AKB48『恋するフォーチュンクッキー』――学年で一番モテなかった僕が「人生捨てたもんじゃない」と思うまで|あのころを振り返る #8
東京オリンピックの開催が決まり、「お・も・て・な・し」が流行語になった、2013年の秋のはじめ。
街中では、『恋するフォーチュンクッキー』が至る所で流れていた。
みんなで行ったカラオケでも楽しく歌い、踊っていたが、僕はどこか自信を持てずにいた。
なぜなら、学年で一番モテてないことを知ってしまったからだ。
一番人気のない自分を総選挙で評価されるAKBに重ねていた。
さっしーが総選挙で初の1位に
『恋するフォーチュンクッキー』はAKB48にとって32枚目のシングルで、その年に行われた「選抜総選挙」で初めて1位になった”さっしー”(指原莉乃)がセンターを務めた。
AKBの代表曲のひとつであり、覚えやすい振付と共に大ヒット。
多くの自治体、企業、学校などが”踊ってみた動画”が多く投稿され、この曲のヒットと共に一大ブームとなった。
当時、多くの男子学生がそうだったように、僕もAKBを推していた。
その年、日産スタジアムで行われた”選抜総選挙”にも足を運だが、さっしーの1位が確定した瞬間の地鳴りのような熱狂は鮮明に覚えている。
10人中10番目という現実
僕の人生はとにかくモテない。
「モテキは幼稚園」なんて話す人もいるが、もはや羨ましい。
少しずつ夜が冷え込んできた10月の夜、飲み会が行われた。
僕はバイトで参加できなかったが、どうやら「実際、クラスの”推し”は誰?」という話になったらしい。
AKBの人気と共に”推し”という言葉も浸透してきたのもこの頃で、飲み会では「恋愛的な”好き”までいかないけど”気になる”人」といったニュアンスで使われていたようだ。
僕の学校は圧倒的に女子が多かった。男子は学年の1割強。80人中10人といったところだ。
飲み会に参加した女子たちが、学年の男子の中からそれぞれの”推し”を発表したところ、当時彼女がいなかった男子にバランスよく分散されたらしい。
しかし僕だけが誰からも推されていなかったようだ。
「あれ、誰かの落書きを推してる人いなくない?笑」
と、その場では盛り上がったらしい。
飲み会に参加しなかった僕に、三人の友人が別々のタイミングでご丁寧に教えてくれた。
「誰も君を推してる人いなかったよ!」と笑顔で教えてくれる奴
一人一人の推しを説明した上で僕が推されてないことを暗に知らせる奴
「いざ推されてることが分かると、どうしたら良いか分からない」と、真剣に相談してくる奴
伝え方は三者三様だったが、どれも等しく僕を傷つけた。
それまでは自己評価で済んでいた「モテない事実」が、「推し」という評価軸で男子間のヒエラルキーとして明確に順位付けされたのだ。
その結果、僕は最下位だった。
傷つく僕を見て「みんなに好かれなくても、一人でも本当に分かってくれる人がいたらよいんだよ」とクラスの女子が言った。
僕はその一人もいないし、励ましの言葉も全く響かなかった。
AKBに自分を重ねて
自分がモテないのはそれまでの人生において自覚をしていたが、可視化されるのはそれなりに辛い。
AKBの総選挙も、仲間内での”推し”投票も、時に残酷だ。
非常に「民主主義」的だが、順位付けが目に見える構造からは逃れられない。
そんな自分を選抜総選挙で順位をつけられるAKBのメンバーに僕は重ねていた。
特にさっしーは同い年のメンバーで研究生の頃から思い入れがあった。
今となっては、多くのバラエティに出演し、アイドルプロデュースなど多方面で活躍しているが、加入当初は”ヘタレ”キャラだった。
クラスでもいじられキャラで"ヘタレ"だった僕はどこかさっしーに自分と似たようなものを感じていた。
非常に烏滸がましいが、この親近感も当時のAKBの魅力だったと思う。
そんなさっしーが着々と人気を獲得し、ついには総選挙で1位になったのは衝撃的でもあった。
下馬評では”まゆゆ”と”優子”の一騎打ちだと言われていたし、日本を代表するアイドルグループのセンターにいわゆる”バラエティ班”のメンバーがなるとは思っていなかった。
自分も虎視眈々と腐らず頑張らなくては…そんな思いを抱いていた。
地味な花は気づいてくれない
やるせない思いをどうすることもできず、夜な夜な散歩をしていた。
日付の変わった住宅街に人気はなく、孤独感はますばかり。
少しは気持ちが晴れるかと思ったが、吹き付ける北風は冷たく、ますます気持ちは暗くなった。
まわりを見れば大勢の
可愛いコたちがいるんだもん
地味な花は気づいてくれない
性格いいコがいいなんて 男の子は言うけど
ルックスがアドヴァンテージ いつだって可愛いコが
人気投票1位になる
イヤホンから流れてきたフォーチュンクッキーの歌詞が痛いほど響いた。
地味な自分は気づかれもしない。顔が悪いんだから、何をやってもダメだろと性格の悪い部分がどんどん醸造された。
それでも不思議なもので、この曲を聴いてると体が動き出す。
カラオケでも何度も歌っていたし、振付は完璧。
傍から見たら完全に不審者だが、少しずつ気持ちがほぐれていく感覚があった。
単純なもので、曲が終わると暗い気持ちも少し軽やかになった。
人生捨てたもんじゃないよね
今でもカラオケで歌う大好きな曲だ。
その一方でモテないことに傷つき、行き場のない思いを抱えた自分を思い出す。
ファンとして総選挙に投票する立場にいた僕も、時に評価される側にもなる。
アイドルを”推す”立場でありながら、自分も”推される”立場になってしまう構造に、どこか残酷さを感じた。
その一方で、ファンとしては”推し”以外のメンバーのことも応援しているし、自分が選ばれなかったとて、嫌われているわけではないという気づきがあった。
僕は総選挙でいうと”選抜”には程遠い”圏外”だ。
それでも、性別を問わず友人はいたし、そこには確かに”信頼”があった。
大切なのは”順位”という誰かとの比較でできる評価ではない。
圏外の僕自身に、確かな居場所や関係性がある事実こそ大切だと気づかされた。
大人になった今なら、クラスの女子に言われた意味も分かる。
今でも誰かと比較して傷つくことはあるが、それでも自分がここまで頑張ってきた事実を褒めてあげたい。
あの時に夜道を彷徨ってた自分を思うと「人生捨てたもんじゃないよね」と今なら本気で思う。
他者との評価軸で悩んでいた時間も僕にとっては大切で青春の一部だったのかもしれない。
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