小説「観音子」柳の観音様・続き
◎柳の観音様・続き
処は、堺の居酒屋
「柳の観音様じゃ~!げに、げに、
柳の観音様じゃ~!」
商人の幸助は、濁り酒の盃を片手に、上機嫌で何度も声を張り上げていた。
遅れてきた仲間が、怪訝(けげん)そうに声をかける。
「おい幸助。さっきから何を言うておる。その『柳の観音様』とは何じゃ?」
幸助は、ほくほくと笑いながら、自らの膝を打った。
「いやぁ、有り難いことになってな~
会合衆の御大から、次の大商いをすべて任されてしもうての~」
仲間たちは驚き顔を見合わせる。
「何と!? 新参のお前が、まこと得難き火薬の商いを請け負うたというのか?」
幸助は面映ゆげに頷き、盃を揺らした。
「わしも驚いておる~。運搬も調合も、何もかも違わず上手く運んでな。まこと、有り難きことじゃ。されど、されどな?これはわしの力では御座らんのじゃ~」
そう言うと
幸助は、おもむろに懐から、綺麗に折られた短い文(ふみ)を取り出し、皆へ見せた。
「これじゃ~これ、これ」
仲間たちが身を寄せる。
「何じゃ、その文は?」
幸助は得意げに文を掲げ、声を張る。
「これを何と申そうぞ~!
霊験あらたかなる、観音札じゃ~!」
そして、盃を高く掲げた。
「いやぁ、有り難や、有り難や~! 皆々、柳の観音様の~、御利益じゃ~!」
男たちは顔を見合わせる。
柳……観音。
「寺か?」
「いや、聞かぬな」
「柳の観音、、?」
しばしの沈黙の後、
一人が、はたと膝を打った。
「なるほど!合点じゃ、二条柳か!」
「何をぼさっとしておる。一刻も早う拝みに行かねばなるまい!」
「わしらも御利益にあずからねば損じゃ!」
男たちは、
それが二条柳町におる観音の異名を持つ遊
女のことに違いあるまいと合点し、
我先にと夕暮れの中へ駆け出していった。
・・・
幸助は、その背を見送りながら、
盃を転がしている
「いやぁ、まこと有り難きお方じゃ~
ひっく、ひっく、、
観音子様、様、、ひっく!」
懐の文を握りしめたまま
幸助のまぶたは
次第に重うなり、
いつしか、
居酒屋の隅で
寝息を立てていた
・・・・
