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現場でしか学べない事⑤〜「この方が早くない?」なぜ熟練者ほど新しいやり方を疑うのか〜



第1章 新参者が感じる違和感「この方が早そうなのに………」

 これを読んでいる方の中には、自分が担当している作業などに対して、やり方に疑問を感じ、改善策を提案したが、却下されてしまった経験がある方がいるのではないでしょうか?
 逆に、新人や新しく作業に参加された方から、提案を受けて拒否したことはないでしょうか?
 私自身の提案をする側と受ける側の両方の事例を紹介します。

 事例1:
 現在の職場では、私は新参者です。
 今は高齢で退職された方が、既製品の内部に使う部品を丸のこで切り出していました。
 薄いアクリル板を、8mm×90mmの大きさに切り出す作業は、とても危険な作業に見えました。
 社内には、レーザー加工機があるため、レーザー加工機で切り出すことを提案しましたが、即座に「そんなもの使えん。」と言って拒否された。

 事例2:
 かなり前になるが、組み込みソフトの開発をしていた時。
 とあるOA機器の組み込みソフトの開発の終盤で、バグ出しと発見した不具合のデバッグが主作業となり、その後のドキュメント作業が視野に入ったタイミングで、新人より「もうすぐドキュメント作業ですので、見やすいようにソースコードの修正をしても良いですか?」と言われ却下した。

第2章 なぜ、提案は受け入れられないのか?

 なぜ、提案は検討もされず、拒否されるのか?

 事例1の場合、その熟練者はPC作業が苦手でレーザー加工機がうまく使えず、時間だけ取られた結果、最終的に丸のこで作業したという経験があるため「そんなもの使えん。」という言葉になったのだ。

 その熟練者の退職後、私が引き継ぎ、若干の仕様変更を行い、レーザー加工への移行をしたところ、私の職場では、安全基準の範囲で機械から離れなければ、並行して他の作業が可能なため、効率を上げることつながった。

 事例2の場合、開発において、ソースコードの可読性をよくする(後から理解しやすいように、書き方を変更やコメント整備)ことは正しいのだが、タイミングが悪かったため、却下となった。
 既に、コーディングの時期を過ぎ、バグ修正という全体の安定化させる作業に移行しているため、安定化を下げる可能性がある作業となるからだ。

第3章 どう改善したのか

 どちらも正しい提案がされたが拒否されたが、その後の結果は全く異なる。
 実は、この二つの事例は、大きな違いがある。

 正しい提案をしても、状況によって認められない場合もある。
提案する側から見ると

  • この方法の方が、結果的に速いのに

  • 正しいことを言っているのに

  • このやり方の方が、簡単なのに

といった思いがあり、 提案を受ける(熟練者)側からすると、

  • その方法は過去に試し、うまくいかなかった

  • 精度が安定しなかった

  • 段取りに時間がかかり、結局手加工の方が早かった

  • 新手法の周知や教育に時間がかかる

  • コストが見合わない

  • 何が起こるか予測できない

という経験や考えを持っている。

 事例1は、過去の経験が共有されていなかった。
 →その方法は過去に試し、うまくいかなかった
  (作業者が習熟している内容の違い)

 事例2は、タイミングが悪かった。
 →何が起こるか予測できない
  (新たな不具合の恐れがあり、作業が戻ってしまう可能性がある)

 この二つの事例は共に、「提案された内容」の問題ではなく、「提案を実施できる条件」が満たされているかの問題である。

 同じように正しい提案でも、いつ、誰が、どのような条件で実施するかによって採用されるかどうかが変わってくる。

 だから、提案に対して熟練者が慎重になるのである。

 提案側から見ると、事情が分からないため「頑固で話を聞かない人」に見える。
 熟練者から見ると、「現場を知らない人」に見える。
 熟練者側が、「この方法で、業務を支えてきた」というプライドが新しい手法を受け入れる邪魔することが稀にあるかもしれないが、多くの場合は、過去の経験や考えを説明せず、共有されていないことが問題である。

 提案する側も、「古臭い」「頭が固い」などといった先入観を捨て、なぜ今の方法で作業されているのか考えていく必要がある。
 いずれにせよ、現状をより良くしていこうという理念を持ち、お互いに自分の考えや経験に縛られず、歩み寄る姿勢が重要である。

 また、改善の提案は、「正しい」提案だけでは採用されない。
 「いつ」、「誰が」、「どのような状況」で行うかといった条件が満たされて、初めて改善提案として成り立つのである。

 例えば、下記のようなルールを設けてみてはどうだろうか?

  • 提案された改善案などはすぐに却下しない

  • 却下した場合、なぜ却下されたのか十分に説明する

  • 過去に行われた提案を記録し、同じ提案をしない
     (前提条件が変わった場合は、別の提案とする)

  • 勉強会などを行い意見交換を行う
     (間隔は空いても定期的な開催が望ましい)
    など。
     企業全体として行うのが理想だが、部署内や有志で少しずつ始めてみて、少しずつ広げていくのも良いだろう。
     ただし、厳しい制約やルールを設けると提案行為が減ってしまう可能性があるので、緩めのルールにした方が良いのではないだろうか。
     (会社が強要するQC活動のようになると、繁忙期に時間が取れず、参加者が疲弊してやる気をなくすケースがあった。)

第4章 本質は何だったのか

 本当に問題なのは実務経験などではなく情報共有不足である。
 現場で培われてきた経験や知識は強力な武器である。
 だが、その「現場の知識」も更新し続けなければ古くなることがある。

 そのためには、新しい方法を検証し、必要に応じて取り入れていくする姿勢が必要である。
 また、新たに加わった者に対しては、十分な説明をして、やる気を削がないようにしていく。

 自ら改善や提案を行うことは、とても素晴らしいことなのだから。

まとめ

 改善案と現場で培われる経験は対立するものではない。

 熟練者が持つ経験と新しい視点から生まれる発想や提案を組み合わせて、より良くしていくべきなのです。

 そのためには、お互いに知識や技能などの「現場の知識」を更新し「共有」する仕組みが必要である。
 それは、「採用した改善」だけでなく、「却下された改善」も共有することによって、同じ提案が繰り返されることもなくなる。

 問題意識や改善意識を持つ人は、「どうせ提案しても無駄だ」などと思わずに提案行動を起こしてほしい。
 また、提案を受ける側も、ただ頭ごなしに否定するのではなく、なぜ採用できないのか説明し、やる気を削がないでほしい。

 1つの提案が、企業を動かすこともあるのだから。
 今日「却下された提案」でも、半年後には「採用するかもしれない改善」になるかもしれない。
 技術も設備も、人も変化し続けているからだ。

 熟練者が新しいやり方に慎重なのは、変化を嫌っているからではない。
それまで培った経験から「失敗する条件」を知っていることが多いからだ。
そして、その経験が共有され、新しい条件で再検証されたとき、現場は一歩前へ進む。

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