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映画シナリオ「千年咲く花」(3/4)

(2/4からのつづきです)


○夜、二人の部屋

   二人でTVを見てると、
   『世界のミステリー事件ファイル/
   CASE99 3日先から来た男』。
千恵 「しーちゃん! 引いた! なんか似
 た病気のことかも!…」
   再現ドラマとともにナレーション。
TVナレ「東京都に住む会社員Aさんに、あ
 る日異変が! 『それは3日前にしたこと
 だ』と突然妻に彼は言い始める。まさか、
 彼の脳が3日先にタイムスリップしたの
 か!? 宝くじの番号を当て、3日先の天
 気を当てはじめるAさん」
千恵 「?」
   彼の町、とD駅が。
   彼の家、の映像はこのアパート。
   実際の記録映像、として台所の場面
   (顔はモザイク)。
TVナレ「脳外科医で有名な、北村医師に話
 を聞こう」
   TVの中で笑顔で話す北村。
千恵 「どういうこと…!?」

○翌朝、アパートの前

   玄関を出る千恵。
   と、何人かがアパートを遠巻きに見て
   いる。ケータイのカメラを隠す人間も。
千恵 「…」

○D駅前

   同じくケータイカメラでテレビと同じ
   アングルで写真撮る人々を目撃。

○北村医院、前

   右には、不気味な黒服の男たちが病院
   前に立っている。
   左には、工事業者が入っていて、巨大
   な機材を搬出中。
   両者の間を抜けて千恵が乗り込む。

○同、空きフロア

   エレベーターが開くと、がらんとした
   空きフロア。
   機材の残りを作業員が搬出している。
   とまどう千恵に気づく北村。
北村 「やあ。丁度工事中でね」
千恵 「どういうこと!?」
北村 「ウチのエースと機材がウリだったん
 だけどなあ…」
千恵 「昨日のTV! 私たちを売った
 の!?」
北村 「? ああ、もう放送だったのか」
千恵 「家の周りにも駅にも人が来てる! 
 カメラにも撮られて! あんなに晒された
 ら、司郎が元に戻っても元に戻れないじゃ
 ない! 動画まで公開するなんて!」
北村 「でもそのおかげか、グッドニュース
 だ。アメリカの研究所で、似た症例があっ
 たんだ」
千恵 「え?」
北村 「薬物療法とちょっとした手術で、ク
 ロニックデジャヴという症状が治まったそ
 うだ。紹介状を書こう。滞在費、入院費手
 術費、俺が持つ。アメリカへ飛ぶんだ」
千恵 「は?」
北村 「運命は変わるんだよ。だってアメリ
 カだよ? あの駐車場で僕らが再会したの
 も、君流に言えば運命だったのかもね」
千恵 「…」
北村 「資金面はもつ。動画も公開しない。
 ただ、ひとつだけ条件がある」
千恵 「…何?」
北村 「正直に言うと、まだ君が好きなん
 だ」
千恵 「…何を言ってるの?」
北村 「一晩だけでいい。君を俺にくれ。俺
 の人生の中で、唯一手に入らなかったもの
 が君なんだ」
千恵 「私は、…司郎の妻です」
北村 「妻という役割に聞いてるんじゃない。
 千恵という一人の女に聞いている」
千恵 「…」
北村 「来週までに返事を」
   エレベーターのボタンを押し、扉を開
   ける北村。乗り込む千恵。
   憮然とした表情の千恵を残し閉まる扉。
   ついたての向うから、黒服のスジ者、
   黒木(45)が現れる。
北村 「表の黒服さんたち、下げてもらえな
 いですかね。皆が怖がる」
黒木 「その為にやってんだよ。ケツに火が
 ついてる癖に、まだ女を口説く余裕か」
北村 「予言者の件でだいぶ借金戻したんす
 けどねえ。本の印税待つより、テレビに動
 画売って、利子分のっけますよ」
黒木 「言った端から裏切んのかよ」
北村 「女は、やっちゃえば言うこと聞くも
 んですよ」
黒木 「フン。…胎児の臓器売ったときも、
 自分とこで勤めてる女自分で孕ませて、自
 分の病院でおろしてたな」
北村 「…結果、儲かったじゃないですか」
黒木 「今回は動画でマッチポンプか」
北村 「人聞きの悪い。回転している、と言
 いましょうよ」
   笑顔を崩さない二人。

○二人の部屋、台所

千恵 「…」
   籠城の時間を示すかのように、新しい
   鉢や本が周りに。
   モニタの中では、部屋で司郎と弓美が
   談笑。
司郎 「じゃああの話は? 俺が予定より早
 く家に帰ったらさ、必ず『早く窓からお逃
 げになって! 主人が帰って来たわ!』
 『とうっ! シュタタタタ』って寸劇。忍
 者の長兄と浮気してる設定で、実は天井裏
 にいるんだ。今も(と天井を指す)」
弓美 「なにそれ(笑)」
司郎 「俺が原稿書いてたらお茶持ってきて
 さ、『ああ!ごめんなさい。あなたの大事
 な原稿にお茶をこぼしてしまいました』
 『大丈夫さ』『私はダメな女ですう』『そ
 んなことないさ』『えっ…』『愛してる』
 『そんな…』そして少女漫画のような花園
 へ…とか、二人で毎回やってたコント」
   笑う弓美。

○街路樹の道

   また捨てられた蘭を拾う千恵。

○二人の部屋、台所

   籠城先にふえた蘭。千恵はヘッドホン
   で会話を聞いていない。
   一方部屋では、
司郎 「ねえ。…膝枕してもらっていい?」
弓美 「はい? …はい、どうぞ」
千恵 「(モニタを見てむかつく)」
司郎 「…ちがう」
弓美 「?」
   おもむろに起き上がって、弓美にキス
   する。
千恵 「(動揺して、立って邪魔しようと)
 あわわあわわ! ダメ! …ダメ!」
弓美 「…ちがうって?」
司郎 「唇の形もちー坊とちがう。あの膝枕
 も、あの唇も、…もうこの世にはないん
 だ」
弓美 「…(思わず司郎を抱きしめる)」
   千恵(言葉は音楽で聞こえていない)
   はショックを受け、外に飛び出す。
司郎 「ありがとう。どうしてちー坊は君に
 会ってる時に死んだんだろう」
弓美 「!!…千恵さん!!」
   しかし台所には千恵はいない。

○二人のアパート、外

   ケータイで電話する千恵。
千恵 「気が変わらないうちに、迎えに来て
 よ」

○夜、走るオープンカーの中

   助手席の千恵。
   豪華な花束が後部座席に。
北村 「気に入らなかった? 花束」
千恵 「私は司郎から花束もらったことない
 の」
北村 「蘭、多めに入れてみたんだけど」
千恵 「…お酒のみたい」

○夜、北村の高級マンション前~北村の部屋

   酔ったような映像。不安定で、焦点も
   あわず、ゆがんだ画。
   バーで酒をあおる千恵。
   タクシーから、泥酔する千恵を降ろす
   北村(くわえ煙草)。見張りの黒服た
   ちと目が合う。
   部屋に入るなり千恵の唇を奪う北村。
千恵 「(泥酔)私のどこが好きだった
 の?」
北村 「心が弱いのに、はりつめてる所」
千恵 「ふふふ(北村のメガネを外す)」
   胸を揉まれ、あえぐ千恵。
   床に落ちる花束。
   机の上の灰皿に、火のついた煙草を置
   く北村。
   机の上のパソコンは、司郎のビデオ記
   録(遊園地の場面)をキャプチャ中。
   朦朧とした意識の中、千恵、ふと気づ
   く。両足が大きく開かれている。
   北村が上に被さり、挿入せんとすると
   ころ。
千恵 「懐かしい」
北村 「…(勢いが止まる)」
千恵 「(北村をなで)でもなんかちがう」
   (以下、ゆっくりと、酔った映像は
   戻っていく)
千恵 「あ。…大丈夫。つづきを」
北村 「…(あせる)…(あせればあせるほ
 ど上手くいかない)」
千恵 「大丈夫。大丈夫だから」
北村 「……シャワーを、浴びてくる」
   ベッドを立ち、シャワールームへ。
   千恵はシーツをまとい起き上がる。
   パソコンにうつる遊園地の場面。

○同、マンションの外

   黒木がやってくる。
黒服たち「ウス」
黒木 「今日の所は動きはねえだろうが…」
   高層階の部屋を見上げる。

○同、北村の部屋

   シャワーを浴びる北村。
   (以下、ベッド脇の千恵との会話)
千恵 「さっきの口説きは、オリジナル?」
北村 「何が?」
千恵 「弱いのに、はりつめてるって、…
 グッと来たんだけど」
北村 「…(ニヤリと笑う)そうだよ」
 ビデオの中の司郎「心が弱いのに、張りつめ
 てた」
千恵 「…」
   千恵、「風間司郎」のフォルダを開け
   ようとするが『パスワードを英数字で
   入力して下さい』とはねられる。
   shirou、kazamaなど入れるも無理。
   「USA」のフォルダも同じく。
千恵 「学生時代の司郎はどんなだった?」
北村 「実際、あいつ大学に来ずに映画ばっ
 か撮ってたからさ、俺があいつを知ったの
 は三回生なんだ。でも気が合うんだろうな。
 何回も家に泊めた仲だよ」
    movie、best firendを入れても無理。
   『パスワードを英数字で入力して下さ
   い』の文字。
千恵 「英語…数字…」
   ためしにテンキーで数字を入力。
   (この時点ではその数字は見せない)
   『受け付けました』の文字。
千恵 「……!!」
   各放送局別に、司郎の動画が整理され
   ている。「USA」には「逃亡先」が。
   小さなハードディスクを見つけた千恵
   は、接続して、全コピー。
   北村が、シャワー室から出てくる。
   メガネをかけようとする北村に、
千恵 「メガネないほうがいい男よ」
北村 「言うね」
   とメガネを脇に置く。
千恵 「…ねえ、アメリカのどこに、私たち
 は行くの?」
北村 「…コロラド州。…ラボは…、そうだ、
 シュワルツラボだ。患者は、スティーヴン、
 スティーヴン・ベルイマン」
   その微妙なニュアンスを聞きとった千
   恵は、北村の視線の逆を見る。
   そこには本棚の専門書。それを見た千
   恵は確信する。
千恵 「…司郎はアメリカで治ると思う?」
北村 「勿論だよ。スティーヴンの症例が救
 い手だ。親友を助ける。コロラドに向かっ
 てハッピーエンドだ」
千恵 「…逃亡先のファイルには、ニューヨ
 ークの住所があるんだけど」
北村 「?」
千恵 「パスワードは、オー4つのひとみが
 ニッコニコ。どういう意味?」
   パスワード入力画面。宝くじの場面。
   04132525。
   北村、表情が変わる。
千恵 「あのセリフだって、司郎が言った言
 葉を借りただけ。さっきあなたは本棚を見
 なかった。そこにシュワルツやベルイマン
 って書いてあるから」
   本棚の著者名などにその言葉が。
北村 「…何を言い出すんだ」
千恵 「つくり話なんでしょ?」
   ピロンとコピー終了の音。
   北村、それを聞いてあわててメガネを
   かける。クリアになった視界は、ハー
   ドディスクを引き抜く千恵をとらえる。
北村 「全部見たのか!?」
   千恵、椅子に乗り、灰皿の火のついた
   煙草を取り、スプリンクラーに近づけ
   る。その下にパソコン、ひるむ北村。
北村 「俺は、親友を助けたいんだ! あい
 つは治る! 医者の俺が言うんだ!」
千恵 「…」
北村 「説明させてくれ。…まずその格好
 を」
   シーツ一枚の格好にあらためて気づく
   千恵。はらりと胸元がはだけている。
   それを直そうとした隙をついて、北村
   はハードディスクを奪おうとする。と
   っさによける千恵。
北村 「…」
   千恵、煙草をスプリンクラーに押しつ
   けようと。
北村 「いい子だから返せよ! それは金に
 なるんだ! 表の連中を見ただろ! 病院
 の前にもいた奴らだ! あいつらに金を返
 さないと俺がヤバイんだよ!」
千恵 「どこまでが本当なのよ!」
北村 「お前を好きなのも本当だよ!」
   と一歩前に出る。その足が、床に落ち
   た花束をぐしゃりと踏む。
千恵 「…ひどい」
北村 「? (潰した花を見て)ごめん」
千恵 「ちがう。花束が、私にとってはひど
 いことなの。司郎が私に花束を贈らないの
 は、私が植物は鉢植えしか認めないから。
 花は生きて大地に根を張るの。それは、死
 体の生首をあつめただけだわ」
北村 「…きみが好きだ。あいつは治る。動
 画は売らない」
千恵 「もうひとつ、司郎なら知ってる。私、
 煙草嫌いなの」
   火をスプリンクラーに押しつける。
   ベルが鳴り、部屋中に雨が降る。
   煙と火花を吹くパソコン。
   雨からハードディスクをかばった千恵、
   かばんを取り玄関を飛び出す。
北村 「返せ!」

○深夜、北村の高級マンション、外

   ずぶ濡れでシーツ一枚の千恵が走って
   逃げていく。驚く黒木たち。
北村 「(黒木に)あそこに全データが!」
   ずぶ濡れでフルチンで出てくる北村。
黒木 「なにをやってんだお前!!」

○深夜の住宅街

   シーツ一枚で逃げる千恵。
   追う黒木ら黒服。
   支払い中のタクシーに飛び乗る千恵。
   客のサラリーマンを押しのける。
千恵 「早く出して! お金は払うから!」
   黒木、石を拾い投げる。リアウインド
   ウにひびが。
   驚く運転手はブレーキを踏む。
千恵 「はやく!」
   黒木、懐から銃を出し、リヤタイヤに
   一発撃つ。
   だが、発進が間に合い外れる。
黒木 「ちっ」
   撃とうとする姿を千恵は見る。
千恵 「(伏せて)止まっちゃダメ!」
   角を曲がるタクシー。住宅街に車は来
   ない。走って追いかける黒服。
黒木 「女の家をおさえろ!」

○同、走るタクシーの中

   割れたリアウインドウ。
   震えながらケータイをかける千恵。
千恵 「しーちゃん! いますぐ服と財布
 持って東京駅に集合!」
   たたき起された寝室の司郎。
司郎 「なに? …どこいくの?」
千恵 「(必死で考える)…鳥取砂丘!」

○同、北村の部屋

   水浸しの部屋には誰もいない。
黒木 「…あの糞野郎…どさくさにまぎれ
 て!」

○夜行列車の中、夜明け

   窓から夜明けが見える。
   千恵は眠る司郎を見ている。朝の光に
   目を開ける司郎。
千恵 「おはようしーちゃん」
司郎 「おはようちー坊」
千恵 「…」
司郎 「?」
千恵 「(三つ指ついてあやまる)すいませ
 んでした! あやうく恋愛の神様を裏切る
 ところでした!」
司郎 「?」
千恵 「でもしーちゃんも弓美さんにチュー
 したわけだから、イーブンってことで!」
司郎 「…何で夢の中で折田さんにチューし
 たの知ってるの?」
千恵 「べ、別に。で、どうだったのよその
 後は!?」
司郎 「…どうって、それで終了。違和感だ
 けが気まずくて」
千恵 「違和感?」
司郎 「なんかちー坊と違うって」
千恵 「…言ったの?」
司郎 「言った」
千恵 「…ふふふ。あはは。あはははは。恋
 愛の神様はちゃんといるのね。結果的…」
二人 「結果的一穴主義者」

○鳥取砂丘

   青い空。
   目の前に広がる、巨大な白い砂の丘。
千恵 「来ーーーたーーーーーーーーー!
 と、つ、と、り…砂ー丘ーーーーーー!
 しーちゃんと、しーちゃんと…つーいー
 にー来ーーーーーたーーーーーーーー!」
   とテンションMAXで走っていく。
   ラクダに乗る二人。
千恵 「動物くさーーーーーーーーー!」
   砂丘に登りはじめる二人。
千恵 「あつーーーーーい! 思ったより
 砂丘ちっさーーーーーーーい!」
司郎 「昔言ったじゃん。言うほどたいした
 ことないって」
千恵 「でもリアルなの! しーちゃんと来
 ることが私の一生の大事だったの! ずっ
 とずっと来たかったの!!」
   息を切らせながら丘の頂上へ。
   砂の世界は一転、海が見える。
千恵 「トップ・オブ・ザ・ワール
 ドーーーーーーーーーーーーーーー!」
   二人は頂上で座ってひと休み。
   風の心地よさに、息も落ち着く。
司郎 「…なんで京都のカップルはここを目
 指すのかねえ」
千恵 「好きな人と、世界で二人きりになり
 たいからに決まってるじゃない」
司郎 「…」
千恵 「この世界で出会った好きな人を、運
 命だと思いたいの。(掌についた砂を見
 せ)この砂粒が隣り合ったのも、偶然じゃ
 なくて運命」
司郎 「…偶然だよ」
千恵 「…運命」
   手を握る千恵。
   海からの風が、千恵の髪をなびかせる。
司郎 「(口ずさむ)亜麻色の 長い髪を 
 風がやさしく 包む」
千恵 「(つづけて)乙女は 胸に白い 花
 束を」
   二人、同時に立つ。
   カラオケの時のように。
二人で「羽のように丘を下り やさしい彼の
 もとへ 歌声が明るいのは」
司郎 「…(千恵を見つめる)」
千恵 「(微笑む)恋をしてるから」
二人で「薔薇色の微笑み 青い空 幸せな
 二人は寄り添う」
   千恵、指示。司郎、意図を察し、丘を
   海へとおりてゆく。
千恵 「亜麻色の 長い髪を 風がやさしく 
 包む」
   千恵、両手を広げ、風を精一杯うけて
   丘を駈け下りてゆく。
千恵 「乙女は! 羽のようにー! 丘を下
 るーーっ! 彼の もとへーーーっ!」
   司郎、下で千恵を抱きとめる。
   全力で抱きつく千恵。

○砂丘の夕日、二人はやさしいキスを

○夜、砂丘に花火があがる

○同、ホテルの部屋

   挿入する体勢に。
司郎 「懐かしい」
千恵 「…懐かしい」
司郎 「しっくりくる(微笑む)」
千恵 「…しっくりくる(微笑む)」
   窓から入る花火の明かりが、暗闇に二
   人の肉体を浮かび上がらせる。
   二人は愛を確かめ合う。
   暗転。

○翌朝、白いベッドの中

   朝の光で目を開ける千恵。
   目を開ける司郎。
司郎 「おはようちー坊」
   司郎は千恵のほおをなでる。
千恵 「おはようしーちゃん」
   額をこすりつけ、甘える千恵。
千恵 「ねえ。…四足歩行のサルが、どうし
 て二足歩行になったか知ってる?」
司郎 「何回もちー坊から聞いたよそれ」
千恵 「サルは木の上で生きてる時は、四足
 歩行だったの。ある日メスザルが、おいし
 い果物が沢山なってるのを見つけた。家で
 待ってるオスザルのために、出来るだけ
 持って帰ろうと両手いっぱいに抱えて、思
 わず二本の足でトトトトーって歩いたの。
 これが人類初の二足歩行」
司郎 「誰もその瞬間見てないだろ(笑)」
千恵 「でも、私の一番好きな話」
司郎 「俺だったらぽろっと一個落としそ
 う」
千恵 「(笑)」
司郎 「…もうちょっと寝ていい?」
   千恵、やさしくキスをする。

○朝、一人海岸を散歩する千恵

○二人の部屋とカットバック

   蘭に水やりをしながら、ケータイで話
   す弓美(以下千恵とカットバック)。
弓美 「殺されそうだったって…!」
千恵 「しばらく、雲隠れします。あ、水や
 り助かりました。京都に帰って、巻き込ま
 れないようにしてください。宿の支払いと
 かは済ませておきますので」
   一枚の名刺を弓美は見ている。
弓美 「名刺、もらったの」
   ×   ×   ×
   二人のアパートに来る弓美。
   黒木が張っている。名刺を出す。
弓美 「…何か?」
黒木 「北村医師を探しているんですがね」
   ×   ×   ×
千恵 「そんな名刺、今すぐ捨てて。関わり
 合いを避けましょう。では、ケータイとか
 も解約しますので」
弓美 「…これからどうするの」
千恵 「本物の予言者とか超能力者とか、地
 道に探してみます。予知能力に悩まされた
 けど突然治っちゃった人とか。未来の司郎
 の意識が憑依してるとしたら、お祓い師と
 か」

○ホテルの部屋

千恵 「司郎ーそろそろごはん食べようよ」
   司郎は寝ている。
千恵 「しーちゃん? 司郎?…」
   ゆすっても叩いても、司郎は起きない。
千恵 「司郎!」

○村井の自宅

   オフの日の医師、村井。
   ホテルの千恵と電話で話す。
村井 「脈拍や呼吸その他が安定していると
 すると、昏睡状態かも知れません」
千恵 「…植物状態、ってことですか?」
村井 「一刻も早く付近の医者へ」
   村井の受話器を奪う手。その主は…
北村 「そこは、どこだ? ウチのエースを
 回診に行かせようか?」
千恵 「…そこが、新たな逃亡先ね」
北村 「未来を変える方法がひとつだけある。
 取引をしよう。知りたくないか?」
千恵 「…取引?」
北村 「例のものを返してくれ。映像は、あ
 いつと分らないよう加工する」
千恵 「…未来を変える方法って?」
北村 「簡単だよ。折田弓美を殺すのさ」
千恵 「は?」
北村 「あいつが弓美に再会する未来が消滅
 する。未来が分岐して、君が死なない、め
 でたしめでたし」
千恵 「ほんとうにそうなる? …司郎がそ
 れで元に戻る?」

○ホテルの部屋

   目覚める司郎。
司郎 「あれ? …ちー坊! ちー坊じゃな
 いかい」
千恵 「しーちゃん!」
   電話を切る千恵。
千恵 「よかった!」
   ベッドの上に起き上がる司郎。しかし、
   その速度が遅い。
   隣に座る千恵。膝枕で甘える司郎。
司郎 「…まだ夢に来てくれるんだね。…
 ちー坊は、死んだときのまま、歳を取らな
 いね」
千恵 「(嫌な予感)」
司郎 「ああこの固くて痛い膝枕。これが
 ちー坊の膝枕だよ…」
千恵 「司郎は…いまいくつなの?」
司郎 「君の…倍以上、生きたよ」
千恵 「…」
司郎 「80をこえた」
千恵 「…先に、そっちが来ちゃうの?… 
 私の所へは、もう戻って来ないの…?」



(4/4につづきます) 
https://note.com/oooka_/n/nf7f175dfe69a


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