爆死の魔術師 7話『魔術』
本編
まずは日本最強を目指す。そう決心したユウトだったが、開幕から暗雲が立ち込めることとなる。
理由は簡単だ。
「どうやってチームメンバーを集めようか……」
転校初日の昼休み、学生たちが楽しげに昼食を食べている。そんな中でユウトはひとり、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「まさか学内大会のルールが”決闘”から”紛争”に変わっていたとはね……」
「紛争……たしか3対3のチーム戦、でしたよね」
顎先に手を添えて悩むユウトに、側で周りを眺めていたアリナが確認する。それに「あぁ」と答えつつ、追加で説明を加えた。
「魔術戦争にも色々な試合形式があるけど、その中でも最もベーシックなのが1対1の”決闘”と、3体3〜5対5の”紛争”だね」
先日、ユウトとエリーが行った試合形式は”決闘”である。この試合形式は純粋な個人の強さを競うため、公私問わず最も行われやすい。
(とはいえ、戦闘向きじゃない魔術師にとって不利な形式だし、こっちのほうが健全だけど)
つまるところユウトたちが直面している問題というのは、学内大会に参加するためのメンバーについてだ。うーん、と唸るユウトを見てアリナは不思議そうに首を傾げる。
「ひとまず生徒に声を掛けるしか無いのでは?」
「仰るとおりなんだけど、それが難しくてね……」
煮え切らないユウトの答えに、アリナはもうひとつ頭上からクエッションマークを浮かべた。
「難しい、ですか?」
「あぁ、基本的に学園へ入学する前からチームを組んでるんだよ。魔術演習にもチーム戦があったからね」
「つまり……すでにチームが確立していて途中から入ることができないと」
「そういうこと。まぁエリーみたいにすっごく強ければ引く手数多だろうけどね」
”Sランク”の精霊と契約した魔術師は全体の中でも一握りだ。この学園でもエリーしか居らず、日本全体で考えても片手の指で数え切れる。
「残念ながら俺たちは前代未聞の”Fランク”。先の一戦でエリーに勝ったとはいえ、周りの人は俺たちをチームに入れたいと思う?」
「……無理ですね」
周囲の話を聞いていても、『エリー・レンホルムに勝利した』という事実に懐疑的な人は多い。そもそもの常識が崩れ落ちたと同意義なのだ、そんな反応も当然である。
だからこそ今もなおユウトたちの評価は”爆死”であり”Fランク”でしかない。そんな見えた地雷を踏みたいと願う人は居ないだろう。
「昔はかなり尖ってた自信があるから、頼れる知り合いもほぼいないし……どうしたものかな」
全くいらない自信だ。抑揚を感じない声色でアリナは溜め息を吐く。心底呆れられているのを感じ取ったのか、ユウトは苦笑を浮かべた。
一体どうやって仲間を探すべきか。改めて悩むユウトたちだったが、結局妙案は出ず昼休みの時間は終了を告げたのだった。
◇
「転校生がいるため、今回の『魔術学』は基礎を復習する」
昼休みが終わった次の科目は『魔術学』。その名の通り、魔術師が操る魔術について学ぶ分野だ。
光来学園に4つある訓練場が1つ、第3訓練場の中で『魔術学』の教師である水月は学生の面々を見渡す。
「魔術学で最も基本となるのは『魔法』、そしてそれを発現させる『精霊』についてだ。精霊が発現する魔法を操作することで、初めて魔術となる」
人間だけで魔術は行使できない。故に精霊と契約した人間のみが魔術師と名乗れるのだ。
「ならばなぜ精霊は魔法を発現できるのか。……南茂、答えてみろ」
「え、俺っすか?」
チャラけた言動で自らを指差すリョウヤに、水月の鋭い視線が突き刺さった。それを受けて観念したのか、「へーい」とリョウヤは口を開く。
「えーっと……精霊はこの世界の生命体ではなく、『世界の外』に存在する生命体だからです」
「正解だ。が、あくまでこれは”通説”ということは忘れないように」
補足にリョウヤが首肯したことを確認して、水月は説明を続ける。
「私たち人間が物質を糧に物質世界で生きる生命体とすれば、精霊は精神を糧に精神世界で生きる生命体。だからこそ、私たちが『物体』を作り出すことができるように、精霊は『魔法』を発現することができる――と考えられている」
そこまで説明し終えた水月は、踵を返すと近くに設置されている真っ白なマネキンらしき物へ近づいた。
『魔術用訓練ダミー』――通称ダミーと呼ばれるそれは、謂わば魔術師用のパンチングマシーンである。与えられた衝撃に応じて、上部に備え付けられたモニターで衝撃の高さを数値で示すものだ。
「磯撫、武装形態、開始」
水月はそう言いつつスーツのネクタイピンを引き抜けば、それに嵌め込まれた水色の宝石が巨大な光を放つ。ネクタイピンを覆うように水が溢れ出し、1つの小さな物を象っていった。
それは1振りのナイフ。片や刃が存在するものの、反対の峰部分では鋭利な凹凸が存在する。――ソードブレイカーだ。
「以上の基礎を踏まえて、魔術は以下の4つの手順で行使される」
流線型のフォルムを持ち、美しさと禍々しさが同居するナイフを水月は構える。ダミーと水月には1mほどの距離があり、明らかにリーチ外だ。
しかし水月は気にした様子もなく、淡々と手順を伝え始める。
「1、人間が『世界の外』から魔素を手繰り寄せる」
不意に水月の周囲が、僅かながらグニャリと歪んだ。
「『世界の外』で手繰り寄せた素粒子――魔素は、私たちの世界へ出現する際に『精神世界を構成する素粒子』である魔素から『あらゆる物質に変換可能な無色エネルギー』……魔力へと変換される」
現れたその歪みは魔力によるもの。
「2、変換された魔力を精霊へ譲渡」
説明と同時に歪みが消えていき、ナイフに存在する水色の宝石がキラキラと煌めき始めた。
「3、譲渡された魔力を用いて、精霊が魔法を発現」
宝石の煌めきが一段と輝いたと思った瞬間、突如としてナイフの刃を纏うように水流が発生する。無から有を生み出すそれは、正に『魔法』という言葉が相応しい。
「4、精霊から発現した魔法の命令権限を譲渡してもらい、人間が魔法に命令を下す。――こんな感じにな」
瞬間、斬撃!
届かない位置から水月がナイフを振るえば、纏う水流が刃となって射出されダミーへ直撃する。まるで砲弾でもぶち当たったかのような音を響かせて、水の刃は破裂した。
同時にダミー上部のモニターが数値を計算し始め、やがて『判定:120』という結果を表示した。
「この一連の動作が魔術だ。先ほどの魔術は私がその場で適当に操ったものだが、本来は予め名前を定めておき、それに応じて魔術を行使する」
名前と操作を紐づけておくと、名前を呼び出せば半自動的に望んだ魔術が行使できる。試合中にその場で命令を考えるのは負担が大きいため、大半の魔術師が魔術名を幾つか考えるのが一般的だ。
「つまり魔術師の行使できる魔術のポテンシャルは精霊の強さに比例する……ということでもある」
魔術師が精霊の強さに左右される、という理由のひとつがこれだった。
どれほど車の運転が上手くとも、そもそものマシンスペックが足りなければカーレースでは勝てないのと同じ。
(だからこそ黒井悠隼の結果は不可解だ)
説明を続ける水月の脳裏に掠めたのは、ユウトが最後に見せた魔術だった。――たった1撃で、”Sランク”精霊と契約しているエリー・レンホルムを打倒してしまった魔術。
(あの一撃はどう見ても”Fランク”のスペックを超えている)
チラリと水月は大人しく聞いているユウトへ視線を向ける。
(――確かめる必要がある、か)
そんな水月の心中とは別に、授業は進んでいくのだった。
