昭和3年。 『現代婦人手芸全集』に狂喜した人々と、そのウラ事情(前篇)
皆さまこんにちは、手芸愛好家の owarimao です! マクラメに熱中しつつ、古い手芸の本をちょこちょこ集めております。
(前回の記事↓)
前回の記事の中で作りかけていた作品は、リリヤーンのマクラメバッグとしては5作目にあたります。1作目と同様、下の本の中に作り方が載っています。

ただしですね……
今回の作品は、本の末尾の「特別番外手提袋(五種)」というところに載せられています。
著者によれば「発行者の御希望に依り番外として」新型手提げの作り方を載せたのだそうです。
おそらくその関係で、これら五種類については、本の中に出来上がりの写真が載っていません。あるのは下のような大まかなイラストだけ。

AI 時代には考えられない素朴さですが、これが逆に「作りたい」という意欲を刺激してくれます。実際に作ったらどんなふうに見えるのか、ぜひ実物を立ち上げてみたいという気になります。


作り方の順序は、まず持ち手から。
指示に忠実に作ると、上の写真にあるピンクの試作品のようになります。でもこれだとタコの足みたいかな。あまり気に入らないので、下のような別の模様に変えました。

先週は持ち手を完成させたところで終わりました。
で続きですが、これがなかなか難航しています。なにしろ、
①言葉による説明がわかりにくい。
「縄のように結ぶ」ってどういうこと?
「輪つなぎ」ってどうやるんだっけ?
②必要な情報が抜け落ちている。
たとえば「増糸をする」と書いてあるけど、これは最初に指定してある本数に含まれるのか、それとも別に用意すべきなのか。
③明らかな間違いも1つあった。
「三本目を芯糸にして……」いやこれは4本目でしょう。
④イラストはあるけど、肝心の細部があいまいでよくわからない。
⑤写真があれば確認できるのに……。

筒状に作るのは面倒なので、できるところまでパーツに分けて作り、
後から合体させるつもり
文句を言うのは簡単だけど、これだけの本(241ページ)を一人で書くのはものすごく大変だと思います。
「発行者の御希望により番外として」という文言からは、著者の河野先生のため息が聞こえてきそう。5点もの本格的な作品のレシピを追加するのはきっと大変な仕事ですよ。お弟子さんらの助力はあったかもしれませんけど。
現代の手芸の本ならば、巻末に必ず、大勢の人の名前が書いてあります。「ブックデザイン」「編集」「撮影」「トレース」「スタイリング」など。分業が進み、それぞれに専門の人がいるのですね。
でも、昭和初期の手芸の本はこんな感じです。↓

発行所として「三瀬商店出版部」とあります。
つまりこの本は、出版社が出しているのではありません。「三瀬商店」という手芸材料のお店が、本も出しているということなのです。
さらに注目されるのは、本の価格が記載されておらず、かわりに「非売品」という文字が見えることです。
これはいったいどういうことでしょう? 函つきでハードカバーの立派な本が「非売品」とは?
このへんの事情を解き明かす貴重な資料を、わりと最近2点ほど見つけたのでご紹介していきます。
先日、同じ手芸全集の『ビーズ篇』を購入したら、一枚の印刷物(いわゆる月報)がはさまっていました。

その名も『現代婦人手芸全集ニュース(第二号)』


最後のページ(4ページしかない)は「読者通信」という欄になっています。第1巻を実際に手にした、内外の読者の声が載せてあります。その熱量がスゴイ。
(仮名遣い・漢字表記などは現代的に変えてあります)
●暗い病舎の一室で待っていた第一回の配本を手に致しました時のうれしかったこと……
こみあげて来る微笑を人に見られるのがきまり悪いので一生懸命こらえていましたけど駄目でしたから、とうとう声をたてて笑ってしまいました。(中略)
私達のために本全集を営利的気分を離れてかくまでも安価に発行して下さいました御貴店に深くふかく感謝いたします。
●心配になって来ましたのは御店にいかなる感謝の御言葉を用いて御礼申し上げて良いやらわからなくなって来たことです、実に三瀬商店出版部は私どもの手芸の神様であると申し上げても決して支障はないと存じております。
●私の町に本屋はありますが手芸本など売っておりません(中略)ところが婦人手芸全集を発行する事を見ました時は飛び立つくらい嬉しく思いました。(中略)私の永らく思っていた事はこれで叶えられた次第です。ほんとうに御貴店へ何と言って感謝してよいかわかりません。
いかがでしょう。このように熱狂的な感謝の手紙が、三瀬商店に「山積」したといいますから、この出版は本当に喜ばれたのだと思います。
ただし、話はこれだけでは終わらないのですが……そろそろ2000字を超えたので、続きはまた来週ということで。
