【連載小説】 何を知る #098 第2章プロローグ
第2章 甘い顔で笑うから プロローグ
卒業式のあとに開かれたクラス委員会では、入学式の打ち合わせが行われた。
「美衣羽は今日、もう帰るの?」
打ち合わせのあと、頼架に訊ねられた。
「え、うん。……頼架は、何かあるの?」
「これから、レッスンなんだよね」
音楽科は週に1回放課後に、専攻のレッスンを受けることになっている。
「今日は集中力ないから、明日にしてほしいんだけど」と笑う頼架とは、階段の前で別れた。わたしは打ち合わせ前からずっと我慢していたトイレに行き、理由もなくぼーっとしてから出た。
……さ、帰ろう。
階段を下りて特別教室棟1階の廊下を歩いていると、ぴたっと立って動かない女の子を見つけた。左胸にはお花がついている。卒業生だ。不安そうな顔で、化学準備室のほうを気にしている。
……どうしたのかな。
と思った瞬間、化学準備室のドアが開いた。女の子が中から走って出てきたことに驚いていると、その子はまっすぐ、廊下に立っていた女の子にぎゅっと抱きついた。
「……頑張ったね、ほんとに」
廊下で待っていた子も、化学準備室から出てきた子も、静かに泣いていた。
……先生に告白して、フラれたんだ。
すぐにそう理解したわたしは、どの先生なんだろう、と興味を持った。
化学準備室の前を通るときに、ドアの窓から中をそっと覗いた。中にいたのは、入口に一番近い席に座っている男の先生ただ一人だった。彼はノートパソコンを開いて、真顔で文字を打っていた。
それを見たわたしは居ても立っても居られなくなり、速足で廊下を駆け抜けた。静かに泣いている二人の卒業生の横を通り過ぎ、突き当たりの角を曲がったところでその足を止めた。
……そりゃあ、泣いちゃうよね。
勇気を振り絞って想いを伝えたのに、1分と経たないうちに仕事に戻れるくらい軽く扱われたら……。
やっぱり、先生なんか好きになっちゃいけないな……。
――そう思っていた、はずだったのに。
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