映画シナリオ「寒がりジャンパーの一番熱い日」(4/4終)
(3/4からのつづきです。
ロード・トゥ・火野。もう一度彼と相まみえるには、ワールドカップ札幌しかない。その出場権をかけて、青山は北海道中の試合に出る……!)
〇北海道、名寄ピヤシリシャンツェ
T 「北海道名寄 ピヤシリジャンプ大会
ヒルサイズ110m」
で飛ぶ青山。
〇北海道、下川シャンツェ
T 「北海道下川 全道ノルディック大会
ヒルサイズ68m」
で飛ぶ青山。
〇大倉山ジャンプ競技場
T 「北海道札幌 大倉山ジャンプ競技場
HBC杯 ヒルサイズ137m」
で飛ぶ青山。
アナウンサー「青山大吾! 6年間の沈黙を
破り、劇的な復活を遂げました! 暫定3
位! 現役ジャンパーと競います!」
解説 「青山、飛行曲線が変わりましたね。
以前のフリーガースタイルから、まるで王
者火野選手のような、火が出るようなパワ
ージャンプに変えてきました」
アナウンサー「スタイルチェンジは珍しいで
すね。新生青山といった所でしょうか!」
ジャンプを終えた青山に駆け寄る千佳。
動画カメラを向ける。
千佳 「3位おめでとう!」
青山 「……俺より飛ぶ奴が、あと2人いる
だと?」
この発言が、ユーチューブで拡散され
る。
〇そのユーチューブ画面
〇夜、千佳の部屋
再生数をチェックする。すでに10万
再生を越えた。
ブログにメールが届いているのに気づ
く。
「匿名の内部通報者」とある。アドレ
スはランダム文字の捨てアカのようだ。
千佳 「(文面を読む)あおぞら牛乳の不正
記録、取引不動産屋の記録を送ります。ブ
ログや配信で公にすべき内容です」
慌てて開いて内容を確認。
〇同、リビング
ドタドタと階段を下りてくる千佳。
千佳 「あ……! あ……! あ……!」
青山 「何だよ、落ち着けよ」
千佳 「あ……あ……あ……(深呼吸)……
来た」
青山 「何が?」
千佳 「不正の証拠! 内部通報者がガチで
来た! いろいろやってたことが、ついに
実ったの!」
青山 「落ち着け。偽物かもよ」
千佳 「これから確認する。もし本物なら…
…」
青山 「俺が火野に勝つ瞬間が、一番みんな
が注目するな。そこで公開か」
千佳 「まさに。ていうか、勝つつもりね?」
青山 「当然」
千佳 「……」
青山 「一人じゃ多分まだ風が怖かった。き
みを風から守って、初めて怖くなくなった」
千佳、うなづいてノートPCを見せる。
千佳 「10万字でも100万字でも書いて
やる。今度は私が闘う番」
階段を上がってゆく。
青山 「千佳」
千佳 「なに?」
青山 「……がんばれ」
千佳 「ありがとう」
青山 「そのスクープを書いたら……東京に
戻る?」
千佳 「……それまでの契約だし」
無言で階段を上る千佳。
無言で彼女の背中を見る青山。
〇同、千佳の部屋
パタンと扉を閉める千佳。
千佳 「……」
机に向かい、記事を書き始める。
〇大倉山ジャンプ競技場
T 「HTV杯コンチネンタルカップ(1
3位以内でワールドカップ出場)」
T 「予選」
青山の主観カメラ。
千佳 「ハッ!」
そのタイミングで飛ぶ。着地。
青山 「行ったでしょ! 13位以内!」
スコアボードは10位。
千佳 「『俺より飛ぶ奴』が、まだ9人」
青山 「分厚いな」
千佳 「決勝でブチ抜け!」
× × ×
T 「決勝、一本目」
青山主観カメラ。
T 「決勝、二本目」
青山主観カメラ。
スコアボード「5位 青山大吾」
久我原がコーチボックスから走ってく
る。バンと肩をたたく。
青山、久我原と千佳の肩をバンと張る。
3人 「っしゃー!」
拳を突き上げる。
〇夜、スポーツバー
アメリカ、レイクプラシッドの大会を
見る三人。千佳はノートPCを持ち込
んで記事を書いている。
テレビでは火野が豪快に飛び、着地。
アナウンサー「火野、豪快に飛びます! 他
の追随を許さない、力強いサッツ! 世界
一の踏切と言ってもよいでしょう!」
リプレイ。
青山 「久我原。……ひとつ、提案がある」
久我原「沖縄の海の家のバイトの件? 多分
雇えるよ。それで生活費にはなるだろ?」
千佳 「沖縄?」
青山 「あおぞらスイミングスクール、辞め
たんで」
千佳 「えっ、何それ。聞いてないし」
青山 「本格的にやるにはどうせいられない
だろ。いやそのことじゃねえよ大事なこと
は」
青山、カクテルのマドラーで示す。
青山 「これが元の俺の軌道(低い)、これ
がパワージャンプ(高い)。俺たちはこれ
を目指して来た。だが半年ごときの筋トレ
じゃあいつの脚力に勝てるわけねえ」
久我原「残念だが、同感だ」
青山 「だからここ(中間の角度)を狙う。
青山大吾第三形態、って所だ」
久我原「半年間の筋トレは無駄じゃなかった
ぞ。ぶれにくい体幹は出来上がった。けど
そんな急に調整できんのか?」
青山 「一週間ある。大倉山なのがラッキー
だ。俺のホームみたいなもんだし」
久我原「……」
青山 「ホームで事故って、ホームで立ち直
る。千佳と久我原とで作ってきた、第三の
俺が」
久我原「コーチとしては反対だ」
青山 「……」
久我原「でも男としては、叶えて欲しい」
〇雪の降る札幌市街
長い横断歩道を渡る青山。
その大通りは一直線に伸びて、街の端
の大倉山につき当たる。
その中腹に見えるジャンプ台。
立ち止まり、赤信号になるまで見てい
る青山。
〇大倉山ジャンプ競技場
T 「FISスキージャンプワールドカッ
プ第14R 札幌大倉山大会」
観客席の熱。
会場入りする青山、久我原、千佳。
青山 「久我原。今日のワックスは6番だと
思う」
久我原「7番じゃない?」
青山 「思ったほど気温上がらないだろ。6
番で十分」
千佳 「ワックスでそんなに変わるもの?」
青山 「変わるよ。足一個分くらいは変わる」
千佳 「じゃあめちゃくちゃ違うじゃん」
青山 「高梨沙羅は、アプローチの時に板を
絶対横に当てないんだって」
千佳 「何で? ……あ、摩擦があるから?
……ってそんなこと出来るの? あの台、
100メートル以上あるんでしょ?」
久我原「それが出来るから一流。こないだは
何回当てた?」
青山 「右3回、左4回」
久我原「じゃあ6番に変えるか」
千佳 「あれ? 火野さんは来ないの?」
久我原「チャンピオンは予選免除。会うのは
明日だな」
× × ×
T 「予選(50名から30名に絞られる)」
次々に飛ぶジャンパー達。
スタートバーの青山。
青山 「(深呼吸)」
それを地上のカメラで狙う千佳。
コーチボックスの久我原。
青山と千佳の呼吸がシンクロしてくる。
主観カメラ。
滑降。近づく踏切台。
青山、千佳「ハッ!」
踏切り、空中姿勢をつくる。
低く出た。滑空は長い。
K点手前で着地。
久我原、走ってくる。もう少し高く、
を手で示す。青山、手の角度で答える。
スコアボード、青山11位。
〇翌日、決勝
T 「翌日、決勝戦一本目」
行く手に、火野チームがいる。
青山、久我原、千佳。
振り返る火野は手ぶら。
一方青山は板を右肩に担いでいる。
火野 「仕上げてきたか」
青山 「十分」
火野 「板を持たないほうがいいぞ。左右が
偏る」
青山 「昔からこのスタイルでね」
火野チームはたくさんの板をスタッフ
達が持っている。
千佳 「2回しか飛ばないのにあんな板いる
の?」
久我原「全部ワックス違いになってて、状況
に応じて変えられるんだよ」
千佳 「こっちは?」
久我原「拭いて塗りなおす」
千佳 「原始的」
青山 「その為に金がいる。自分で持たない
ことも含めてね」
久我原「俺が持つよ。調子いいんだろ?」
青山 「何でわかる?」
久我原「お前は憎たらしい時のほうが飛ぶ」
青山 「いつもじゃねえか」
〇控室
外国人選手がストレッチしたり音楽を
聴いて集中している。
青山は自分でワックスを塗っている。
ずらりと並べられた板。
自分で塗っている選手は一人もいない。
〇ジャンプ台
T 「一本目」
青山、スタートバーの上で深呼吸。
グリーンランプがつく。
コーチボックスの久我原、ゴーサイン。
青山、遠くを見る。山。札幌市内。
鳥が向かい風に乗っている。
カウント5、4、3、2……
吹き流しが急に逆風に。
青山 「来た」
主観カメラ。
テイクオフ、逆風に乗り、伸びる。
K点ごえ。
千佳 「来た!」
青山、ガッツポーズ。
スコアボードは1位。
駆け寄る千佳。うなづく青山。
× × ×
火野の高いジャンプ。
同じ位置に豪快な着地。
スコアボード「1位青山 2位火野」
〇控室
のテレビで見ている青山と久我原。
二人ガッツポーズ。
久我原「さっきの、完全にお前の得意パター
ンだったな!」
青山 「次もいい風とは限らねえ」
久我原「その時は第三形態か」
青山 「(うなづく)……この待ち時間嫌い。
しょんべん行ってくるわ」
〇トイレ
で、かつての上司、三上とすれ違う。
青山 「あれ?」
三上、ダッシュして逃げる。
〇控室
久我原「お前6番で行くって言ってなかった
?」
青山 「うん。このままだと」
板をさわる久我原。
久我原「厚めに塗った? 12番くらいじゃ
ね?」
青山 「は?」
手袋を取り、直接さわる。鼻で嗅ぐ。
青山 「お前がやったの?」
久我原「お前がやったの?」
青山 「……あ」
〇競技場の裏
逃げる三上、追う青山。
胴タックルで捕まえた。
青山 「なんでワックス勝手に塗ったんです
か! 誰かに頼まれたんですか!」
三上 「私一人の判断だ……あおぞらスイミ
ングスクールは今度潰れるんだ。私は本社
に戻れないかもしれない……私も家族がい
て……」
青山 「じゃあその家族に、ポケットの中見
せられんのかよ!」
三上、ポケットを抑える。
青山、無理やりにポケットから12番
のワックスを出す。
三上 「あ……あ……」
青山、立ち上がりワックスを森に投げ
る。
三上 「えっ」
青山 「俺の集中を、これ以上乱すな!」
三上 「……」
去ってゆく青山。
〇競技場の裏手、階段
火野と偶然会う。
火野 「よう」
青山 「……おう」
火野 「風がラッキーだったな」
青山 「まあな。横風なら振り切ってパワー
ジャンプ、いい風が来ればフリーガー。使
い分けられるようになってきた」
火野 「厄介な戦法使うようになったなあ。
これが格闘技だったら、って思うぜ。直接
殴り合えればいいのに」
青山 「今ここでやるか?(拳を握る)」
火野 「(構える)ある」
二人で笑って控室へ向かう。
火野 「内部告発者のメール、届いた?」
青山 「え? アレお前だったの?」
火野 「社内の詳しい奴に手回した。まあ大
企業ったって一枚岩じゃねえってことさ。
スポンサー契約で薫と春馬は食わせられる
し。あ、スイミングスクールつぶれるんだ
って?」
青山 「沖縄で働き口見つけた」
火野 「久我原サンとこ?」
青山 「うん」
火野 「……」
青山 「……」
二人、無言で階段をのぼりながら。
火野 「正直、お前がまた落ちればいいのに、
って思ってる」
青山 「俺も、お前が落ちてみろよ、って思
ってる」
火野 「言うね」
青山 「お前もな」
不敵な笑みを浮かべ、二人は階段を上
ってゆく。
〇控室
ワックスを塗りながら、青山と久我原
はテレビ中継を見ている。
火野、大ジャンプ。
アナウンサー「来ました! K点ごえ!」
スコアに「130m to beat」と出る。
久我原「130メートル飛んだら勝ち。行け
るか?」
青山 「最高の舞台」
〇同、決勝
マスコミ席でカメラを構える千佳。
青山がスタートバーに乗った。
カメラのファインダーの中。
青山、こちらに向かって手を挙げる。
千佳 「えっ」
思わずファインダーから目を外し、肉
眼で見る千佳。でも遠すぎる。
もう一度ファインダーで見る。
たしかに手を振っている。
千佳 「嘘でしょ。見えてるの?」
それをコーチボックスから見る久我原。
久我原「アイツ調子いいって言ってたの本当
なんだな。『調子いい時は遠くまで見える』
って。イイ女がいるかどうか、観客席まで
見えるってな」
青山と千佳を見て笑う久我原。
久我原「やってねえって言ったくせに」
深呼吸して構える青山。
水の中にいる。
その横に、カメラを構える千佳がいる。
その水は、青山の皮膚に触れた所から
沸騰を始める。
千佳の周囲の水も沸騰を始める。
× × ×
回想。千佳、クラッカーを鳴らす。
予備のクラッカーと台本。
千佳 「おめでとう青山大吾! あなたは私
に取材されるチャンスを得ました!」
吹雪の中抱き合う二人。
公園の滑り台。
千佳 「ねえ。人生は一回失敗したら、終わ
り?」
× × ×
青山 「まだ、つづきがある」
シグナルグリーン。
ゴーサインを出す久我原。
主観カメラ。加速してゆく直滑降。
まっすぐ、脇に当たらないスキー板。
迫るジャンプ台。
眼下に広がる札幌市。
青山と千佳「ハッ!」
低い角度で飛び出し、風に乗る。
横風で流されるが、気にせずK点越え。
アナウンサー「K点越え! 134メート
ル! 青山大吾、世界一の大舞台、ワール
ドカップでの優勝復活劇!」
沸騰する観客。
青山、メットを外す。
観客席から飛び出して来た千佳。
青山、手袋を脱ぎ捨てる。
千佳の頬に手を当てる。
千佳、その手を握りしめる。
千佳 「熱い! 熱い!」
千佳、思わず青山を抱きしめる。
青山 「ねえ、キスしていい?」
千佳 「は?」
青山 「こういう時は幸せなキスをして終了
でしょ」
千佳 「まだ付き合うって決めてないんです
けど」
青山 「優勝したのに? 千佳さんのおかげ
なのに?」
千佳 「じゃあちゃんと告白して。ジャンパ
ーらしく」
青山 「えっ?」
千佳 「ジャンパーらしく!」
青山 「えっと……俺のジャンプ台になって
ください」
千佳 「踏み台かよ! 私下向きかよ!」
青山 「あー、時速90キロであなたに会い
に行きます」
千佳 「いまいち!」
青山 「……あ」
千佳 「何?」
青山 「今日が終わっても、東京へ帰らない
で。俺、まだ君といたい」
千佳 「あ……はい」
青山 「あ、ジャンパーぽくなかった」
千佳 「青山大吾らしかったから……はい」
二人はやさしくキスをする。
千佳はスマホを取り出す。
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青山 「あーあ、世間は大騒ぎだな」
千佳 「まだ追及するべきことはある。北海
道に残るかなー頼まれちゃったしなー」
微笑む二人。
火野、声をかける。
火野 「青山! 俺このあとフィンランドな
んだけど、お前も来いよ!」
青山 「そんな金ねえよ」
火野 「じゃそのあと日本戻って来るから、
伊藤杯でもう一回やろうぜ! 次あんなイ
イ風吹かねえだろ。大自然相手なんだから、
何回もやって平均で勝負だろ!」
青山 「しつこいな、だから雪国の男は」
火野 「長く続く情熱、と言ってくれ」
青山 「ははは。……また、やろう」
拳を打ち合わせる二人。
走って来る久我原。
久我原「表彰式だぞ! 大吾!」
用意されている表彰台。
拍手する久我原、火野、千佳。
拍手する観客席の薫、春馬。
表彰台に上る青山。
それを見守るジャンプ台。
青山NA「スキージャンプの台は下を向いて
いる。そのまま落ちれば下に落ちるものを、
上に飛びたい奴だけが上に飛ぶ。人生と同
じだと、俺は思う」
(了)



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