胡乱な男 #1 スマホを盗んだだけなのに
※BL/犯罪コメディ/軽い性的表現あり
俺は現代に生きるトレジャーハンター。
泥棒だろって?
うん、まあ、そうとも言う。
ちょっとカッコつけたかっただけ。
俺が所属してる組織から「ある男が持っているスマホを盗ってこい」と言われた。
指定されたバーに向かった。
普段なら足を踏み入れないお高いバーだ。
男はカウンターの端で一人飲んでいた。
黒のジャケットに、黒のスラックス。
すらりと背が高く、体格がいい。
ついでに、顔もいい。
黒い髪を無造作に後ろへ流し、彫りが深く、鼻筋が通っている。
薄暗い照明でも、目だけは妙に澄んで見えた。
いい男はサマになるねえ。羨ましいことだ。
さ、仕事だ。
俺は一杯引っ掛けて、少し足元をふらつかせながら、男に近づいた。
よろけたふりをして男の肩に手をつくと、男はスマートに俺の腕を支えた。
「おっと。君、大丈夫?」
「すみません。ちょっと飲みすぎたみたい」
その一瞬で、内ポケットからスマホを抜き取った。簡単すぎて、拍子抜けした。
「気をつけて」
「どうも。良い夜を」
俺はへらっと笑って、その場を離れた。
バーを出ると、小雨が降っていた。
店の裏手で待っていた男に、スマホを渡した。
「待ってたぞ」
「お待たせ。支払いよろしく」
楽な仕事だった。
こんな依頼が出るってことは、あの男も何かしらのプロなんだろう。
ま、俺の手にかかればチョロかったけど。
人気のない路地を小走りで抜けていると、黒い傘を差した男とすれ違った。
「また会おうね」
耳元で声が聞こえた気がして、ハッと振り返った。
けれど、濡れた暗い路地があるだけで、そこには誰もいなかった。
翌朝。
口座を確認したら、まだ入金されていなかった。
元請けのギルドに電話しても、一向に出ない。
どういうことだ?
仕方なくギルドのある雑居ビルに向かうと、入り口からバーにいた男が出てきた。
「やあ。また会ったね。運命かな」
「……あんたは、昨夜の」
「離れよう。そろそろ時間だ」
男は俺の肩を抱くと、くるりと向きを変えさせ、ビルから離れるように足早に歩いた。
「時間って、何の?」
男を見上げた、その時。
――ボン!
鈍い衝撃音が響いた。
振り返ると、ギルドのあった三階の窓ガラスが飛び散り、黒煙が噴き出していた。
「止まらないで」
男は俺の肩を抱いたまま、歩き続けた。
「……あんたがやったの?」
ちらりと伺うと、男はにっこり笑った。
「あー、それを言うと君も消さないといけなくなるから、聞かないで」
「絶対聞かない」
しばらく歩いてから、もう一度振り返った。
黒煙の向こうで、けたたましく警報ベルが鳴っている。
「……俺、報酬まだだったんだけど」
こうなったら、なんかスってやろうか。
男の尻ポケットにそっと手を伸ばしたら、ぐっと引き寄せられた。バレたか。
「それなら僕のとこに永久就職すればいい」
「……永久就職?」
「君、僕と組まない?」
「あんたヤバそうだから、遠慮しとく。ほら、相性とかあるし」
男の目が輝いた。
「そうだね、相性は大事だ。ぜひ確かめないと」
「し、仕事の話だよね?」
「僕としては別の相性も確かめたいな」
「お断りします!」
男の手を振りほどき、死にものぐるいで走った。
地下鉄の階段を駆け下り、再び地上へ出て人混みに紛れた。
よし、巻いた。
ホッと息をついた時、ぽんと肩に手を置かれた。
「見ぃつけた」
「ぎゃああ!」
恐る恐る振り向くと、やはり例の男だった。
男はにっこり笑った。
「追いかけっこ楽しかったよ。喉、渇いただろ?」
男は背後にそびえる高級ホテルを、親指でくいと示した。
「立ち話もなんだから。話だけでも、どう?」
「ほんとに話だけ?」
「うん。飲み物でも、もちろん食事でも、好きなもの頼んでいいよ。お礼もしたいしさ」
「……食事も?」
よし、腹一杯食ったら逃げよう。
通されたのは、高層階のスイートルームだった。
その後のことは、まあ、ご想像にお任せします。
まんまとエサに釣られたってわけ。
散々ぐずぐずにされたあと、男が後ろから俺を抱きしめ、耳元で囁いた。
「ね、相性、どうだった?」
「……悪くなかったよ! クソッ!」
つづく
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