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ショートフィルムシナリオ 「偽物に虫は止まらない」

ショートフィルムシナリオ 「偽物に虫は止まらない」(10分)

【あらすじ】
とある薬局のお話。薬剤師の笑子は、今日も向いの花屋さんから本物の花をもらって受付に生けている。そこに現れたイケメン客に一世一代の片思い。しかし彼は、処方されていた薬が合っていない……? 切ないラストは必見です。

ロケ地は、少し古ぼけた小さな薬局がいいな。


 
 
 
 
 
 
ショートフィルム
 
「偽物に虫は止まらない」
                (10分)
 
 
             脚本 大岡俊彦
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【登場人物】
 
 
笑子(28) 薬剤師。普段は地味メガネ。
 
久保(30) 薬を買いに来たイケメン。
 
 
ユミ(25) 笑子の後輩の新米薬剤師。
 
香 (27) 久保の彼女。
 
 
 
 
 
 
〇薬局「薬師堂」、朝
 
   大きな病院のそばの小さな薬局。
   個人経営の古いたたずまい。
   笑子(28)が小さな花を一輪、小さ
   なコップにさしてカウンターに置く。
   地味なメガネをかけている笑子。
   ユミ(25)が慌てて走って入ってく
   る。
ユミ 「おはようございますっ!」
笑子 「遅刻」
ユミ 「すいませんっ。(外を見て)でも病
 院の診療時間まだじゃないですかー」
笑子 「私たちの相手する人は、病院から来
 るだけじゃないでしょ?」
ユミ 「そりゃそうですけど」
   ばたばたとするユミを背に、花を整え
   る笑子。
 
〇同、昼間
 
   久保(30)、入ってきて処方箋を渡す。
笑子 「いらっしゃいませ。お預かりします。
 お薬手帳はお持ちですか?」
久保 「……手帳って、つくった方がいいん
 ですかね?」
笑子 「お薬同士がけんかすることがあるの
 で、記録してもらえると発見しやすいです
 ね」
久保 「あ、そんなこともあるのか」
笑子 「拝見しますね(処方箋を見る)」
久保 「(カウンターの花に気づいて)あれ? 
 これ造花じゃなくてホンモノの花なんだ」
笑子 「あ、そこの花屋さんの余りをいつも
 いただいているんです」
久保 「へえ。道理で」
笑子 「?」
久保 「偽物に、虫は止まらないでしょ」
笑子 「?」
   花に虫(テントウムシ)が止まってい
   る。
笑子 「ぎゃああああっ! 虫! 虫!」
   パニックになり走り回る。
   ユミ、奥から出てくる。
ユミ 「ごめんなさい! 先輩、虫苦手なん
 で!」
久保 「……」
   花を店の外へ持って行き、虫を逃がす。
久保 「はい(笑顔で花を渡す)」
笑子 「……(恋に落ちる)」
   風が吹いて処方箋がはらりと落ちる。
   ユミは慌ててそれを拾う。
 
〇同、夜、調剤室
 
   薬を調合しながら。
ユミ 「あのイケメンにガチ恋でしょ?」
笑子 「は? 何言ってんの」
ユミ 「だってめっちゃ固まってましたよ。
 花受け取るとき」
笑子 「薬剤師マジ出会いないから、今のう
 ち見つけといたほうがいいよ」
ユミ 「だからあったじゃないですか」
笑子 「……」
 
〇次の日の朝、薬師堂
 
   ユミ、げらげら笑う。
笑子 「(鏡を見て)……変かな」
   笑子、眼鏡をやめてコンタクトにして
   いる。
ユミ 「だいぶマジじゃないですか! いや、
 コンタクト似合いますよ! 次来て『メガ
 ネやめたんですか?』とか話しかけられた
 らどうします?」
笑子 「えっ、そんなの準備してない」
ユミ 「じゃイメトレしとかなきゃ!」
 
〇別の日、薬師堂
 
   久保がやってきて処方箋を出す。
   掃除してたユミ、そわそわする。
笑子 「拝見します」
   笑子、表情が曇る。
久保 「あ、今日はメガネじゃないんですね」
笑子 「……(処方箋を見たまま返事しない)」
 
〇夜、同、調剤室
 
   色んな医療書やネットを広げて、めち
   ゃくちゃ勉強している。
ユミ 「せっかくのチャンス、何してんです
 か勿体ない!」
笑子 「……それどころじゃないの」
ユミ 「?」
笑子 「……処方されてる薬が、どんどんき
 つくなってる」
ユミ 「えっ」
笑子 「アダラート……ニフェジピン……」
ユミ 「?」
笑子 「おかしい……?(医学書を探し続ける)」
 
〇別の日、薬師堂
 
   久保、来店。少しやつれた顔。
   なるべく笑顔で迎える笑子。
   処方箋を出す久保。
   なるべく無表情でそれを読む笑子。
   ×   ×   ×
   薬を受け取る久保。
久保 「なんか、薬効いてないんですかね? 
 それとも医者変えたほうがいいのかな。も
 っといい薬ないんですか?」
笑子 「……私共は、処方箋通り薬を出すこ
 とが仕事です。お医者様を信じて下さい。
 セカンドオピニオンなら、別のお医者様に」
久保 「そうか。……そうですよね」
   しょげて帰る。
笑子 「お大事に」
久保 「……(やつれた顔で)ありがとう」
 
〇夜、同、調剤室
 
   ひたすら調べものをしている笑子。
笑子 「なんで……なんで? 処方はあって
 るはず……」
 
〇トレーニングジムの前
 
   処方箋のコピーを読みながら、ぶつぶ
   つ言っている笑子。
   と、ジムから出てきた久保に出くわす。
   笑子、慌てて処方箋をポケットに入れ
   る。
久保 「あ。……えっと、誰でしたっけ、知
 ってる人だ」
笑子 「……(微笑んで)薬師堂の」
久保 「ああ。くすりやさん!」
笑子 「身体鍛えてらっしゃるんですか?」
久保 「ストレス解消にね。ダイエットしよ
 うと思って、ずっとササミとブロッコリー
 とグレープフルーツで……」
笑子 「!」
久保 「?」
笑子 「今、グレープフルーツって言いまし
 た?」
久保 「(うなづく)」
   くしゃくしゃになったポケットの処方
   箋を出す。
笑子 「これですよ! 血圧降下剤がグレー
 プフルーツのフラノクマリンと反応して、
 急激に血圧を下げすぎちゃうんです! そ
 のこと、お医者様に言いました?」
久保 「え、ダメだったんだ」
笑子 「お薬手帳じゃ分らないわけだ! 今
 すぐ言ってください! 助かるかも知れな
 い!」
久保 「えっ。……はい」
   笑子、スマホを出して電話するように
   言う。
 
〇後日、昼下がり、薬師堂
 
   カウンターに座り、暇な笑子。
   掃除しているユミ。
ユミ 「あのイケメン、全然来なくなっちゃ
 いましたね」
笑子 「……」
   店の外を、久保が通る。
ユミ 「あっ! パイセン、早く追いかけ
 て!」
笑子 「え、でも、なんて話せば」
ユミ 「治りました? でも何でもいいじゃ
 ないですか! もう来ないかもしれないし、
 連絡先聞かないと!」
笑子 「はい?」
ユミ 「ほら! 今!」
   ケツを叩く。
笑子 「……」
   決意してダッシュ。
 
〇前の通りの花屋
 
   小さな花束を買っている久保。
   おいついた笑子。
   ×   ×   ×
   笑子の妄想。
久保 「笑子のおかげで治ったよ。お礼に花
 をと思ってね」
   花束を渡される笑子。うれしい。
   ×   ×   ×
   久保に話しかけようとすると、香(2
   7)が走ってくる。
   久保、彼女に花束をあげ、二人は腕を
   組んで去ってゆく。
笑子 「……そりゃ、彼女くらいいるよね…
 …」
   元気はつらつな久保。
笑子 「おだいじに(おじぎする)」
 
〇夕方、薬師堂
 
   久保の処方箋をシュレッダーしている
   笑子。
ユミ 「なんで追いかけなかったんですかあ」
笑子 「めでたしめでたしでいいじゃない」
ユミ 「勿体ないあんなイケメン」
笑子 「私たちの仕事はね」
ユミ 「?」
笑子 「……私たちの仕事は、二度とここに
 来ないようにすること」
ユミ 「……」
   シュレッダーを続ける笑子。
ユミ 「あ。虫」
   笑子の肩に虫が止まっている。
   ×   ×   ×
   回想。
久保 「偽物には、虫は止まらないでしょ」
   ×   ×   ×
   笑子、虫を取って、店の外へ逃がして
   あげる。
笑子 「……」
   カメラ、引いていく。
 
笑子NA「ここは小さなおくすりやさん。何
 かあったらおたよりください。わたしたち
 は、今日も扉をあけて待ってます」
 

                  (終)
「偽物に虫は止まらない」 10分


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