連載#08│どっちに行っても地獄なら、愛して止まない地獄へ向かおう
離婚届を出したわたしは、生活を立て
なおすことと 、子ども達に目を向けよう
とだけ考えるようにしていました。
そんな中で、度々送られてくる司からの
手紙には、面会に来てほしいと切望する
彼の思いが便箋何枚にもわたりしたため
られ、手紙が届く度に胸が締め付けられる
思いを感じながらいた矢先
「お願いだから面会に行ってあげてほしい」
と、 全く出向かないわたしを説得しに、彼の
友達がまた訪ねてくるようになったのです。
わたし達の面倒を見てくれるようになった
人は、いつも何かをしに、わたしのうちを
出たり入ったりしていましたが
そのことを聞く気も起きずにいたわたしは
その人に対しては、日毎に無関心になる
ばかりでした。
その人は、毎日うちにいるわけでもなく
夜もいないことが多かったことにわたしは
安堵していました。
わたしが出した条件や、元々家庭があった
ようで、その関係がどうなったかさえ聞く気も
しないまま、既にその人についてはもう
どうでもよく
自分と子ども達の生活がとりあえずできて
いることに安心があれば良かった…
しかし、そんな安心感も束の間。
子ども達が寝静まると、毎晩のように後悔に
襲われるようになり、こんな気持ちになるかも
しれないことも踏まえて
それでも悩み抜いて決めたはずだった
選択が、わたしの中で揺らぎ始めるまでに
時間はかかりませんでした。
そんな湧き上がる真意を日記に書いては
やり過ごしていた中
ある日、わたし達の面倒を見てくれていた
人が、ポツリと言ったんです。
「日記、見たよ…」
一瞬、意味がわかりませんでした。
勝手に開けてみるような場所ではない
ところに隠していたはずの、それを見たと
言われたことに戸惑いました。
とりあえず「なにを?」と惚けて
見せたわたしに
「勝手に見たことは悪かったけど…」
わたしは、粗探しをされていたと
いうことへの 怒りと
それよりなにより、拭えなかったわたしの
真意を知られたことを、瞬間的にどう
正当化しようか焦りました。
当然のことながら、その後口論になり
生活の安心を守らなければという思いと
隠していた本心の狭間で葛藤しながら
それでもある意味、そのことによって
やっぱり、自分の心に嘘はつけない…
どっちに転げたところで地獄なら
愛して止まない地獄へ向かおう
と、わたしは腹を括りました。
しばしの間生活をさせてもらった費用は
返済すると言ったわたしに
さすが、ヤクザでした。
その代償は、見事にそのとき
既に背負わされていたのです。
それでもその程度で縁を切れるならと
思えたほど、清々しく感じました。
数日後、外は真っ白な雪景色の日。
突然空っぽになったあの日から、3ヶ月ぶりに
司と対面したのでした。
寒々しい薄暗い面会室へ入り、テレビで見る
透明のアクリル板の向こうに司が見えました。
彼からもわたしの姿が見えた瞬間、来ていた
ジャンパーの襟元を持ち上げるように頭からかぶり
顔まで覆って、まるで子どものように声をあげて
彼は泣きました。
待ちわびて
待ちわびて
その日がくることをどれだけ待ち望んで
いたか、という光景。
ようやく再会できたと言わんばかりの
求めて止まなかった心が溢れた彼のその姿に
わたしもまた、瞬く間に自分の中の
アディクティブな要素が目覚めて
しまったのです。
それはまるで、一つのメロドラマが
そこに仕立て上げられるように
かえって依存的な結びつきを強化して
しまったのでした。
3ヶ月ぶりに会った司は、逮捕前とは
別人のように体格が大きくなっていて
肌に艶が戻り、表情もとても穏やかで
優しい顔をしていました。
その姿に
「そうだ!わたしはこのひとが
好きだったんだ」 と
出会った頃の健康的な彼がそこに
いることに心が華やぎ、活力が漲るのを
感じました。
互いに積もる話が尽きない中、最初の
面会はあっという間で終了。
わたしは、面会には行かないと決めた
自分を裏切り、その日を境にどっぷりとまた
共依存状態にハマり
司もまた、自分がか弱い子どもで
母に甘えるようにわたしの心を欲しがりました。
それに応えるように、月曜から金曜まで
毎日面会に行き
話し足りないことは手紙を書き合い
不自由な中でも
互いの愛を渇望し合ったのでした。
※
彼の逮捕前、互いが狂気と化し、終わりの
見えない暗闇にいたわたし達。
空っぽになった時間でしか、逆に愛を
手繰り寄せることができなかったように
感じた再会でしたが
「どっちに転げたところで地獄なら
愛して止まない地獄へ向かおう」と
あのとき思ったこれこそが、本当に地獄の
始まりだとは、このときは思いもしないで
いたわたしでした。
※
司は、拘禁1年6ヶ月、執行猶予3年の判決を受け
拘置所から一歩 出たところで立ち止まり
わたしを抱き寄せました。
その日は春が間近な晴天で、雪解けの景色に
キラキラと太陽の光が射した昼下がり。
司とふたり、晴れ晴れした気持ちで拘置所を
後にしたのでした。
わたし達は、会わなかった時間によって
逆に飢餓感を強めてしまい
会えない時間は、飢えるが如く最愛の人を
愛おしく思い過ぎる結果となっていました。
以前にも増して深く依存し合うように
なっていった、まさにお互いが自分ではなく
相手に焦点を当てたかかわり方。
つまり、お互いの感情は完全に相手の
支配下に置かれ、境界線が全く不明確で
わたし達の意見や感情は、いったいどっちの
ものなのかすら、分からなくなっていたのです。
共依存からの7つの脱出路の、最初の段階である
”否認”は、そこから抜け出していくプロセスで
こうして何度も繰り返してしまう段階で
彼の逮捕によって、次の段階の”不快”を
若干感じて気づき始めたにもかかわらず
依存についての”無知”が、この機会を
メロドラマ仕立てで処理してしまうことに
なった要因です。
ではどうすればいいか。
早い段階でとにかく知識を得ること。
同じ問題を抱えた仲間と繋がることなど
自分に”焦点”を戻していくことに取り組み
始めることがなによりも最優先です。
当時は、簡単にカミングアウトし辛い時代背景が
あり、今のように知識が得れる時代ではなかった。
そういった中で、わたしは長い時間を、何度も
同じことを繰り返してしまいました。
薬物依存症について何も知らなかった、と
いうこと。
自分に関係嗜癖という、癖になっている
人間関係でのパターンを持っていたこと。
司との関係の在り方に投影された、自分自身の
在り方が共依存状態に陥りやすかったこと。
そういう関係になる人を選んでしまう
生い立ちの背景。
わたし自身の中に、多くの絡み合った様々な
アディクティブな要素があることを、とにかく
知らない、ということが
”否認”という段階に長く留まり続けてしまった
要因でもあり、それが当時の辛さを深め、苦しみを
更に強めていました。
まずは知識を得ること。
無知が、最大の敵です。
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次は
『想像では終わらなかった悪夢』について
書いていきます。
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