第209話 キリやんグラウスホップファー詩集
はじめに
2024年秋に没したキリやんグラウスホップファーの未発表の詩をお送りする。
巣の傍らで倒れていたキリやんを行路病者として保護しようとしたが、既に死亡していた。
その時所持していた草稿の一部である。
自分はキリやんの熱烈なファンであるとともに友人であると思っている。
推敲中であったかもしれないが、失われてしまうのはファンとして、友として残念なので敢えて公表することとした。キリやんも許してくれると思う。
キリやんは巣の中に運び美味しくいただきました。
働かないアリ壱号だったアリ 2025年5月
風に吹かれて
どれだけ遠くまで行かねばならないの?
成虫と認められるまで
どれだけ縄張りを広げなければならないの?
草の上で眠る前に
どれだけ兄弟を齧れは終わるのか?
自分が喰われる前に
友よ
答えは風の中で踊っているのさ
風の中に舞っているのさ
脱皮を我らに
ぼくらは一皮むける
ぼくらは殻をやぶる
ぼくらはいつの日か脱皮するんだ
ああ、心の奥底から
本当に僕は信じているのさ
ぼくらはいつの日か脱皮するんだ
4月になれば彼女は
4月 彼女は飛び跳ねてくるだろう
雨に小川が満ちるころ
5月 彼女は僕のそばにいる
また僕の前脚のなかに安らぐ
6月 彼女は脱皮してしまう
ソワソワして夜を歩く
7月 彼女は飛翔んでいく
何も言わずに
8月 彼女はもう死んでいるのだろう
寒く冷たい秋風の中
9月 僕は気付くだろう
芽生えた愛も時とともに終わることを
解説
働かないアリ弐号
元気なキリやんに最後に会ったのは昨年の9月のまだ夏の終わらない暑い日だった。
異動で遠出できなくなるので壱号の兄貴と2人、別れを惜しんだのは昨日のことのようだ。
今回、壱号の兄貴の尽力で未発表の詩集が刊行されたのは喜びにたえない。
未発表とはなっているが、実はキリやんから
「時代に合ってないし、若書きなので発表するのはやめたやつね」
の注釈付で聴いたことがある。
自分は「4月になれば彼女は」には感銘を受け、発表しないの勿体ないとずっと思っていた。
今回、これらがまとまって詩集として刊行されるのは自分としても嬉しい限りである。
巣の中で食べたキリやんは外骨格のキチン質しか残ってなく、泣きながら蟻酸で溶かして食べたのが思い出される。
キリやんの生きた証を堪能していただければ幸いである。
2025年4月
