「光」第一話
・あらすじ
緑にあふれた地。豊かな森に覆われたある村。盲目で、村の除け者の少年アオが唯一心を通わせる、森の精霊。
面目なさと苛立ちから実の父親に森で殺害されたアオは、精霊の最後の力で、光を失い荒廃した遠い未来へ転生を果たす。
曖昧な記憶の中、奇妙な石男と出会い、強く引きつけられてやまない遠い過去の"その森"へ行くことを決心する。そこで彼らを待ち受けるものは、何か。
第一話
ある時代のあるところに、緑豊かな地があった。神聖なその森の中にある、小さな村。
この大きな森のおかげで、地は暮らしやすく保たれている。
盲目の少年アオは、悪魔、呪われているなどと呼ばれ、村の除け者だった。母親や父親も、そんな子どもを産んだということでよく思われていなかった。ひどい者は厄病家族となど呼んだりもした。
母はそれでも優しく接してくれるが、父はアオのことが嫌いだった。
唯一アオと心が通う存在は、森の精霊。光のエネルギーで森や大地を保つ存在。根が温厚で大人しいアオは、大勢で遊ぶよりも1人で遊ぶ方が好きだった。よく母と森へ散歩へ行ったものだが、そこで精霊と出会った。
精霊はアオ以外の人々からは見えない。母からももちろん見えないが、母も神秘的なものを信じる性分だったから、きっと妖精さんと仲良くなれたのねとアオのことを否定しなかった。アオも目は見えないが、精霊が近くにいる暖かさや声を聞くことができる。
周りからは、森で座り込んで1人で喋っているようにしか見えないアオ。村人たちはますます気味悪がった。
精霊には不思議な光の力があって、傷を癒すことができた。生まれつきの障害など理解されぬから、異端は追いかけ回せで、とくに周りの子どもたちは容赦なくぶったり蹴ったりした。アオが大人しくて静かなのをいいことに、暴力はエスカレートした。いつもどこか怪我をしているアオの回復を、精霊はしていた。
ある日、子どもたちがアオに石を投げていた。今日は母と一緒じゃない。歩くときに必ず必要な棒を取り上げられ、アオはどうすることもできない。それを見た精霊は激昂し、ピカっと光を撒き散らした。目くらましのように光り、ワっと子どもらは声を上げた。一瞬目が見えなくなる。
その間に、精霊はアオの手を引いて森の奥へ逃げていった…
その日から、アオはとうとう災いとまで呼ばれ、完全に恐れられた。精霊から放たれた光であったが、皆から精霊の姿は見えないから、まるでアオ自身が光ったかのように言われた。
母は死んだ。アオには見せない心労が、溜まりきっていたのだろう。朝、母は起きてこなかった。あっさりと、死んでしまった。いつもみたく大丈夫と抱きしめて欲しかったのに、いなくなってしまった。ひどく悲しかった。涙が止まらなくて、思い出せばまた泣くを繰り返した。その度、父は「目は見えないのに涙は出るんだな」と聞くに耐えない嫌味を言った。父は自分の体裁しか考えぬ男だから、アオに対しますます嫌悪の感情を抱いた。
精霊は、彼は、いつもアオの心配をしてくれる。精霊からしても、もう長いことずっとこの地にいるが、人間と心を通わせられることが初めてなので、とても嬉しいものだった。
2人で会うと、精霊は、あそこの滝が綺麗だとか、湖に面白い魚がいたとか、たくさんの景色の話をした。
アオは目が見えぬので、そんな話を聞くのがとても楽しかった。アオの「いつか、見てみたいな。」で、だいたい一つの会話の区切りだった。その度、精霊はなんだか、やるせない気持ちになった。アオはあまり喋らない。いつも何かに怯えているようだった。
でも、母が死んだときは、アオは棒を頼りに転がるように精霊のところへ来て、わんわん泣いた。悲しみは消えぬが、精霊の暖かい手で自分の手を握ってもらうと、いくらか落ち着くような気がした。精霊とて、身体の傷は癒せるが心の傷は難しい。時間の経過と共にやってくる、緩やかな気分の転換が必要なのだ。
しかし、アオにはそれだけの時間は残されていなかった。
その日は、アオはいつものように森で精霊と会う約束をしていた。約束の場所というのは、ひときわ大きな幹の立派な木の下だ。だいたいいつもここで会うのだ。
精霊は、約束の時まで、またアオに楽しい話を聞かせようと、洞窟とか渓谷とか、いつもより少し遠い場所に"ネタ"を探しに行っていた。いい香りの花や、美味しそうな木の実も見つけたので、取ったりもした。
「今日はお土産いっぱいだよ!」独り言に出るぐらい、精霊はワクワクしていた。
「少し遅くなっちゃった…」夢中で山々を飛び回った精霊は、約束の場所につくのに少し遅れた。
アオはまだいない。
「あれ、まだ来てないのかな」よく見ると、大きい幹のそばに、アオがいつも使っている棒が落ちている。アオは1人で行動するときは、必ずこの棒を持って歩く。目が見えないから、これで足元の障害物を確認して歩く。棒無しで行動することは無い。
嫌な予感がする。
精霊は、周りの木陰、草木に踏み入りアオを探した。
物音の方へ、恐る恐る進む。手が身体が震える。男が穴を掘っている。あれは…アオの父親だ。
父親の足元には、ぴくりとも動かない、壊れた人形のように横たわる、アオ。
精霊は、時が止まったように、瞬きも、手や身体の震えも忘れて、アオのどこにも焦点の合わない虚に開いた真っ黒な目を見つめた。
必死に穴を掘る男。焦っている。広がった血溜まりから、一筋、また一筋と掘った穴へ縦に模様を作る。ナイフはアオの背中へ刺さったままだった。
全てが一瞬だった。何も考えなかった、考えられなかった。精霊がばさりと両手を広げると、持っていた草花や木の実が地面に落ちた。
その音に男はびっくりして、冷や汗まみれの顔でこちらを見たがはやいか、真っ白な光に包まれて、ウギャアアと声を上げたかと思うと、どさっと倒れ生き絶えた。
アオの元へ駆け寄る。無惨な遺体を前に、声が出ない。ぎゅっと抱きしめる。死体の冷たさを知らぬ精霊は、一瞬びっくりして身体が離れる。もう一度抱きしめる。
「ああ、あ、あ、」「ああああーーあああああ!!!!!」
「ああああああーーーーーー!!!!!」
アオは今まで、ずっと目をつぶっていた。アオはよく、僕の目がぱっちり開いたら、どんなだろうねと寂しく呟くときもあった。
それが、それを見るのが、こんな状況でなんて……精一杯の光の力を使うが、もう遅い。
精霊は、アオから身体を離した。大切な友達が、死んだ。空がざわざわ言う。大地がゴゴゴと唸る。精霊は、この地を守る存在。溢れる生命のエネルギーで大地を満たし、豊かな自然をもたらし、繁栄の礎となる存在。
人間を殺すなど、もってのほかである。
それが、いくら悪人であってもだ。大罪を犯した精霊の元へ、風が、空気が、地が、水が、厳罰をと、唸る。
精霊は、全てを悟り受け入れ、その場に立ち尽くした。目線は、アオから離れない。
ぼんと見えない力に押され、大きな幹にくくりつけられた。「んぐっ!」動くことができない。
精霊に、"死"はない。人を殺めたことと同じ罰が施されぬ代わりに、極限まで命を奪われ、木にはりつけられた。
光の力も失い、ただ朦朧とした中、息だけをしている。視界がぼやけてきた。最期のお別れさえ言えなかった友だちを前に、精霊の目からまた一筋涙がこぼれた。
アオのなきがらは、淡い光をたたえていた…。
精霊の光を失った森は、均衡が崩れ始める。草木は枯れ、太陽は顔を見せなくなり、森は暗くなった。死んだ大地。石や岩だらけになった。
緑が去りすぎてから、地に残ったいくつもの微細な生命のかけら。それらが長い年月をかけて、岩石らと一体になる。全てが壊れたかと思われた大地に、新たな命が誕生した。
命を授かった石、岩々は、その森から離れ、安住の地を目指し、群れを成して移動していくのだった。
精霊がはりつけになっている森は、ますます大荒れになった。凶暴化した危険な生きものもたくさん生まれた。かくして豊かだった綺麗な森は、誰も寄り付かぬ危険な森となったのだった。
ずっとずっと長い月日が流れた。どれだけ長いか、わからない。依然として大地は暗いまま。
しかしここは、森から遠く離れた地の1番端のほう、石の民の暮らす村。石を巧みに削り、家を作ったり、家具を作ったり、子どもから大人まで、皆で協力して生活をしていた。
まだ周りの世界にどんな生きもの、人々が住んでいるのかわからぬ状況。小規模の兵団もあった。
その村の端にも、小さな森が広がっていた。森と言っても、大きな岩や小さな岩が、いろんな背の高さでゴロゴロ転がっているだけの地帯なのだが。そこに、数日前から異変が起こっている…。
じめじめとして、暗い。岩や石がゴツゴツとしている。その一画に、淡い光が、ぽつんと発現していた…。あまり石の民も足を踏み入れぬところなので、誰も気付かない。
数日かけて、だんだん形作られてきたそれは、ある日、むくりと上体を起こす。
アオは、目を開けた。
*補足(キャラクター)
・アオ
・彼は、精霊の力の一部を持って奇跡的に転生を果たした存在。精霊の力で生かされている。
真の精霊に死はないが、アオにはある。
死までの時間が長くかかるということ。それは救いか、呪いか。
・枯れた地、木の株は、アオの光に呼応し、触れると命を吹き返す。緑が戻る。
それと同時に、アオ自身も回復ができる。
・腐りきり、光を受け付けぬ地、植物もある。そこではアオの光で蘇らせることもできないし、アオ自身の回復もできない。
・敵に襲われたら、強い光を放ち敵を一時硬直させることで回避する。
ただし光を放つには、アオに十分体力が残っていることが条件。
・光が通じない敵もいる。見つからないよう行動するしかない。
・敵に襲われて、噛みつかれたり、強く打撃されると、そこから黒いあざとなる。あまりダメージを受けると、あざはどんどん広がり、もちろん体力も削られる。あざが身体を覆うほど広がると、光を放つことはできない。
・ダメージを回復するには、光を放つ植物か、木に触れる。その植物、木が大きければ大きいほど、回復も早く、小さければ全快に時間がかかる。
*補足(世界観)
・自然をモチーフにした世界。岩、石、水や山など。精霊の力が無くなったことにより均衡が崩れ、人間は消滅し、新たな姿形の命が生まれた世界。
・光を失い、暗の部分が大半を占める世界。暴走し凶暴化する生きものも生まれる。突如現れた光であるアオを異質とみなし、襲いかかる。
*補足(結末)
・強い何かに引きつけられ、アオは精霊の森へ行きたがる。
それはきっと、アオの身体に精霊の命が入り込んでいるから。この命を、持ち主に返そうと、魂がそうさせるのかもしれない。
アオの過去の死は確実なもので、今の姿は精霊に生かされている、仮のようなもの。
最後は大荒れの精霊の森へ辿り着き、例の精霊のはりつけの幹へ到達し、自らの犠牲をもって命のかけらを返す。
精霊は復活し、元の緑深い大地に戻る。全ての荒れは鎮まり、また豊かな営みが続いていく。
アオが瀕死になりながらも命を返しにきた時、精霊は朦朧とした意識の中、たしかに友の顔を見て、その姿が消えるまでのその時を思い出し、また巡る大地に想いを馳せて、おわり。
