映画シナリオ「寒がりジャンパーの一番熱い日」(1/4)
映画シナリオ、スポーツ、人間ドラマ、120分
タイトル
寒がりジャンパーの一番熱い日
(海外配給用: A Cold Wimp Jumper's Hottest Day)
キャッチコピー
ジャンプ台の踏切台は下を向いている。
飛ばない者を落とすために。
(海外配給用: The take-off edge faces downward. To drop no-fly man.)
スペック
地方(札幌、長野)ロケ、新しいビジュアル、大人の実力派役者の見せ場。
『イーグルジャンプ』×『ロッキー』
ログライン
一度は敗北して人生の底に叩きつけられたジャンパーと女記者がバディを組んで、再び復活する大人のドラマ。
横風に吹かれて落ちて以来、ジャンパーをやめていた青山。
そこに東京から巨大企業の闇を暴こうと、青山に近づいてきた女記者がいた。彼がジャンパーとして復活するブログを書き、読者が集まったら闇を公開しようと。
実は彼女は青山のファンだった。
【登場人物】
青山 大吾(あおやま・だいご 32)
あおぞら牛乳所属の元ジャンパー。
かつて大事故を起こし、今はあおぞ
らスイミングスクールで働いている。
泉 千佳(いずみ・ちか 29)
ローカル新聞の元記者。
「北海道の闇」事件を追っていて、
青山に取引をもちかける。
火野 翔(ひの・しょう 32)
あおぞら牛乳所属のエースジャンパ
ーで、ワールドカップ一位。
かつての青山のライバルで、赤いジ
ャンプスーツの目立ちたがり。
青山の妻、薫と不倫している。
岡崎 薫(おかざき・かおる 32)
青山の妻で、離婚寸前。
学生時代、青山、火野と三角関係だ
った。
春馬(はるま 7)
青山、薫の息子。
谷口(たにぐち 32)
千佳の先輩記者。「北海道の闇」を
追って行方不明。
三上(みかみ 50)
あおぞらスイミングスクール部長。
久我原 毅(くがはら・たけし 40)
青山の盟友でコーチ。
沖縄在住、色黒のスキンヘッド。
〇6年前、大倉山ジャンプ競技場
白い雪。
スキージャンプ台の踏切り部分。
青山NA「スキージャンプの台は下を向いて
いる。そう言うと驚く人は多い。勝手に滑
ってきて、勝手に上向きのジャンプ台で飛
んでいくと多くの人は誤解している。そう
ではない。何もしなければ、ただ滑ってた
だ下に落ちるだけだ。スキージャンプとは、
上に向かって飛ぶ意志のある奴だけが飛ぶ
競技である」
そのジャンプ台(俯角11度)から飛
ぶ、赤いジャンプスーツの火野(26)。
T 「6年前、大倉山ジャンプ競技場 F
ISワールドカップ札幌大倉山」
火野、着地してガッツポーズ。
アナウンサー「日本のエース、あおぞら牛乳
所属の火野、K点を超えてきました! 現
在一位です!」
次のジャンパーは、青いジャンプスー
ツの青山大吾(26)。
青山 「……さぶ……」
身震いしながらゴーグルをつける。
アナウンサー「同じくあおぞら牛乳の青山、
ワールドカップの決勝で同門対決! これ
で勝った方が日本の一位です。静かにアプ
ローチ……サッツ……ああっ?」
青山の主観映像。
迫るジャンプ台。
眼下に広がる札幌市。
勢いよくジャンプ。
急に、吹き流しが横風を受ける。
主観映像は空中で回転する。
コーチボックスの久我原(34)。
久我原「大吾!」
火野 「青山!」
青山、ランディングバーンに叩きつけ
られる。白い雪煙。転がる。
アナウンサー「転倒! 青山転倒! 横風に
煽られたか、空中で姿勢を崩して……!」
人形のように滑って来る青山の体。
受け止めようとする係員。
外れたスキー板が遅れて滑ってきて、
それを避ける。
青山NA「落ちる奴は勝手に落ちる。上に飛
ぶ意志のある奴だけが飛べる。人生と同じ
ように」
意識を失った青山。
騒然とする会場。
白い雪。
〇現在、雪の札幌市
T 「現在、札幌市」
〇あおぞらスイミングスクール、内
デッキブラシでプールサイドを掃除し
ている青山(32)。スイミングスク
ールのTシャツを着ている。
お年寄りばかりのスイミング教室。
壁の防水TVで、今季のジャンプのニ
ュースが流れている。
キャスター「今週のゲストは、日本ジャンプ
界の絶対エース、現在世界2位の、火野翔
選手にお越し頂きました!」
笑顔で手を振る火野(32)。
拍手するTVの中の観客。
拍手をするプールのお年寄りたち。
キャスター「アメリカ、レイクプラシッドの
第13Rを経て、いよいよ第14Rの我ら
が札幌です! 北欧を転戦するスキージャ
ンプワールドカップ、札幌の前後三週間だ
け、里帰りですね!」
火野 「久しぶりに札幌ラーメン食べに行き
ましたよ!」
拍手する会場。
キャスター「札幌で狙うのは?」
火野 「もちろん一位。いや、山を超えて観
客席まで飛んでいきます!」
キャスター「いったんCMです!」
火野が道民保険のCMに出ている。
太い脚のアップ。ジャンプする。
『山を越えろ! 道民保険』
青山 「……」
デッキブラシの手が止まっていた。
バイトの監視員「青山さん……あの……」
青山 「あ、ごめん、続ける」
バイト「あ、そうじゃなくて、多分……お客
さんのアレが……浮いてて……」
と水面を指さす。
青山 「(しかめっ面に)ウンコ?」
(画面にウンコは映さない)
バイト「……(うなづく)」
青山 「あ。大丈夫、君はもう帰ってもいい
よ。あとは俺がやるから」
お年寄りたちが遠巻きに見ている。
網で掬った青山。
〇青山の家、外観、夜
車が着いて、青山が降りて来る。
〇同、リビング
妻の薫(32)と息子の春馬(7)が
TVを見ながら食事中。
青山 「……」
二人とも無言。青山は無言でテーブル
に座り、買ってきた弁当を食べる。
春馬がリモコンでチャンネルを変える。
スキージャンプ、火野の特集。
番組『札幌に向けて、火野の軌跡!』
アナウンサー「ビーッグジャーンプ! 火
野一位! 魅せました火野!」
薫、慌てて春馬からリモコンを奪い、
別のチャンネルに変える。
青山 「……」
会話のない食事。
〇次の日、あおぞらスイミングスクール、外
貼り紙『プール掃除の為、本日休館』
青山 「……そうなら事前に連絡しろよな」
車に乗り込む青山。
〇青山の車内、高級ホテル前
青山 「は?」
腕を組んでホテルから出てくる、薫と
火野を見てしまう。
楽しそうな薫の顔。
笑う火野。
青山 「なんだ。……お前ら、ヨリ戻したの
か」
〇青山の家、リビング、昼間
家に帰ると、春馬が青山のスキー板を
出して遊んでいる。
スキー板を道路に見立て、おもちゃの
車を走らせている。
青山 「今日はお母さんしばらく帰って来な
いぞ。……それ、どこから出したんだよ」
春馬は開いている押し入れを見る。
もう一本のスキー板が放置されている。
春馬 「だってもう使わないんでしょ?」
青山 「……」
× × ×
回想。
まだ仲良かった頃の青山と薫夫婦。
薫はスキー板にワックスを塗っている。
薫 「もうこれ神棚に飾りましょうよ!」
青山 「飾ったら使えないだろ」
薫 「そっか! でもこの板は大吾を乗せ
て遠くまで運んでくれる、大事な大事な我
が家の守護神よね!」
愛おしそうに、板を撫でる薫。
薫 「……大吾あのね、私妊娠したの」
青山 「マジで? え、マジで!」
× × ×
押し入れに残るスキー板を見る青山。
〇朝、あおぞらスイミングスクール、駐車場
青山が車を降りると、千佳(29)が
仁王立ちで立っている。
パン! とクラッカーを弾けさせる。
青山 「なに? なに?」
千佳 「おめでとう青山大吾! あなたは私
に取材されるチャンスを得ました!」
青山 「は?」
ICレコーダーを向ける千佳。
千佳 「ズバリもう一度、ジャンプする気は
ない?」
青山 「……」
青山無視して歩く。追いかける千佳。
千佳 「青山大吾32歳。名門あおぞら牛乳
スキー部に火野翔とともに所属。火野とは
小学校からの幼馴じみでライバル。日本の
将来を背負って立つ二人とまで言われたが、
6年前の落下事故で自信を失い、体が完治
しているにも関わらず……」
青山 「アンタ何者だ?」
千佳、名刺を出す。
千佳 「東京から来たフリーの記者、泉千佳
と申します。青山大吾の復活の記事を書き
たいの。再び飛ぶまでのお膳立てをするか
ら、独占記事を書かせて」
青山 「……(立ち止まる)」
千佳 「認知行動療法は試した? 私の調べ
た方法なら、絶対飛べるようになる」
青山 「……もう辞めたんだよ」
スイミングスクールの扉を開ける青山。
千佳 「ジャンプ台は下を向いている」
足を止める青山。
千佳 「だから上に飛ぶ。あなたの言葉よ」
青山 「……」
千佳 「青山大吾復活ブログをつくります!
一年後の札幌ワールドカップが目標。きっ
とみんな注目する、大コンテンツになる!」
青山 「……」
ドアを閉める。
〇夜、同駐車場
帰りの青山。
車のワイパーに「泉千佳」の名刺がは
さんである。スキージャンパーとジャ
ンプ台の絵まで描いてある。
青山 「……」
〇青山の車中、夜、高級ホテル前
再びホテルから、火野と薫が出てくる
のを目撃。
ハイビームにしてクラクションを長く
鳴らす青山。
二人、青山だと気づいて止まる。
青山、車から降りる。
薫、火野の腕を引いて逃げる。
〇青山の家、リビング、夜
三人の食事は無言。
〇あおぞらスイミングスクール、内
スタート台の上でジャンプの構えをし
てみる青山。
ふ、と苦笑いして立ち上がる。
青山 「……」
だが再びジャンプの構えから腹打ちで
飛び込む。何度も何度もやるので、バ
イトが止めに来る。
〇夜、青山の家、リビング
帰宅する青山。
青山 「は?」
荷物がなくなって、もぬけの空。
ソファとTVしか残っていない。
その上には離婚届と手紙。
手紙 「出てゆきます。判子を押して下さい」
× × ×
台所の棚を探る青山。
出てきたのはカップ麺カレー。
青山 「よりによってカレーかよ」
回想。プールを網で掬う。
できあがった蓋を開けようとして、倒
してしまう。
床にぶちまけられるカレー。
青山 「あー!」
トイレからトイレットペーパーを持っ
てきて、床を拭く。
青山 「なんなんだよ。なんなんだよ俺の人
生……」
何もないリビング。床を拭く青山。
〇大倉山ジャンプ台が見える公園
対峙する青山と千佳。
千佳 「青山大吾のジャンプは、日本国民に
希望を与えていたと思う」
青山 「希望?」
千佳 「火野翔のジャンプは力強く高いジャ
ンプ。一方あなたのジャンプは低く出る。
風に乗って、低く、どこまでも遠くに。可
能性があったのはあなたの方。いつか大逆
転するジャンプだから」
青山 「いつか、ね」
スポーツ新聞数紙を雪の上に投げる。
『火野、札幌でV』
『W杯世界王者、火野誕生!』
『フィンランド、ポーランドの残り5
Rを待たず年間優勝を決める』
青山 「アイツと俺、今や天と地の差だ。復
活して、どうやって一年で戦えるようにな
る! そんなの出来る訳ないだろ!」
千佳 「体は回復してるのよね?」
青山 「してるさ!」
千佳 「じゃあ心の問題ね?」
青山 「思えばなんでも叶うってか? 何も
知らないで! 俺が努力しなかったとでも
? 体が動かねえんだよ! 咄嗟に体が硬
直するんだ! 猫が車のヘッドライトに照
らされて身動きできず、そのまま轢かれち
まうようにさ! 1ミリもジャンプできね
え! 飛びたくたって飛べねえんだよ!
薬も電気も催眠もやった! 俺はもう落ち
てくだけなんだ! 下向きのジャンプ台か
ら下向きに!」
背景の、大倉山ジャンプ台。
千佳 「『はじまりの日』からやるの」
青山 「は?」
千佳 「最初からあんな所から飛ばないでし
ょう? あなたが飛べると思った、はじま
りの場所、はじまりの日からやり直すの。
小学生の時だった? もっと小さい時?」
青山 「……」
千佳 「あんな怖い所から飛ぶなんて正気の
沙汰じゃないわよ。でもそれが楽しいって
インプットされてるから飛べるんでしょ?
その『はじまり』からもう一度やる」
青山 「……小学校二年生。土手で、赤いソ
リに乗ってた」
千佳 「じゃあそこからね!」
青山 「……」
千佳、公園の滑り台に上る。
千佳 「私実は、崖っぷちなの」
青山 「?」
千佳 「フリーのジャーナリストって言った
って、まだ一円も稼いでいない無職」
青山 「?」
千佳 「新聞社に勤めていたとき、ある事件
を先輩が追っていて、デスクから取材を止
められたの。弊社の親会社グループのスキ
ャンダルだから、ってね。先輩は辞表を叩
きつけて北海道に飛んだまま行方不明。私
もあとを追って新聞社を辞めた。……その
親会社の名とは、あおぞら牛乳」
青山 「……それで俺に付きまとうのか」
千佳 「青山大吾復活ブログをみんなが見て、
ピークに達したとき、その北海道の闇のス
クープ記事をアップする」
千佳は滑り台の上で構える。
千佳 「貯金は全額崩した、東京のアパート
も引き払った。ここで何もできなきゃ私の
人生おしまい。このままずるずる落ちるか、
飛ぶかの瀬戸際」
青山 「……」
千佳 「ねえ。人生は、一度失敗したら、失
敗?」
千佳、滑り台をジャンプ台に見立てて、
直滑降してジャンプして、砂場に着地。
青山 「……」
青山、滑り台に上り、構える。
青山 「あんたの言うリハビリが、効くなら
な」
スーッと下まで滑って来るが、一番下
でいったん止まる。
青山 「……」
力強く、踏み切って飛ぶ。
千佳、駆け寄って握手。
千佳 「契約成立!」
背景にたたずむ、滑り台よりはるかに
巨大な大倉山ジャンプ台。
〇雪一面の土手
車から赤いソリを出す青山。
スキー板を出し、履く千佳。
青山 「なにやってんの」
千佳 「せっかく北海道来たんだし、スキー
覚えなきゃって思って! ジャンパーの気
持ちをちょっとでも知りたいし!」
だがぎこちない。
青山 「やったことあんの?」
千佳 「……ない……ッ!」
派手に転ぶ。
千佳 「なんなのこれ! 滑る!」
青山 「そりゃ滑るためのものだし」
千佳 「……」
青山 「?」
千佳 「転んでも笑わないのね」
青山 「スキーで転ぶやつは笑わないよ。俺
もそうだったんだから」
千佳 「?」
青山、手を差し伸べる。つかまり、起
きる千佳。
青山 「俺、神奈川からの転校生だったのね」
赤いソリを見せて。
青山 「周りの子はみんなスキーを生まれた
時からやってるけど、俺だけ出来ねえから
溶け込めなくて、一人でソリで遊んでたん
だ。で、ただ滑るだけだと飽きるから、ジ
ャンプ台つくって飛んだら、体が熱くなっ
てさ」
千佳、慌ててスマホで録音。
千佳 「体が熱くなる?」
青山 「俺北海道も雪も嫌いなんだよ。寒い
し、冷たいし。寒がりなんだよ元々。でも
その時だけ熱くなって、だから何度も何度
も飛んだんだ。友達が出来なかったことと
か、冷たい雪とか、関係なくなるから」
土手に上ってゆく青山。
青山 「あ、それアルペンスキーだろ。初心
者はノルディックスキーがいいぞ」
千佳 「?」
ソリに乗る青山。
青山 「これでいいの?」
千佳 「そう! 『はじめ』からやるの!」
青山の主観カメラ。
まずは土手をソリで降りるだけ。
それをカメラで撮る千佳。
千佳 「これは怖くない?」
青山 「怖くない」
千佳 「熱い?」
青山 「全然」
青山、ソリを降りて足で雪を掻き、ジ
ャンプ台をつくりはじめる。
青山 「最初は、こんなもんだったかなあ」
千佳 「やってみましょう!」
青山の主観カメラ。
ソリで降りる。ジャンプ台で尻がふわ
っと浮く感覚。
着地で転ぶ。
青山 「うわっ!」
千佳 「大丈夫?」
駆け寄ろうとする千佳、スキー板で転
ぶ。
千佳 「ははは……転んじゃった!」
青山 「ははは。ははは」
千佳 「さっき笑わないって言った癖に!」
青山 「違うよ。熱いんだ」
千佳 「え?」
青山 「熱いんだ。あの時みたいだ」
走って土手を登る。
ソリで降りてきて、ジャンプして転ぶ。
青山 「ははは……ははは!」
もう一度。もう一度。最後は着地が決
まる。
千佳、雪まみれのまま、シャッターを
何度も切る。
息が切れた青山。顔が紅潮している。
青山 「それで……」
千佳 「それで?」
青山 「アイツが声をかけてくれたんだ」
千佳 「アイツ?」
青山 「火野さ」
× × ×
回想。
ソリで遊んでいる少年時代の青山(1
0)に、赤い帽子とネックウォーマー
の火野(10)が声をかけて来る。
火野はスキーを履いている。
火野 「君転校生だろ? 何でスキーやんな
いの?」
青山 「出来ないから」
火野 「ノルディックスキーなら生活でも使
えるし、覚えるに越したことないよ」
青山 「ノルディック……スキー?」
火野 「カカトが浮くんだ」
ビンディングからカカトが浮く様を見
せる。
火野 「アルペンだとカカトを固定しちゃう
から、初心者は逆にやりにくいんだよね。
ノルディックは生活用のスキーだから誰で
もできるよ?」
青山 「そうなの?」
火野 「(土手のジャンプ台を見て)スキージ
ャンプって知ってる? あれ、ノルディッ
クスキーの競技なんだぜ」
青山 「……」
火野 「スキー部入りなよ。友達増えると、
俺もうれしい!」
青山 「……」
× × ×
青山 「それからジャンプ始めて、あいつと
ライバルと言われるまでになって、一緒に
あおぞら牛乳のスキー部に就職して、オリ
ンピックチームにも入って……」
手のひらを裏返して、落下させる。
青山 「……」
千佳 「……ノルディックスキーって売って
るの?」
青山 「中古なら一万円くらいかな。次は、
小学生のジャンプ台だな」
千佳 「ええ」
〇小学生用のジャンプ台、手稲山シャンツェ
T 「手稲山シャンツェ ミニヒル(小学
4年生以下用) K8m級」
千佳 「うわ! かわいい! これが小学生
用!」
小さな手作りのジャンプ台の写真を撮
りまくる千佳。
小さなスキーを履いて飛ぶ小学生たち。
ノルディックスキーを履いている千佳。
青山 「買ったの?」
千佳 「中古。安かった」
一歩一歩進んでいく千佳。
青山、車からスキー板を出す。
× × ×
回想。
春馬 「これ使うの?」
× × ×
青山 「使うよ。……今」
ジャンプ台に上る青山。
深呼吸。
カメラを構える千佳。
青山の主観カメラ。
小さなジャンプ台を滑り、少しだけ浮
いて着地。
それをカメラに収める千佳。
滑ってくる青山。
千佳 「どう?」
青山 「うん。思い出して来たよ。この感覚
が一瞬で終るのがつまらないって思ってた
こともね」
小学生に混じって、大の大人が本気で
飛ぶさま。それをカメラに収める千佳。
青山 「小学生の大会はいつもいつも火野が
トップを取ってて、俺は毎回二位だった。
だけど四年の時、初めて一位を取ったんだ」
千佳 「えっ。さぞ熱くなったでしょ」
青山 「逆に冷えっ冷えだったよ」
千佳 「?」
青山 「その時は火野が風邪引いて休んだん
だ。王者のいない大会で勝ったって嬉しく
ねえよな。でもそれ以降あいつは風邪を引
かなくて、やっぱり二位。中学くらいじゃ
ね? 勝ったり負けたりの関係になったの
は」
千佳 「……じゃあ、次は中学生のジャンプ
台!」
〇中学生用ジャンプ台、荒井山シャンツェ
T 「荒井山シャンツェ スモールヒル
ヒルサイズ 27m」
主観カメラ。
ジャンプ台を滑り、浮いて、着地。
千佳 「ここまでが青山大吾中学三年生。次
は高校生用のジャンプ台?」
青山 「いや、高校の時はもう大人用のを飛
んでた」
千佳 「えっ。じゃあ」
青山 「宮の森ノーマルヒル」
千佳 「ガチの競技台じゃん!」
青山 「……今なら、行ける気がする」
〇ウィークリーマンション、夜
ノートPCでブログを作っている千佳。
ブログ名は「ジャンプ台は下を向く~
だから上に飛ぶ」。
ソリの写真、小中学生のジャンプ台で
飛ぶ写真。
千佳 「……これを最初の記事にするには、
パンチが足りないよね……」
ジェラルミンのケースを開ける千佳。
ドローンが入っている。
千佳 「いよいよ、秘密兵器の出番か」
〇青空にドローン飛ぶ
〇宮の森ジャンプ競技場、スタート地点
T 「宮の森ジャンプ競技場ノーマルヒル
ヒルサイズ100m」
準備する青山。
ドローンをテスト飛行させる千佳。
千佳 「よーし、これで行けそう!」
青山 「ホントに追いつけるの?」
千佳 「レース用のドローンなんで120キ
ロ出るの! 追いつく追いつく!」
と、ドローンのモニタから目を離して
リアルなジャンプ台をのぞき込んだ千
佳は足がすくむ。
青山 「あんまり見ないほうがいいよ。素人
は吸い込まれる。一歩下がって」
両手で遮ってあげる。
千佳 「崖と同じってこと?」
一歩下がる。
青山、うなづく。
× × ×
回想。高校時代。
火野(16)、青山(16)、薫(1
6)は仲良しの三人だ。
高校の教室でだべる三人。
ジャンプ台の上まで、火野と青山が薫
を連れていった日。
薫 「(のぞき込んで)目がくらむ!」
火野 「素人は吸い込まれるぞ」
青山 「(両手で遮って)崖と同じだな」
だが薫の視線は火野を見ていることに、
青山は気づく。
× × ×
青山、構える。
千佳、ドローンを構える。
青山 「何もかも、後ろに置いていく」
スタートバーからアプローチに入る。
以下ドローンカメラの映像。
直滑降。加速。吸い込まれるように青
山とともに落ちてゆく。
ジャンプ。青空が目に痛い。
空中で時間が止まったかのよう。
着地。
吠える青山。
千佳 「……やっばいの撮れた」
青山、もう一度吠える。
(2/4につづきます。
復活の狼煙が上がった。次回、雪は青山の熱で溶けるか?)
https://note.com/oooka_/n/nd1464cbabb62
