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#6教えて! 杵塚さん――地元でオーガニックマーケットを始めた理由って?

【これまでのあらすじ】
前回お話を聞かせてくれた農家の今井さんは、せっかくオーガニック野菜を作っても、それで生活が成り立つような販売方法を見つけるまでが大変だったと言っていたなあ。ということで、今回は静岡県藤枝市でオーガニックマーケットを仲間と立ち上げて、月1回開催している農家さんに会いに来てみたよ。ネオニコチノイド系農薬の勉強会も開いたことがあるんだって。どんなマーケットなのか、楽しみ!

オーガニックくえすと第5回はこちら

みんなが楽しめるマーケットを地元に

びお子:杵塚さん、教えてください! 「れんげじオーガニックマーケット」は、どんなところですか?

杵塚:静岡県藤枝市にある蓮華寺池公園の一角で、毎月第3日曜日・朝7時から10時に開催しているマーケットです。有機野菜、手づくりスイーツ、フェアトレード雑貨など、毎回約30店舗ものお店が並ぶんですよ。

びお子:杵塚さんも農家さんなんですよね?
 
杵塚:はい、そうです。「ちぃっとらっつ農舎」という名前で、無農薬のお茶、玄米糀や味噌、お米、みかんや小麦粉など、いろいろなものをつくっています。「ちぃっとらっつ」とは、「少しずつ」という意味の方言。私の父が有機でお茶をずっと栽培していたので、農薬を使わない農業が当たり前という環境で育ちました。
 
びお子: 11年前に、このマーケットを始めたきっかけは何だったのですか?
 
杵塚:大学時代、アメリカに留学していたのですが、向こうはオーガニックマーケットの先進地。各地から生産者が出店して、農産物の販売だけじゃなくて飲食もできるオーガニックマーケットがあって、みんなが楽しめる雰囲気だったんです。でも当時、日本には物産展などはあっても、みんなが来て楽しめる感じのマーケットは、ほとんどなかったんですよね。
 東京・代々木公園で開催していたアースデーマーケットに出店したこともありましたが、やっぱり自分の地元にそういう場をつくりたいなと思って、藤枝市内の有機農家や飲食店をやっている方、フェアトレードの雑貨を扱っている方などに声をかけて、12年前に実行委員会を立ち上げたんです。
 
びお子:何人くらいのメンバーがいるのですか?

杵塚:最初は25店舗ほどで始まりましたが、いま登録自体は50店舗以上。毎月参加できる方ばかりではないので、毎回約30店舗が参加している感じです。

びお子:野菜やお茶、パン、お菓子などを売っている人もいれば、コーヒー屋さんや鹿肉カレー屋さん、フェアトレードや草木染め、オーガニックコットンの雑貨など、いろんなお店がありますね。農産物の生産者さんと直接話せるので、どんな人がどんなふうにつくっているのかわかるし、安心して選ぶことができます。楽しくて思わずたくさん買っちゃいました!
 
杵塚:ありがとうございます(笑)。ユニークな出店者さんがたくさんいるので、面白いですよね。

オーガニックは人間だけのためじゃない

びお子:オーガニックマーケットということですが、商品の基準はどうやって決めているのですか?

杵塚:農産物の場合は、除草剤を含む農薬・化学肥料を使わずに栽培されたもの、露地栽培など環境への負荷をなるべくかけていないもの、と基準はシンプルです。ただ、飲食品の場合はもう少し複雑で、たとえば国産有機の小麦粉って、そもそもほとんど国内で生産されていないんですよね。小麦粉や砂糖などの原材料についてどこまでをOKとするかは、ひとつずつ実行委員会の中で話し合いを重ねながら決めています。
 学びながら基準を決めてきたところがあって、たとえば隣の焼津市から水産物の出店者が入ってきたときには、「水産物のオーガニックの基準って何だろう?」と実行員会で調べたり、はちみつの生産者が参加したときには、はちみつについて調べて「ミツバチに使った抗生物質がはちみつに残留することもあるらしい」と新たに学んだりしてきました。ときにはお客さんから教わることもあります。 

詳しくは「出店要項」に記載してあるぞ。みんなで話し合いながら決めていくんだね。

びお子:はちみつの抗生物質のことなんて、全然知りませんでした。そうやってみんなで調べながら、納得できる基準を決めてきたんですね。
 
杵塚:オーガニックと言っても、ただ単に農薬・化学肥料を使っていないということではないと私たちは考えているんです。たとえば遠くから運んできた輸入のオーガニック認証食品を選ぶのがいいのか、それとも農薬を少し使っているけど地元のおじいちゃんおばあちゃんが丹精込めて育てたものを選ぶのがいいのか――そういうことを考える材料を、マーケットを通じて提供したいという思いがあります。
 
びお子:なるほど……。農薬のことばかり気になっていたけど、誰がどこで、どんなふうにつくっているのかも考えてみたら大事ですね。
 
杵塚:オーガニックのものを食べて人間だけが健康になれればいい、ということじゃないと思うんですよね。豊かな生態系があってこそ、初めてオーガニックのものを作ることができる。ブームや流行ではなく、そのことを知ったうえでオーガニックという選択をしてほしいんです。

母乳や尿を集めてネオニコの残留を調査

杵塚:「オーガニックって人間だけのためではないんだよ」と伝えていくのは、私たち農家やマーケットの役割かなと思っています。そのために、ピクニックという形で学習会を開いたり、他の生産者を訪ねる企画もしたりしてきました。
 マーケット10周年に合わせて2023年度に開催したネオニコの学習会も同じこと。最終的な答えや何を選ぶのかは、それぞれが決めればいいと思うのですが、少なくとも知ったうえで何を選ぶのかを考えてほしいと思ってやりました。
 
びお子:ネオニコについての学習会や上映会の開催のほか、いろいろな人の母乳や尿を集めてネオニコの残留を調べたんですよね。
 
杵塚:分析のための助成金が出ると聞いたので、「農薬って何だろう」「どういうものに使われているんだろう」ということを勉強する機会になるかと思って応募したんです。
 母乳は14人、子どもの尿は71人から集めて調べたところ、母乳からは検出されないものもあったのですが、全員の子どもの尿からネオニコ成分がでました。調査に参加された方からは「自分の生活をどう変えていくのか、いまいちど考えたい」という感想が多かったですね。私たちもネオニコについて学ぶいい機会になりました。

詳しくは「2023年度ネオニコチノイド系農薬に関する企画 助成成果報告会」を参照。

食べる人とつくる人の豊かな循環

びお子:マーケットの活動を続けるなかで生まれた変化はありますか?
 
杵塚:最初はメンバーそれぞれの知人など、もともとオーガニックに関心があるお客さんが多かったのですが、最近では何も知らずに立ち寄ってくれる方も増えました。公園の一角という場所を選んだのも、ふらっと来ることができて、楽しかったからまた来よう、という循環が生まれればいいなと思ったからです。
 子ども連れの方も多くて、話を聞くと「子どもたちにどういったものを食べさせたらいいのか」と悩まれている方もいる。「ここだったら子どもたちに安心して食べさせられるものがある」と思ってもらえているみたいですね。
 
びお子:マーケットは月1回ですが、それ以外でも生産者さんとお客さんのつながりが生まれているのでしょうか?
 
杵塚:そうなんです。このマーケットで知ったのをきっかけに、出店者のお店に買いに行くようになったお客さんや、うちもそうですが農家から直接購入してくださったりするお客さんも増えました。最近では、マーケット会場の近くにオーガニックやフェアトレードの商品を常時扱うお店がいくつかできて、出店者の商品を置いてくださっているんですよ。

お、これもうまそうだ!

びお子:すごい! 地域に浸透していっているんですね。
 
杵塚:出店者同士の横のつながりもできています。たとえば焼津市から魚の干物屋さんが参加しているのですが、そこの干物屋さんがうちの玄米糀を使って魚を漬けてみたら味が全然違うってことで、いまでは毎年200キロ近くの玄米糀を仕入れてくれるようになりました。
 ほかにも、鰹節屋さんの製造過程で出た魚のゆでカスを「養鶏のエサにどうかな?」という提案があったり、農家さんの野菜を使ってパン屋さんが新商品を開発したりとか、つながりから新しく良いものが生まれて、豊かになっていくという循環ができています。

びお子:一生懸命野菜をつくっても市場に出すと安くて生活できないという話を農家さんから聞いたことがあるのですが、そういう意味でも、このマーケットのような場所があることは大事なのでしょうか?
 
杵塚:いま国は、一つの作物を大規模に生産するような農業をすすめているのですが、そうじゃなくて、私たちは小規模・多品目の農業でも食べていくことは可能だし、しかもそれは楽しいんだよっていうことを、身をもって示していきたいんです。
 でも、いくら小規模・多品目でやっていても、農協や集荷業者に卸していたらまったく手元に利益が残りません。やっぱり自分たちで直接販売することが次につながるんですよね。新規就農の人たちにとっても、お客さんとつながることができるマーケットのような場があるのは大事だと思います。

食と地域、生きものとのつながりを可視化

びお子:杵塚さんが今後、マーケットで取り組んでみたいことはありますか?
 
杵塚:自分たちが食べているものと地域、土や生き物がどうつながっているのか、なかなか商品からだけだと見えてきませんよね。ゆくゆくは……という話になりますが、マーケットで田んぼなども始めて、みんなで身体を使って体験することを通じて、そのつながりをもっと可視化できる場所がつくれたらいいねと話しています。
 食べてくださる人と生産する人の物理的な距離が近いというのは、地元でマーケットをやることの強み。少し足を伸ばせば、いつも食べているお米が育つ田んぼに流れ込む水が、どの水源から来ているのかを見ることもできる。そうやって「少し知る」だけで、すごく視野が広がると思うんですよ。「田んぼの水はここから来てるんだ」「ここにトンボが飛んでいるのは農薬を使っていないからなんだ」と気づくことで、理解が深まればいいなと思っています。

びお子:地域に根ざしたマーケットだからこそ、できることがあるんですね!
 
杵塚:「食料主権」という言葉は国際的にも認知されてきていますが、「食べもの=単なる商品」ではありません。人間が生きていくうえでの糧であり、地域と密接に結びついているもの。人の暮らしを豊かにも、貧しくもし得るものだと思っています。自分と食べものと社会、地域がどうつながっているかを見せられるのは、その地域に根ざして食べものをつくっている人たちです。
 海外から輸入した食品は、たとえオーガニック認証があったとしても、どういう環境でどうつくられているのかが見えません。もしかしたら、その生産によって地域の地下水を枯渇させているかもしれないし、地域の生物多様性を破壊しているかもしれない。遠くなればなるほど、それは確認できなくなります。
 だからこそ、私たちは身近な地域で育った食材を選んで食べることを大事にしたいし、地域に根ざしたマーケットであることを大切にしているんです。

参考:La Via Campesina「The Definition of Food Sovereignty」、農民運動全国連合会「食料主権宣言(案)」、村田武ほか「シリーズ地域の再生 地域の再生04 食料主権のグランドデザイン


びお子
:うーん。自分が暮らす土地で作られる食べものを知って、自分も地域の生態系の循環のなかにいるんだ、って実感するのはすごく大事かも。農薬で土地を汚しちゃったり、気候変動が進むような暮らし方をしていたりすると、未来への循環を壊しちゃうかもしれないよね。まだまだ旅を続けてみるよ!

【チームびお子】
映像:山口勝則 文:中村未絵 絵:まるなが
制作:アクト・ビヨンド・トラスト