見出し画像

#5教えて! 今井さん――農薬ナシでお米や野菜をつくるのってどうですか?


【これまでのあらすじ】
「おいしいお米を食べたい!」というワガママな動機からだけど、ネオニコチノイドという農薬のことが気になったびお子は、農薬を使わない農産物を流通する生協の取り組みについて教えてもらったり、有機米専用の精米工場見学に行ったりもしてみた。こうなると生産者さんのことも気になりますよね。今回は、神奈川県の有機農家さんのところにお邪魔して、野菜やお米を農薬ナシでつくるお話を聞いてみたよ。農業って担い手不足が深刻だと聞くけれど、解決策はあるのかなあ?

オーガニックくえすと第4回はこちら

有機で栽培するのって大変なの?

びお子:今井さん、教えてください!
 今井さんは神奈川県伊勢原市で、農薬や除草剤、化学肥料を使わずに野菜やお米をつくっているんですよね。最初から農薬なしで栽培をされてきたのですか?

今井:そうですね。最初に農業研修に行って学んだところが有機農家だったので、そのやり方しか知らないんですよ(笑)。

びお子:有機でつくるのって大変なんでしょうか?

今井:田畑にいる時間は農薬を使う農家さんよりも長いかもしれませんね。やっぱり夏の草刈りなどは大変です。除草剤を使わないので、機械や手作業で草刈りをしますが、アイガモが担当する田んぼもあります。田んぼにアイガモを放しておくと、自由に動きまわって雑草や害虫を食べてくれるんですよ。

田植え前でアイガモのヒナたちは待機中でした!

びお子:ネオニコ系農薬を使わないでお米をつくると、カメムシが吸って黒い点々のある斑点米ができやすいという話を聞いたことがあるのですが……。

今井:有機農法も確立されてきているので、基本的には栽培の工夫で対処できます。たとえば稲の穂が出る前後10日間くらいは草刈りをしないのですが、なぜかというと草刈りをしてしまうと田んぼの畔(あぜ)の雑草にいたカメムシが飛んできて穂についてしまうからです。草刈りをしなければ雑草のなかにとどまっています。
 ただ、最近は気候が変わってきて、カメムシがあちこちで大発生していると聞きます。農薬を使っているか使っていないかに関係なく、カメムシの被害が増えているみたいなので、私もどうしたらいいのかなと心配です。これまでの方法では対処できないかもしれません。

びお子:うーん、やっぱりそうなんですね。どこに行っても、気候が変わって大変だという話を聞きます。

「絶対農家にはならないぞ」と思ってた

びお子:ところで、今井さんはどうして農家になろうと思ったのですか? 代々農家さんだったのでしょうか?

今井:いえ、父は農業はやっていなくて、父方の祖父がやっていました。といっても、戦後に勤めに行きながらの兼業農家で、自家用がメインでした。私も小さいころ、おばあちゃんと農作業を手伝ったことがあったんですけど、暑かったし草むしりも大変で、「絶対農家にはならないぞ!」とそのときは思いましたね。
 でも、大学卒業後に青年海外協力隊に参加したくて、そのために農業を学ぼうと思ったんです。それで、農業研修に行ったのが有機農家のところでした。でも、研修先の様子を見ていたら「どうも農業は儲かってないんじゃないか?」と疑問をもちました。だから、海外協力隊に行くのはやめたのですが、農家じゃなく農業関係の別の仕事につこうと思って農大に入ったんです。

びお子:そこから農大に入り直したんですか!? 

今井:でも農大に行ったら、「これから農業をやる人はどんどんいなくなるよ」って言われたんです。周りでも農大を卒業して就農する人は、ごくわずか。ほとんどが農薬メーカーや種苗会社といった農業関係の企業に就職しました。
 そういう様子を見ていると、農業をやる人がいなくなるかもしれないのに、農薬の会社や種屋さんに就職して大丈夫なんだろうか……って思ったんですよね。それで「じゃあ、自分はやっぱり農業をやるか」と決心しました。

高台にある畑には少しずついろんな作物が

これじゃ、やっていけない――試行錯誤の道のり

びお子:実際に農家さんになってみて、「儲かっていないんじゃないか」という疑問の答えは?

今井:いやあ、本当にびっくりしましたよ(笑)。最初、収穫したコマツナを市場にもっていったら八百屋さんが買ってくれたのですが、400グラムのコマツナが一束30円だったんです。朝5時から作業して、育てるのに1カ月かかって、しかも市場の規格に合わせて、根っこをごしごし洗ってピカピカにして持っていったのに、50把で1500円にしかならない。これじゃ、やっていけないなって思いました。それが、いまから20年くらい前のことです。
 
びお子:朝5時から働いて1500円……。

今井:とはいえ、もう結婚もしていたので、簡単に投げ出すわけにもいかない。それで、「道の駅」に持っていきました。でも当時は、道の駅も市場もそんなに値段は変わらなかったんです。じゃあ道の駅もダメだ、となって、自分で無人直売所を開設しました。
 直売所のほうが価格はいいのですが、野菜が盗まれたり、お金がちゃんと入ってなかったりして難しいなって……。その次には、古着を売る大きなフリーマーケットが流行っていたので、そこに野菜を持っていって売った時代もありました。そうこうしているうちに、いまみたいに「農場から野菜を直接買いたい」という人が増えてきた感じですね。そうなるまでに5年くらいは経っています。

びお子:すごい試行錯誤の道のりがあったんですね。いまは、農場でその時期に採れた野菜をセットにして、定期的に発送する仕組みなんですよね。

今井:そうです。週1回定期的に野菜セットを送っている家庭が50軒くらい、あとはレストランや有機給食を出す保育園などにも送っています。インターネットでうちを探して問い合わせしてくれる人もいますし、農場に直接いらして話してから購入を決める方もいます。

「野菜セット」はロスになる野菜を減らすため

びお子:野菜セットの内容は自由に選べないのですか? 

今井:野菜には旬があるので、季節に合わない野菜を栽培しようとすると大変で、生産ロスが増えるんですよ。そのロスを減らしたくて、その時期にとれる旬の野菜を送る形にしています。
 トマトやキュウリは夏の野菜ですけど、1年中食べたい人もいると思います。スーパーには年中いろいろな野菜が売られていますが、実はその陰で廃棄されている野菜も多い。冬でもキュウリはビニルハウスで栽培できますが、そのためには燃料を大量に使って暖めないといけないわけですよね。そうやって無理をしてつくっているうえに、スーパーに野菜を卸そうと思うと基準が厳しいので、規格に合わないために捨てられてしまう野菜も多くなるんです。

※参照:農林水産省「卸売市場をめぐる情勢について(令和6年9月)」

びお子:たしかに、1年中トマトやキュウリがあるのに見慣れていました。どの野菜がどの季節にとれるのか、あんまり知らないかも。今井さんのところでは、ロスは出ないんですか?

今井:まったく出ないわけではないですが、販売できないものは家畜にあげたり、肥料にしたりするので、量は多くはありません。うちの農場では、肥料や堆肥に、おからや米ヌカ、落ち葉や竹、地域の工場からもらったビール粕などを利用して、なるべく地域の資源を循環させたいと思っています。

冬のキレイな夏野菜の裏では、廃棄品がたくさんムダになってるって……

「有機JAS認証」をとらない理由

びお子:無農薬・無化学肥料でつくっていても、スーパーとかでよく見る「有機JAS認証」はとっていないとか。それは、どうしてですか?

今井:農協やスーパーなどの第三者に販売しているわけじゃなくて、直接食べる人に販売しているので、わざわざ認証をとる必要がないんです。いろいろな人に農場に来て農作業を手伝ってもらったり、そういう様子をホームページなどで紹介したりしていることが、信頼につながっているんだろうと思います。
 もし認証をとれば費用も結構かかるので、そのぶんのコストを商品価格に上乗せしなくてはいけなくなります。それよりも私は「生産者の顔が見える農業」をめざしているので、もし質問されたらいつでも、自信をもってどんなふうにつくっているのか説明できます。

びお子:認証がなくても、つくる人と買う人の間に信頼があるってことかあ。

今井:そうですね。農産物をコストパフォーマンスだけで選ぶ人もいると思いますが、もうちょっと違う視点で選ぶ人が増えていったらいいなと思います。

びお子:以前は、いろいろな人が農場に来てお手伝いする「援農」の受け入れもされていたと聞きました。

今井:知り合いの方がたくさん人を呼んできて、週末に農作業を手伝ってくれていた時期がありました。それにはすごく助けられましたね。最初は「都会の人がわざわざ農作業をしに来てくれるんだろうか?」と思っていたのですが、みなさんリフレッシュした様子で帰っていく。お子さん連れの方が田植えにきたり、田んぼの生き物に感動したりするのを見て、あらためて気づかされることもありました。
 何より、以前は有機農業をやっている人も少なかったし、周りからも異色の目で見られていたので、そうした応援が心の支えになりました。いまは、うちの子どもが小学生になって週末は野球の練習や試合があるので、援農の受け入れをお休みしていますが、年1回そのときの援農メンバーで集まって餅つきをしています。

応援してくれる人たちの存在は心強い!

小規模農家がいなくなれば地域が荒れる

びお子:農業をする人がどんどん減っていると聞いて心配です。

今井:この周辺でも後継者がいない農家は多くて、耕作放棄地も増えていますよ。いま国は、大規模農業で世界の価格競争に耐えうる農家を育成しようとか、強い農業を育成しようとしていますが、日本のほとんどの農家は小さい規模で弱い。そういう農家を切り捨てていくと耕作放棄地が増えて、その地域が荒れてしまいます。また、山間部や里山から農家がいなくなれば、イノシシやサルなども増えて、街中にまで被害が広がっていくかもしれません。

農林水産省「農地整備をめぐる事情」「農地整備に活用可能な補助事業」、農林水産省「土地改良長期計画」 、自民党「農業構造転換集中対策の実施に向けた緊急決議」

びお子:どうしたら農業をやる人が増えると思いますか?

今井:まず農業技術をしっかり身につけられる研修環境を整えること。農地は手放す人も多いので借りられると思いますが、新規就農の場合は、トラクターや草刈り機のような機械を揃える資金が必要です。また、伊勢原市は首都圏の近郊都市ですが、こうした場所で新規就農しようと思うと、周りが住宅地になっていて農地があっても生産資材やトラクターなどを置く場所、野菜を保存する場所の確保がすごく難しいんです。法的な規制があって、農地の中にはそうした場所をつくれません。そうした法的な課題も含めて、国や行政には見直してもらえたらいいのではないでしょうか。

びお子:販売先の開拓は、やっぱり大変なんでしょうか?

今井:いまは私が始めたときと違って、ネットもSNSも普及しているので、販売方法は多様にあります。生産者が減っているので、道の駅でも以前よりも高い価格で売ることができますし、マルシェなども増えてきている。有機に対する消費者の理解も深まってきているので、工夫次第でやっていけると思いますよ。
 昔から「いつか農業の時代が来る」と言われていましたが、だんだんとそういう時代になってきていると思います。ただ、体力的にとてもきつい仕事なので、全員ができる仕事ではないかもしれませんね。

びお子:生産者として、野菜を買う人に伝えたいことはありますか?

今井:うーん、あまりそういうのはないんですけど、生産者の高齢化がすごく進んでいるので、「買う側/生産者側」という境を少しずつなくして、みんなが少しずつ生産に関わっていけたらいいのかなって思います。みんなが農家になるとかじゃなくても、たとえば自宅の庭やベランダに小さい鉢を置いて、できる範囲でいいので野菜を育ててみる。そうすることで、認識のギャップもなくなっていくんじゃないかと思います。

野菜の旬を覚えることから始めるぞ!

【チームびお子】
映像:山口勝則 文:中村未絵 絵:まるなが
制作:アクト・ビヨンド・トラスト

#6教えて! 杵塚さんーー地元でオーガニックマーケットを始めた理由って?に続く