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#088 仕事と学びの境界が融け合う、小さな「実験」のある働き方。

Cover photo by Anne Hoang

短期集中連載「学びなおす、学びほぐす、学びを深める、学び続ける」の方法論 第2回(全13回)

現代の学びの研究家であり、実践家でもあるハロルド・ヤルシュ(Harold Jarche)は、学びと仕事が分断から統合の時代へと移り変わりつつあることを示唆し、次のように語っている。

仕事は学びであり、学びが仕事である。
Work is learning and learning is the work.

ん? これって、どういうことだろう?


「仕事は学びであり、学びが仕事である」の意味すること

まず、「仕事は学びである」ということについて、経験学習の観点から語ってみたい。

仕事での経験を振り返り、内省を加えることによって、自分なりの持論を育む。内省と意味づけを習慣として、学びをモノにし、成長の糧とする。経験学習の要諦である。

学びのアプローチには多様な選択肢が存在するものの、On-The-Jobの経験が依然として学びのリソースの中心的な位置づけにあることに異論はないだろう。仕事そのものを学びが生まれる場として捉えること、つまり、「仕事は学びである」ことには合点がいく。

では、「学びが仕事である」とはどういうことか? それは、ビジネス環境の急激な変化によって、新たな知見やスキルを獲得することが職務遂行の条件になっているということだ。私たちの働き方の、新たな現実である。

たとえば、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やAIの活用に向けたリスキリングは、「学びが仕事である」の好例といっていいだろう。

そもそもリスキリングは、学ぶことがゴールではない。新たなスキルの獲得によって、経験したことのない業務や役割を担うことが目的である。学んだことを素早く仕事に反映し、業務改革や顧客に対する価値創造に貢献することが求められる。研修で学んだことを実務に活かすことを「研修転移」と呼ぶが、いまやそれは「待ったなし」の大前提である。

「学びが仕事である」のは、技術革新を伴うケースばかりではない。これまでの慣例や常識とされていたことが通用しなくなったビジネス環境においては、新たな知識やインサイトを獲得しながら仕事を変化させていくことが必要とされている。

仕事と学びの「境界」が意識されることのない時代へ

筆者のこれまでの経験を振り返ると、パフォーマンスマネジメントの変革の取り組みは、「仕事は学びであり、学びが仕事である」ことが実感されるものだった。

このプロジェクトの目的は、状況が刻々と変化するビジネス環境において、個人の仕事のパフォーマンスを最大化するような働き方のモデルをデザインし、組織内に導入・定着させること。そのためには、従来のやり方やその前提をゼロベースで見直すことが求められた。

「新しい酒を古い革袋に入れる」わけにはいかなかったのだ。

それまでの経験や知見だけでは限界があり、新たな「学び」が必要とされた。

社外研究会に参加し、他社事例から学ぶ。先進企業を訪問して、現場での具体的な取り組みを学ぶ。海外でプロジェクトを先行するチームの経験を学ぶ。個人のパフォーマンスを最大限に引き出す組織要因を先行研究から学ぶ。理論的枠組みから、望ましい組織文化や行動様式を学ぶ。

再考の対象は、マネジャーの役割にはじまり、上司と部下との関係性、コーチングカンバセーション(対話)の狙い、1on1の頻度やそのアジェンダについての考え方、フィードバックの目的、効果測定の視点、と多岐に及んだ。

学びながら、新たな働き方の仮説を立てる。働き方のモデルのプロトタイプをつくる。決めごとを最小限にとどめ、社員一人ひとりが裁量を持つことを前提にして、小さくはじめる。やってみた結果を振り返り、もっとよいやり方はないかと学びを広げる。モデルを修正して、またやってみて、振り返る。社員にフィードバックを求めて、新たな学びを得る。工夫を重ねて、やってみて、インサイト(洞察)を手に入れる。

こうしたことを繰り返し、より実践的なやり方を探っていく。仕事と学びの境界が意識されることもない。学びと仕事は連続し、統合され、一体化されていく。

仕事と学びの循環モデルとしての経験学習

この、仕事と学びの境界が融け合う現象には、ひとつの構造があるように感じている。その構造を説明するのが、経験学習モデルである。

経験学習モデル(Kolb 1984)

先のプロジェクトを経験学習モデルに沿って改めて眺めてみよう。

  • 具体的経験(経験を得る): 学びをインプットとして新たな働き方のプロトタイプをつくり、職場で試行する。

  • 省察的観察(振り返る): 実践の中で起きたことや社員の反応を振り返り、なにが機能し、なにが機会なのかを考える。

  • 抽象的概念化(意味づける): 振り返りの結果から、「決めごとを最小限にし、裁量を委ねることで社員の主体性が高まる」との持論を仮置きする。

  • 能動的実験(試す): 得られた持論(仮説)に基づいてモデルを修正し、再び現場で試行する。

このうち、「具体的経験から省察的観察、そして抽象的概念化」までのステップにズームインすれば、それは「仕事は学びである」ことを示している。

一方で、「抽象的概念化から能動的実験、そして具体的経験」という部分を切り取れば、それは「学びが仕事である」ことを意味している。

小さな「実験」が学びと仕事に橋を架ける

「仕事は学びであり、学びが仕事である」の実践とは、この循環サイクルを廻していくこと。経験学習モデルの真価は、この循環を生みだすことにあるといっていい。

そして、その鍵となるのが「実験」である。

経験学習は「振り返って学びを得る」までのプロセスに重きが置かれがちで、その先の「能動的実験」へとつながらないことがままある。このことがボトルネックとなって、循環が生まれにくいのが現状だ。

「学びを得た時点で満足してしまう」
「『実験』には馴染みがない」
「ハードルが高そう」
「失敗したくない」

そんな気分になるのも、わからなくはない。では、どうしたらよいだろうか?

実践のコツは「能動的実験」を仕組み化すること。具体的には、振り返って、経験を意味づけするタイミングで、次の仕事で試す小さな実験(=行動)を決めてしまうことだ。

その行動とは、たとえば…

「人は自己決定した行動ほど持続性がある」という持論が得られたなら、次の1on1では、「こうしたら?」を抑えて、「どうしたい?」と問いかけてみる。

「安心して発言できる場には、多様な意見が生まれる」という意味づけができたら、次の会議では、自分の考えの不完全さを共有してから、メンバーに意見を求めてみる。

実験を止めないことで、循環が廻り出す。仕事と学びの「境界」が融け合う、その瞬間をつくりだすことができる。

仕事と学びの往還こそ、変化の時代において大切となる働き方ではないだろうか。そんなふうに考えている。

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