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映画シナリオ「寒がりジャンパーの一番熱い日」(2/4)

(1/4からのつづきです。
復活を期した青山は、ついに競技場レベルのジャンプを成功させる!
千佳の目的はまずこれを記事にすること!)


〇同、ジャンプ台の下、ブレーキエリア
 
   今度はジャンプ台の下の方で、千佳が
   構えている。
   ジャンプ台の上の青山が合図。
   合図する千佳。
   ドローン、今度は青山より先行して青
   山の正面を捕らえながら撮影。
   スタートから着地までわずか10秒、
   ジャンプの全体を1カットで撮ること
   に成功する。
   駆け寄る千佳。スチルカメラのシャッ
   ターを切る。
千佳 「やったね! やったね!」
青山 「うん……うん……」
   手袋を脱ぎ、雪面に押し付ける。
青山 「こんなに、熱い」
   その手を千佳の頬に押し付ける。
千佳 「……」
青山 「君のやり方は、正しかった」
   千佳、動揺してスチルカメラを落とし
   てしまう。
千佳 「あー!」
   慌てて拾う千佳。しかし電源が入らな
   くなった。
千佳 「あー……あー……どうしよう! 家
 賃もカツカツなのに!」
青山 「家賃? ってどこに住んでんの?」
千佳 「東京の部屋引き払ってきたので、今
 はウィークリーマンションにいながら家探
 してて……」
青山 「……丁度空っぽだし。ウチ住めば?」
千佳 「は?」
 
〇青山の家、リビング
 
   何もない家を見渡す千佳。
千佳 「ほんとに何もないんだ」
青山 「俺はここで寝るから、二階は自由に
 使っていいよ。そしたら家賃いらないだろ。
 いちいち連絡取り合わなくていいし」
 
〇二階の元子供部屋
 
   見渡して。
   同じく何もない部屋。
千佳 「……まずはベッド買いに行くか」
 
〇夜、実景
 
〇夜、千佳の部屋
 
   新品のベッドの上に座り、そこでノー
   トPCを広げ、今日の動画を再生して
   いる。
   ブログの記事を書き始める千佳。
   開いたままのドアをノックする青山。
千佳 「どうぞ。ていうかこれ見てよ! ヤ
 バイでしょこれ!」
   ドローンの映像を見せる千佳。
   ブログのタイトルを見る青山。
青山 「『ジャンプ台は下を向いている』」
千佳 「『だから上に飛ぶ』。あなたのインタ
 ビューからいただきました。ていうか、こ
 れは万バズ行くでしょ!」
   その映像を見る青山。
青山 「タイミングが早い。まだビビってる」
千佳 「?」
青山 「ジャンプのベストタイミングは、足
 が伸び切った瞬間、台から足一個分はみ出
 した時だ。遅いと力を伝えきれない。早い
 とまだ残ってるのに飛んじゃう」
千佳 「足一つ分……ってこんだけ?(手で
 示す)」
青山 「再生して、自分のタイミングで飛ん
 でみ?」
   主観映像を再生する。まるでゲームみ
   たいだ。
千佳 「……ハッ!(と体を伸ばす)」
青山 「そこじゃ遅い。もう一回」
   もう一度再生。
青山 「ハッ!」
千佳 「ハッ!」
   微妙にずれる二人。
千佳 「……その差で変わる?」
青山 「トップクラスではな」
千佳 「……ちょっと待って? トップスピ
 ードって90キロは出るんでしょ? 足一
 個って25センチとして……」
   ノートPCで計算。
千佳 「足一個のズレって、100分の1秒
 ずれたらダメってこと?」
   もう一度再生する。
青山 「ハッ!」
千佳 「ハッ!」
   ずれる。もう一回。
千佳 「ハッ!」
青山 「ハッ!」
千佳 「これでもダメ? 難しすぎる!」
   もう一回。
二人同時に「ハッ!」
青山 「おっ。いいじゃん」
千佳 「隣見ながらやった」
青山 「カンニングかよ(笑)」
千佳 「……ねえ、こんなことしてるってど
 んな気持ち? 熱いの? ずっとカッカし
 てるの?」
青山 「……(首をかしげて)逆だな。とて
 も冷静で、水の中にいるみたいな感覚」
千佳 「?」
青山 「この競技は何に似てるか?って、考
 えたことはある。走り幅跳び、水泳の飛込
 み。でも俺の中では立ち幅跳びだな。とて
 も静かなところから最大を出す」
千佳 「静かなスポーツ」
青山 「俺の中ではね。水の中でじっとして、
 突然飛び出すイメージだな」
   イメージ。水の中で構える青山。
千佳 「……(深呼吸して動画再生)」
二人同時に「ハッ!」
   二人、ハイタッチ。
青山 「あ、めし食いに行く?って来たんだ
 った」
千佳 「あ、えー、お誘いはうれしいですが、
 そういうのはお断りします」
青山 「?」
千佳 「男女が一つ屋根の下にいるわけです
 し、お互い大人とはいえ、間違っちゃいけ
 ませんので。私たちはあくまでビジネスパ
 ートナーです。あ、お風呂とかものぞかな
 いで下さいね。洗濯も別々で」
青山 「あ、……はい」
   青山出ていく。
   千佳、深呼吸して、自分の高揚した気
   持ちをなだめるので精一杯。
 
〇新千歳空港に着く飛行機
 
T  「春」
   南国風の服を着た、陽気な色黒スキン
   ヘッドの久我原(40)が降りて来る。
 
〇同、到着ゲート
 
   出迎える青山、千佳。
青山 「久我原ァ!」
久我原「大吾ァ!」
   肘同士ハイタッチして殴り合う真似。
青山 「また、頼めるか」
久我原「フン。火野を越えるんだろうな?」
青山 「当然」
久我原「良く言った!」
   二人、固い握手。
   久我原、千佳に気づき。
久我原「あ、新しいコレ(小指)?」
千佳 「違います。ビジネスパートナーです」
久我原「えっ、……あっ、ビジネス的な、金
 銭での男女関係的な」
千佳 「ちがいます」
青山 「東京から来た記者さんだ。俺の復活
 記事を書く」
久我原「あー、そういうビジネス」
青山 「ちなみに、コーチ料は払えねえぞ」
久我原「ボランティアでいいよ。支度金は沖
 縄で貯めてきた」
   三人は歩き出す。
千佳 「沖縄?」
久我原「沖縄に移住して、海の家やってます。
 嫁を説得するのに大変だったよ!(笑う)」
   こっそりと青山に。
久我原「ヤッたのか?」
青山 「やってねえよ!」
 
〇居酒屋
 
   にて乾杯する三人。
久我原「久我原毅、泉千佳、青山大吾、この
 3人のチーム大吾ということで!」
   久我原、豪快に飲む。
   青山の取り皿に取られた、少ない量を
   見て。
久我原「……マジで復活するつもりなんだな」
青山 「今日からじゃないよ」
久我原「……ずっと?」
青山 「あの日からずっと」
   食べ始める。
千佳 「?」
久我原「ジャンプってのはね、体が軽い方が
 有利なのよ。競馬のジョッキーとかボート
 レーサーとかと同じ」
千佳 「丸の内OLのランチじゃん」
久我原「大吾、今BMIいくつ?」
青山 「18」
千佳 「モデル並みかよ!」
久我原「脱いだらすごいぜ、こいつ」
青山 「あほか。……ちょっとトイレ」
   席を立つ青山。
久我原「……(千佳に)俺もあおぞら牛乳所
 属の、元ジャンパーだったのね」
千佳 「そうなんですか」
久我原「でも大吾と火野が入社して来やがっ
 てさ。勝てる訳ねえじゃんコイツらにって
 思って、引退してバックアップに回ったの
 さ」
千佳 「それでコーチに」
久我原「ジャンプってのは競技人口300人
 いないんだ。周りを支える人、審判やジャ
 ンプ台を整備する人、駐車場の警備員すら
 元ジャンパーってことあるぜ」
千佳 「……そんなもんなんですか」
久我原「スキージャンプを支える人たちは、
 みんなエースに席を譲った人だ。誰もが自
 分より飛んで欲しいと願っている。アイツ、
 俺に何てメール寄こしたと思う?」
千佳 「?」
久我原「『つづきがしたい』、だってさ。そ
 んな事言われたら、嫁と子供置いて飛んで
 来ざるを得ねえよ。アイツの続きは、俺の
 続きでもあるんだ」
千佳 「……」
   戻ってきた青山。
青山 「?」
久我原「やっぱ君たち、ヤッた?」
千佳 「やってません」
 
〇川沿いの土手
 
   走る青山と久我原。
   スクワット。ジャンプスクワット。
   写真を撮り続ける千佳。
 
〇体育館
 
   エアマットを敷いて、ジャンプのフォ
   ームで飛ぶ青山。下で支える久我原。
   台車の上で構える青山。後ろから押す
   久我原。
 
〇あおぞらスイミングスクール、夜
 
   一人でプールサイドからジャンプのフ
   ォームで腹打ちし続ける青山。
   水の中の無音。
   水から顔を出す。荒い息。
 
〇夜、千佳の部屋
 
   冬のドローン映像をきっかけに、ブロ
   グ閲覧者が増えていく。
   トレーニングの写真。
記事 「青山大吾、復活へ本格始動」
   50PV、100PV、2000PV。
 
〇草原の中の産廃場
 
   車から降りる青島、千佳。
   千佳はシャッターを切る。
   牧場の中に空白地帯があり、被せた土
   の下に車など産廃物が見える。
青山 「見せたかったのは、これか」
千佳 「(うなづく)高齢化によって、酪農
 の継ぎ手が減って廃業が増えてるの。その
 土地を買い上げて、違法の産廃場にしてる
 奴らがいる。埋めてしまえば分らないって
 ね。土地欲しさに、牛乳の質が悪いからと
 難癖をつけて廃業に追い込む、悪質なケー
 スもあると聞く」
青山 「誰が?」
千佳 「あおぞら牛乳。北海道を代表する牛
 乳屋さんね」
   穴に降りて、中も撮る。
千佳 「違法なものを捨てる。地下水に毒が
 流れる。下流に伝わり、この先は次第に牧
 草が生えなくなる」
青山 「ひでえな」
千佳 「一か所じゃないわ。北海道中がだん
 だんこうやって歯抜けになっていっている。
 直接あおぞら牛乳がやっている証拠はない。
 土地がらみだから、きな臭い連中が絡んで
 るかも」
青山 「それでも協力しろと?」
千佳 「社内でしか見れないデータをコピー
 するだけでいい。それと先輩の残したデー
 タや私の調べたリストの重なりがあれば、
 そこを掘れる」
青山 「……」
   緑豊かな牧草地帯。
千佳 「この大地を、二度と牧草の生えない
 場所にするつもり?」
 
〇朝日三望台シャンツェ
 
T 「夏」
T 「朝日三望台シャンツェ ヒルサイズ4
 5m クラレ高梨沙羅杯サマージャンプ朝
 日町」
   緑の人工芝に、散水されている。
   足元まで流れてくる水。
千佳 「そもそもサマージャンプって知らな
 かったし! 水で摩擦を減らしてるん
 だ!」
   写真を撮りまくる。
青山 「スモールヒルなんて小学生サイズだ
 ろ」
久我原「公式試合の復帰第一戦だ。まずはこ
 こで勝て」
 
〇同、スタート台の上
 
   青山、スタートバーに。
   コーチボックスにいる久我原。
   下の観客席で、カメラを構える千佳。
   深呼吸する千佳。
   青山の呼吸。
   二人の呼吸が一致してくる。
青山 「……」
   イメージ。水の中で構えている。
   ふと横を見ると千佳もいて、カメラを
   構えている。
   青山の主観。アプローチ。ジャンプ。
千佳 「ハッ!」
   フライト。伸びる。
   ダン、と着地。
千佳 「来たーッ!」
   スコアボードには「一位 青山」。
 
〇名寄ピヤシリシャンツェ
 
T  「名寄ピヤシリシャンツェ ヒルサイ
 ズ100m サンピラー国体記念サマージ
 ャンプ大会」
   青山の主観カメラ。見事なジャンプ。
 
〇ブログの画面
 
記事 「青山大吾、閃光の復活劇!」
記事 「クラレ高梨沙羅杯優勝! サンピラ
 ー国体記念優勝!」
   写真が多数。PV3000。
 
〇大倉山ジャンプ競技場
 
   ランディングバーンの途中の、ある一
   点まで歩いてくる青山。
   そこに座り、人工芝を撫でる。
   回想。落下して雪煙に包まれた青山。
   その落下地点だ。
青山 「……帰ってきたぞ」
   立ち上がり、そこからの眺めを見る。
T  「大倉山ジャンプ競技場 ヒルサイズ
 137m 札幌市長杯」
千佳 「ぎゃー!」
   ブレーキゾーンでは、グラススキーを
   履いた千佳が転んでいる。
千佳 「水、滑る!」
   青山、ランディングバーンから叫ぶ。
青山 「転んだことのないスキーヤーはいな
 い!」
   ×   ×   ×
   主観カメラ。直滑降。
   大ジャンプ、そして着地。
久我原「もらったァー!」
   青山に走り寄る久我原、千佳。
   青山、スーツの半身を脱ぐ。
   3人でハイタッチ。
千佳、久我原「あっつ!」
   青山、笑う。
久我原「これで青山大吾完全復活!」
青山 「いや……まだだ」
久我原「は?」
青山 「まだ火野とやってねえ」
千佳 「ハイハイハイ! とっておき情報入
 手!」
久我原「何?」
千佳 「現在火野はサマージャンプのワール
 ドカップの為フランスからポーランドに移
 動中ですが、その次のロシアまで一か月空
 くため一旦帰国、長野白馬の大会にて調整
 予定!」
青山 「じゃ……長野に行けばやれんのか。
 アイツと」
 
〇ブログの画面
 
記事 「青山大吾サマージャンプ三連勝!」
記事 「長野白馬にて、火野と青山再戦!」
 
〇あおぞらスイミングスクール内
 
   デッキブラシで掃除している青山。
   そこに三上(50)が声をかける。
三上 「青山くん、ちょっと」
 
〇同、事務所
 
   タブレットに立ち上がった、千佳のブ
   ログ画面。青山優勝記事。
三上 「ウチはあおぞら牛乳の子会社の施設
 で、君は本社から出向という形で来てるん
 だ。だから本社のスキー部の、邪魔をして
 ほしくないんだよね」
青山 「……親会社から、やめさせろとでも
 言われたんですか?」
三上 「いや、そういう訳じゃないんだけど」
青山 「有給取ってスポーツをする範囲内な
 ら、個人の自由ですよね?」
三上 「理屈の上ではそうだが、ほら、きみ
 は元全日本の二番だったわけでしょ? 万
 が一、一番と争うようなことになったら、
 迷惑がかかる」
青山 「迷惑?」
三上 「あおぞら牛乳はスキー部を縮小した
 し、きみが親会社のスキー部に戻ることは
 出来ないぞ」
青山 「知ってます。さっきから何を心配し
 ているんですか?」
三上 「いや、正直、私は親会社から睨まれ
 たくないのさ」
青山 「……迷惑はかけませんよ。かけるく
 らいになったら、会社辞めます」
三上 「助かる。……あ、いや、上司は引き
 止めないといけないんだった」
青山 「……」
 
〇同、事務所、夜
 
   一人しかいない事務所。
   ノートPCを開ける青山。
   「あおぞら牛乳社内ネットワーク
    ID/パスワード」のページ。
   パスワードを打って入る。
   取引記録フォルダへ。
   アクセスしようとすると、警告が出る。
警告 「出向中の社員は制限されています。
 本社社員のみ入れます」
青山 「……」
   hino@aozora.co.jpと打ってみる。
   「パスワード」の文字。
   回想。あおぞら牛乳社内。
火野 「俺は好きな女の名前しかパスワード
 にしないよ?」
   回想。ホテルから出てくる火野と薫。
   「kaoru」と入れる。
   「ログインします」と表示。
青山 「……」
   いろいろなフォルダを開け、ローカル
   にコピーする。
 
〇千佳の部屋、夜
 
   原稿をタイプしながら読んでいる。
千佳 「青山大吾のジャンパー特性はフリー
 ガータイプである。ジャンパーは大きく分
 けて二種類いる。パワージャンパーとフリ
 ーガーだ。足の力を使い、強く高く飛ぶの
 がパワージャンパー。低く飛び出し、空中
 制御を繰り返し、揚力を使って長い距離を
 飛ぶのがフリーガー。青山は後者だ。繊細
 な神経を必要とし、1ミリずれてもダメな
 コントロールを利かせ続ける。冷徹な判断
 力、全身の制御能力が必要で……」
   青山、開いた扉をノックする。
千佳 「どうぞ」
青山 「詳しいな」
千佳 「こういう解説があると、ジャンプは
 より面白くなるでしょ」
青山 「会社のフォルダは、大体見た」
   USBメモリを渡す。
千佳 「えっ」
青山 「あおぞら牛乳と取引した不動産屋の
 記録自体はなかったが、一応コピーした」
千佳 「ありがとう」
青山 「利用価値がなくて済まん」
千佳 「別に、あなたを利用しようって魂胆
 じゃないし」
青山 「でもまさか、ここまで来れるとは思
 わなかった。それには感謝してるよ」
千佳 「……珍しいわね。あなたが人に礼を
 言うなんて」
青山 「俺だってありがとうくらい言うよ」
千佳 「最初のあなたは、人を怖がって遠ざ
 けてる捨て猫みたいだったけど」
青山 「あんたはいつもはしゃいでる犬みた
 いだったけど?」
千佳 「ふふ」
青山 「……ふん」
 
〇長野、白馬ジャンプ競技場
 
T  「白馬サマージャンプ大会 長野県白
 馬ジャンプ競技場 ヒルサイズ131m」
   車から降りた三人。
久我原「相変わらず白馬の空気は濃いな!」
千佳 「濃い?」
久我原「緑が濃い! そのせいか、揚力が北
 海道より出る感じがある!」
千佳 「日本でそんなに変わらないでしょ?」
久我原「俺には分る。な?(青山に)」
青山 「変わらんよ」
   ずっこける久我原。
 
〇同、控室
 
   板をかついでやって来る青山。
   皆、ざわつく。
ジャンパー「青山……」
ジャンパー「青山……」
   青山の歩いてゆく先は、取り巻きに囲
   まれた火野。
火野 「青山! 復帰したんだってな!」
   取り巻きを割って青山の所へ走り、肩
   を叩く。
青山 「ああ」
火野 「どこまで戻った?」
青山 「お前と、勝負できるまで」
火野 「……相変わらず怖い顔してるな! 
 よし、楽しみになってきたぜ! 調整のつ
 もりだったけど、本気出しちゃうぞ!」
 
〇同、予選
 
T  「予選」
   赤いスーツの火野の力強いジャンプ。
   力強く蹴り、高く飛ぶジャンプ。
   暫定1位。
   それを見る久我原、千佳。
千佳 「あれがパワージャンパーの飛行曲線
 かー」
久我原「見方がもう素人じゃねえし」
千佳 「青山大吾は全然もっと低い」
   青山の番。低くて遠く長く飛ぶ。
久我原「よし、決勝進出はもらった!」
   スコアボードには「12位青山大吾」。
 
〇同、決勝
 
T  「決勝」
   ジャンプ台の上の、決勝メンバー待機
   列。30位から順に飛んでいく。
   そろそろ青山の番。
   一番上にいる火野のそばを通り過ぎる
   時に。
青山 「またお前と闘える。それだけを励み
 にしてきた。子供の時にお前が誘ってくれ
 たから、俺はここまで来れたんだ」
火野 「……?」
青山 「?」
火野 「そうだっけ?」
   回想。ソリに乗る少年青山に、手を差
   し伸べた少年火野。
青山 「俺が土手でソリに一人で乗ってたら、
 『スキーやりなよ』って」
火野 「(考える)……あったかなあ。多分
 そうした方が優しくてカッコ良く見えるか
 ら、俺そうしてただけじゃね?」
青山 「……」
火野 「まあいいや! あったことにしとこ
 う! はは!」
青山 「……」
   青山、ジャンプ台に向かう。
火野 「青山」
   青山、振り返る。
火野 「薫は、俺の方が昔から好きだったそ
 うだぜ」
青山 「……」
   動揺を隠せないまま、ジャンプの番が
   来る。
   スタートバーに構える青山。
   コーチボックスの久我原も遠く見える。
   下から見ている千佳。
   イメージ。
   水の中でカメラを構える千佳。
   しかし青山がいない。
   千佳はカメラから目を外し、現実の青
   山を見る。
青山 「……」
   動悸が激しく、脂汗。
   風。
   吹き流しが真横に強く流れる。
   その横風を、青山はもろに受ける。
青山 「……!」
   フラッシュバック。
   大倉山の横風。空中で体勢を崩す。
   雪煙を上げて落下。
青山 「あ……あ……」
   さらに強くなる横風。歪む視界。
   天地が逆になる。
   ざわつく周囲。
久我原「何やってんだ青山! 10秒ルー
 ル!」
   カウントダウン、4、3、2……
   青山、顔面蒼白のままアプローチ。
   横風、強く吹く。
青山 「あ……あ……」
   膝を抱えて恐怖に丸まってしまう。
   下向きのジャンプ台から、ただ下向き
   にぽとりと落ちる。
千佳 「えっ」
火野 「……」
久我原「あー……」
   ジャンプ台に吹いていた横風が、よう
   やく千佳のところにもやって来る。
   強風で髪を乱される千佳。
   青山、膝を抱えたまま下まで滑ってく
   る。
   強風の音だけが、ただ響く。



(3/4につづきます。
最悪の事態を切り抜ける手段は? 迫りくる不正の闇。)
https://note.com/oooka_/n/nfcc4d0b826a8


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