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ショートフィルムシナリオ「49日のレッスン」

ショートフィルムシナリオ 「49日のレッスン」 20分

【あらすじ】
 北原は山登りが趣味。妻の康恵はカメラが趣味。ある日家に、彼女が注文した銀色のカメラが届く。しかしそれは注文者の手に届くことはなかった。彼女はすでに死んでいたから。彼女は幽霊のままずっと彼のそばにいて、彼と架空の会話を楽しんでいる。
 ふと彼は、彼女がこのカメラで何を撮ろうとしていたのかが気になり、ファインダーを覗いてみることにした。

切ない系です。
秋の高尾山にそんな景色があるか分らないけど、きっとどこかにあるでしょう。

 
 
 
 
 
 
ショートフィルム
 
「49日のレッスン」
                (20分)
 
 
             脚本 大岡俊彦
 
 
【登場人物】
 
 康恵(28) アマチュア写真家。
       現在、幽霊。
 
北原(30) 康恵の残された夫。
       登山が趣味。
 
 
浦辺(30) 北原の同僚。
 
メグ(27) カメラ女子。
 
 
 
 
 
 
〇北原の部屋
 
   登山雑誌を切り抜いている北原(30)。
   ハサミで写真を切り、地図とともにス
   クラップしていく。
   ピンポンが鳴り、宅配便が。
   受け取った小包は、海外から。
北原 「康恵ー。お前また勝手に買いやがっ
 たな? 俺に黙って」
康恵(28)「えー、やっと来たのかーそれ
 ー! 思ったよりかかったわー!」
北原 「もう他にないだろうな?」
康恵 「マジそれで最後だよ! あー会いた
 かったよおー」
   小包を持った北原の周りを、犬のよう
   に回る。
北原 「開けていい?」
康恵 「うん」
   北原、ハサミを使って荷物を開ける。
   中から出てきたのは、クラシックなカ
   メラ。
康恵 「いや、これの何が他と違うんだよ、
 って言うんでしょ? レンズがね、1・2
 なんだよ! 深度の浅さがたまらんの!
 分らない? 口径がこんなにちっさいのに
 1・2だぞ! ボディもかわいいし、『状態
 良』なんてめったに出ないし!」
北原 「(無視して)……何がちがうんだよ、
 これ」
   ごとり、と祭壇に供える。
   たくさんのクラシックカメラが置いて
   ある。
   骨壺。その前に康恵の写真。
   康恵、カメラを触ろうとするが、手が
   透けてて触れない。
康恵 「……触ってみたかったなあ……」
北原 「……」
   康恵、隣に座り北原の頭を撫でてあげ
   ようとするが、手が透けて通過してし
   まう。
北原 「(遺影に向って)お前、何で死んだ
 の?」
康恵 「(悲しく笑う)……わかんない」
   康恵の遺影にタイトル。
T  『49日のレッスン』
 
〇居酒屋
 
   同僚の浦辺(30)と飲む北原。
浦辺 「四十九日が終わるまでは、魂はその
 へんに漂ってるって言うじゃん?」
   康恵、となりの席に座っている。
康恵 「そうだよそうだよ! こんな感じに
 ね!」
北原 「うん。俺もそう信じてるよ。だから
 彼女に時々話しかけてるんだよね。そこに
 いると思ってさ」
浦辺 「身近な人が亡くなると、そうする人
 が多いって聞くな」
康恵 「そうなんだ。じゃあ普通なんだね!
 気が狂っちゃったわけじゃないんだね!」
北原 「そうか」
浦辺 「ちょトイレ行ってくる」
   席を立つ浦辺。
   浦辺目線では、見えない人と喋ってい
   る北原がいる。
 
〇駅からの帰り道、深夜
 
   フラフラと歩きながら。
北原 「あー、ひさしぶりに酔った」
康恵 「そうだよ、飲みすぎだよ」
北原 「そんなこと言ったって、もう止める
 人がいないんだからしょうがないだろ」
   通行人が通る。
   北原、通りすぎるまで黙る。
   通行人目線では、康恵はいない。
康恵 「だから気を付けてね。もう私止めら
 れないんだから。あなた酒に弱いんだから」
北原 「……」
   ふと、立ち止まる。
北原 「康恵」
康恵 「なに?」
北原 「お前、あのカメラで何撮るつもりだ
 ったの?」
康恵 「いっぱいあるよ! 順番に言ってい
 い? えっと……」
北原 「俺、あのカメラ使っていい?」
   康恵、はげしくうなづく。
康恵 「あ、でも、カメラ分る?」
 
〇北原の部屋
 
北原 「わっかんねー……」
   フィルム装填の時点でつまづいている。
北原 「この向きであってんの?」
康恵 「違う! 反対! 爪があるでしょ?
  それじゃ引っかかっちゃう!」
北原 「こう?」
康恵 「逆!」
北原 「これ?」
康恵 「逆の逆! ……あ、じゃ、合ってる」
北原 「こうか」
康恵 「あ、フィルム引き出しすぎ! 絶対
 巻き取りミスする!」
   蓋をうまく閉められない。
康恵 「もうだから言ったでしょ!」
北原 「イソって何? この記号何?」
康恵 「アイエスオーって言ってフィルムの
 感度で、シャッタースピードがこれで、絞
 りと露光時間があって、フィルムの感度合
 わせだと……」
北原 「まあいいや。やってみよう」
 
〇公園
 
   カメラを構える北原。
康恵 「まずファインダーから違うし」
北原 「? ああ、これか(覗き窓を変える)」
   ぱしゃり、ととりあえず撮る。
北原 「……どこに今撮った写真出てくん
 の?」
康恵 「スマホじゃないんだから出てくるわ
 けないでしょ!」
北原 「ああ、そっか。スマホじゃないのか」
   フィルムを巻かずに次のシャッターを
   切る。
康恵 「あー。二重露光ーあとで後悔ー」
   北原、スマホの解説ページを見ながら。
北原 「何? 巻く? どうやんの?」
   ぎりぎり、とフィルムを巻き取る。
北原 「ああ、中でフィルムがこれで巻物み
 たいになってんのか。なるほどね」
康恵 「そうそう。いいじゃん。次は猫でも
 撮ってみ?」
北原 「よし、次は滑り台でも撮ってみるか」
   ただ立ってカメラを構える北原。
康恵 「それじゃふっつーの写真になるでし
 ょうに! もっと下から行くとか、変わっ
 た角度を見つけるの! 光の当たり方を見
 るとか!」
北原 「……なんか詰まんないな」
康恵 「そうそう!」
   滑り台に座って滑りながらシャッター
   を切る。
康恵 「斬新すぎるでしょ! ていうか絶対
 ぶれてるよ!」
北原 「……こんなもんか」
康恵 「飽きるの早っ!」
 
〇後日、写真屋の前
 
   現像した写真を見る北原。
   二重露光。公園。滑り台。手ぶれ。
   空。なんかよくわからない光。
北原 「……まともなの、一枚もねえ」
 
〇北原の部屋
 
   写真を並べて落ち込んでいる北原。
康恵 「まあそう落ち込まないでよ。初心者
 にしては上出来よ。フィルム装填できたの
 よ? えらいえらい」
   北原、立ち上がる。
 
〇康恵の部屋の前
 
   ノックする北原。
北原 「入るよ。いいかい?」
康恵 「(横で)どうぞ」
 
〇康恵の部屋
 
   写真がパネルになって飾ってある。
   コルクボードには、たくさんのスナッ
   プ写真。機材も放置されたまま。
   本棚の本を探す北原。
北原 「バカでもわかる写真入門みたいな本
 ない?」
康恵 「あるよ! 私が最初に買った本があ
 る! それ見たら大体OK!」
   本棚を探す北原。
   康恵、一冊の本を手にかけて、思い切
   り引き出そうとする。
康恵 「うーん! ちょっと待って! うー
 ん!」
   めちゃくちゃ力を入れて本を引っ張る。
   北原の後ろで本が少しずつ出てくるの
   に、北原は気づかない。
   どさりと床に落ちる音。
北原 「ん? (下を見て)あるじゃん!」
   『バカでもわかる写真入門』という本。
 
〇後日、路上で写真を撮る北原
 
〇後日、遊園地で写真を撮る北原
 
   どこにでも、康恵はついてきている。
 
〇後日、公園
 
北原 「……あ」
   北原、誰もいないベンチにカメラを向
   ける。
北原 「これ、あの写真と同じ場所でしょ」
康恵 「正解」
   回想。康恵の部屋のコルクボード。
   ベンチで寝てる北原を撮った写真。
北原 「この距離くらいかな。高さは……こ
 うか。絞りは浅めで……シャッターはまあ
 ゆるくてもいいか……」
   康恵、写真の中と同じポーズを取る。
   北原は、だれもいないベンチの写真を
   撮る。
 
〇路上
 
北原 「あ、ここもだ」
康恵 「正解」
   カメラを構える北原。
   アングルに入る康恵。
   誰もいない路上のシャッターを切る北
   原。
 
〇夜、北原の部屋
 
   スクラップブックから、高尾山の地図
   を出している北原。
北原 「なあ康恵」
康恵 「何?」
北原 「俺、思い出したよ。高尾山連れてっ
 たときのこと。覚えてる? お前が登山道
 にない道をこっちだーって走っていって、
 迷い道に入ったときのこと」
康恵 「それでもう二度と山には付き合わな
 いって決めました」
北原 「いや、初心者向けの山だと思ったん
 だぜ? それが勝手にお前が中級者コース
 に変えやがって」
康恵 「だって面白そうだったんだもーん」
北原 「その先で見つけた滝、覚えてる? 
 あれ結局地図に載っていないんだよ。幻の
 滝、的な?」
康恵 「そうなのよ! フィルム切れて、あ
 の滝の写真撮れなかったの!」
北原 「俺、あの滝をもう一度探しに行こ
 うと思うんだよね」
 
〇高尾山山中
 
   きちんとした装備で来る北原。カメラ
   を首から下げている。
   普段着のままの康恵。
 
〇同、分かれ道
 
北原 「康恵」
康恵 「何?」
北原 「お前がこのカメラで何を撮ろうとし
 ていたか、俺分かっちゃったよ」
康恵 「なんでしょう」
北原 「俺でしょ」
康恵 「……(顔を真っ赤にする)」
北原 「だってコルクボードの写真、全部俺
 か二人の写真ばっかじゃん。パネルの写真
 も二人で行ったところばっかじゃん。お前、
 俺のこと猛烈に好きだったろ」
康恵 「……(うなづく)」
北原 「なんだよ。何でそんなことお前がい
 なくなってから気づかなきゃいけないんだ
 よ! 分かってなかったことはないよ? 
 でもさ、本当には分かってなかったんだよ
 ! お前がそんなに俺を好きだなんてさ
 ! 俺、お前にそんだけお返ししてたか? 
 適当に返事してただけなんじゃないの
 か?」
   立ち止まる北原。
   後ろから抱きしめる康恵。
北原 「何でお前死んだの? 何でお前カメ
 ラ残していなくなったの?」
   涙が止まらない北原。
康恵 「私だって……死にたくて死んだんじ
 ゃないんだよ? 出来ればずっとあなたと
 いたかったんだよ? もうあとちょっとし
 か一緒にいられないんだから、泣かないで
 暮らそうよう……」
   涙が止まらない康恵。
北原 「(ふと気づく)」
   分かれ道に、歩いていく。
北原 「このへんじゃなかったっけ」
康恵 「そう。ここ。ここだよ!」
   北原、通りすぎてしまう。
康恵 「こっち! こっちだってば!」
   北原、遠くへ行ってしまう。
   康恵、ものすごく力を入れて枝をゆす
   る。枝はびくともしない。
康恵 「こっち! こっち!」
   めちゃくちゃに力を入れて、ようやく
   枝が動く。身体ごとゆする。
   ようやく、カサっと鳴る。
北原 「ん?(振り向き、戻ってくる)」
   康恵、ガッツポーズ。
   道なき道に分け入る北原。ナタを出し、
   下草を払う。
 
〇滝
 
   二人、滝の前でたたずむ。
   北原、カメラを構えてシャッターを切
   る。
北原 「ここだ……。お前を、ここに連れて
 きたかったんだ」
   康恵、北原の隣に座り、肩を寄せる。
   北原、夢中でシャッターを切りまくる。
 
〇小さな展覧会
 
   その滝の写真が佳作に入賞して、パネ
   ルで飾られている。
   たくさん人が見に来ていて、北原は小
   声で康恵としゃべる。
北原 「(小声)俺、写真の才能ちょっとある
 かもな」
康恵 「私が見つけた場所なのにー。まあい
 いよ。手柄は譲るよ」
   そこにカメラ女子のメグ(27)が話
   しかけてくる。
メグ 「あの、この写真を撮った方って聞い
 たんですけど」
北原 「あ、はい」
メグ 「ここどこですか? ここで撮ってみ
 たい」
北原 「あー、これは……ちょっと秘密の場
 所なので」
メグ 「あ……そうですか……そうですよね
 ……すいません」
康恵 「あほか! 女子から話しかけられる
 チャンスなんてめったにないだろ! 生か
 せ! ほら! 行ってこいよ!」
北原 「……」
   北原、メグを追いかける。
北原 「あの、やっぱり教えます」
メグ 「え、ほんとですか? 遠いんです
 か?」
北原 「いや、高尾山すよ、すぐそこ」
メグ 「えー、行ってみたい!」
   康恵、北原に何度も肘打ち。
北原 「あ……じゃあ、行ってみます?」
康恵 「よく言った!」
   後ろから頭をはたく康恵。
   誰もいないのに頭を叩かれたような気
   がして、後ろを振り向く北原。
メグ 「?」
北原 「いや、えーと、そうだ、高尾山の、
 登山口があるじゃない?」
メグ 「はい」
   康恵、展覧会場をあとにする。
   後ろを振り返る。
   北原とメグ、話が盛り上がっている。
康恵 「知ってた? 今日が49日目って」
   メグと笑う北原。
   微笑む康恵。
康恵 「泣いてるあなたは、あなたじゃない
 から」
   康恵、手を振る。
 
   康恵のいた場所には、もう誰もいない。
 


                  (終)


「49日のレッスン」 20分



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