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ショートドラマ集シナリオ「劇団黒バック」(1/5)

ショートドラマ集 「劇団黒バック」 30分×5

 すぐれた役者は、そこに何もなくても、ありありと光景を浮かばせることが出来るという。
 この実験ドラマは、「黒バックと二人の男」限定のショートドラマ集である。ミニマルな【演劇】を、カット割りや照明や音だけは【映画】形式で撮る。そうすると、そこに「それ」が浮かぶ……。

 劇団黒バックは、あなたの想像力と共犯する。
 BLACK-BOX THEATER: jacks your imgination.


スペック
深夜配信向け。極限までミニマル。知的冒険。
『ドッグヴィル』×『モンティパイソン』


劇団黒バック 第一回「ぶつかる」

脚本 大岡俊彦

#1 可能性
 パラレルワールドの自分と会ってしまった。しかし顔も職業も全然違う。二人の分岐点は、カノジョの「私と仕事、どっちが大事なの?」への答えであった。
#2 フェチ
 放課後のひまな高校生。好きな子をあてようぜ。しかしことごとく好みが食い違い……
#3 盤外戦
 人工知能に挑む将棋名人。控室に来た敵のマネージャーは、妻を人質にしたと言ってきた。八百長をしろという。

登場人物


●タイトル『ぶつかる #1可能性』

○渋谷1

   渋谷の喧騒。人々の足音、話し声。
   サラリーマンのA、ケータイで謝って
   いる。
A  「ハイ、ハイ。ほんとすいません。す
 ぐ資料まとめて送ります。得意に送るの、
 十四時でいいんですよね? …確認用に、
 十三時先に送り…ます。ハイ。いそぎます。
 間もなく」
   一方、自由業のB、道に迷っている。
B  「あれー? ここスクランブル交差点
 でいいんだよな? あっちが109だし、
 交番こっちだし…あれー?なにあのビル?」
A  「ハイ、失礼します(通話を切り、ス
 マホを見始めながら歩き出す)」
B「あっちか?」
   互いに互いを見てなくて、ぶつかる。
A、B「うわ!」

タイトル『ぶつかる #1可能性』

   はずみでAのポケットから定期入れが
   落ちる。B、拾う。
B  「すいません、よそ見してて…」
A  「こっちこそすいません、スマホ見て
 て…」
B  「落ちましたよ(定期入れを渡す)」
A  「すいません」
B  「(名前を見て)アレ?」
A  「?」
B  「沼田沼男。…珍しくないですかこの
 名前?」
A  「あ。ヘンテコな名前で」
B  「いやいや、実はオレも沼田沼男なん
 ですよ」
A  「は?」
B  「珍しくない?だってそんな名前の
 同姓同名が出会うなんてありえないっし
 ょ!」
A  「まあ…たしかに」
B  「あ、スイマセンついでに沼田沼男。
 東急の階段探してるんだけど」
A  「呼び捨てかい」
B  「他人と思えなくて(笑)」
A  「東急はそっち(下を指して)」
B  「?地下は半蔵門線でしょ」
A  「地下になったでしょ」
B  「嘘だよ。なってないよ。山手線の廊
 下行ってこう上がって…アレ? ここも変
 だよ…」
A  「?」
B  「そうだ! そうなんだよ! 渋谷が
 変なんだよ!助けてくれよ!」

○渋谷2

   二人、歩きながら。
A  「…つまり、東急は地下化してない、
 ヒカリエはなくてまだパンテオンが現役
 で」
B  「こっちではAKBは解散してないっ
 てのも驚きだよ。あと東北の震災が起きた
 ってのも信じられない」
A  「…記憶違いじゃなくて?」
B  「今日は二〇二六年の×月×日」
A  「日付はあってる」
B  「…パラレルワールド? オレ、パラ
 レルワールドの渋谷に迷い込んだ? それ
 が一番説明がつく」
A  「パラレルワールドって」
B  「そうでしょ! オレの世界では地震
 はなかったし、東京オリンピックもないし、
 スマホはもっと進化して、アイフォンは次
 13だよ?」
A  「まじで?」
B  「大体なんか変な光を通り抜けてさ、
 あそこに戻ればオレは元の世界に帰れて
 …」
A  「オイ沼田沼男」
B  「…なんだ沼田沼男」
A  「まさかだけど…お前は、パラレルワ
 ールドのオレ?」
B  「…だいぶ、見た目は違うけど」
A  「東京生まれ、○○年○月○日、○○
 座、A型」
B  「○○幼稚園、○○小学校○○中学、
 ○○高校、一浪して○○大、○○会社入社」
A  「両親は沼蔵と沼子、初恋は○○、好
 きなアイドルは○○」
二人 「…マジかよ! やっぱオレかよ!」
   B、握手を求める。A、疑問。
A  「人間の生き方って顔に出るらしいじ
 ゃん。渋谷の見た目も違うんだろ? 顔も
 だいぶ変わるのかな」
B  「で、嫁は範子で」
A  「…いや?」
B  「は?」
A  「それって川田範子か?」
B  「そうだよ。生涯最高の恋だった範子」
A  「別れた」
B  「なんでだよ!」
A  「…お前、まさか範子と結婚してるの
 か!」
B  「そうだよ」
A  「…仕事は?」
B  「会社辞めて、色々やってる」
A  「色々?」
B  「花屋とか、ネット販売とか、アクセ
 サリープロデュースとか」
A  「は?」
B  「お前は逆に、会社にまだいるのか」
A  「上司はまだ亀田」
B  「…辞めちまえよ、そんな会社」
A  「なんでだよ。なんでお前は範子と別
 れずに済んだんだよ」
B  「…範子と、付き合いはしたんだよ
 な?」
A  「六本木の合コン」
B  「そこまでは一緒」
A  「帰りのタクシーで酔ってディープキ
 ス」
B  「うん」
A  「で、吐いた」
B  「一緒だ」
A  「で、何でか付き合うことになり」
B  「…そこまでは、オレとお前は同一人
 物だったのかも知れん。いつ別れた」
A  「二十五のとき」
B  「なんで?」
A  「大喧嘩して…」
B  「オレはしてないな。その前は?」
A  「なんだっけ。亀田の指示で、資料作
 成が立て込んで」
B  「亀田の資料作成な!あれ意味ねえ
 よな!」
A  「…で、クリスマスの日…」
B  「そこまでは一緒だな。それで範子に
 切れられたろ? 『仕事と私とどっちが大
 切なの?』って」
A  「あ(気づく)」
B  「…(気づく)」
A  「オレ、仕事って言った」
B  「オレ、お前って言った」
二人 「…そこか…」
B  「…じゃ、そのあと、亀田の下でずっ
 と仕事か」
A  「範子を取って会社を辞めたのか」
B  「おう。派遣やったりコンビニやった
 り、でも今は三児のパパだぜ? お前は?」
A  「…」
B  「なんだよ」
A  「あの日からずっと同じだ。まだ使い
 もしない資料を集めて、作って、得意に送
 る。今日も十三時チェック」
B  「一時間前に見て、直させる気だな?」
A  「亀田だからな」
B  「…何年同じことやってんだよ。やめ
 ちまえよそんな仕事。オレは辞めて済々し
 たぜ。『お前と生きていく』、それが男とし
 ての幸せだろ。なんで『仕事と私とどっち
 が大切なの?』に、仕事、なんて言ったん
 だよ?」
A  「…お前、会社入ったとき、夢はなん
 だって言った?」
B  「世界を動かすデカい仕事がしてえ。
 …って、お前も同じか」
A  「目の前にあることを、ひとつひとつ
 こなして行ったら、その先にそれがあると
 思ってたんだよ。思ってただけだった。…
 範子はそれまで待ってくれなかった」
B  「…デカいこと、まだ叶えてねえんだ
 な? まだ小間使いやらされて」
A  「なんだよ!お前の方が全然幸せじ
 ゃねえか! ふざけんなよ!(掴みかか
 る)」
B  「ふざけるも何も、お前はそっちを選
 んで、オレはこっちを選んだんだ。それだ
 けだろ」
A  「ずるいよ! パラレルワールド、入
 れ替えようよ!」
B  「はあ?」
A  「オレもお前もオレだろ! 十分楽し
 んだろ! 入れ替わろう!」
B  「何言ってんの? …あ! あの光の
 ゲート!」
   二人の前に、光のゲートが。
B  「あそこから出てきて…」
A  「(走り出す)」
B  「待てよ!(止める)」
   二人、もみあう。A、先に入る。
   光のゲート、消えてしまう。

○もうひとつの渋谷

   A、ゲートから出てくる。
   あたりを見回して。
A  「たしかに…東急はまだ地上走ってる
 し、ヒカリエもない。あの看板…AKB解
 散して、みんなソロなんだ…。オリンピッ
 クは、シンガポールか…」
   と、向こうから来たCにぶつかる。
   その男は先ほどのBとそっくり(二役)。
C  「あれー? あ、すいません」
A  「お前…沼田沼男!」
C  「え、なんで知ってんですか!」
A  「オレを追って来たのか!」
C  「違いますよ! 初対面でしょ! な
 のに何で…」
   ×  ×  ×
A  「まさか更にもうひとつのパラレルワ
 ールドから来た沼田沼男で…」
C  「しかも『この服とこの服、どっちが
 いい?』って聞かれた所が分岐点とは…」
A  「仕事と私、どっちが大切なの?」
C  「お前」
A  「この服とこの服、どっちがいい?」
C  「こっち(一方を指す)」
A  「…じゃアイツは、こっち(逆を指す)
 って言った奴なんだな…?」
C  「…そうみたいだな。いいか。世の中
 は可能性に満ちているんだ。どれを選ぶか
 は自分次第で、その一寸先は闇で、しかも
 自己責任なんだ」
A  「…聞いた風なことを」
C  「で、範子と喧嘩してんだよ今。ここ
 の世界の奴ってのは、幸せそうにやってた
 んだろ?」
A  「ああ」
C  「無限のオレの可能性の中で、一番成
 功した選択をした男か…」
A  「…そのようだな」
   A、ふと腕時計を見る。
A  「やっべ、資料をまとめなきゃ!」
C  「そいつと入れ替わるんじゃなかった
 のかよ」
A  「あ、そっか。(考えて、決意)…でも
 いいや。アイツにもお前にも出来なかった、
 世界を動かすデカいことをしに帰ってや
 る」
C  「は?」
A  「…なんか、自分に負けてんのが腹立
 ってきた。他のオレが成功してんだから、
 オレに成功できない訳ねえだろ」
   A、スタスタと歩き出す。

○元の渋谷、ゲート前

   待っているB。
   光のゲートが現れ、Aが帰還。
B  「あ! お前! このゲートは一人専
 用ってことか! これで元の世界に帰れ
 る!」
A  「いいよ。帰れよ」
B  「?」
A  「『服はこっち』って迷ってるオレがい
 るから、助けてやれ」
B  「??」
A  「可能性なんだ。どっちか行ったらど
 っちかになるけど、どっち行っても幸せに
 なる可能性も、権利もあるだろ」
B  「???」
   A、電話する。
A  「ああ、資料ですが、前回のと同じで
 いいですか。僕が責任をもって得意先に説
 明します。細かい資料を直すより、ちゃん
 と話をしにいきましょう」
B  「…お前、よく亀田にそんなこと言い
 返せたな」
A  「…お前に、会ったからかな」
B  「なんだそれ」
A  「ついでに。(もう一件電話)…あ、範
 子、…久しぶり。いや。えっとさ。お前と
 仕事、両方取ることにしたから、やり直し
 たい。…ついでに結婚して、三児をもうけ
 たい。ハア?何言ってんの?って感じでし
 ょ。…あ、じゃ、かけ直して」
   電話を切るA。
B  「…」
A  「…」
   A、B、笑う。
B  「ガンバレ沼田沼男」
A  「ガンバレ沼田沼男」
B  「一寸先は闇だぞ」
A  「お前もな」
   Aに電話がかかってくる。
A  「ああ、範子。え? 今から服買いに
 行くって? じゃ付き合うよそれに。…で、
 どうせ『この服とこの服、どっちがいい?』
 って聞くんだろ?」
   にやりと笑う二人。

   暗転。

●タイトル『ぶつかる #2フェチ』

○教室、放課後

   暇な高校生二人。机の上とかに座って。
A  「お前さ、クラスに好きな女とかい
 る?」
B  「いる」
A  「マジで!誰?」
B  「何でお前に言わなきゃいけないんだ
 よ。お前はどうなんだよ」
A  「いるよ」
B  「誰だよ」
A  「…待て。当てっこしよう」
B  「…おう。…その子のどこがいいんだ
 よ?」
A  「おっぱいだな。推定D、いやFかも。
 あのプルンプルンのおっぱい。おっぱいこ
 そフェロモン。おっぱいこそ王道。あーあ
 のおっぱいに顔をうずめてみてえええ」
B  「お前何にも分かってねえな。女は胸
 じゃねえだろ」
A  「は?」
B  「脚だろ。スラリと長い脚が、組んだ
 り組まれなかったりする、あのラインの美
 しさこそが女の魅力ってもんだろ」
A  「…お前、脚フェチ?」
B  「お前はおっぱいフェチか」
A  「そうだよ! おっぱいにも色々あん
 だよ! 釣鐘型、ロケット型、半球型。そ
 の中でもアイツのおっぱいは最高なんだ
 よ!」
B  「おっぱいはどうでもいいよ。脚だろ。
 膝の裏とかふくらはぎとか奇麗な女なんて、
 滅多にいねえぞ!」
A  「…待て。お前、女を外見で見てるだ
 けだろ」
B  「お前こそ」
A  「女は内面だろ。アイツ、優しいんだ
 よ。愛想よくて。そこが好き」
B  「優しいのは媚びてるだけだぞ。俺の
 好きな女は、プライドが高いんだ。それっ
 て責任感があるってことだ。そこがいいん
 だよ」
A  「優しさだろ」
B  「責任感だよ」
A  「…あと、ファッションセンスがいい
 んだよな。私服がうわーってなる女いるじ
 ゃん」
B  「それは分かる。センスが合う合わな
 いは大事だ」
A  「はじめて意見があったな」
B  「でも服より笑いのセンスだろ。ヘン
 な所で笑う女は引くだろ」
A  「服だろ」
B  「笑いだろ」
A  「…大体、そんな女、いたか?誰?」
B  「お前の好きな女こそ、誰だよ?」
A  「何部?」
B  「陸上部」
A  「? …俺の好きな女も陸上部」
B  「待って待って。ウチのクラスの陸上
 部の女、三人しかいないじゃん。誰? 相
 沢? 榎本?」
A  「(首を振る)」
   二人同時に「お前、原田が好きなの?」
A  「…」
B  「…」
A  「待ってよお前、原田のおっぱい最高
 だろ」
B  「何言ってんだよ、原田の脚が最高だ
 ろ」
A  「優しいところだろ」
B  「責任感あるところだろ」
A  「ファッション」
B  「笑い」
A  「…」
B  「…」
二人同時に「お前一体どこ見てんだよ!」

   暗転。

●タイトル『ぶつかる #3盤外戦』

○控え室

   名人A、待機中。
   ノックして入ってきた敵のマネージャ
   ーB。
B  「どうも」
A  「何?」
B  「永世名人に直接ご挨拶を、と思いま
 して。このたびウチの最強人工知能『オメ
 ガ』との対戦、お受け頂いて有難うござい
 ます。マネージャーの高橋です(名刺を出
 す)」
A  「(受け取る)…なにせ、人類の名誉の
 為だからね」
B  「ウチのオメガ、ことごとく王将も竜
 王も破ってしまいました。あとは永世名人
 ただ一人。『人工知能は人間の将棋に勝てる
 のか?』、その答えがようやく出るときが来
 て、我々研究者も光栄ですよ」
A  「…私は、人間の為に指すんだよ。人
 工知能の方が人間より賢いなんて、人間と
 して認めたくはないんでね」
B  「演算速度。記憶容量。定石の効率化。
 ディープラーニングによる強化学習。オメ
 ガは将棋誕生以来二千年だとして、今まで
 人類全員が指したすべての対局より多いで
 あろう局面を経験しています。なにせ一日
 十万戦指して、もう十年も演算をぶん回し
 てますからね」
A  「…そのうち人類は不要って判断して、
 核ミサイルをハッキングするのか?」
B  「ははは。オメガは将棋専用マシンな
 ので、そういう学習には最適化されてませ
 ん」
A  「…では、盤上で」
   B、帰りかけるが振り向く。
B  「ひとつ、提案があるのですが」
A  「?」
B  「率直に言います。この対局、負けて
 もらえませんかね?」
A  「…何言ってるんだ。人類最後の希望
 だぞ俺は。負けたら天地をひっくり返す騒
 ぎになるだろ」
B  「そこですよ。我々は、そこで三戦勝
 負を宣言します。二戦目は負けますので、
 三戦目をしましょう。三戦目が、今日やる
 予定の、本気の勝負にすればいい」
A  「…八百長か」
B  「ちがいますよ。世間が盛り上がる為
 ですよ。この中継には莫大な金が動いてる
 んだ。三戦やれば、三倍儲かるでしょ?」
A  「…」
B  「ギャラを、山分けしましょうよ。む
 しろ二戦分で、こっちの取り分は一戦分に
 します」
A  「…そっちのメリットは?」
B  「その後の商売です。一回でも名人に
 勝った。二回勝てばさらに良し。どっちに
 転んでも、その後の商売に有利になる」
A  「断る」
B  「どうして?」
A  「そちらが三戦勝負にする保証がない。
 この勝負で勝ち逃げをするかも知れない」
B  「…流石、先読みしますね」
A  「…それに、俺は人類の名誉の為にや
 る。金の為ではない」
B  「誓約書、用意してます(出す)」
A  「八百長にそんなもの無効だろ」
B  「…流石、読んでますね」
A  「将棋の読みより浅いだろ」
B  「では、どうでしょう?あなたの個
 人情報をネットに流すという、脅迫なら?」
A  「…盤外戦を、仕掛けるのか」
B  「ははは。正攻法じゃ、無理そうなの
 で」
A  「…残念だが、俺はツイッターもフェ
 イスブックもやらん。ネットに触れてない
 ので、検索しても出てこんぞ」
B  「…そこまでは、こちらも読んでます。
 だから、子供の頃の悪行をばらしてやろう
 かと思って」
A  「は?」
B  「小学校のとき、ボール投げてガラス
 割ったでしょ」
A  「…子供のすることだ。そういうこと
 もある。そうやってボールを投げるのを覚
 えるんだ。それにあやまって、和解もした」
B  「中学校の頃、うまい棒を万引き」
A  「時効」
B  「…大学の頃、酷い振り方をして、彼
 女を傷つけた」
A  「俺も傷ついた。恋愛とは、そういう
 エゴとエゴのぶつかり合いだ。そういう修
 羅場を経て、人は成長するのだ」
B  「では、将来ある若き棋士を、王将戦
 でことごとく潰したことは?」
A  「将棋指しとしてむしろ名誉」
B  「歌舞伎町で酔って立小便」
A  「ズボンの中に漏らす方が不名誉」
B  「…流石ですね」
A  「ここまで、読めてたか?」
B  「…もちろん、読んでました。だから、
 まだ奥の手があります」
A  「?」
B  「奥さんと子供を、誘拐させてもらい
 ました」
A  「なんだと?」
B  「ひまわり幼稚園のお出迎えを狙わせ
 てもらいましたよ?」
A  「バカな! 公表してないぞ! どう
 して特定したんだ! …いや、ハッタリだ
 ろう。妻と子供の画像は出回ってないだ
 ろ?」
B  「奥さんのママ友のフェイスブックに、
 写ってましたので」
A  「…そこから漏れたのか…」
B  「人質です。負けて頂ければ解放しま
 す。やくざじゃないんで殺しも暴力もない
 です。誓約書も渡しますし、三戦勝負にす
 るだけです。お金も支払いますので、口外
 無用という事で。あと、これは録画も録音
 もされていません」
A  「…わかった。…そこまでは、読めて
 いなかったよ…」
B  「では、よろしくお願いします」
   B、一礼して廊下に出る。
   電話をかける。
B  「ああ私だ。うまくいったよ。流石将
 棋指し。読みが深くて、最後の切り札まで
 行って焦ったよ。だがこちらの計画が上回
 ったな。人工知能の立てた計画は、完璧だ
 った。さすが我らがオメガ」
   そのまま去ってゆく。
   控え室に残されたA、電話をかける。
A  「ああ、無事か?そうか。予想通り、
 引っかかったよ。偽の役者さんは大変だろ
 うが、やくざ絡みじゃなくて良かった。君
 の友達にも、嘘写真のご協力ありがとうと
 言っておいてくれ。読みよりも、驚く芝居
 のほうが難しかったよ。…ああ。人工知能
 がこういう計画を立てて来るところまでは
 読めてた。…ははは。人工知能を信じる人
 間を騙すほうが、簡単だからね。……ああ。
 勿論、一戦で潰す」

   暗転。

●エンディング



※ 「裏黒バック」 役者AとBをそっくり入れかえて撮影することが可能だ。
あの時のセリフの言い方、芝居。役者によって解釈や仕掛け方が異なり、視聴者はそれも楽しみに出来るだろう。一粒で二度おいしい、それが裏黒バック。


次回 劇団黒バック第二回「待った」
 #1 幻 #2 百万光年の旅
 #3 盲目の恋

https://note.com/oooka_/n/n58ac15c0f59b

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