#01教えて! 鈴木さん──お米はネオニコなしで作れないの?
鈴木真奈美さん(あいコープみやぎ)に聞いてみた
あいコープみやぎさんの「ネオニコチノイド系農薬の削減の取り組み」はこちら
【これまでのあらすじ】
おいしいお米でおむすびを作ろうと思ったびお子は、“特別栽培米”と書かれた特別そうなお米のパッケージに農薬の名前が並んでいることにショックを受ける。そこから、「ネオニコチノイド(以下、ネオニコ)系農薬が問題になっているらしい」と知って、勢いでネオニコ問題を扱う映画の上映会に参加。すると上映会後のトークで、生活協同組合の人がネオニコを使わない取り組みについて紹介していた。びお子は思わず駆けよって……。

なんで、そんなに農薬が必要なんですか?
びお子:鈴木さん、ちょっと教えてください!
さっきの映画でネオニコの体や環境への影響が心配だという話があったのですが、多くのお米や野菜にネオニコが使われているんですよね。それって、どうしてなのですか?
鈴木:ネオニコチノイド系農薬は、お米や野菜や果物を食べてしまう害虫を減らす「殺虫剤」なんです。農家さんも農薬のかかったものを消費者に食べさせたいわけではないけれど、毎年安定的に、見た目もきれいな農作物を作るために、予防的にネオニコを使っているという状況があるんですよ。
びお子:私が買った特別栽培米にもネオニコが使われていました。使わないとお米は作れないんですか?
鈴木:作れないわけではありませんが、カメムシという虫がつきやすくなってしまいます。お米にカメムシがつくと、米粒に小さな黒い点々がついてしまうんです。これを「斑点米(はんてんまい)」と言うのですが、食べても問題はないし、栄養も変わりません。でも、炊いたご飯に黒い点々があったら、消費者は「これって大丈夫?」と思ってしまいますよね。お米を売るときにも価格が下がるんです。
よく私たちは「農薬に汚染されたものを食べるのか、それともカメムシが汚した斑点米を食べるのか」と言うのですが、「白くてきれいなお米を食べたい」という消費者の要望に応えるために、農家さんはネオニコを使ってカメムシのいない田んぼでお米を作っているんです。

「ネオニコ不使用の米が食べたい」から始まった取り組み
びお子:でも、生協のあいコープでは、ネオニコを使わないお米を作っているんですよね。
鈴木:はい。あいコープの宮城県内にある産直産地では、2011年からネオニコ不使用でのお米作りを実現してきました。実は、お米はネオニコ不使用での栽培に比較的取り組みやすい作物だと言われているんですよ。
びお子:へえ、そうなんですね! 私はいつもスーパーで買い物しているんですけど、近所で生協の宅配車をよく見かけます。そもそも生協って何ですか?
鈴木:生協は簡単に言うと、生産者と消費者である組合員、そして職員が、それぞれ対等な関係で作っている団体です。組合員が「こういうものが食べたい、使いたい」「こういう農薬は使ってほしくない」といった要望を生産者に伝え、それを生産者と話し合いながら実現しています。
びお子:ネオニコを使わないお米作りはどうやって始まったのですか?
鈴木:環境学習会でネオニコの怖さについて勉強した組合員が、「ネオニコが使われていない田んぼのお米を食べたい」という声をあげて、それが生産者を動かしたんです。生産者とも一緒に学習会をしたら、「これは自分の子どもに食べさせたくないなあ」と思ってくれた。そうやって同じ気持ちで取り組みがスタートできました。
ただ、最初は生産者も「虫にやられたらどうしよう」という不安があったと思うんですよ。もしお米が売れなくなったら生活できませんから。だから、ネオニコ不使用で栽培してもらう代わりに、もし斑点米が出ても、「ちゃんと組合員が責任をもって買い支えます」と約束しました。そういう相互の取り組みで、ネオニコ不使用のお米ができたんです。
びお子:なるほど。ちゃんと生産者さんをみんなで支えることが大事なんですね。
信頼関係があるからこその、「じゃあ、やってみようか」
鈴木:生協では活動を通じて、組合員が生産者のところに直接行ってお話をしたり、農作業を手伝ったりと、お互いに顔を合わせる機会が多くあるんです。そうやって信頼関係を築いてきたから、組合員が「ネオニコを使ったものを食べたくない」と言ったときに、生産者も「じゃあ、やってみようか」という気持ちになってくれるのだと思います。

びお子:それで、ネオニコ不使用のお米作りはすぐに成功したんですか?
鈴木:最初のうちは、斑点米が増えたこともありました。組合員から斑点米についてクレームが来たときには、「これはネオニコ不使用で作っているから起こるんです」と説明して、それでも嫌だという場合は、生協の負担で返品を受け付けました。でも逆に、「なるほど、そうなんだ」と納得して、そのお米のファンになったという組合員もいたんです。
最近では色彩選別機(色選)という変色した米をはじく機械の性能も上がったので、組合員のもとに斑点米が届くことはほとんどありません。はじかれた米はおせんべいなど、ほかの用途に使われています。あいコープでは、ネオニコ不使用のお米が、いまでは当たり前の存在になっているんです。
びお子:それは、うらやましいです。
リンゴ栽培にも挑戦したものの……
びお子:その後、ネオニコ不使用でのりんご栽培にもチャレンジしたんですよね?
鈴木:お米がうまくいったので、りんごでもやってみようという話になりました。ただ、果樹はネオニコ不使用で作るのが難しいと言われているんです。なので、最初は山形県の生産者グループ「天童果実同志会」の小さな実験圃場でスタートしました。2013年のことです。
山形の方言で「やってみっぺし」は、「やってみよう、挑戦してみよう」という意味で、挑戦の意気込みを込めて、ネオニコフリーのリンゴを「やっぺしりんご」と名付けました。

びお子:「やっぺしりんご」も、お米のようにうまくいったのでしょうか。
鈴木:1年目、2年目と、最初のうちは順調だったんです。でも、実は最初だからうまくいったんだということが、あとからわかります。植物全体に取り込まれて長く残留するのがネオニコの特徴ですが、おそらく初めの数年間は、ネオニコの影響がまだ残っていたんだろうと思います。
5年目、6年目と時間がたつうちに、ネオニコの効果が切れたのか、虫の被害が多くなってきました。そして、取り組みから8年目にあたる2020年に、葉っぱを食い荒らす虫が大発生してしまったんです。
びお子:ええー、それは大変。
鈴木:組合員も実際に園地に行って確認したのですが、代々受け継がれてきたりんごの木がボロボロになって、枯れかけていました。生産者にとっては来年から生活ができるかどうかの大問題。緊急防除としてネオニコを使わせてほしいということになり、私たちも仕方がないと受け入れました。
苦渋の決断でしたが、生産者も最後まで「使っていいんだろうか」とすごく葛藤したそうです。その話を聞いたときには、取り組みは挫折したけれど「ネオニコをやめたい」という気持ちは通じているんだなと思いました。
びお子:なんだか切ないです……。その後は、どうなったのですか?
鈴木:実は、虫害はネオニコ不使用だけが原因ではないんです。りんごの産地では、いま温暖化の影響が深刻になってきています。暖冬で冬にはいなくなっていたはずの害虫が越冬するようになり、これまでの管理方法が通用しなくなっています。それもあってネオニコ不使用に戻すのはなかなか難しい状況です。
それでもなんとか続けようと、200名以上の組合員がオーナーとなって出資して、小さな園地でだけネオニコ不使用のりんごを栽培しています。組合員も手伝いながら、手をかけて丁寧に虫の防除を行なうことで昨年もりんごが収穫できました。

「どんな風に栽培されたのか」がわかる表示
びお子:ほかの農作物でも、ネオニコ不使用に取り組んでいるのですか?
鈴木:ネオニコ不使用にするのがまだ難しい農作物もありますが、可能な限りやろうというスタンスで取り組んでいます。あいコープでは、その農作物がどう栽培されたのかが組合員にわかるように、カタログに表示をつけています。有機JAS認証など以外にも、「0&0」、「トライ・アイズ」といったあいコープ独自の栽培区分もあるんですよ。
農薬を減らしたいという生産者はたくさんいますが、有機JASなどの認証をとるにはお金もかかる。家族経営などの小さな生産者団体にはハードルが高いんですよね。そこで、農薬を使わない安全な農産物は付加価値をつけて組合員に届けようと、あいコープ独自の栽培基準を設けているんです。

被害者にも加害者にもならないってどういうこと?
びお子:表示があると選びやすいですね。あいコープでは、「被害者にも加害者にもならない暮らしを実現したい」という思いを大事にしていると聞きました。それはどういうことですか?
鈴木:農薬で考えたとき、「被害者になる」というのは、農薬が使われたものを食べて自分や家族の健康が害されることですよね。じゃあ、「加害者になる」のはどういうことかというと、私たちが農薬の使用を許すことで、環境汚染につながったり、あるいは農家さんが農薬で健康を害したりするかもしれないということ。
自分さえ被害者にならなければいいのではなく、自分がそれを望んだり許したりすることで、加害者になるかもしれないことを考えて行動することを大事にしています。
びお子:あいコープでは、自分たちが食べたいと思うものを、作る人を支えながら実現してきたんですね。私はいままでスーパーに並んでいるものから「おいしそう」とか「安くてお得!」というだけで買い物してました。
鈴木:普段の買い物にも大事な意味があるんですよ。「買い物は投票」という言葉があるんですが、「安さ」や「おいしさ」だけでなく、「自分がいいと思うもの」を選ぶことも大事です。びお子さんがネオニコ不使用のものを選んで買うことは、その産地の応援につながりますし、ネオニコ不使用の田んぼや畑といった環境を守ることにもつながります。

一体、どれにネオニコが使われているの!?
びお子:でも、どれにネオニコが使われているのか、お店で見てもよくわからないんですよね。それって、すごく不親切な気がします。「ネオニコ不使用のものをもっと選びたい」と思ったときに、私にもできることはありますか?
鈴木:そうですね。もちろん生協に入るのも手段のひとつですが、たとえばいつも行くスーパーで「このお米はネオニコを使っていますか?」と聞いてみるのもいいかもしれませんよ。一人だけでは変わらないかもしれないけれど、そういう声が2人、3人と増えていけば、スーパーでも「最近、ネオニコの問い合わせが多いよね」となって、物事が動いていく可能性があります。
本当は、国や行政が誰でも安全なものを食べられるように、制度を整えたり、きちんと表示をしたりすべきだと思うのですが、EUではすでに使用が禁止されているネオニコさえ許可されているのが日本の状況です。だから、あいコープでは自分たちで「選べるようにしようよ」とやっているんです。
びお子:国が許可しているなら安全なのかな、と思っていたけれど、調べていくうちに「これって本当に大丈夫なの?」と心配になってきました。
鈴木:国や企業が「安全ですよ」と言っていたのに、あとになってから「実は問題がありました」と判明することが、これまでにもいろいろありました。だから、やっぱり問題が起きる前に消費者がちゃんと疑問をもち、調べてみることが大切だと思うんです。
その第一歩として、びお子さんのように関連する映画の上映会や学習会に参加してみるのもおすすめです。ぜひ、これからもどんどん学んでいってくださいね!

#02「教えて!八田さん──ネオニコは洗っても落ちないの?」へ続く
【チームびお子】
映像:山口勝則 文:中村未絵 絵:まるなが
制作:アクト・ビヨンド・トラスト
