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映画シナリオ「限界タクシー~首落村奇譚」(1/4)

映画シナリオ、ミステリー、スリラー、111分

タイトル
限界タクシー〜首落くびおち村奇譚
(海外用: Taxi in the fog)

キャッチコピー
あと三週間、黙ってればよかったのに。
(海外用: Keep your mouth shut for more three weeks.)

スペック
一つの村、タクシーの車内メインで撮れる。横溝正史的な古い因習と現代の交錯スリラー。
『ミッドサマー』×『コラテラル』

ログライン
霧に包まれた限界集落で、村人の足代わりのタクシーを運転する白井。そこへ時効寸前の殺人事件の捜査の個人的にしている女刑事勝村がやってくる。密室のタクシーは村人の移動尋問室になり……
(海外用: In a foggy, decaying village, Shirai drives a taxi—the residents' lifeline. Katsumura, a female detective, rides on his car. She is obsessed with a cold case murder nearing its statute of limitations. In this quiet village, a single car becomes a rolling interrogation room.)



限界タクシー~首落くびおち村奇譚

大岡俊彦


【登場人物表】

白井しらい つとむ  (45) タクシードライバー。
    丁寧な紳士だが、ある条件で豹変す
    る。限界集落「窪内くぼうち村」で、ボラン
    ティアタクシーを運転している。

勝村かつむら 沙也加さやか(32) 東京から来た女刑事。

下田しもだ ゆり子(80) 村の住人。
    亡き夫思いのニラ農家。
橋上はしうえ みやこ (85) 村の住人。
    品の良い洋館に住んでいる。
保坂ほさか 和代かずよ(83) 村の住人。
    おしゃべり好きで、足が悪い。

トミナガ (29) YouTuber。松風まつかぜ荘住人。
    限界集落で暮らすチャンネル「限界
    暮らし」で大人気(自称)。
メイ  (18) トミナガの大ファン。
合田ごうだ夫婦(35) 東京から越してきた帰農
    者。
キムラ(30) 松風荘のひきこもり。
モリノ(30) 松風荘のひきこもり。
オダ (30) 松風荘のひきこもり。

八ヶ岳(60) 白井の上役。市役所職員。
出口 (65) 少し前に村に来た人。

明神みょうじん あきら(70、当時) 25年前に事故死
       した、村長。

〇白い霧、窪内村の入口

   白い霧。
   朝霧で視界が真っ白だ。
   道。
   道の先は山の入口。かつて大鳥居があ
   ったが、根本で折れて今は切り株のみ
   が残っている。
   脇に朽ちたバス停。「窪内村入口」の消
   えかかった文字と、「廃線」のペンキ。
   霧の中から、二つのライトが現れる。
   それは黄色のワゴンタクシー。
   「みんなの足ニコニコタクシー」と、
   ペイントされている。
   運転する白井(45)。

〇村の俯瞰、晩秋

   晩秋、紅葉も盛りを過ぎたころ。
   山林、棚田、休耕田。張り巡らされた
   血管のような水路。廃屋。
   細く、くねくねした道を走るタクシー。

〇下田の家の前、霧

   小さなニラ畑のある家に、タクシーは
   停車。
   白井は玄関に立ち、腕時計を見る。
   8時きっかりまであと5秒、4秒、3
   ……0丁度でチャイムを押す白井。
下田(80)の声「はーい」
白井 「ニコニコタクシーの白井です。本日
 火曜は、病院です」
   玄関があき、下田が。
白井 「おはようございます。保険証はお持
 ちですか」
下田 「(うなづく)ありがとう。今日は霧が
 ひどいわね」
白井 「もう慣れました」
下田 「年寄りにはこたえるよ」

〇市の病院、駐車場

   タクシーの中で待つ白井。
   下田が出てくるのを見てドアを開ける。

〇帰りのタクシー車内

   薬袋を抱えている下田。
白井 「あ、寄りますよね?」
下田 「お願いします」

〇街道沿いの小さなパン屋、前

   小さなパンを千切って、少しずつ食べ
   る下田。
白井 「そのパン、ずっとお好きなんです
 か?」
下田 「そうか。白井さんは知らないのね。
 私の死んだダンナ」
白井 「ダンナさん」
下田 「これは、彼が初めての給料で買って
 くれたパンなの。『一番安いのを』って文句
 を言ったら、『何個も食わせてやれるから』
 って言うのよ。私はその思い出をまだ食べ
 てるのね。……あ、食べてみます? 全然
 美味しくないんだけど」
白井 「(もらって食べる)……ほんとだ」
   二人、笑う。

〇走るタクシーの車内(村~橋上の家)

   窓の外を見たまま何もしゃべらない、
   上品な感じの橋上(85)。
   タクシーが止まる。そこは古い洋館。
   橋上、一万円を出す。
白井 「市内一律500円です。9500
 円のお返しで」
橋上 「お釣りはいいわ。取っといて」
白井 「?」
橋上 「チップよ。いつもお世話になってる
 でしょう? 何かおいしいものでも食べ
 て」
白井 「いえ、受け取れませんよ」
橋上 「どうして? 私の感謝の気持ちよ? 
 500円だけそのボランティアの箱に入れ
 て、あとは懐にしまうのよ?」
   白井は、銀行員のように千円札を数え、
   橋上に渡す。
橋上 「他の運転手さんは受け取ったわ?」
白井 「……私は、私なので」
橋上 「……」

〇走るタクシーの車内

   沢山買い物袋を抱えた、おしゃべりの
   保坂(83)が乗っている。
保坂 「(身を乗り出して)白井さん、アンタ
 橋上さんの一万円断ったんだって?」
白井 「えっ? なんでそれを御存じなんで
 すか?」
保坂 「どんだけここが限界集落限界集落言
 われててもさ、どっかで誰かが見てるもん
 よう!」
白井 「……では、他のドライバーが受け取
 る所も見られてたんですかね」
保坂 「関係ないわよう! 他の人がやるよ
 うにやればいいの! 白井さん、マジメす
 ぎるのよ!」
白井 「元、銀行員なので」
保坂 「そうだったそうだった! でも目立
 つことすると、この村では生きていけない
 わよ?」
白井 「私、目立ったんですか」
保坂 「抜けがけは許さない。その代わりみ
 んなが助け合う。それが村ってもんでしょ」
   タクシーは保坂の家につく。
   白井は大量の買い物袋を玄関まで運ん
   であげる。保坂は足が悪く、杖で歩き
   づらそう(恰幅がよすぎるのもある)。
保坂 「そうそう! 知ってる? 滝壺にイ
 タチの死体が上がったって!」
白井 「イタチ?」
保坂 「水流の関係か、あの辺で死んだのは
 必ず滝壺に浮かぶのよね!」
   ×   ×   ×
   インサート。暗く冷たい滝壺に浮かぶ、
   イタチの死体。
   ×   ×   ×
保坂 「きっと縁起悪いことが起こるわよ! 
 イヒヒヒヒ」
   無邪気に喜ぶ保坂。
   ふと視線を感じる白井。
   畑仕事の老人がこちらを見ている。
   思わず会釈する白井。

〇霧の中の山道

   車が脱輪して立往生している。
   白井のタクシーが通りがかり、手伝う。
   ×   ×   ×
   それが片付いて。
車の主、八ヶ岳(60)「ありがとう白井く
 ん、助かったよ。……あ、そうだ! 勝村
 さんを白井くんにお願いできるんじゃない
 かな?」
   同乗者の、勝村(30)。
八ヶ岳「東京から来た刑事さん」
白井 「刑事……さん?」
八ヶ岳「事件を調べに来てるんだそうだ。(ち
 ょっと楽しそうに)殺人だとよ」
白井 「えっ」
八ヶ岳「勝村さん、例の限界集落担当のドラ
 イバー、白井くん。村の人間関係も一通り
 知ってる」
   勝村は白井に一礼、警察手帳を見せる。
勝村 「勝村沙也加と申します。公式捜査で
 はなく、私個人が休暇を使って捜査してい
 る件があります。ここで起きた25年前の
 事故が、殺人ではないかと疑っています」
白井 「殺人……事件ですか?」
勝村 「当時の村長、明神昭氏の自動車死亡
 事故。もしこれが殺意のあったものと仮定
 すると、時効まであと三週間なんです」
八ヶ岳「つまりアレだ。時効寸前の村長殺し」
勝村 「殺人は法改正で時効がなくなりまし
 た。私が追っているのは、殺人未遂の時効
 二十五年です」
白井 「お願いとは……捜査協力ですか?」
八ヶ岳「白井くんはこの界隈に詳しいし、毎
 日村の人を乗っけるじゃない? 移動中に
 みなさんに話を聞くといいんじゃないかっ
 て。移動尋問室みたいな」
勝村 「お話を聞くだけで、尋問するわけじ
 ゃありません」
八ヶ岳「私は役所の仕事もあるし、白井くん
 なら適任かと」
白井 「村の人の足を止めるわけにはいかな
 いので、兼務ということでよければ」
八ヶ岳「うん。運転はそのままやって、勝村
 さんが助手席に乗ってればいいのでは?」
白井 「……はあ」
   勝村、丁寧にお辞儀する。
   白井も思わず返す。

〇街道沿いの事故現場

   田んぼと街道があるのみ。
勝村 「25年前の11月30日深夜0時。
 (指さしながら)こう入って来た明神氏の
 自家用車は、ブレーキを踏みながら田んぼ
 に転落。シートベルトをしていなかったた
 め頭を強く打って死亡。当時ガードレール
 も、街灯もなく」
   白井は周囲を見回す。
勝村 「ドライバー視点から見て、普通の事
 故だと思います?」
白井 「慣れている道ですと、街灯がなくて
 も運転できるとは思います」
勝村 「平常時ならね」
白井 「? ……飲酒運転とか?」
勝村 「(ハンドルを握る手をつくり)村長
 の両手に、おびただしい数の傷があった。
 キリのようなもので貫かれ、数にして11
 2か所。ハンドルは血まみれ」
白井 「……(眉をしかめる)」
   ×   ×   ×
   当時のインサート。
   おびえながらハンドルを握る明神(7
   0)。その両手から流れる血。
   ぬるりと、ハンドルを持つ手が滑る。

〇村の入口、大鳥居跡

勝村 「かつてこの村の入口には、大鳥居が
 そびえていたんですが……これ」
   勝村が指したところには、白い塗料が
   こすったような痕。そこから鳥居が折
   れたようになっている。
勝村 「事故車と傷の位置、塗料が一致。村
 人の証言から、事故以前までは鳥居があり、
 真夜中に大きな音があり、次の朝には倒れ
 ていたと」
   白井、運転経路を歩いて想像する。
   両手を見て、刺された跡を想像する。
   後ろを振り返り、
白井 「その……何者かから、逃げていたん
 でしょうか?」
勝村 「単なる単独事故かも知れないし、考
 えにくいですが、錯乱して自分の手を刺し
 ただけかも知れない。村の内部ではなく、
 外部から来た通り魔かもしれない。当時の
 捜査では、村人たちにほとんどアリバイが
 ないんです。隣同士離れているし、監視カ
 メラがあったわけでもなし」
白井 「単独事故か……否か」
勝村 「当時の長野県警は、証拠がないとし
 て、単独事故扱いで捜査を打ち切っていま
 す。でもその犯人が、この村の中にいまだ
 息を潜めているとしたら」
白井 「そんな。皆、いい人ばかりでよ」
勝村 「運転手は、扉の前までしか知らない
 でしょう?」
   白井、急に不安になり、村をのぞき込
   む。
   霧の村は、迷宮のように見える。
タイトル 【時効まで、あと21日】

〇松風荘、前

   YouTuberのカメラ映像、ライブ配信中。
トミナガ(29)「ハイ! 大人気YouTuber
 トミナガの『限界暮らし』! 限界集落で、
 限界に暮らす! (ポーズを取って)マジ
 限界! 今日は『椿油をつくってみた』! 
 えっと、昔ここで椿油をつくってたらしい
 んだけど、もう作る人いないんだってさ。
 なのでやってみるよ! 作り方はカンタ
 ン! 椿の種集めて、殻むいて、中身砕い
 て、蒸してふきんの中でギューッて絞るら
 しい」
   椿の種をカメラに見せる。
トミナガ「一個拾った! あと100個集め
 ます! マジ限界!(ポーズ)」
   その画面の後ろを走る、白井のタクシ
   ー。助手席の勝村。
トミナガ「誰? めっちゃ美人じゃん!」

〇走るタクシーの中(村を案内)

   助手席に勝村。バックミラーに松風荘
   が見えている。
白井 「今通り過ぎたのが松風荘です。市が
 若者を誘致する為に建てました。ネット引
 きこもりって言うんですかね。家賃を格安
 にしてネットだけは充実してます。あのト
 ミナガさん、YouTuberです」
   トミナガ、カメラを構えている。
   勝村、スマホでトミナガのYouTubeチ
   ャンネルを再生しようとするが、読み
   込まない。
白井 「あそこ以外は電波悪いですよ。あと
 で見られては」
   タクシーは村を登ってゆく。
   合田夫婦(35)の家。
   畑で落葉を焼いている二人。明るい顔
   で手を振る。
白井 「最近、東京から越してきた合田さん
 です」
勝村 「そういう人もいるんですね」
白井 「都会暮らしを忘れて自然と暮らした
 いという人はたまにいるようですが、ここ
 まで来る人は珍しいですね」
   棚田の広がる絶景、下田の家、保坂の
   家、橋上の家を通り過ぎる。

〇明神村長の家、庭

   タクシーから降りた白井、勝村。
   村一番見晴らしのよい場所に立つ廃屋。
白井 「かつての村長の家です。庭が村の神
 社を兼ねています。今は誰も住んでません」
   朽ちた鳥居、神社の祠。
   それぞれに椿紋が入っている。
白井 「気を付けてください。崩れるかもで
 す」
   古い物見の塔に手をかけようとした勝
   村、慌てて手を離す。

〇村長の家、内

   扉を開ける白井と勝村。埃が舞う。
白井 「明神家は代々神主だったようですが、
 断絶しましたね」
   勝村、ハンカチで口元を抑えながら見
   渡す。古い仏像のようなものが安置。
   荒々しく禍々しい。
勝村 「神社なのに仏像。……両面宿儺りょうめんすくなか」
白井 「?」
勝村 「民間信仰ね。古くて雑多な信仰だっ
 たよう」

〇村長の家、庭

   外に出ると、村人(老人)たちが、手
   に野菜を抱えている。
   トミナガもカメラを持ってやって来た。
トミナガ「なんだなんだ! 事件の匂いビン  
 ビンビン!」
白井 「みなさん、ご紹介します。東京から
 来た、刑事の勝村さん」
村人1「刑事?」
村人2「事件ですか?」
勝村 「25年前の村長の事故死について、
 調べに来ました」
村人3「あれは、事故で決着がついたので
 は?」
勝村 「長野県警調べではね。私は、そうで
 ないと考えています」
トミナガ「(カメラに向かって)やべえ! 
 刑事だってさ!」
   群衆の中から橋上が出てくる。
橋上 「具体的には、何をお知りになりたい
 の?」
勝村 「みなさん白井さんの車をご利用して
 いると思いますが、その時にお話を伺う程
 度です。お手間を取らせるつもりはありま
 せん」
   村人たち、野菜を勝村に渡す。
勝村 「え?」
村人1「持ってって」
村人2「この村は、外からの人にやさしいん
 だよ。持ってって」
   両手一杯に持たされた勝村。

〇走るタクシーの車内

   勝村の膝の上には、野菜の山。
   後部座席には杖を持つ保坂。
保坂 「アハハハ! それで沢山野菜持たさ
 れたんだ!」
勝村 「……はい。保坂和代さん、お話を伺
 ってもよろしいでしょうか」
保坂 「いいわよ! (買い物袋からお茶の
 缶を出す)これあげる!」
勝村 「え?」
保坂 「この村は、お客さんに沢山上げる習
 慣なのよ! ワイロじゃないわよ! ガハ
 ハ!」
   ×   ×   ×
勝村 「……話は以上です。有難うございま
 した」
保坂 「昔警察に話したことと同じだと思う
 けど、こんなんでいいの?」
勝村 「……では、ひとつだけ」
保坂 「?」
勝村 「明神村長の両手には、キリのような
 もので刺した無数の傷がありました」
保坂 「知ってるわよ?」
勝村 「ひとつ不思議なことが」
保坂 「?」
勝村 「左手のほうが、刺し傷が多いんです。
 なぜだかわかります?」
保坂 「んー? ……自分でやったんじゃな
 い?(右手でキリ持って左手で刺す真似) 
 そんな訳ないか。ガハハ!」

〇走るタクシーの車内

   下田の話を聞く勝村。
勝村 「……お話は、以上です」
   メモ帳を閉じる。
下田 「今年獲れたニラです。どうぞ」
   ニラを後部座席から渡す。
   勝村の足元には段ボール一杯の野菜。
勝村 「こんなに沢山頂いちゃって……(ふ
 と考える)」
下田 「?」
勝村 「お土産渡さないと、どうなるんで
 す?」
下田 「村八分よ?」
勝村 「え?」
下田 「一人だけ抜けがけしようものなら、
 怖い目に合うわ」
白井 「怖い目、ですか」
下田 「私は、合ったことがないけど」

〇スーパー、駐車場

タイトル【時効まで、あと18日】
   タクシーから降りてくる保坂。
   白井が持ってきたカートを受け取る。
保坂 「ありがと! 今日特売なのよ!」
   スーパーの中へ。
   勝村も空気を吸いに車の外へ。
白井 「ああ、合田さん、こんにちは」
   駐車場の脇にいた合田夫妻ふりむく。
   2人の若い「客」らしき人に、紙袋の
   包みを渡していたところ。
白井 「東京から来た、刑事の勝村さんです」
   勝村会釈。
   夫妻、勝村を見て急に挙動不審に。
合田 「あ……。ども……では畑に戻ります
 ので」
   急ぐ合田。客1、2も、その場を立ち
   去ろうとする。
勝村 「ちょっとすみません。その包みの中
 を見てもよろしいですか?」
客1 「え、なんで。これ任意ってやつです
 か?」
   客二人、速足で逃げ出す。
勝村 「ちょっと!」
   勝村、客1の手を掴む。落ちる包み。
   白井がそれを蹴飛ばす。
勝村 「ナイス白井さん!」
   客1を羽交い締めにしている。
   合田、車を急発進させる。
勝村 「包みを開けて!」
   白井、包みをあける。
   ビニールに包まれた乾燥大麻。
勝村 「大麻?」
客1 「ちげーよ! かきあげだよ!」
勝村 「白井さん! 車を出して! 彼らを
 追える?」
   客1に関節技をかけて連行したままタ
   クシーの後部座席へ。

〇走るタクシーの車内

   客1は手錠でドアにつながれている。
白井 「彼らは『畑に』と言いながら反対方
 向に走り出しました。この道を行けば追い
 付くはずですが、横道に入られると……」
勝村 「いた!」
   合田の車、横道の進入禁止の柵を吹き
   飛ばして中へ。
白井 「……その道ですか」
   白井の車もその道に入る。

〇工事中止のドリームバイパス、走る車内

   開発中の道。舗装もままならず、砂利
   道に草が生え放題になっている。
白井 「第三セクターが山の中を通すバイパ
 スをつくってたんですが、政治家のスキャ
 ンダルで延期のままですね。村までの近道
 です」
勝村 「じゃあ彼らはやっぱり村に?」
白井 「勝村さん、ダッシュボードの手袋取
 ってくれませんか。あとシートベルトを」
   勝村、後部座席から身を乗り出してダ
   ッシュボードを開けたタイミングで激
   しくカーブする。足元の野菜が飛ぶ。
勝村 「無理! こんなの!」
   出した革手袋を渡す。
   白井、それをはめる。
白井 「……(目の色が変わる)」
勝村 「?」
白井 「シートベルトを締めろって言ったろ
 この野郎! 車の中で野菜ごとミキサーに
 なるぞ!」
勝村 「……え?」
白井 「つかまってろ! ぶっ飛ばすぞ!」
   アクセルを踏み込む。慌ててシートベ
   ルトをする勝村。
白井 「イーヤッホウウウ!」
客1 「はあああああ?」
   後ろでゴムまりのように跳ねるしかな
   い客1。またまた野菜が飛び回る。
   合田の車に追いつく。
勝村 「追い付いた!」
白井 「そのケツにぶち当ててやる!」
   合田、振り向いてこちらを確認した。
白井 「前見てろ馬鹿野郎!」
   合田、ハンドル操作を誤りスピンして
   横転。
   白井の車、横滑りして停車。
   勝村、車から出てきた合田を投げ飛ば
   し、地面に押さえ時計を見る。
勝村 「15時48分、確保ー!」

〇合田の家、外、夕

   パトカーが集まり、警官たちが立ち入
   り禁止のロープを。集まる野次馬。
   ×   ×   ×
   合田の家の中。
   ケースの中で紫外線を当てた大麻草。
   押収していく警察。
   ×   ×   ×
長野県警の刑事「東京からいらした刑事さん
 ですってね。お手柄です」
勝村 「いえ、単なる偶然です。実は休暇中
 でして」
   刑事、敬礼して現場へ。
勝村 「(白井に)実は私、『確保ー!』っ
 て言うの夢だったんですよ。ドラマとかで
 よく女刑事がやってるじゃないですか。そ
 れに憧れて」
白井 「夢だったってことは……」
勝村 「これまで一回も犯人を捕まえたこと
 なくて。初めての『確保』でした」
白井 「……はあ」
勝村 「夢、叶った」
白井 「……」
勝村 「あの……私が私的捜査といったのは、
 それが理由です」
白井 「?」
勝村 「私、実は刑事をクビになりそうなん
 です。成績の悪い刑事なので。次の人事異
 動で、外される可能性が高いといわれまし
 た」
白井 「そうなんですか」
勝村 「だから時効を控えた事件ファイルを
 勝手に調べて、勝手に手柄を立てられない
 か、ってここに来たんです」
白井 「今二人、逮捕したじゃないですか」
勝村 「プラスとしては小さいです」
白井 「……しまった」
勝村 「?」

〇スーパー、駐車場

   大量に買い物の入ったカートを押して
   きた保坂。誰もいない。
保坂 「あれえ?」

〇夜、街の小さな居酒屋

居酒屋の大将(65)「ハイご賞味あれ!」
   野菜料理が並べられてある。
   箸をつける勝村。
勝村 「おいしい! 東京で食べるのとは全
 然違う! 野菜の迫力があるというか!」
大将 「このあと焼き物と煮物が来るんで!」
   しばし堪能する勝村と白井。
白井 「ここの大将は、なんでも美味しくつ
 くってくれます」
勝村 「助かりました。あんなもらってどう
 しようかと」
白井 「私が最初に来たときもここで調理し
 てもらいました(笑う)」
勝村 「……あの、白井さんていつもそんな
 丁寧な感じなんですか?」
白井 「すみません。元銀行員なので、堅苦
 しいとよく言われます。運転手らしくない
 と」
勝村 「いや、あの……(手袋をはめる真似)」
白井 「ああ。ハンドルを握ると人格が変わ
 る人、いるじゃないですか。それを普段は
 封印してるのかも知れません」
勝村 「……どっちが本当の白井さん?」
白井 「……どちらも私、ですかね」
勝村 「差し支えなければ、どうして運転手
 に?」
   白井、箸をおいて。
白井 「早期退職したんです。丁度妻が、亡
 くなったところで」
勝村 「ごめんなさい。立ち入ったことを」
   優しく首を振る白井。
白井 「尊敬する上司が、不正経理をやって
 たんです」
勝村 「え」
白井 「さらに上に報告したら、窓際部署に
 移され、冷や飯を食わされました。グルだ
 ったんですね、彼らは」
勝村 「それで、お辞めに」
白井 「人の集団が嫌になったんでしょうね。
 ちょうど妻も亡くなり、一人になりかった
 んだと思います。でも村の人は良くしてく
 れて、こちらでは良い人間関係を作らせて
 もらってるとばかり思っていました。でも、
 あの中に犯人がいるとしたら。そう言われ
 て、思ったんです。今度こそ、見逃しては
 ならない」
勝村 「……」
   大将が入ってくる。
大将 「ちょっといいかな? 一応、耳に入
 れておかないとと思ってさ」
   大将、ニラっぽい葉っぱの束を。
大将 「これ、スイセンの葉っぱだよ。ニラ
 によく似てる。知らないと気づかないよ」
勝村 「?」
大将 「ニラはうまいよ。でもスイセンの葉
 は猛毒だ」
勝村 「え……」
大将 「誰にもらった?」
勝村 「どこかで、まぎれてたのかも」
白井 「じゃあ、何者かが、まぎらせたとい
 うことですか?」
勝村 「……」
タイトル【時効まで、あと18日】


(4/2につづきます。
村の中の人全員が敵……?
次回、重要参考人が浮かび上がる。)
https://note.com/oooka_/n/n904da1e92a4c


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