連載#09│想像では終わらなかった悪夢
冬の寒さが残る晴れた日。
拘置所から出てきた司とまっすぐ一度帰宅して
夕方、こども達を迎えに一緒に出かけました。
長男は、司の顔を見るなり「とーたん!」と
笑顔で叫んで、とても嬉しそうな表情になった
ことに少し驚いたけど
まだなにがあったかわからない次男と
久しぶりの家族揃っての優しい時間が
流れました。
子ども達とも、今までの時間を埋めるように
家に帰ってからも戯れながら、終始笑顔が
絶えず
なにより、子ども達が本当に楽しそうで
嬉しそうでした。
拘置所を出る前に、働き口を友達が世話を
してくれていたこともあり、司はすぐに
働き始め
わたしは、わたしの名義で彼がつくった
借金を片付けるために、自己破産の手続きに
取り掛かりました。
そうして少しづつ生活は落ち着いていき
季節に合わせるように、心も体も全てが
凍えたその年の冬は
司の帰宅とともに雪どけを迎え、季節は
春、夏、秋へと、ただただ穏やかに過ぎて
いったのです。
いつも家族が揃っていて、なにもなかったかの
ように季節行事を楽しみながら過ごせること。
次男も歩き始め、公園で遊ぶ司と子ども達の姿を
眺めてるだけで感じる幸せ。
過去は、だんだんと薄れていっていました。
それでも、いつもどこか不安は抱えていて
よく夢を見ました。
司がまた薬に手を出す悪夢を見ては
目覚めて不安に襲われる…
わたしの無意識は、いつもやっぱり彼を
見張っていたのです。
薬絡みの人達はほとんどが同じ時期
に逮捕され、出てきてからはそういう
付き合いは全くなくなった様子に安心
しながらも
以前のあのヤクザの放った言葉が
思い出されてなりませんでした。
「あいつは、必ずまたやる」
その言葉が脳裏を過ると同時に
選択に間違いはなかったと思いたいことへ
不安と苛立ちを感じずにいれなくなり
そうこうしながら、過ぎる日常が
当たり前になればなるほど
お互いが幼少期に取り込んだ
無意識にある根強い癖がまた
少しづつ…
少しづつ……
わたし達を
すれ違わせていったのでした。
共依存状態から、全く抜け出せていない
むしろ、あのメロドラマ仕立てで依存心を
強めて元の鞘におさまれば
早かれ遅かれ「喉元過ぎれば… 」と
いった状態にすぐに偏り始めることは
当然でした。
イネイブラーに逆戻りしていく自分も
そう…
お互いの思いの熱量が違うときの
気持ちの温度差。
自分の感情の揺れに、よく解らない
違和感を感じながらも
ひとりよがりな尽くし方だけで
押し付ける愛。
司が拘置所から出てきて1年を過ぎる頃
自分の傲慢さとエゴでまた、彼を
コントロールするようになっていました。
そして、怖れていた想像が
悪夢では終わらない現実となっていた
ことを知ったのでした。
司が拘置所から戻ってからの1年
どこにでもある家族の形が確かにありました。
子ども達の記憶にも、はっきりと大好きな
お父さんとして存在し
いつも家族一緒のこんな日々が、これからも
続くことを信じたかった。
穏やかな時間の流れは、わずか1年という
束の間の幻想となったのでした。
薬物依存症という病気のことをなにも
知らずにいたまま
愛を勘違いして元の鞘におさまったわたしの
慣れの果てです。
前回でもお伝えしたように、無知が一番大敵。
本来は、当事者にとっても身近な人にとっても
逮捕は回復に向かうチャンスの良い機会。
しかし、無知だったために、当時のわたしは
そのチャンスを活かせませんでした。
いえ、それすらも知らなかった。
当然、お互いの元々の性質のままかかわり
続けることは、同じことの繰り返しになる
ことは明らか。
そして、思いやりや規律、正義がない中では
愛は存在できず、互いの関係は助け合いでは
なく、むしろ、どんどん破壊的に有害なものに
なっていくだけでした。
知識がない、ということが病気を進行させ
治療を遠ざけてしまう結果になる最大の
原因です。
当事者の回復を助ける最良の方法は、周りの
家族や身近な人が、とにかく病気について
学ぶこと。
知識に基づいた接し方を身につけること。
そして、それを実行する勇気。
でも、依存症者を愛する者にとって
これが実は最大の難関でもある。
だから”勇気”が必要になる。
なぜなら、実行しなければならない
ことは
なによりも
自分を一心に変えることだけだから。
これは、なにも薬物依存症の家族に
限ったことではない。
あらゆる依存症問題を家族に抱える人も
子どもの不登校や引きこもり、といった
親子関係においても
全ての人間関係においての真理。
当事者との関係が近ければ近いほど
問題の渦中で、たった一人でそこに向かう
勇気を持って進むには、耐え難いと感じずに
いられないほどの苦しみが伴うことが然り。
だからこそ、当事者は当事者の
家族には家族の、先行く仲間がいる心強さが
助けとなり、支えとなる。
それが、専門機関や同じ問題を抱える人と
つながる、ということが持つ意味なのです。
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次は
『ハイヤーパワーから届けられたメッセージ』について書いていきます。
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