映画シナリオ「寒がりジャンパーの一番熱い日」(3/4)
(2/4からのつづきです。
夏の大倉山で、何もできずただ落ちた青山。
火野はどんどん遠くへ行く。
落ちたのは風のせいか? 恐怖のせいか? 火野のせいか?)
〇青山の家、リビング
ソファーにただ寝て、天井を見ている
青山。
〇昔のインタビュー映像
青山 「ジャンプ台は下を向いている。そう
言うと普通の人は『え? 上を向いてて、
その勢いで飛ぶんじゃないの?』って驚き
ます。そうじゃないんですよ……」
千佳のブログに心無いコメント。
コメント「下向きに飛んでて草」
コメント「口だけ番長」
コメント「期待外れです」
〇ニュース
字幕 「スキージャンプの帝王、火野翔入籍」
字幕 「お相手は学生時代からの恋人」
その写真。火野と薫。
驚く千佳。
〇青山の家、リビング
ノートPCをもって階段を駆け下りて
来る千佳。
千佳 「知ってた? これ……」
ニュースを見せる。
青山 「知ってたよ」
千佳 「えっ? えっ……元奥さんでしょ?」
青山 「もともと高校のときは、彼女は火野
と付き合ってた」
千佳 「嘘」
青山 「元鞘だな。それがこっちの離婚の原
因。息子が俺の子なのは確かだけど」
千佳 「(かける言葉がない)あ……あの…
…」
青山 「落ち込んでる暇はない。恐怖の原因
は特定できたんだ」
千佳 「え?」
青山 「……風」
〇札幌市内、電気屋
扇風機コーナーにいる青山と千佳。
千佳、扇風機に向かって。
千佳 「あー(変な声になる)。つまり、強
烈な風が来たら、体がすくむってこと?」
青山 「そう(変な声)」
千佳 「すくんでなくない?」
青山 「足りない」
強のボタンを押す。首をかしげる。
業務用のサーキュレーターを最強に。
千佳の帽子が飛ぶ。
青山 「……(店員に)これ5個下さい」
〇青山の家、リビング
サーキュレーターを5個並べた。
千佳、スイッチオン。
その風の前に、恐る恐る立つ青山。
× × ×
フラッシュバック。横風。落ちる主観。
白馬の吹き流し。すくんだ自分。
× × ×
横を向く。
横風を受ける青山。
呼吸が荒くなってくる。
辛そうな顔を見てスイッチを切る千佳。
青山 「何やってんだ! もっと! もっと
風をくれ!」
再びオンに。
横風を受け続ける青山。
〇夜、リビングでの食事
千佳 「前から思ってたんだけど」
青山 「何?」
千佳 「あんた、感情の起伏小さくない?
喜ぶならもっと派手にするだろうし、落ち
込むなら号泣したりするんじゃない?」
青山 「昔から言われる。鉄仮面とか、感情
読みにくいとか。だから元嫁ともうまくい
かなかったんじゃないか」
千佳 「……」
青山 「黒猫がさ」
千佳 「?」
青山 「昔、黒猫と白い犬を実家で飼ってて
さ。ある日犬が死んでね、黒猫は一度も鳴
きやしなくて、犬から離れない、とかもな
かった。すっと居なくなって、ふっと帰っ
てきたり。随分ドライなんだなあって思っ
たんだよ。だけど」
千佳 「だけど?」
青山 「一週間何も食べなかった。病気じゃ
ないかと心配して医者に診せたら、『分り
にくいけど、彼女なりの悲しみの表現だ』
と言われたのさ」
千佳 「……」
青山 「悲しんでない訳がないんだ。そうい
う悲しみ方もあって、ただ外から見えない
だけで、本当は感情は爆発しているんだ」
千佳 「……」
思わず立ち上がって、彼を抱きしめる。
青山 「な、なに?」
千佳 「大丈夫。大丈夫だから! 絶対克服
できる。風。たかが風でしょ? 絶対なん
とかなる!」
急にわあわあと泣き出す。
青山 「……うん」
千佳 「(思わず抱きしめたことに気付き、
離れる)あ、じゃあ、そういうことで!
明日は私取材です」
二階へバタバタと上がっていく。
青山 「……」
千佳 「え?」
青山 「……ありがとう。代わりに泣いてく
れて」
千佳 「……」
うなづいて、二階へ。
〇体育館
サーキュレーターや扇風機を沢山並べ
て、強風をつくる。
横風を受け続ける青山。
久我原「どうなんだ!」
青山 「全然いける!」
久我原「じゃあ次!」
〇宮の森ジャンプ競技場
発電機をかける久我原。
ジャンプ台の上にサーキュレーターな
どを持ち込んでいる。
青山 「これだよ!……これだよ!……」
目隠しをする青山。
畳を持ってきて、風を隠したり、いき
なり突風をつくったりする久我原。
それに耐える青山。
〇居酒屋
相変わらず青山の皿は少なめ。
久我原「俺思うんだけどさ」
青山 「なに」
久我原「パワージャンパーに転向したらどう
だ?」
青山 「は?」
久我原「パワーでドーンと飛べばさ、高さが
出て、風を利用せずとも飛べるだろ。低く
出て風に乗るお前のスタイル全否定になる
けどさ」
青山 「……火野のスタイルを真似しろと?」
久我原「まあ、結果的に」
青山 「……それは、俺のやりたかったこと
か? 俺の続きか?」
久我原「自分のスタイルに拘って、自分のや
り方で勝利したいのか。それともただ勝ち
たいのか。どっちがお前の『つづき』だ?」
青山 「……」
久我原「もしあの事故がなかったとして」
青山 「……」
久我原「もしあの事故がなかったら、お前は
ずっとそのスタイルで勝ち続けてたか?
それとも別のやり方に進化したか?」
青山 「……」
〇青山の家、リビング、夜
ソファに寝転ぶ青山。
帰って来る千佳。
青山 「おかえり」
千佳 「あの!」
青山 「?」
千佳 「私すごいアイデア思いついたんだけ
ど!」
青山 「?」
千佳 「パワージャンパーになったら、風の
影響受けにくくない?」
青山 「(思わず笑う)」
千佳 「?」
青山 「二人とも同じこと言うのかよ。久我
原にも言われたわ」
千佳 「青山大吾のことは、私が一番考えて
るし!」
青山 「事故らなかった世界線の青山大吾は、
……あっちの世界の俺は、フォーム改造に
挑んだかな?」
千佳 「……青山大吾である限り、私はやる
と思う」
青山 「……」
千佳 「負けず嫌いだし」
青山 「……ふん」
〇土手
ひたすらスクワットする青山。
正座した状態からジャンプして空気椅
子になる練習。太ももが悲鳴を上げる。
〇ジム
レッグカールを続ける青山。
滝のような汗。一回一回悲鳴を上げる。
久我原「チキンレッグって知ってるか! 足
の筋肉は腕に比べてつきにくい! だから
楽勝な上半身だけやって下半身サボった奴
は、鶏の足みたいに足だけヒョロガリなん
だってさ! お前のやるべきことはその逆
だ! 競輪選手みたいになってみろよ!」
青山 「あー!」
〇土手
柱に低いロープを渡し、綱渡りで体幹
のバランスを鍛える青山。
ヨガの斜めプランクの姿勢で足を延ば
したり畳んだりして、深層筋を鍛える。
〇バーベルを担いでスクワットする青山
久我原「限界までやれ! 限界までやれ!
限界までやって無理ってなる所からもう十
回やるんだよ! お前は阿呆か? 火野に
負けて下に落ちるだけの阿呆か? たかが
そよ風にビビる阿呆か? それを越えろ!
火野より太い足になって、火野より高く
飛んで見せろよ! 一! 二! 三! 四
! 地味だぞ! 地味だぞ! この地獄を
抜けろ! 地味地獄を抜けろ! まだ限界
じゃねえ! まだ限界じゃねえ!」
青山 「あああああああああ!」
〇体育館
立ち高跳びをして、黒板にチョークの
粉をつける青山。
それは少しづつ伸びてゆく。
〇とある不動産屋
で話を聞いている千佳。
千佳 「以上です。お話ありがとうございま
した」
ICレコーダーを止める。
不動産屋「……あのさ」
千佳 「?」
不動産屋「東京から来たんでしょ? よそ者
が、この件に首突っ込まないほうがいいと
思うよ?」
千佳 「……どういうことですか?」
不動産屋「あおぞら牛乳さんは、北海道一の
企業さんだ。みんな何かしら関連して仕事
をもらってる。つまり北海道全体があおぞ
らさんで持っているようなものだ。それが
潰れたら? 何とか持ちこたえている北海
道が破綻するかも知れない。外国人が土地
買ったりしてるしさ」
千佳 「……あおぞら牛乳に正義があると?」
不動産屋「そうは言ってない。ただ、みんな
嫌がるだろうなってことさ」
〇路地裏
後ろから妙な連中に尾けられている。
突然、走り出す千佳。それに気づいて
追いかけてくる連中。
大通りに出た千佳。
人の目があることに気づき、睨む連中。
息を切らした千佳、人波に紛れる。
〇走る青山の車の中
青山 「それで俺と一緒に行動だって?」
千佳 「しばらくはボディーガード替わりに」
青山 「足がガクガクすぎて走れねえかもよ」
車線に割り込んできた車にクラクショ
ンを鳴らす。
青山 「ざけんなよ!」
千佳 「……最近、良く怒るようになった」
青山 「? 久我原の練習がキツイからだろ」
千佳 「体を縮こませてる黒猫だったくせに、
最近随分人に慣れて、感情を出してくるよ
うになったと思う」
青山 「……犬野郎のせいだな」
千佳 「……ふふ」
と、千佳のスマホが鳴る。
千佳 「……警察? (出る)はい……はい
……私です。泉です。……」
悪いニュースに、ぎゅっと目をつぶる。
青山 「……?」
千佳 「……分りました。確認、しに行きま
す……」
電話を切る。
体が震えている。
〇とある漁港
網からピチピチの魚をあげている漁港。
警察が待っている。
千佳が現れ、深々とお辞儀を。
〇霊安室
遺体袋を開ける警察。(中は見せない)
ハンカチで口元を覆いながら確認する
千佳。悲痛な表情でうなづく。
千佳 「たしかに、谷口拓真さんです」
〇その外の廊下
ファブリーズを千佳にかけてくれる刑
事。
刑事 「なかなかニオイ、取れませんからね」
自分にもかけている。
刑事 「谷口さんは事故死ではないと我々は
考えます。釣りが好きだった訳でもないし、
海水浴場があるわけでもなし、自殺か、あ
るいは。あの海は海流が速くて、沖のほう
に流されやすくてね。地元なら知ってるで
しょう。たまたま網にかかったのは、魚が
豊漁で沖まで漁師が出たからですな」
千佳 「事故じゃなく事件だとして、誰が」
刑事 「まだ分かりません。谷口さんが北海
道に来てからの足取りを丹念に追っていま
す。たまたま後輩のあなたが札幌に来てい
ると聞いて」
千佳 「ありがとうございます。尊敬できる
先輩に、せめて直接会えて良かったです」
刑事 「……何か、知りませんか」
千佳 「播磨山新聞社を辞めてからは、一度
も連絡がなく、分りません」
刑事 「失礼ですが、北海道には」
千佳 「知り合いの取材に」
刑事 「ありがとうございます。こちらから
聞きたいことがあれば、また連絡します」
〇電車の中
向かいの席で、ずっと千佳を見ている
男がいる。
〇無人駅
で降りる千佳。
男も降りて来る。
発射ベルと同時に、ぎりぎりで電車に
乗る千佳。
ドアが閉まり、男はホームに取り残さ
れる。
〇別の駅、夕
車で迎えに来た青山。
安心した千佳、抱きついて思わずわあ
わあ泣いてしまう。
〇夜、青山の車の中
千佳 「北海道に来たら、ひょっとして先輩
に会えるかもなんて思ってた。私何やって
んだろ。私何やってんだろ……」
両手で顔を覆う千佳。ぼろぼろと涙が
こぼれてくる。
青山 「……」
背中を撫でてあげる青山。
青山の頬に涙がひとすじ伝う。
青山 「俺が、代わりに泣くよ」
千佳 「……」
暗闇の中を、車は進む。
〇翌朝、千佳の部屋
目覚める千佳。
× × ×
回想。新聞社、夜遅く。
谷口(32)「千佳、俺の憧れの人を紹介した
い!」
PCで青山大吾のジャンプ姿やインタ
ビューを見せる。
谷口 「すげえんだよ青山大吾。『ジャンプ
台は下を向いている。だから上に向かって
飛ぶ』。すごくない?」
千佳(22)「はあ」
谷口 「俺、世界で一番いいシャシンって、
人が前に向かって歩く写真だと思うんだ。
でもこの人、斜め上に向かってる。すごい
よね」
千佳 「斜め上に向かってる」
谷口 「俺らブン屋はさ、見ることしかでき
ないのね。政治家じゃないし、クリエイタ
ーでもない。見ること、書くことしかでき
ないんだ。だからこそ、正しくものを見て、
正しく書かなきゃいけないんだ。それが斜
め上だぜ? 笑っちゃうよな」
千佳、谷口の笑顔につられて笑う。
× × ×
千佳 「……」
朝の来た世界を、眺めている。
〇動物園、秋
T 「秋」
春馬 「もう少し、ライオン見ていい?」
青山 「いいよ。あー、……火野……新しい
お父さんはどうだ?」
春馬 「まだ慣れてない」
青山 「そうか」
春馬 「でも大吾さんも、慣れてなかったし」
ライオンの方へ走っていく。
遠くで見ていた薫の向かいの席に、青
山は座る。
薫 「春馬と遊ばないの? 親権の行使が
出来る日よ?」
青山 「うん。まあ、一か月分は遊んだろ」
薫 「……今季のシーズン前に、結婚式は
済ませる」
青山 「おめでとう」
薫 「……」
青山 「……」
薫 「私ね、エキセントリックな人が好き
なのね。あなたと高校で付き合って、結婚
したのは、あなたの方が火野よりエキセン
トリックに見えたから」
青山 「今はむこうがそうか」
薫 「ええ。あなたは時々何を考えている
か分らない。それが昔はエキセントリック
に見えたけど、今は暗黒の孔を覗いている
ようで怖い」
青山 「とくに何も考えていないよ。……黒
猫みたいなものさ」
薫 「猫は嫌い」
遠くで春馬が手を振る。
薫と青山、手を振り返す。
薫、時計を見て。
薫 「もうすぐ迎えに来るけど……会って
おく?」
青山 「?」
薫 「火野に」
〇同、駐車場
赤いポルシェで迎えに来ている火野。
火野 「よう」
青山 「……」
いきなり火野の太腿をさわる。その筋
肉量を確かめるように。
火野 「なんだよ」
青山 「世界一のパワージャンパーになるに
は、ここまで鍛えるのか」
火野 「なに? 離婚とか再婚とか、親権の
話じゃないの?」
青山 「俺、フリーガーからパワージャンパ
ーに転向しようと思ってさ」
火野 「は? 風に乗るのが得意なお前が?」
青山 「それが風を怖がってるんだ。風をぶ
ち抜くスタイルになるしかねえだろ」
火野 「お前。まだ続けんのか」
青山 「勿論」
火野 「じゃ触るな」
青山 「……」
火野 「これは俺の秘密だ」
青山、離れる。深く一礼。
青山 「そうだな。俺が甘えてた。非礼を詫
びる」
去ってゆく青山。
火野 「久し振りに親友と再会して、話すこ
とがそれ?」
青山 「いや。……6年分は話したよ」
去ってゆく青山の背中。
火野、思わず薫の肩を抱き寄せる。
〇土手、秋から冬へ
土手でひたすらバーベルスクワットを
続ける青山。
雪が降って来る。
周囲は1カットで秋から冬の雪景色に
変わっていく。青山の周りだけ雪が積
もらず、汗がぽたぽた落ちている。
吐く白い息も、大きくなってゆく。
T 「冬」
〇カメラの映像、滑り台の公園、雪一面
千佳 「やって参りました! 私たちの季節
! ジャンプの季節! イヤッホゥー!」
と公園の滑り台から両足で滑って、ス
キージャンプのように飛び、着地。
しかし転んで大爆笑。
〇夜、千佳の部屋
で、それを編集している千佳。
青山 「何これ? ユーチューバー?」
千佳 「雪が今見れるのは北海道だけなので、
意外と伸びてる。ブログのアクセス数は落
ちていないし、それだけ、あなたを待って
る人がいる」
青山 「取材はどう?」
千佳 「北海道の不動産屋をぜんぶ回るのは、
さすがに骨が折れる」
青山 「全部回ったの?」
千佳 「(首を振る)いよいよこのチャンネ
ルで、情報提供を募るかなー」
〇天気が悪く、吹雪が来そうな日
〇千佳の部屋
いつものようにドアが開いてて、ノッ
クして入る青山。
青山 「いないか」
ノートPCにはユーチューブの画面が
立ち上がっている。
「ライブ」の文字があり、画面の中に
は、雪の公園の中の千佳が。
千佳 「ハイ! 『ジャンプ台は下を向いて
いる』のライブ放送始めました! さて今
日は! ヒルサイズ3mの手作りジャンプ
台! テッテレー!」
雪でつくった小さなジャンプ台が。
千佳 「今から飛びます! 面白いと思った
人、実は聞きたいことがあるんです!
『あおぞら牛乳の土地買収の件』で変なこ
と聞いてないですか! 情報収集中です!
私こう見えてもジャーナリストなので!
その取材のためにここに来たので! じ
ゃあ飛びます! ぎゃあーっ!」
直滑降、飛ぶが大転倒。
表情が柔らかくなる青山。
と、机のそばの鞄が開いてて、中のも
の(この時点では観客に見せない)を、
見てしまう。
青山 「……(驚く)」
窓の外の天気が怪しいことに気づく。
青山 「吹雪くぞ。こんな日に外にいたら…
…。あ、そんなの道民じゃないと気づかね
えか」
慌てて部屋を出る青山。
〇ホワイトアウトしてゆく視界
〇吹雪の公園
風が強く、視界はほとんど白。
車から降りて叫ぶ青山。
青山 「オイ! 千佳! 千佳!」
スマホを確認する。
「ライブ」のままの画面は真っ白。
青山 「ヤバイ。遭難するぞこれ」
白い嵐の中へ歩き出す青山。
青山 「千佳! 千佳!」
白い視界の中に、雪でつくった小さな
ジャンプ台がうっすらと見える。
青山 「千佳!」
ジャンプ台の反対側に、風をよけるよ
うに千佳が倒れている。
青山 「オイ!」
走り寄る青山。抱きあげる。
千佳 「(意識を取り戻す)あれ? 青山?」
青山 「大丈夫か!」
上着からカイロを出し、彼女の頬に当
てる。
千佳 「大丈夫、そんな寒くないし」
青山 「それ、自覚症状がないってやつだ!
……失礼!」
上着の隙間から、首の後ろ、お腹と背
中にカイロを突っ込む青山。
千佳 「……あ。あったかいじゃん」
青山 「お前今自分が死にかけてんの、分っ
てんのか?」
千佳 「……カメラ」
雪に埋もれつつあるカメラ。
千佳 「カメラ冷たくてさー。指の感覚なく
なっちゃって」
青山、慌てて手袋の上から、千佳の指
を一本一本ぎゅっと握って確認。
青山 「これは? これは? これは?」
千佳 「? 今の、感覚ない」
千佳の手袋を取る青山。カイロを握ら
せる。しかし握力がないのかポトリと
落ちる。
千佳の指を口に含んで温める。
千佳 「あ……熱い。あったかい」
次々に口に含む。薬指、小指。
カイロを握らせて手袋をかぶせる。
青山 「立てる?」
千佳 「むり」
小さなジャンプ台が、風を遮っている。
白の中には、ハザードのぼんやりした
光しか見えていない。
と、突風でジャンプ台が崩れる。
大量の雪が二人に注ぐ。
青山 「クッソ!」
雪の塊をはねのける青山。
崩れた雪を使って、周囲に壁を作りは
じめる。
千佳 「?」
青山 「カマクラをつくるんだ。吹雪がやむ
まで、生き延びるぞ」
壁のような、カマクラのようなもの。
千佳を風から守って抱きしめる。
服の上から全身をこする。
轟音とともに突風が天井を崩す。
青山 「クッソ!」
千佳を庇う青山。
顔面に、右から突風を浴びる形に。
青山 「……!」
千佳 「私たち、死ぬ?」
青山 「死ぬかよ! 札幌市内だぞ? この
程度の風で! この程度の吹雪で! もっ
と吹いてみろよ! もっと横風を浴びせろ
よ!」
横風に立ち向かう青山。
千佳を抱きしめるように。
千佳 「ウィスキー持った救助犬、来ないか
なあ」
青山 「じゃあ、恥ずかしい話してやるよ!」
千佳 「?」
青山 「鞄開いてたから、偶然見ちゃった!
クラッカーと、台本が入ってた!」
× × ×
初めて出会ったとき。クラッカーを鳴
らした瞬間。
鞄の中のクラッカーたち。
セリフがメモしてある。
「おめでとう青山大吾! あなたは私
に取材されるチャンスを得ました!」
× × ×
青山 「俺、君は図々しくて強引な女だと思
ってた」
千佳 「……」
青山 「あのキャラ、つくってたんだな!」
千佳 「……(顔が真っ赤に)」
青山 「ウィスキーになったか!」
千佳 「むかつく。ほんとむかつく」
青山 「血が循環すりゃなんでもいい。助か
ってからケンカしよう!」
強い横風。
青山 「ちくしょう! ブリザードでもなん
でも来い! 風! 風! 風!」
横風を受け続ける青山。
抱き合う二人。
〇青山の車の中
窓が雪に埋もれていて、外が見えない。
がちゃりとドアが開く。
雪が落ちる。外は太陽と青空。
千佳、乗り込む。
青山も乗り込む。
青山の顔半面に雪が凍り付いている。
千佳は笑ってルームミラーを示す。
青山、それに気づいて、雪を張り飛ば
す。二人、大笑い。
〇体育館
サーキュレーター10台の風を浴びる
青山。
久我原「どう?」
青山 「吹雪よりぬるい」
二人、拳を合わせる。
× × ×
立ち高跳び測定用の黒板に、チョーク
でスケジュールを書く久我原。
左の列に、青山のこれからのスケジュ
ール。右の列に火野のもの。
左は一番上に「W杯 大倉山」。
その下に「HTV杯、STV杯 大倉
山」「全道ノルディック 下川」「ピヤ
シリ 名寄」……と国内の予定。
右の列は、USA、GER、POL、
AUT……など外国名ばかり。
久我原「冬季スキージャンプのワールドカッ
プは、北欧を中心に9か国23か所を回る。
火野はワールドチャンピオンとして今年も
全試合出る。だが大吾にその出場権はない」
青山 「金がなくて外国行けねえし」
久我原「出場ポイントもってねえからだろ!
(スケジュールを見て)大倉山で行われる
ワールドカップ札幌ラウンドも、火野は帰
国して出場する。ヤツと試合できるのは、
今季ここしかねえ。そこで俺が天才的な計
画を立てた。国内大会のHTV杯とSTV
杯はコンチネンタルカップ。ここで5位以
内に入れば、ワールドカップに出られる」
千佳 「5位? 厳しすぎる!」
青山 「脅すなよ。開催国枠で13位までO
Kだろ」
久我原「ちっ。ハッパかけようと思っただけ
だよ」
久我原、大倉山から下川、名寄に線を
引く。
久我原「前哨戦の名寄、下川、HBC杯に出
て調子整えるぞ。幸い全部北海道だ。車で
行ける」
青山 「下川とか夏でも4時間半かかるぞ」
久我原「俺が運転するわ」
千佳 「私も代わります」
久我原「大倉山に向けて、パワージャンプス
タイルを完成させるぞ」
青山 「……もうできてる」
久我原「は?」
青山、その黒板に走り跳躍、一番上の
「大倉山」を消すほど届く。
久我原「……」
青山 「(にやりと笑う)」
(4/4につづきます。
舞台は整った。あとは静かな水の中から飛び上がるだけである。)
https://note.com/oooka_/n/n34112e455509
