#4教えて! 馬込さん――お米が私のもとに届くまでって?
【これまでのあらすじ】
お米作りと農薬のことが気になり、あちこちに足を運んで調べ始めたびお子。「お米にネオニコ系農薬を使うのは『斑点米』を防ぐためって聞いたけれど、実際に斑点米を見たことないのよね」と思っていたら、飲み友だちの後藤さんから「有機米を扱う精米工場で、斑点米をはじく機械が見られるから行ってみない?」って思いがけないお誘いが。後藤さんに連れられて、なんと50年ほど前から全国で農薬を使わないお米を買い付けてきたという馬込さんに会うことに……。

約50年前から、農薬を使わないお米を販売
びお子:馬込さん、教えてください!
そういえば私、お米農家さんから自分のもとにお米が来るまでのことを何も知らないなって、いまさら気づいちゃいました。ここは何をされている会社なんですか?
馬込:マゴメは、有機栽培米、特別栽培米のほか、雑穀や豆などを扱う卸売会社なんですよ。一般的なお米の流通では、米農家さんから地域のJA(農協)に米がいき、それがJAの全国機関である全農を経由して卸屋さんにいき、そしてお米屋さんなど小売り業者を通じて消費者のもとに販売されます。
だけど、うちの場合は、基本的には有機栽培や特別栽培の米農家さんとの直接取引がほとんど。地域のJAとの直接取引も少しだけあります。卸先のメインは、有機野菜や無添加加工食品の宅配会社や問屋、生協などです。
びお子:私はいまお米とネオニコ系農薬のことが気になって調べているのですが、馬込さんは約50年も前から、農薬を使わないお米を扱ってきたんですよね。きっかけは何だったのですか?
馬込:趣味のマラソンです。当時、強い選手たちが無農薬の玄米食を実践しているという話を聞いて、私もやってみたいと無農薬玄米を探したけれど、見つからなかった。それで、農薬を使わずにお米を作っている農家さんを探し始めたのです。
びお子:なんと。マラソンがきっかけだったんですか!
馬込:会社を始めた最初の頃は、「無農薬のお米なんてあるはずがない」と、周りからいろいろ言われましたよ。でも、農薬によって農家さん自身が体を壊すことがあって、それを機に農薬を使わないお米作りを始めたという農家さんが少しずつ増えていたんです。
まだインターネットが普及していない時代ですから、人づてに聞いてそうした農家さんのところを訪ねていったり、こちらから「農薬を使わずにお米を作りませんか」と頼んだりしながら、取引先を増やしてきました。
びお子:いまは全国のお米を扱っているのですか?
馬込:産地としては、九州から北海道まで。どこも20年以上の長いお付き合いのところが多いですね。全国から届いたお米を玄米のまま低温保管して品質を保ち、ここで精米・包装して出荷しています。
まずは精米の様子を見てみますか?
びお子:お願いします!

ほこりや小石、斑点米を取り除く機械がいっぱい

びお子:わあ、たくさん機械がありますね!
工場長:ここでは、玄米をいくつかの機械に通しながら、ほこりなどの細かい異物、それから重たい石などを取り除いています。そして精米後は、さらに色彩選別機という機械にかけます。
色彩選別機ではセンサーで色の違いを検知して、取り切れずに残っていた小さな石やガラス片、未熟米や虫食いの斑点米などの不良米をはじきます。そのあと包装して出荷になります。

びお子:稲のときにカメムシがお米を食べると、そこが黒い点になって(斑点米)、お米の等級が下がったり消費者のクレームになったりするからネオニコ系農薬が使われるという話を聞いたのですが、この色彩選別機にかければ、そういう斑点米ははじかれるということですよね?
馬込:そうですね。いま大きな農家さんたちは、自分のところでも色彩選別機を持っていて、うちに届く前にほとんど不良米ははじかれていますから、昔と比べたら斑点米が混ざっていることは少なくなりました。ただ、小さい個人農家さんの場合は、色彩選別機を持っていないので、まあまあ入っていますね。でも、それはうちで出荷前に選別するので、消費者のもとに届くことはほぼありません。
びお子:じゃあ、農家さんも斑点米のことを前ほど気にしなくてもよくなっている、ということですか?
馬込:そうだと思いますよ。まあ、あんまりはじかれてしまうと、販売できるお米の量が減ってしまうから大変でしょうけど。最近ではネオニコ系農薬の使用を控えている農家さんもかなり増えていると思います。
ただ、カメムシの被害が出やすいかどうかは、田んぼの地形によっても違います。風がよく吹くところなんかは、カメムシやいもち病の被害が少ない。一方で、川があって草がいっぱい生えているようなところは、カメムシが出てきやすい。一律同じではなくて、地形や気候によっても被害の大きさは違ってきます。

大手スーパーから求められたのは……
びお子:そうやって丁寧に選別するのは、斑点米などが入っているとクレームになってしまうからですか?
馬込:農薬を使っていないお米には、虫に食われた斑点米があったり、草の実が混ざっていたりしたものですが、数十年前だったら「これは虫が食ったんだから仕方ないよね」で済んでいたんですよね。
でも、あるとき大手スーパーに卸す際に「“普通のお米”と同じ状態で出してください」と言われたんです。それから、全部取り除いてきれいにして出すようになりました。いまでは、どこに出すときでも、厳しく選別して出すのが当たり前になりました。


びお子:スーパーで買ったお米に何かが混ざっていた経験はないけれど、昔はお米以外のものが入ってしまうこともあったんですねぇ。
馬込:たとえば、台風が来たりすると稲が倒れますよね。それを機械で刈り取ると土がいっぱい入ってしまうんです。そのなかには小さな石などもあります。だから、うちでは色彩選別機だけじゃなくて、石抜き用の機械にもかけて取り除いています。
米粒より重いものや軽いもの、ガラス片なんかは、そうやってはじくことができます。でも、白くて米粒と同じ大きさの軽石などは色彩選別機のセンサーにもかかりにくいので、なかなか取り除くのが難しいんですよ。
びお子:よく考えたら稲は田んぼで育つから、土が混ざってしまうのはしょうがないですよね……。私のところに届くまで、いろいろな手間をかけてきれいにしているなんて知りませんでした。異物が混ざっていることで、等級が下がってお米の価格が低くなることはよくあるんですか?
馬込:どうでしょうか。いまは農家さんのところでも選別機にかけていますからね。それよりも、最近は気候が変わって気温が高すぎることによる「シラタ」(米粒に空気がはいって白く濁って見える)や「胴割れ」(米粒の内部に亀裂が入る)で等級が下がることのほうが多いと思います。
びお子:以前、生協の人にネオニコ系農薬を使わずにりんごを栽培するチャレンジについて聞いたときも、気候変動が農家に大きな影響を与えているって言っていました。お米もそうなんですね……。

有機米の需要は増えても、生産者は減っている
びお子:昨年から米不足が続いていますけど、マゴメでもお米は減っていますか?
馬込:例年より、かなり量は少ないです。逆に注文がすごく増えているから間に合わない。8月になれば宮崎から今年の新米が入ってきますが、それまでに在庫が切れてしまわないように、いままで5キロ単位で販売していた取引先には2キロ単位でお願いするなどしています。
従来取引きのなかった給食センターや介護施設などから「納品してくれていたお米屋さんが急につぶれてしまって困っているんです」という問い合わせも来ていますよ。
びお子:それは大変。最近は学校給食でも有機米を使うところが増えましたよね。農薬を使わないお米を食べたいという人は以前よりも増えていると思うのですが、有機の生産者さんの数も増えているのでしょうか?
馬込:むしろ減っているのではないでしょうか。熊本県の戸馳島に、長い付き合いがある有機米生産組合があるのですが、最初はメンバーが13人くらいいて、2,000俵ほど出してもらっていました。でも、みんな高齢になって4年ほど前にメンバーが4人に、そして最近はとうとう2人になってしまいました。ほかの地域でも高齢で後継者がいない生産者は多いです。
びお子:有機米を買いたい人は増えても、生産者は減っているなんて、なんだかショック。そういえば、お米農家の収入だけではなかなか食べていけないという話を聞いたことがあります。
馬込:そうですね。お米の生産で安定して食べていけるようになれば、後継者は増えるんじゃないでしょうか。
いまは米不足ですけど、3~4年前はお米が余っていて、一俵で1万円以下みたいな時期もありました。国はお米が余っているから食用米ではなくて飼料米を作れとか、米粉用に作れとか、転作して大豆を作れとか、そっちに補助金を出して指導してきました。そうしているうちに天候不良が続いて、お米が足りなくなったんです。

お互いが納得できる適正な価格って?
馬込:いまはお米の価格がすごく上がっていますよね。昨年、値上がりし始めたころは「こんな高いんじゃ売れないから要らないよ」って、付き合いのある取引先に断られたことがありました。でも、もっと相場が上がったいまになって「あのときのお米、あったら売ってくれないか」と言われました。その気持ちはわかるんですよ。うちだって、あまりに高かったら買えないかもしれない。
でも、若い人たちが有機米を生産しようと思えるようになるためには、以前のような安い価格のままではなく、ちゃんと買取価格を上げて安定した生活ができるようにしていかないといけないと思います。
びお子:有機のお米が食べたいと思っても、作ってくれる人がいなければ食べられないですもんね。生活も楽じゃないから「少しでも安いものを」と思ってしまうけど、それで安心して食べられるお米がなくなっちゃうのは困る! 農家さんと消費者がお互いに納得できる適正な価格にしていくことって大切なんだなあ。
うーん、ネオニコ問題について調べていたはずが、お米の価格の課題や気候変動のことなど、いろいろな問題が見えてきちゃった……。

「#5教えて! 今井さん――農薬ナシでお米や野菜をつくるのってどうですか?」へ続く
【チームびお子】
映像:山口勝則 文:中村未絵 絵:まるなが
制作:アクト・ビヨンド・トラスト
