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#02教えて!八田さん──ネオニコは洗っても落ちないの?

八田純人さん(一般社団法人農民連食品分析センター)に聞いてみた

【これまでのあらすじ】
おいしいお米でおむすびを作ろうと思ったびお子は、“特別栽培米”と書かれたお米のパッケージに農薬の名前が並んでいることにショックを受ける。調べるうちに「ネオニコチノイド(以下、ネオニコ)系農薬」が問題になっていると知り、映画の上映会に参加。ネオニコを使わずに生産しようという取り組みがあることを学ぶ。さらに、食品の残留農薬を調べる分析センターがあることを知って、びお子は訪ねてみることに……。

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農産物や加工食品の残留農薬が調べられる

びお子:八田さん、教えてください! 
ここで食品に残っている農薬を調べられるって本当ですか?

八田:はい、そうなんですよ。ここは農民連食品分析センターといって、農業者や消費者の寄付によってできた、世界でも珍しい背景の分析施設です。市民の皆さんなどからの依頼を受けて、食品の残留農薬や放射能汚染、水のPFAS汚染などを検査している場所なんです。
 
びお子:私が食べているお米や野菜、加工食品などに、農薬が残っているかも調べられるってことですよね、すごい! でも、どうして、このセンターができたのですか。
 
八田:いま、日本はじめ世界中で農薬を使って食品を作っていますよね。残留農薬の検査は、一般的には国の機関や企業の依頼を受けて民間の検査会社で行なわれることがほとんどです。でも、行政のためでも企業の利益のためでもなく、食品を食べている一般の人たちの「知りたい」という声にこたえる検査施設が必要だという考えから、このセンターが生まれました。

分析用の機械がいろいろ並んでいるよ!

八田:具体的には、1996年に日本が加盟するWTO(World Trade Organization:世界貿易機関)で国際協定が成立したことがきっかけです。協定によって安い輸入食品が大量に入ってくる時代が始まりました。そうした食品に対する不安にこたえて検査し、情報を発信して、「私たちはどんな食べ物を選ぶのか」という議論をしていくことが、この先きっと必要になると考えたのです。科学のデータは中立ですから、あくまで数字の1は1。その1が「あり」だと思う人も、「なし」だと思う人もいるでしょうけど、科学的なデータに基づいて議論できることが、まず大切だと思います。
 
びお子:おおー。そんな経緯があったんですね。どういう方がここに検査を頼むのですか。
 
八田:一般消費者の方から「普段、自分が食べているものが心配なので調べてほしい」という相談もありますし、
農作物を作ってる農家さんからの依頼も結構多いんですよ。自分たちは適正な量を守って農薬を使ってはいるけれど、「本当に大丈夫なのかな」と思っている農家さんたちもいて、使うからには調べておきたいと依頼があります。それから消費者の団体や食品関連の業者さん、大学などからの依頼もあります。

輸入冷凍野菜の検査が社会を動かした

びお子:たしか、ずいぶん前に輸入の冷凍野菜からたくさん農薬が出たとかってニュースで見た記憶があります。あれも、このセンターで調べてわかったんですよね。

八田:2000年代はじめの事件のことですね。あの当時、たくさんの安い農作物が中国からどんどん入ってくるようになりました。
 1999年、中国の農地に視察に出かけた農民団体の人たちが、これから冷凍されて日本に送られるはずの収穫直後の農作物に農薬をかけている様子を見かけたのです。それで、「あんな大きくなったやつに薬かけて大丈夫か?」とすごく驚いて、帰国後にここに検査の依頼がありました。
 最初は私も、まさかそんなに農薬は出ないだろうと思っていたのですが、調べてみると中国産冷凍ほうれん草から、当時はシロアリ駆除などにも使われていたクロルピリホスなどの有機リン系殺虫剤が、基準値以上で検出されたんです。
 
びお子:シロアリ駆除!?
 
八田:慌てて厚生労働省にデータをもっていきましたが、当時は加工食品には残留農薬の基準値がなく「判断できない」と言われてしまいました。でも、マスコミが大きく取り上げたことで社会問題になり、食品衛生法の改正につながったんですよ。いまでは加工食品にも残留農薬の基準値が設定されています。

びお子:ちゃんと調べて行動を起こすことで変わったんですね。でも、日本の農産物は、どうなのでしょうか。実は、私が買った「特別栽培米」の包装に農薬の名前がたくさん載っていてびっくりしたんです。
 
八田:「特別栽培」というのは、あくまで一般的な栽培方法と比べたときに、農薬散布の回数を削減しているもの。ですから、農薬がまったく使われてないわけではありません。調べれば、量はともかく農薬が残留してることもあり得ると思います。
 国内の農産物は基本的に、適切な量や回数を守って農薬を使用していれば、基準値以上の残留農薬は出ないことを前提にルールが定められています。ただ、この基準値自体をゆるめる流れも起きているので、「基準値以内だから安心」と言えるのかどうか心配は残ります。たとえば、日本よりも海外のほうが残留農薬の基準値が厳しいことは結構あって、国内向けと海外向けを別々に生産している地域もあるんですよ。

出典:厚生労働省「日本と海外の農薬の残留基準値が異なるのはなぜですか?」 日本食品化学研究振興財団「残留農薬基準値検索システム」 農林水産省「諸外国における残留農薬基準値に関する情報

洗っても落ちない、というのは本当?

びお子:海外では売れないものを、日本では食べていることがあるのかあ。そう聞くと複雑です。ネオニコはお米や野菜を洗っても落ちないと聞いたのですが、本当ですか?
 
八田:ネオニコは、植物全体に浸透させて行き渡らせることで効果を発揮するのが特徴の農薬です。農家さんにとってみれば、一度ネオニコをまけば長い間植物を虫から守ってくれるので、とても便利。その一方、「洗っても落ちない」という特徴にもつながっています。このネオニコの特徴は、いろいろな作物を検査してきた結果からも実感しています。
 
びお子:そういった食品を食べたら、ネオニコが体の中に入ってしまいますよね。
 
八田:口から入ったネオニコは、腸で吸収されて血液に入って循環し、量の多少はあるでしょうけれど、少なからず体内で何かしらの影響を及ぼしたあとに排出されることになると思います。
 
びお子:えー、それは心配です。ネオニコが体に取り込まれているかどうか、調べる方法はありますか。
 
八田:センターには「自分がどのぐらいネオニコに暴露してるのか知りたい」という相談も多く、尿中からネオニコがどのぐらい検出されるのかを調べる検査も行なっているんですよ。実際に調べてみると結構な数字で出てきます。これまでに400人近い方の尿を検査したところ、9割以上の人からネオニコが検出されました。むしろ出ていない人を探すのが難しいぐらい、ごく当たり前のように尿からネオニコが検出されます。

詳しい結果はこちらから

びお子:うーん、ドキドキしてきました……。

水道水からもネオニコが検出されている

びお子:それだけネオニコが残るのなら、畑や田んぼに撒いたネオニコは周りの環境にも残るのでしょうか。

八田:そうですね。ネオニコの影響で、魚や昆虫の数が減っているのではないかという報告もあります。
 実は、埼玉県富士見市に住むスタッフが10日おきに1年間、蛇口の水をひねってボトルに詰めて検査したことがありました。その分析データを公開していますが、蛇口をひねって飲むとネオニコも一緒に摂取してしまうという結果が出ています。とくに5月から6月にかけて数字が上がるのですが、おそらく田植えの時期に、ネオニコが水田から流れ出て川に入り、上水道の残留数値を高めているのではないかと考えています。
 また、センターがある東京都板橋区でも、同じように水道水のデータをとったことがあります。取水方法や浄水施設の構造が違うので結果には差がありましたが、やはり年間を通してわずかではあるものの、ネオニコが水道水に入り続けていることがわかっています。
 
びお子:水道水からネオニコが検出されているのに、行政は対策をしないんですか。
 
八田:水道水におけるネオニコの基準値というのはなくて、制限対象になっていないんです。つまり、どれだけ検出されても、基本的には供給できる仕組みになっています。行政に言わせると、「このぐらいなら健康に影響のない数字ですよ」ということですが、個人的には何か取り組みを進めたほうがいいのではないかと思います。

出典:農民連食品分析センター「水道水中のネオニコチノイド系農薬残留検査例

「農薬なしでは、農業が続けられない」の声

びお子:いままでスーパーでなんとなく「見た目のきれいなもの」を選んでいたのですが、それって農家さんに農薬を使わせることにつながっているのかな、と最近考えるようになったんです。
 
八田:見た目を良くするために、必要以上に撒かれてる農薬はあると思います。たとえばお米で言えば、カメムシが米粒から汁を吸ったところが黒い斑点になる。この斑点米が多く混ざっていると、お米の「等級」が下がって、農家さんの収入は下がってしまいます。だから、農家さんはできる限り斑点米が混ざらないようにしたいんですよね。
 それで、田んぼにカメムシがそんなにいなくても、予防的にネオニコを使うことはよくあります。いまの日本では、お米を売ってもほとんど収入にならないので、等級が下がってさらに収入が下がってしまったら農家さんは生活できないからです。

びお子:お米が全部白いのは当たり前のことじゃなかったんですね。
 
八田:小さい面積の田んぼだったらネオニコなしでも、時間や人の手をかけることでカメムシ防除ができるかもしれません。でも、いまの国の農業政策では、農業規模をどんどん大きくしないと補助しないという仕組みになっています。そうやって田んぼや畑を大きくすればするほど、ネオニコに依存しないと生産が難しい。農家さんは高齢化して減っていますし、ネオニコなしでは労力的にも年齢的にも生産できない状況になっているのだなとも感じます。

農業や農家さんの状況も知って、一緒に考える

びお子:農薬はできれば避けたいけど、農家さんの状況を聞くと大変そう。どうしたらいいのか……。八田さんは、どんな風に考えていますか。
 
八田:うちには子どもが3人いて、個人的には家族の食卓からは農薬をできるだけ避けたいというのが正直なところ。だから、有機や無農薬で栽培してくれる農家さんにお金が届くような買い物をしています。
 ただ、センターに検査を依頼する農家さんのなかには、「農薬を使わなかったら続けられない」という人もたくさんいます。そういう人たちの苦労を知ると、「農薬をなくそう」とただ言うのは簡単ですが、もっと根本的なところを変えていかないと現状を変えるのは難しいんじゃないかと感じています。
 さっきも話したように、いま国の農業政策は、大型化して“経済性”や“効率性”がいい農作物づくりをやらないと農家を支援しないという方針になっています。でも、命を支える農業を、単純に効率性や経済性で足切りしていいのでしょうか。もっと命を視点にした農業政策に切り替えることで、農家さんも農薬を使わない方法に積極的にチャレンジできるようになるし、新規就農も増えていくんじゃないかと期待します。
 
びお子:なるほど……。食べる側の都合だけで考えるのではなくて、農業や農家さんのことも、もっと知らなくちゃいないなって思いました。
 
八田:びお子さんのように生産現場のことに関心をもち、「食べ物の作り方は本来どうあるべきか」を考える人たちは、だんだん増えてきているな、と感じています。身近にいる子育て中の親たちと話していても、何かアクションを起こしたいという声を聞きます。そういう流れの後押しになるように、このセンターの分析データをどんどん使ってもらいたいです。

びお子の自習大作戦(1)「『ネオニコチノイド 静かな化学物質汚染』を読んだよ!」へ続く

【チームびお子】
映像:山口勝則 文:中村未絵 絵:まるなが
制作:アクト・ビヨンド・トラスト