多部位の慢性疼痛と認知症のリスク因子
参考文献
Dong, Hongxin. Multisite chronic pain: a risk factor for dementia. Nat Rev Neurol. 2023; 19(6): 331-332. doi:10.1038/s41582-023-00807-0.
多部位の慢性疼痛:認知症のリスク因子
とりあえず内容を知りたい方はここ(論文の要約)
目的
この研究は、多部位の慢性疼痛が認知症の発症リスク、認知機能の低下、および脳構造(特に海馬体積)にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的としています。
方法
UKバイオバンクに登録された354,943人のデータを対象に、約11.8年間の追跡調査を実施しました。
痛みの部位数(無、単一部位、多部位)と認知症発症率の関連を解析するとともに、一部の対象者にはMRIを用いた脳構造のサブセット解析を行い、海馬の体積変化と認知機能(流動性知能など)の関係を評価しました。
結果
多部位の慢性疼痛を持つ個人は、痛みのない個人と比較して、記憶、実行機能、学習、注意といった広範囲な領域で急速な認知機能の低下を示しました。
認知症の発症リスクは、単一部位の痛みで15%上昇したのに対し、5箇所以上の痛みがある場合は59%まで上昇しました。
また、MRI解析の結果、多部位の疼痛は海馬の萎縮と強く相関しており、海馬の老化を最大で7.8年加速させていることが示されました。
結論
多部位の慢性疼痛は、認知症の強力なリスク因子であり、海馬の萎縮を媒介して認知機能を低下させることが示唆されました。慢性疼痛と神経変性疾患の間には双方向の相互作用が存在する可能性があり、認知症予防の観点から慢性疼痛への介入が重要であると結論付けられています。
ポイントと感想
痛みの範囲が脳の老化スピードを左右する
この研究で注目すべき点は、痛みの部位数が増えるほど認知症のリスクが段階的に高まり、5箇所以上の多部位疼痛ではリスクが約1.6倍にまで跳ね上がるという点です。
さらに、画像診断においては「海馬の老化が最大7.8年加速する」という数値が出ています。
多部位の疼痛の訴えを持つ患者様に対し、単なる局所の機能改善だけでなく、将来的な認知機能低下のハイリスク群として捉える視点が必要になります。
海馬はアルツハイマー病で最初に影響を受ける部位であるため、多部位疼痛の管理は、運動器疾患の治療であると同時に、脳の構造を守る予防医学としての側面も持っていますね。
慢性疼痛と認知症の「負の連鎖」
論文内では、慢性疼痛と認知症の間に「双方向の関係(悪循環)」がある可能性が指摘されています。
慢性疼痛による神経炎症やミクログリアの機能不全がシナプスの減少を招き、認知症を進行させる一方で、認知症による神経変性が痛みの感受性を増大させ、痛みをより強く感じさせてしまうというスパイラルです。
動物モデルの結果からは、痛みが脳内環境を悪化させる毒素のような振る舞いを見せることが推測されます。
慢性疼痛は修正可能なリスク因子です。
認知症予防のための疼痛管理というアプローチが求められますね。
ではでは。
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