつの好みじゃなか
 っただけだよ。中身がいいんだから、絶対
 好かれるよ。安心しなよ。じゃ、早く上が
 ってきて」
   B、電話を切る。
B  「…俺の好きな女が、幸せになる瞬間。
 それに立ち会えて、俺も幸せだよ。…待ち
 に待ってた、瞬間さ」

   暗転。

●エンディング



次回 劇団黒バック第三回「消える」
 #1 507号室 #2 世直し
 #3 海賊版海賊
https://note.com/oooka_/n/n3fafe48b3e92


いいなと思ったら応援しよう!